元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
提督 倉持海斗
「…一緒に飲んでもいいかな」
波止場の端に腰を下ろす
脚を海に垂らして瓶を隣に置く
今日は月がないな、星が綺麗だ
「なんや、司令官が酒をやるんは初めて見るわ」
「龍驤が飲んでるのも初めて見るよ」
瓶の栓を開け、中身を海に垂らす
「……まず、酒を持ってたことも知らんかったわ」
「…こう言う仕事をしてるともらうことは多い、らしいよ、僕はもらったことはないけど…だから取り敢えず手に入る限りで用意した」
「殊勝な事や」
空っぽになった瓶を脇に置き、新しいものを開ける
「……ホンマに飲むんか?」
「…今日だけだよ、これだけ」
「…下戸っぽいな」
「その通りだからね」
思いっきり呷る、口内が焼けそうになる
「……ごめん、鳳翔、本当にごめん…」
涙がとめどなく溢れる
情けなくて仕方ない
「…好きなだけ謝って、泣いたらええ、これは全部酒のせいや、酒が見せてる夢や」
背中に暖かい感触
いつぶりだろうか、人に撫でられると言うのは
より涙が流れた
隣においてあった瓶が地面を離れる
誰かが隣で喉を鳴らす
「……ぷはっ…死者に手向けるには…随分な安酒ですね、加賀さんも飲みます?」
「赤城さん…せっかく持ってきたのだからコップを使うべきだと思うわ」
広いスペースがあるはずなのに、すごく狭くて、暖かかった
「…さよなら、鳳翔」
駆逐艦 島風
「カイト、元気になった?」
「うん、心配かけたね、ごめん」
「ううん、元気になってよかった」
…本当に大丈夫そう…一晩のうちに何があったのかはわからないけど、安心した…だけどやっぱり…全快じゃない
「…キミたちの家を奪った奴等に痛い目を見せてやろう」
「…大丈夫…?」
「…とは言い難いかな、これは空元気でしかないから…でも、あと1回分ぐらいなら」
一回…?
「島風、また戦えるようになる、だからもう少しだけ我慢してね」
「うん…でも、一つだけ約束して」
「…何?」
「死ぬ為に戦わないで」
「…僕が戦うのはいつだって誰かのためだよ」
……カイトの心がわかれば、きっと違う言葉をかけられた、はずなのに…私には言葉が思いつかない
伝えたい気持ちがわからない
「……本当に戦うの?」
「うん、心配しないで、キミも戦えるようにするから」
…違う、そんな話してるんじゃないよ…
軽巡洋艦 天龍
「ちゃんと話すのは、初めてですよね」
「そうねぇ、うーん、他の天龍ちゃんに比べてナヨナヨしてるのよねぇ…」
…苦手なタイプだなぁ、この龍田って人…
「あなた、眼帯はつけないの?」
「この通り隠すものもないので…」
「そうよねぇ…ふーん…うーん…」
顔をジロジロ見られて辛い…
「あの…何か…?」
「あ、ごめんなさいね〜、少し気になって…」
…もう何回目だろ、このやりとり…
「うーん、私こんな感じの天龍ちゃんにあったの初めてで、ちょっと新鮮なのよ〜…」
「は、はぁ…」
……疲れる…
「三者三様って言うし、天龍ちゃんにも色々いるのね〜」
「そりゃあ、そうだと思いますけど…」
「…刀は?使わないの?腰に刺してないけど」
「だって砲雷撃戦がメインですから…」
「…私は槍を使うのに、変ねぇ…手堅いと言うか…ねぇ、良ければ刀、使ってみない?教えるわよ?」
「え、えぇ…?別に教えていただく必要は…」
「さ、取りに行きましょ?」
「うーん、そんなに簡単には手に入らないわねぇ…ここの工廠担当は?」
離島鎮守府の事は言わない方がいいだろうし…
「多分外してます、私にはわかりません…」
「…探さなきゃねぇ…」
…めんどくさいなぁ、この人
「そんなに邪険にしないで?姉妹なんですもの」
「……はぁ…」
邪険にされたくないなら解放してほしい…
「そろそろ帰らなくてもいいんですか?佐世保なんですよね?」
「そうだけど天龍ちゃんが心配で…」
「私は平気ですから」
…妹を心配する姉のような…あれ?私の方が姉のはず…
ま、まあいいか、早く帰ってもらおう
「また来るわね、元気にしててね、風邪とかひかないでよ?」
「えーと、ハイ…」
姉というよりもこれは母…?
