元勇者提督   作:無し

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誘惑の恋人

宿毛湾泊地 

駆逐艦 漣

 

「…ボーノ…どしたの…あ、ごめんね…調子悪くて…この体制が楽なんだよね…」

 

吐き気は少し治ったけど以前調子が悪い

死にそうなほど嫌な感じがする

 

「…ボーノ…?どしたん…元気ないじゃん……」

 

「…東雲です」

 

「あれ…おかしいな…人間違えた…たはは…普段なら、絶対間違える事ないのに…」

 

でも、東雲なんて…居たっけ…

頭が……回らない…どんどん溶けるみたいに…床に沈むみたいな感覚…

 

ヤバいかも……やだ…1人は怖いよ…

 

「…死に、たく…ない……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『随分と、東雲、に対して関心がないように見えるな、君にとってあれはモノかね』

 

…誰の声…?何の話だろ

 

『…モノでしょう、曙、は、力でしかない…』

 

…ご主人様の声だけど…変だ、何か変…

言葉が途切れてるみたいな…そもそも、こんなこと言わないし…合成ってやつ…?

なんで私がこんなのを聞いて…

 

 

 

「………っ…?」

 

「おはよう、漣」

 

「…ご主人様…?あれ…私…」

 

…気分は大分良くなってる…

 

「…漣、良く聞いて欲しい…曙が帰ってきた」

 

「…ボーノが、ってことですか?」

 

「うん、だけど…監査艦としてね、だからまたすぐに出て行く…」

 

監査…?

 

「漣にも苦労をかけるけど、少し我慢して欲しい」

 

「…話が見えないです…」

 

「……暁達を捕まえにきたんだ、それだけが目的じゃないと思うけど…」

 

「は?あの、ご主人様…?」

 

体が跳ね起きる

 

「…起きて大丈夫?まだ寝てても良いんだよ」

 

「何、寝言言ってんですか…?ボーノが仲間売るわけないじゃないですか…!!」

 

「…説明したはずだよ、今の曙にはチップが埋め込まれてる、自分の意思と違う行動をとる事もある…」

 

信じたくない…それに…私は…

 

「…そんな……やだよ…ボーノ…」

 

「………」

 

「ご主人様、今ボーノは何処に…」

 

「わからない、けどこの泊地にいることは確かだよ、しらみ潰しに暁達を探し続けてる…」

 

「ぼのたん達は…?」

 

「付き纏ってると思うよ、朧だけ寝てるけど」

 

「…寝てる?」

 

「……うん、漣も一緒に寝てくる?」

 

「……ご主人様…なんでそんなに悠長なんですか…」

 

「…さっき話したけど…全く声が届かなかった、居ないものとして扱われてるみたいに」

 

そんなわけがない…ボーノがご主人様を好きなのは良く知ってる、だけど……

 

「………」

 

「やっぱり、ボーノ捕まえてきます」

 

「…体調は大丈夫なの?」

 

「不思議と…大丈夫です」

 

「無理しないでね、あと漣、これを持ってて」

 

「…リストバンド?」

 

「試験的に導入した転送装置だよ、まだ機能は弱いから御守り代わりだけど」

 

弱いってなんだろ…

プラセボって事で良いか、よし!

 

「行ってきましゅ…ます!」

 

「気をつけてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

軽空母 瑞鳳

 

「そう、ここで目撃されてます」

 

「…近づいているか、例の舞鶴の担当は?」

 

「明日から出てくれると」

 

「…被害さえ出なければなんでも良い」

 

「了解しました」

 

…1週間と言ってた割には動きが早くて助かる

このペースなら民間の被害は出ないだろう

 

「あ、いたいた、瑞鳳」

 

「…瑞鶴さん…何ですか」

 

「戦闘陣形についてちょっとね、いい?」

 

「……わかりました」  

 

 

 

 

「そう、こういう連携が有効だと思うのよねぇ…」

 

