元勇者提督   作:無し

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台所

呉鎮守府

軽巡洋艦 神通

 

「……その、置いてけぼりにしてごめんなさい…アオボノさん」

 

「…別に私は良いけど…あんたのAIDA…悍ましいほどのものね…」

 

「はい…全く制御できませんでした、これは…封印します」

 

「その方がいいわ」

 

……このAIDAは悪意の塊のような…恐ろしい力…

 

「で、ちょっと打ち合っただけだけど…何か視えた?」

 

「……そうですね、鋭い剣技が…死んでいました」

 

「死んでる…?」

 

「守りたいという強い意志の中に迷いがあるんだと思います、演習だから傷つけられないという理由以上に…」

 

「……迷い、ねぇ…アイツのことかしら」

 

「横須賀に行った方の…?裏切った、ということですよね?」

 

「…裏切り者、というのは簡単よ…だけど、アイツからしたら私の方が裏切り者の薄情者…アイツの努力を否定して、アイツの気持ちを踏み躙って…そんなつもりは一切なかったけど…」

 

……同じ艦種の艦娘に会ったことは、何度もある

でも、私はこの人のように感じたことはない…

 

「……優しい、のですね」

 

「…違う、優しいんじゃなくて…ただ、姉妹だからよ」

 

「……姉妹?同じ曙なのに…?」

 

「それ以前に、同じ綾波型で、朧の妹…漣と潮の姉…」

 

「…同じ、姉妹…私には、目の前に別の神通がいても…そうは思えません」

 

「………アタシも、アイツ以外ならそうは思わない…アレは特別なのよ」

 

特別、か…

そもそも、出会いの時点でもう1人の曙はアオボノさんの姉妹を引き連れていた、同じ立場なら狂いそうになるだろう

 

「…それが…私の迷いとして私の戦いに出てるのなら、むしろその迷いを大事にしたい、だって…連れて帰ることだけを考えてるわけだし、戦うことも正直迷ってる」

 

「…強いですね」

 

「そう?ありがとう…でも正直甘いだけよ、クソ提督によく似てね」

 

「………」

 

私の槍は、どうなんだろう

槍である必要があるのかも謎だけど、何故私がこの武器なのか、メイガスがなぜその形を選んだのか…

 

「…アンタは単純に使い慣れてないのが悪いわ、どうせ近接戦闘自体…槍でやったの少ないんでしょ」

 

「ここまで本格的にやったのは初めてでした…素手でも戦えますから」

 

「アンタも大概化け物よね」

 

「……姉さんや提督ほどではないです…」

 

「…確かに強いわよねぇ…軽く見ただけだけど、あのレベルになりたいとは思ってないけど、正直羨ましいわ」

 

羨ましい、というより…嫉妬する

 

「………そろそろ、姉さん達が帰ってきます、良ければ会って行きませんか?」

 

「川内かぁ…ま、あんまり時間はないけど、会うだけ会おうかな」

 

「喜ぶと思いますよ、それまでお茶でもどうですか?」

 

「遠慮なく頂くわ」

 

 

 

 

軽巡洋艦 川内

 

「………なにこれ、大井」

 

「私はあなたと一緒に今帰ってきたところですよ、何を聞かれてもわかりません」

 

………なんで…

 

「なんでキッチンが大破してるの!!」

 

ムカつく〜…!

誰?この大惨事を引き起こしたのは…

 

「あら?川内じゃない、お茶いただいてるわよ」

 

…なんで宿毛湾の曙が優雅に緑茶と沢庵なんか…

しかもお茶はペットボトルだし…

 

「曙、何?わざわざ遊びにきてキッチンぶっ潰したわけ?」

 

「……え、何、そっちそんなにひどいことになってるの?」

 

…要領を得ないな

 

「何?何か知ってるの?」

 

「いや、神通がお茶を淹れてくれるって言うからご相伴に与ってるだけなんだけど…」

 

「神通ー!!!」

 

キッチンに立つなって言ったのに…!