駆逐艦 曙(青)
「まー、一晩探し回ってどこにもいないと思ったら…ねぇ?摩耶」
「…波止場の先っぽで酒飲んで寝てるんだもんなぁ…ま、たまには許してやるしかねぇか…」
空母2軽空母1人間1の回収作業は随分疲れた、回収された方はバツが悪そうにしてたし、こっちとしても要件は果たせず
「…くそ、無駄な時間過ごさせやがって」
「どーすんのよ」
「…2人でもやれる事はあるだろ、まあ、とことんやろうぜ」
摩耶が大剣をぐるりと回しながら担ぐ
「…いや、連携の特訓なのになんで戦うのよ」
「癖の把握とか…ほら、多分役に立つって、それにお前もイライラしてるだろ?」
…確かに、イラついてはいる
自分の無力さに、そしてこの世界に…
「いや、イライラと戦うは繋がらないのよ、冷静さが求められるんだから」
「ほらほら、さっさとやろーぜ!」
…摩耶も空元気、か
「聞きなさいよ…はぁ…アンタ、脳筋って言われない?」
「有名な雷の神様はな、こう言ってた…筋肉が多いやつほど賢い!つまり脳筋はパーフェクトな賢さだ!」
なるほど、ソーいうことね
「マイティね、アンタも」
「マイティ摩耶様か、気に入った!」
「売れない少女漫画のタイトルっぽくて似合ってるわよ」
「ンだと!?」
今は腕を磨き続けるしかない、大丈夫だから
呉鎮守府
提督 三崎亮
「良かったな薫、仲間の無事が確認できて」
「…まあ、弥生はそんな簡単にやられる子じゃないからね」
「それで?なんの用だよ、わざわざここまで来やがって、千草が幽霊でも見たみてーな顔して倒れるし」
「……亮、千草もそうだけど、流石に酷いと思うよ」
「で、さっさと要件を言え」
「僕がきたのは…カイトと一緒に戦うなら、手を貸せるんじゃないかと思っただけだよ」
「そうか、まあ、猫の手も借りたい状況だ、助かるぜ」
「その猫は弥生の手元なんだけどね」
「…まあ、それは置いといて、それだけか?」
「…スケィスについて思うことがあって来た…」
「スケィスの?」
「マハは今、弥生と僕が共有してる」
「…らしいな」
「スケィスも共有してるのなら、わかるはずだ…やはり一つに集めなくては、断片では力が弱いことが」
「…わかってる、だがだからってどうしろって?」
「1人が完全に手放せばいい、千草も、伊織も…完全に手放したから、だけど手放すのは僕らである必要もない」
「…川内に手放させるのか…」
「僕が今言ったのは、弥生はいい仲間になってくれたけど、碑文の力に振り回されてると感じたから…碑文は心の闇を増幅させる、それに少し呑まれてる、偶に攻撃的になる事もある」
「…未熟って事か」
「成長中なだけだよ」
「……甘いな」
「お互い様かと思ったけど」
「違いねぇ、俺も甘い、だが川内はもう未熟じゃねぇよ」
「…きっと、スケィスは昇華する、さらに上の段階に行ける」
「ああ、俺もそう思う、川内はもっと成長する」
「…話はこれだけ…なんだけれど、亮、大丈夫なんだよね」
「……どっちの未来がいいのかは知らねぇけど…とりあえず今は協力関係のままだ」
「なら良い、僕も宿毛湾に行ってみるよ」
「ああ、またな」
横須賀鎮守府
駆逐艦 綾波
「いやぁ…本当に私って天才ですよ、だってほら、あの治癒力の謎も、そしてその構成も、対策も、さらには碑文の解析に腕輪の解析を佐世保襲撃の片手間に終わらせてるんですから!」
「…わかった、確かに貴様は優秀だ、さっさと報告しろ」
「最初に佐世保の話を済ませちゃいますね、此方方の被害は甚大ですね、あそこ憲兵あんなに強かったですか?雑魚がかなりやられましたよ」
「渡会一詞は憲兵上がりだ、陸戦にも余念がないのだろう」
「おかげさまで結構な被害が出ちゃいましたよ、まあでも施設は完全に破壊というか放棄させました、皆殺しにはできなかったようですが…」
「なぜだ」
「それがイニスの碑文使いの幻覚で殺したつもりになってたみたいで…」
「………チッ」
「後、渡会一詞も槍を持って戦ってたんですが…その槍に触れたヤツ、消滅しました」
「悍ましいものを…」
「ま、とりあえず佐世保は今何人殺したか計測中ですよ」
「そうこ」