「……そうですね」

 

「なんで呆れてんのよ」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

「まあなんでも良いんだけど、ほら、この力を使えばお互いやりやすいでしょ?」

 

「………」

 

もう少し、抗うべきか

生き続けるために…

 

「じゃあ私の動きに合わせて隠してくれるんですか?」

 

「そう、瑞鳳の姿を包み隠せば大丈夫」

 

「………なら私の能力を…」

 

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 

駆逐艦 東雲

 

「居た!ボーノ!」

 

…漣…あの後すぐに潮達がやってきて、私の計画は失敗に終わった

どのみち捜索が必要だったし問題ない

 

「………目が覚めたようですね」

 

違う、私の言いたい言葉は別にあって…

 

「元気だった!?久しぶりだよね!ほら、美味しいもの食べよ!」

 

「私は東雲です」

 

…そう、私は東雲……

 

「…何言ってんの、ボーノはボーノだよ、ぼのたん達は?」

 

「居なくなりました」

 

…曙と潮同様に、そのうち私の対応に怒ってどこかに行くだろう

 

「あ、そういやボーノ、そのマフラーどうしたの?態々屋内でマフラーなんかして」

 

…これは…元帥の…いつしたんだっけ…

チェックのマフラー…

 

「お気になさらず」

 

「ボーノ、そっけないのは相変わらずだね」

 

「駆逐艦暁を知りませんか、私の調査対象です」

 

「…知ってるよ」

 

…漣、教えてくれるの?

 

「どこに居るのですか」

 

「私の質問に答えてくれる?」

 

「……構いません」

 

「じゃあ2つ、見つけてどうするの?」

 

「…捕縛し横須賀鎮守府に連行します」

 

「……それで、どうするつもり」

 

「おそらく解体、もしくは生体実験に使うと思われます」

 

「…ボーノ、自分が何言ってるか分かってんの?仲間だよね、暁達は仲間だよね?」

 

漣…貴女まで…そんな目で見ないで

 

「私は横須賀鎮守府所属の東雲です、横須賀鎮守府から脱走した艦娘を追っているだけです」

 

「………あと一つだけ聞くよ、ボーノの提督は誰」

 

「元帥です」

 

「……本気…?」

 

「はい」

 

なんで、そんな顔してるのよ…

ああ、そうか…みんな知らないんだ、アレの本当の顔を

 

「質問に答えました、居場所を」

 

「言うなんて一言も言ってないよ、そもそも…私は知らない」

 

「話が違います」

 

「私は質問に答えて、としか言ってない」

 

「知ってると言いました」

 

「暁達は知ってるよ、離島時代にね…それ以降や居場所は知らない、いや、死んだんだよ…!」

 

……貴女も、私の敵になるの…?

私はただ…皆にも愛されたかっただけなのに

 

「くだらない嘘は通用しません、早く喋ってください」

 

「ボーノ、本当に洗脳されたんだね…でも絶対に元に戻すから」

 

私は洗脳されてなんかない…これは私の意思…のはず

……そう、私の意思なんだ

 

「提督への侮辱とみなします」

 

「…違うでしょ、ボーノの提督はここにいる、私たちの提督でしょ…?」

 

「私の提督は元帥です」

 

「なんで?ねぇ…あんなに好きだったじゃん!私良く知ってるよ、みんな知ってた、みんな同じ気持ちだった!!」

 

…確かに、好きだった

でも私を力としか見ていない、愛してくれないなら…要らない

 

「貴女の提督は艦娘をモノとしか見ていません」

 

「暁達を生体実験に使うって言ったのどこの誰よ!そっちの方がよっぽどモノとしか見てないよ!」

 

……頭の中で何かがパチパチと…

弾けてる…

 

漣の首が掴まれてる…誰に…?私に?