と言うか今日は日下さんがお休みだから由良あたりが割を食うことに…

 

「まあ、まさかペットボトルのお茶とぐちゃぐちゃのたくあんの微塵切りが出てくるとは思わなかったけどね」

 

「…ごめん、大井、頼める?」

 

「ええ、一応客人にコレは…」

 

「気にしなくて良いわよ、どうせもうすぐ帰るから」

 

「そうなの?」

 

「顔を見たら帰るつもりだったし」

 

「それはまた殊勝な心がけで」

 

「…ま、暇じゃないのよ、アタシもね」

 

……なんだろう、この不思議な感じ

 

「あなた、雰囲気変わりました?」

 

「……実はね、一つ、答えが出たのよ」

 

「答え?」

 

「…私はとことん弱い、だから1人で戦うことは2度としない、もうやめるって決めた」

 

よくわからないな…

 

「…アイツが同じ動きをするなら、私はそれに合わせてやる…」

 

「…何を言ってるんですか?」

 

「ま、そのうちわかる時が来るかもよ、その時にね」

 

「……まあなんでも良いけど、次来た時は神通にお茶を出すって言われても断ってね」

 

「次からは優秀なお姉さまに頼んでって言うから気にしなくて良いわよ、神通アンタが入ってくる5秒くらい前に窓から飛び出していったし」

 

「…へぇ…よし、大井、ここは任せたよ!」

 

そう言って空いてる窓から飛び出す

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

私も後片付けはごめんなので

 

 

 

 

 

 

重雷装巡洋艦 大井

 

「くぁぁ……ん?居たのか、大井」

 

欠伸をしながら入ってくるなり…

 

「……まあ、居ましたよ、ええ、私が片付けをしたんですよ、おかげでこんなに綺麗なんですよ」

 

「…神通…やりやがったな」

 

「提督、ご存知だったんですか?」

 

「まあ、演習を見てたからな、ほら、宿毛湾に行ったあの曙と…」

 

「…まあ、さっき会いましたよ……」

 

…シャンプーの匂い…?

 

「あれ?お風呂に入ったんですか?」

 

「…ずぶ濡れだったからな」

 

「……一体何が…」

 

「聞かないでくれ、俺としても複雑な問題だ」

 

本当に一体何が…

多分神通さんにもなにかがあったみたいだし

 

「…食事ですか?」

 

「あ?」

 

「…いや、食堂にわざわざ来るなんて何か食べる時か日下さんと話す時くらいじゃないですか」

 

「……そうか…?」

 

「そうですよ」

 

「…まあ、なんでも良いだろ、茶を入れるけどお前もどうだ?」

 

……また散らかるのかと思うと辟易とする

それは防がねば…

 

「忙しいんじゃないんですか?」

 

「……頭を冷やす時間が必要なもんでな」

 

「…私がお茶を用意します」

 

「…そうか、じゃあ、頼む」

 

 

 

 

「ん、美味いな…同じ煎茶のはずなのに…淹れ方が違うのか?」

 

…ほんとに任せなくて良かったかもしれませんね…

 

「……適当に沸騰させてるからじゃないですか…?」

 

「ダメなのか?」

 

「何事にもやり方というものがあります、調べてください…例えば煎茶は80℃のお湯で30秒とネットでは出てきますね、私は85℃45秒蒸らすのがルールですが」

 

「へぇ、拘ってるんだな」

 

「当然です」

 

まあ、雑味もなく、香りも良く仕上げてますからね

 

「なあ、大井」

 

「…なんですか」

 

「最近、AIDAはどうだ」

 

AIDA関連で何かあった…?

 

「……戦果に出てる通り、コントロールできている…と思いますけど」

 

「そうか、じゃあお前自身はどうだ」

 

私自身…?

 

「ちょっと意味がわかりません」

 

「…なんだ、辛いとか…」

 

「……はぁ…何に影響されたか知りませんけど、気を使うのが下手な人間がそういうこと言うのはサムいですよ」

 

「…そうか、悪かったな」

 

偉くしおらしい…

何か言い返してくると思ってたのに

 

「提督こそ何かあったんですか」

 

「…いや、なんでもない」

 

お茶を口に運ぶペースだけ早いのに傾け方は一定

考え事だけして飲んでない…

 

カマをかけるか…でも何で?

 

AIDAは確実…日下さんは…うーん…相談相手として選んでここに来た?多分相談したい内容とは関係ないか…

アオボノさんは違う、向こうから話題を出したなら相談してくるはず

となると…残されたのは、神通さんか…

神通さんとAIDA…

 

向こうが話題を振りたくないならどう話させる?

AIDAの理解度?当然私は提督に劣る、相談を促すにも理由はわからないがおそらく私は避けられてる

 

どう促そう…

 

「おい、大井?」

 

…良いタイミングで呼びかけてくれた、利用しよう

 

「…おい」

 

「………」

 

「おい、なんで無視しやがる」

 

「自分の胸に聞けばいいんじゃないですか」

 

「…サムい奴とは話したくないか」

 

……呆れて何も言えない…

これだけ勘が悪いと苦労するわね…

 

「私の問いかけをなんでもないでスルーするくらい1人が好きなんですから、話し相手も必要ないでしょう」

 

「…あー……」

 

ようやく伝わったらしい

 

「……そんなに気になるのか」

 

「神通さんのAIDAの事でしょう?」

 

「……知ってたのか…?」

 

ビンゴ

 

「いいえ、予想しただけです」

 

「…お前は勘は良いのになぁ…」

 

「何か不満でも?」

 

「…有る、自分が正しいと決めたら決めつける癖は色んなところで悪い結果を呼んでるだろ」

 

また出た…

 

「いいえ、全く」

 

「お前……周りにどう思われてるとか、周りの感情を優先することはあるか?」

 

周りの感情…

 

「それを優先したところで結果は変わりませんよ」

 

「……例えば、これは極端な例だが嫌いなやつと出撃したら?」

 

「いつも通りです」

 

「…さらに極端だが、そいつがお前の裁量一つで死ぬかもしれないとして、どうする」

 

「………シチュエーションが不足しています、そもそも私に嫌われると言うことは常日頃から言うことを聞かなかったり、よほどなまこ頭ない限りあり得ませんよ」

 

「……そうか、例えば誰かがお前のことを嫌ってたとする」

 

逆のパターンか

 

「お前が死にかけたとして、そいつは助ける手段がある、だけどそれは本人しか知らないことだ」

 

「…だから?戦力を私情で切り捨てられるわけがありません」

 

「切り捨てる奴はいる、お前は自分を信用しすぎだ」

 

「力量は見極めています」

 

「………」

 

…何が不満だというのだろう

 

「お前は協調性…いや、社交性はあるだろ」

 

「なぜ言い直したんですか」

 

「協調性ってのは少し間違ってる気がした、社交性の方が正しい」

 

「私が人付き合いが下手だと?」

 

「そうじゃないけどな…」

 

「下手に取り繕うのは疲れるだけですよ、偉い人の真似なんかやめたらどうですか」

 

「……うるせぇよ…」

 

…しまった、踏み込みすぎたか…

 

「………」

 

「………」

 

完全な膠着状態…か

謝るのもなんだか…切り出し辛い…

 

「お前には俺がどう見えてる」

 

「…どうって……」

 

どう、か…わからない…

軽率な言葉が口をついて出そうになる

 

口籠る、嫌に重たい、なんで答えればいいんだろう…

 

「………」

 

「なんか重たい雰囲気だねぇ」

 

「…川内か」

 

…いつもなら鬱陶しいタイミングだけど、今は正直ありがたい

 

「何?なんの話?」

 

「…お前には言っておく必要があるな…大井、外してくれ」

 

神通さんのAIDAの事…か…

…おとなしくいう事を聞いておけば…良いんだろうけど

 

「お断りです、私にも聞かせてください」

 

「…大井、お前には関係ない、外せ」

 

「今、お断りしたのが聞こえませんでしたか?」

 

…なんでこんなに喧嘩腰なんだろう、自分でもうんざりする

 

「絶対に聞かせちゃいけない内容なワケ?そうじゃないなら別に良いと思うけど」

 

「…大井には関係ない話だ」

 

「ダメってワケじゃないなら勝手に首を突っ込ませれば良い、違う?」

 

…なんで私に助け舟なんか出してくれるんだろう

 

「………勝手にしろ」

 

 

 

 

 

 

「神通がAIDAに…?」

 

「ああ、かなり凶悪な奴だ…もし何かあればすぐに知らせろ、1人で対処しようとするな」

 

……そう、AIDAと言っても一つじゃない、誰もが私達に憑いてるような協力的な個体じゃない…

それの対処に当たってたのね…

 

「知らせろ、って取り除かなかったの?」

 

「神通なら大丈夫だ」

 

「大丈夫って…そんな無責任な…」

 

「会ってきたんだろ、何も感じなかったか?」

 

「…何も」

 

「じゃあ使わないって決めたんだろうな、心配ない」

 

「適当な事言ってる?ねぇ、それ本気で言ってるの?どっち?」

 

「本気だ、お前の妹だろ、信用しろ」

 

「…それはずるいってー……」

 