 

「ぁ…ぐ…!」

 

「酷い侮辱です、死をもって償いなさい」

 

「……はっ…!」

 

…なんで?やめてよ…

なんで私にサムズダウンするの…

 

「…ふん…」

 

死んではない、気を失っただけ…

泊地にはいないことを確認したし…あとは朧と一緒に連れて帰る…だけ…

 

……2人とも、自業自得…

私の感情を語るから…私の事を、わかってる風な事を言うから

 

 

 

 

 

駆逐艦 朧

 

……ここ、どこだっけ

…車?なんで…確か私は…久しぶりに会った曙と話して…て…

 

「っ!」

 

「目が覚めましたか」

 

「……曙…と、漣…?」

 

なんで…漣まで…いや、あの襲撃は横須賀の仕組んだモノだって事の証明…

 

「なんでこんな事…!」

 

「気にする事はありませんよ、どうせ貴女も私と同じになれるのですから…私の提督はとても慈悲深い、貴女にも施しを与えてくれます」

 

「そんなの望んでない!ッ!」

 

両手が拘束されてる、か…

どうすれば…誰か助けて…曙……提督…誰か…

 

「…東雲さん、変です、車内にミストが」

 

「出所は」

 

……なんの話を…?

 

「………掴めませんが車内にあることだけは確かです、まだ上昇してます」

 

「誤作動では?」

 

「そんな筈は…」

 

…なんだろう…あったかい感じが……

 

「待って、漣が居ません」

 

「…え…?何が起きて…」

 

背中が誰かに掴まれたように…

 

引き摺り込まれる

 

 

 

「…ここ、は…」

 

「ネットの中よ」

 

「……曙…?」

 

「なに狐につままれた顔してんのよ…」

 

「助けてって言ったのは朧じゃないか」

 

「…提督…?どうやって…」

 

「漣に御守りを渡してたんだ、暁達が回収した良くわからない装置付きのね…発信機としての役割が大きかったんだけど、車の中でよかったよ…充分2人を助けられた」

 

…助かった…?

 

「なるほど、やはり貴女達は…そして…お前も…」

 

「来たわね、曙」

 

「早く漣を連れて逃げて、危ないよ」

 

「…わかりました」

 

「曙、君もだ…ここから出るには君の力がいる」

 

「………殺すんじゃないわよ」

 

…あれ…?

 

「…っ…頭が……」

 

「朧!しっかりしなさい!」

 

…ダメ……

 

これは…

 

 

 

「殺さなければある程度やっても問題はない」

 

「うめき声ぐらいあげろ、つまらんやつだ」

 

「良く染まりそうですね」

 

 

 

(この記憶は…曙の…

曙は1人で戦ってたんだ…1人で辛い思いを耐え続けてたんだ…)

 

 

 

「殺す?脳にチップを入れるだけだ」

 

「まあ死んだところで問題ありませんよ、細胞が死に切る前なら色々パーツ入れ替えれば解決しますし、心臓も機械製にしてしまいますか」

 

嫌だ…死にたくない……

やだ…嫌だ…  

死なない…死にたくない…!

なんでもいい、誰でもいい、助けて…!

 

 

 

(曙…曙は…助けてもらえなかったから…)

 

 

 

嘘、嘘だ、こんなこと、夢だ

私が、こんな事を

 

嫌だ、やめて、誰か、コイツを引き離して

 

『随分と、東雲、に対して関心がないように見えるな、君にとってあれはモノかね』

 

『…モノでしょう、曙、は、力でしかない…』

 

……え…?