「お前が信用してやらなきゃ、誰が信用するんだ?」

 

「むー…」

 

川内と提督の距離は、私が思ってるより近いらしい

 

「…そう言えば川内さん、マフラーは」

 

「あ、そうだよ大井、それでわざわざ来たんだけど、赤だっけ」

 

「ええ、せっかくですし取りに行きましょう」

 

「おっけー、行こうか」

 

……逃げてるだけだ、ダメ、これじゃ…

 

 

 

 

 

「なんだ、大井の部屋も案外散らかってるんだね」

 

「…いえ、これは姉さん達が…」

 

…咄嗟に嘘をついてしまった…

今朝は片付ける暇がなかったし…いや、言い訳は良くないか…人に罪をなすりつけた後だけど

 

「…なるほど、妹は妹で辛いんだねぇ…」

 

「…え、えぇ…そうですね…」

 

「ところでさ、大井」

 

「何ですか?」

 

「モノには限度ってもんがあってだね」

 

「…いきなりなんですか?」

 

「私達の戦いは、一歩間違えれば全員道連れの戦い、特に私たちはゴールすら見えてないんだよ、このまま巨悪を倒して、はいお終い…なんて事にはならない」

 

…急に真剣な顔して…そんなこと言われなくても…

 

「大井、私だってこんな状況、あした死ぬかもしれない、5分後には死んでるかもしれないんだから…気持ちは伝えなきゃいけないよ」

 

「…なにを…?」

 

「大井ってさ、普段賢いのにバカだよね、自分を狂信的に信じてる」

 

「…馬鹿にしてます?」

 

「してるよ、なんだかんだ面倒見が良くて、最前線で、時には私たちより前で戦う様な提督だ、皆はどう思ってると思う?」

 

「…どうって…」

 

考えた事はなかったけど…

 

「少なくとも憎からずは…」

 

「……で、済まないような相手がここに居たら?」

 

「…え?」

 

考えてなかった、そうか…

 

「日下さんなんてさ、私たちよりずっと距離近いんだよ、だって何年もの仲だもん、ねぇ?」

 

「…だからなんですか」

 

「もうちょっと、周りを見なよ、敵だらけだよ」

 

「…それが言いたくて?」

 

「そ、私は不意打ちでもなんでもするけど…大井とは正々堂々行くべきかなぁって…」

 

「………」

 

…何故私は私だけだと思ってたんだろう

 

「大井、例え誰がなんて言っても提督は無視するよ」

 

「…そうでしょうか」

 

「間違いないね、だって明日にはみんな死んじゃうかもしれないんだから」

 

「……嫌に落ち着いてますね」

 

「不安な気持ちに押しつぶされてる暇があったら、戦わなきゃいけないからね…だって私が夢見てる世界は戦いの向こうにある」

 

「………」

 

私の望む未来は…何処にあるんだろう

 

「それは大井の中にしかないよ」

 

「…何も言ってませんよ」

 

「なんとなくね、所でさ…大井、これ?」

 

赤いマフラー、血のように赤い

落ち着いた赤…決して暗いワケじゃない

 

「そうです、どうぞお持ちください」

 

「追い出そうとしてるでしょ」

 

「…不愉快なんです」

 

理由は、よくわからない

 

「……別に良いけどさ、アタシとも向き合ってよ」

 

「…川内さんと?」

 

「大井の特別は、最初から姉妹だけだったのかもしれないけど、今は違うんでしょ?」

 

特別か…北上さんはあんな事になってしまったし…

 

「大井、この先の戦いで、私たちは何かを、誰かを失う、でもそれって仕方ない事なんだよ」

 

「…誰かが死ぬっていうんですか」

 

「提督だけ失うワケないじゃん、私たちが失う覚悟をしてない限り…強くなれないんだよ」

 

伝わってこない、何も

 

「大井、明日死ぬのは私じゃなくて提督かもしれない」

 

「…そんな訳…」

 

「保証は何処にもないんだよ、ね、もっと落ち着いて周りを見てみなよ、大井は私より賢いんだからさ」

 

……どうしろと言うんだろう、提督が死んだら、私に残されたのは姉さん達と木曾だけになる…

 

「大井は何のために戦ってるの?」

 

「…何のために…?」

 

「アタシはさっきさ、うまいこと提督に丸め込まれたように見えたと思う、神通の事ね…でも、あの時はアタシが冷静じゃなかっただけ、神通なら大丈夫だもん」

 