提督…?なんで…

 

「随分と腕輪に対して関心がないように見えるな、君にとってあれはモノかね」

 

「…モノでしょう、腕輪は、力でしかない…」

 

(………そう、か)

 

「……まあ良い、そうだ、貴様らの鎮守府より来た東雲だが」

 

「…曙です」

 

(あの曙の記憶は…

つまり曙は騙されてるだけなんだ…)

 

「本人がそう名乗っているのだから仕方あるまい、アイツは優秀だ、我々の艦隊でもトップクラスにな」

 

「あまりにも優秀すぎて、怖いモノでなぁ…制御下に置かせてもらった」

 

「…制御下…?」

 

「まあ、簡単に言えば、殺した、そして脳にチップを埋め込み……おい、貴様…その手を離せ」

 

 

(違う…曙…違うんだよ…提督は曙のこと、大事に思ってるんだよ…

でも、わかった…曙の痛みも)

 

 

 

 

 

 

 

提督 倉持海斗

 

「…コルベニク』

 

「曙、僕は戦うつもりはないよ、話がしたいんだ」

 

『どうぞご自由に…私は貴女を殺します』

 

碑文の領域になってしまったか…

…最強の碑文相手にソロプレイ…無理がすぎるかな

 

「曙、君が死んでしまったと言った事、本当にごめん…僕は君を傷つけるつもりはなかった」

 

『そうですか』

 

一振りのレンジが違いすぎる、ただでさえ図体が大きいのに武器も使われたら…かわしきれないな…

攻撃を交えないと逃すだけの時間も稼げない

 

『貴女の艦娘は元帥への反乱行為を働きました、処刑します、退きなさい』

 

「僕がここを退けば君は姉妹を手にかけることになるんだよ、それだけは絶対にさせない」

 

『では、貴女も反乱者ですね』

 

碑文はとてつもなく大きいし運動性能も高いせいで接近戦も問題なくこなしてしまう…

 

攻撃を加えるにも…タイミングはわずか、か…

 

無理矢理行くしかないな

 

「本気で行かせてもらうよ…!」

 

ここで止めることがせめてもの償いになるなら…

 

「夢幻操武!!」

 

『その程度の攻撃、ダメージにもなりません』

 

確かにダメージは通ってないだろうけど…一瞬動きは止まった…時間は稼げる

 

「狐昇斬!」

 

『…邪魔です』

 

スキルを使ったら交わすのに専念…

 

「島風、マネさせてもらうよ…風・妖・刃の巻物!オラジュゾット!!」

 

コルベニクの周りに木片が隆起する

 

『…この…』

 

「虎輪刃!」

 

すれ違い様にスキルを放ち、木片を蹴って斬りかかる

 

「デクトープ!」

 

命中率を下げる魔法スキル…発動した、いける…!

 

『どうなって…』

 

「炎舞!」

 

『単調な動き…』

 

読まれてきたか…そろそろまずい

 

「…ッ!…マズイ…今は…」

 

頭痛が…頭が割れる…!

 

『…止まった…?』

 

ダメだ、持たない…

戻るしかない……

 

『待て、逃げるな』

 

「悪いけど、続きはまた今度だよ…」

 

 

 

 

 

「…ぐ……ぅ…」

 

頭から倒れちゃった…痛いなぁ…

 

人間には本能で頭を守る機能があるって聞いてたのに…それも作動してないんだろうか

 

「……曙…」

 

…僕のタイムリミットまで、近いのか…

 

 

 

 

旧 離島鎮守府

工作艦 明石

 

「夕張、これ…使った?」

 

「いや、使ってないけど…どしたの…」

 

「使用痕がある…多分提督」

 

「………これって、例のリストバンド型?」

 

「はぁ…また無茶したんだから…バリ、腕輪進めよ」

 

「……あとちょっとだもんね」

 

「………再誕、私たちは…先の世界には居ない…でもそれが正しいんだ」

 

「せめて、天国で見てたいなぁ」

 

「なら、頑張らなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

海上 

駆逐艦 弥生

 

「…なんでいるの…」

 

瑞鳳…

 

「遠くで観察するだけだから…そっちの人は?」

 

『…エンデュランス、よろしく』

 

「…えっと?名前が知りたいんじゃなくて…」

 

「マハの碑文使い…本来の」

 

「……成る程ね、だから私たちだったわけ」

 

「マハを、倒すにはエンデュランスの力がいる」

 

「……一つだけ質問したいな」

 

「何?」

 

「…なんでこんなに薔薇の匂いが強いの?」

 

………

 

「なんでだろ」

 

 

 

 

『……何かいるよ』

 

「深海棲艦!」

 

「……瑞鳳、任せても良い?」

 

「…了解、タルヴォス!』

 

……強い、確かに強い…

…艦載機って素手で飛ばすモノだったかは覚えてないけど…艤装との連携も上手い

 

「エンデュランス、もうちょっと陸側で戦わない?」

 

『…どうかしたの?』

 

「……私にやらせて欲しい」

 

『……彼女によろしく、さよならって」

 

「またすぐ会えるよ』

 

 

 

『瑞鳳、そろそろ…来るよ』

 

『凄く強い匂い…その薔薇と同じ匂い…』

 

『全然違う』

 

『……あれがマハ、か…』

 

『一回帰って』

 

『……やるの?』

 

『ケリをつけるのは、私の役目だから』

 

『…………じゃあ、後は…』

 

『任せて』

 

目の前のマハに視線を送る

 

『貴女は偽物、でも本物と同じ苦しみを受け続けてる』

 

碑文を顕現させる

 

『終わらせてあげる…それが私にできる貴女への救い』

 

 

 

 

 

 

軽空母 瑞鳳 

 

『…なにこれ…!?』

 

「瑞鳳!何やってんのよ!早く手を貸して!」

 

…陸が襲撃されてる…いつの間に深海棲艦が…どうやって…?

 

『早くしなさい!!』

 

『仁王槌!』

 

この程度の量だからすぐ片付いたけど…

本当になんで…

 

ぞわり

 

『ッ!』

 

背筋が凍る…

本能が聞くなと叫ぶ

 

「うわっ!?瑞鶴さ…!?」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

『……何が起きた…の…』

 

なんで瑞鶴さんが味方を…

違う、マハの能力だ…!

 

『やめて、やめてなんで!?止まれ!止まって!止まりなさいよ!!逃げて!みんな逃げて!』

 

味方同士でどんどん…このままじゃ全部…

 

ああ、強烈な死の香りが…

薔薇の香りが

 

とにかく、瑞鶴さんを止めなきゃ…

 

『ーーーーー!!!』

 

咄嗟に耳を塞ぐ

さっきより近い…あの瑞鶴がおかしくなった声が

 

「…え?」

 

「ちょっと…秋雲何を…」

 

「やめて!撃つわよ!?」

 

…最悪…全員…おかしくなって…

 

『みんなやめて!この…!お願いだから言うこと聞きなさいよ私の体…!』

 

強烈な死の香は…私を…包んで…

 

『………タルヴォス…力を貸して…みんなを守る為に』

 

「ゔっ!?」

 

「あがっ…」

 

気絶させれば良い、目が覚める前に…マハを倒せばきっと元に戻る

 

『瑞鳳!逃げて!』

 

…大振りな攻撃…

 

『…瑞鶴さん、目が醒めたらみんなを守ってください』

 

『…何…を……』

 

全員気絶させれば良い

死なせない

 

『…深海棲艦?鬱陶しいよ、私の邪魔をしないで』

 

お前達なんて相手にならない

 

「やめて!来ないで!」

 

『ちょっと痛いだけだから…我慢して』

 

もしかしたらもう正常なのかもしれない

私がただ狂ったように見えたのかもしれない

 

いや、元から狂ってたのかもしれない

 

狂わせたのは…この薔薇の香り

 

『……これで…全員』

 

全員が、気絶したはずだ…

まだ、私は戦える

 

『……弥生…何してるの…なんでコイツがここまで…』

 

目の前の敵を睨む

 

『……すぅっ…はぁぁ………』

 

大きく息をつく

 

『……うわぁぁぁぁぁッ!』

 

…もう、終わりだ

強烈な死の香に、私は酔ってしまった

 

『金剛発破掌!!』

 

とにかく叩き込め…叩き込め、叩き込め…!