「なんでですか?」

 

「神通は誰よりも、守ろうとしてるから」

 

「守ろうとしてる…」

 

私は…北上さんより弱くて…提督より弱くて…

 

「私には、誰が守れるんでしょう…」

 

「守るのなんて理由の一つ、戦う理由は何でも良いんだよ…誰かの為、復讐、怒り、なんでも…例えくだらないことでも良い、私は間違えなきゃ良いって思った」

 

「間違い?」

 

「私は神通も那珂も、提督も…ここのみんなも大事、だからみんなを悲しませない為に戦う、誰かを悲しませるような戦いは間違ってると思った」

 

「…どうして?」

 

「だって私はみんなの事大事にするって決めて戦うのに、自分で悲しませたら意味ないじゃん」

 

…思ったより簡単な理由、なんだろうけど…

 

「納得した?」

 

「…まあ、多少は」

 

「結局私は後悔しないように生きてるだけなんだよ」

 

「後悔、ですか…」

 

…私は…

 

「同じじゃなくて良いんだよ」

 

「……私はいくらでも悔いを残して生きていきます」

 

「それも一つの生き方だよね、大井のやりたい様にしなよ」

 

「整理がついたら、その時に伝えます…抜け駆けはなしなんですよね?」

 

「心の整理の前にまずは部屋の整理からだと思うけどね、球磨型で1番部屋が汚い大井っち!」

 

「……まさか…バレて…」

 

「私大井以外とは結構交流あるんだよ?バレるに決まってるじゃん」

 

「…はぁ…」

 

 

 

 

 

 

提督 三崎亮

 

「ああ、無事でよかった、肝を冷やしたぜ」

 

『まあ、これで全部パァですけどね』

 

「欅、そっちはどうなんだ?」

 

『安全です、最後の日までは間違いなく』

 

「……Xデーは?」

 

『近日中に、プロトタイプの腕輪の使用痕が何度も認められてますから、時間もないですね…』

 

「…クソ、どうすれば良いんだ?」

 

『世界を救う手段なんて、ないのかもしれない…そもそも、世界を救うなんて烏滸がましいのかもしれない』

 

「…えらく気弱な事を言うな」

 

『現実に流れ出たデータをネットに戻したらどうなると思いますか?』

 

「…できるのか?!」

 

『できたとして、待ってるのは大量の真空の空間、その空間に周囲の空間が引き寄せられる…だけで済むでしょうか、NASAのログを調べたら、この現象は…宇宙規模に広がりつつある』

 

「…デカくなりすぎだな…」

 

『何が起こるか、想像がつかない』

 

「つく限りでも引力がおかしくなっちまう訳か…」

 

『地球の軌道が変われば太陽から離れて氷河期、もしくは太陽に衝突…隕石群が降り注ぐ…何が起きても不思議じゃない…もっと悪いかもしれない…僕らはネットに頼りすぎたのかもしれません』

 

「……チッ…どうすりゃ良いんだ…」

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦 那珂

 

「あれ?神通姉さん…どしたの、そんなにボロボロになって」

 

「…キッチンに立ったのがバレて…」

 

「……あっきれた…」

 

そんなくだらない理由かぁ…

 

「私たちが立つ事が間違いなんだよ…」

 

「…那珂ちゃん、元気ないですね」

 

「…わかる?やっぱり…ゴレが出てきてくれないんだよね…戦闘中もなんだか集中できないし」

 

「…つまりスイッチが入らない?」

 

「うん…」

 

私の中で集中のスイッチが入らない…

テンポもブレてしまった、どうやって戦えば良いのかわからない…

 

「…アイドルの活動も全くなくなったしね…あ、でも今の顔なんて誰にも見せたくないからそれはいっか…」

 

「……私は元気な那珂ちゃんは大好きでしたけど…今の那珂ちゃんも大好きですよ」

 

…やっぱりお姉ちゃんなんだ、優しく包んでくれる

 

「…絶対に、強くなるからね」

 

「良いんですよ、焦らなくて…ゆっくりで…」

 

「……うん、約束…」

 

私は、きっと大丈夫…

 

「だから今は好きな事をしましょう、何かしたい事はありませんか?」

 

「…したい事かぁ…お出かけしない?これから忙しいだろうしさ、遠くのカフェに行ってみたい、美味しいもの食べて…ね?」

 

「わかりました、申請しておきます」

 

……あれ…?血の味が…口の中に…

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