 

かわせ、殴れ、蹴れ、とにかく…叩き込め…!

 

『……!』

 

マハの頭上に青く輝く光球…

それが私の死か…私の最後か…

 

『させない』

 

マハが呻き声をあげて体を捻る

 

『…弥生…!何してたの!?なんでコイツがここまで!』

 

『私も、至近距離で、あれをくらった…陸に近づけば…貴女を含めたみんなを攻撃してた…でも、もう大丈夫…』

 

『……やるよ』

 

『わかってる、弥生は…怒ってるよ』

 

連撃を叩き込む

何度でも、何度でも

 

『なめないで…!』

 

弥生の一撃がマハを大きく揺らす

 

『…今!』

 

『ダメ!瑞鳳!』

 

『…っ……』

 

なにこれ…

あの化け物の爪が…私の脇腹を貫いて…いや…

 

『弥生!早く!』

 

私を狙ったのが間違い…この腕…貰った…!

 

『閻魔大車輪』

 

もがけ、好きなだけ…!

絶対に離したりしない…

 

『双極・明王烈破拳!』

 

潰れろ!

 

『プロテクトが割れた…!』

 

弥生がデータドレインを展開する

 

『これでどう…!』

 

マハが悲鳴をあげる

咽び泣くような、嗚咽のような

 

『まだ…追、撃……』

 

…あれ…力、入んないな…

 

変だな…わかってたのに、覚悟してたのに…

こんなに怖いんだ…

 

『…………ごめんみんな、さようなら』

 

データドレインが勝手に展開していく

 

…タルヴォスは良い子だなぁ…私の思ってること、全部わかってるんだ…

 

全部もらった、もう一回生きたし、大事な仲間もできたし、楽しかったから…

 

もう満足だから

 

 

 

 

『後は…お願いします………北上さん」

 

途切れゆく意識の中で、空を掴もうとした

最期の瞬間までも、私は欲張りである為に

 

 

 

駆逐艦 弥生

 

『瑞鳳!!』

 

自分をデータドレインで…?

なんで、なんで…!

 

駆け寄り、抱き起す

 

『起きて!なんでこんなこと…!』

 

「……さあ…なんでだろ…」

 

『…碑文の力が…感じられない…』

 

冷たくなっていく

私の肌は…死の感覚をよく…理解していった

 

『……瑞鳳…』

 

短い時しか探さなかった

だけど…友達になれたのに…

 

めんどくさいとか思ったけど…それでも…

 

『……」

 

剣を彼方に投げる

 

「エンデュランス!!」

 

『…いいよ、もう一度力を貸して…マハ』

 

「なんで…こんな事に…!』

 

『合わせて』

 

『トドメ…!』

 

宿る、私の中に…

マハの力が…

 

『…弥生、落ち着いたら…帰ろう」

 

瑞鳳…

短い間だけしか関わらなかったけど

 

「…おわ…っ…た…?」

 

『……大丈夫、焦らずゆっくりで…弥生はここにいるよ、うん……ここにいる』

 

瑞鳳が天に向けて手を伸ばした

その手を、私は握った

 

「…わぁ……とどいた」

 

霧散していった

光の粒子となって

 

どこかへと流れていった

 

 

 

 

旧 離島鎮守府

重雷装巡洋艦 北上

 

「………」

 

崩れ落ちた、膝をついて、地面に俯いた

 

涙が流れた

一粒の大きな涙が

 

全て…思い出してしまった

全て知ってしまった…

 

「……今更さ…思い出させないでよ…混乱しちゃうじゃん…」

 

涙がとめどなく溢れた

 

全部、わかんないや

 

「…瑞鳳、許してくれてありがとね……さよなら…」

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