「それと前回のあのバリア内のすべての記録を精査しました、いやぁ、大変でしたね、あれは大変だった!」
「…追加の報酬は後で話す」
「え?なんだか催促したみたいで悪いですねぇ…あの治癒力の謎は持ち歩いてた小瓶にありました、まあ回復アイテムと呼んでいるところからゲームのものだと思われますね、はい、それでこれについての解析は済んでます、無効化する化学式もできてて、あとは材料さえあれば〜…」
「……これは使い続ければ死ぬ、と言うことか」
「え?いや違いますよ、体の構成物がデータになっていくだけで死にはしません」
「…認知外依存症というこの項目は」
「ああ、なんかネット空間に存在しすぎて体がパーってなって消えて死ぬ病気です、再誕があれば関係ないと思いますけど」
「女帝から聞いた通りだな」
「あら、そうでしたか、まあこれについてはあんまり詳しいことは分かってないんですよね」
「構わん、後二、三回それを使わせれば倉持海斗は死ぬということさえわかればな」
「…まあ良いや、次なんですけど 碑文の解析が完了、これにより再誕の摘出が可能になるまでかかる時間がぐんと早まると思います」
「すぐにはできんのか」
「解析しても対応できるかは別問題です」
「チッ…」
「腕輪の方も十二分にデータが集まりましたので、こっちもより確実なものができます、再誕の確保についての案もこのように」
「…奴らをここに呼びつけるのか?果たして来るのか」
「佐世保襲撃に関する声明文です、今マスコミにはこんな事が流れてます」
「奴らが反乱者であることは事実だ、何も違うことはない」
「そう、本部への反乱者の処刑、つまり国家反逆罪を適応したのですから、呉鎮守府と宿毛湾泊地にもその動きがあると言うことにして呼びつければ早いですよ、来なければ反乱者として日本中から村八分…」
「まあ、来るだろうな」
「まあ、来て仕舞えば残りの戦力を逐次投入してれば勝てます、下手に出し渋ってしまうよりもずっと効果的です」
「ヴェロニカに連絡を、その時にすべての決着をつけるとしよう…よくやった、褒めてやる」
「わーい、報酬は東雲さんの出し殻をください、碑文がなくて誰にも必要とされなくなった東雲さんを一生飼うので」
「そんなもの好きにしろ」
宿毛湾泊地
正規空母 赤城
「…酷いニュースですね」
『以上の点から佐世保鎮守府の指揮官である渡会一詞被告、並びに舞鶴鎮守府の徳岡純一郎被告は未だ逃走中です、危険な思想に染まった艦娘もいると思われるため、対象地域で横須賀所属の腕章をした艦娘以外を見つけた際は即刻通報をお願いします』
「何が国家反逆罪ですか、無知とは怖いですね」
「赤城さん、食事中にそんなことを言いながらニュースを見ていてはさながら仕事終わりのお父さんよ」
「…加賀さん、焦りましょうよ」
「焦って事態が好転するとは思えません、私たちが今やるべきことは自分たちの身を守る備えをすることです」
そういう割には箸が止まってますけど
「…そう言う話をしてるんじゃないんです、あなたの思い入れのある子がいるんじゃないんですか」
「だとしたら論外だわ、赤城さん、私も彼女を深く知ってるわけじゃないの」
「……はぁ…」
…口下手は相変わらずですね
理性的であるが故に、行っても助けにならない上に迷惑をかけるだけだと判断した、横須賀所属ではない私たちは近づけば捕縛されてしまうだろうし、仕方ないところもありますけど
「…待ってください、龍田さんたち、いつ佐世保に帰りました!?」
「さっき出立した筈…不味いですね、止めます」
「今連絡を回してますからすぐ見つかる筈…」
「…教えてくれてよかったわぁ…」
「安全が確認できるまでとりあえずここにいてください」
「……そういう訳にもいかないの…みんな仲間が心配なのよ」
「どうしたものでしょうか…」
「最悪艦娘であることがバレなければ良いんです、変装用に服を貸しましょう」
「…助かるわ〜」
「そうだ、北上さんにも行ってもらいましょうか」
「……確かに、杖をついてる北上さんを艦娘だと思う人は少ないとは思いますけど…」
加賀さんらしい提案ではないですね…
「なにより私たちと連絡を取れる人が必要です、如何ですか?」
「お願いするわ…」
「加賀さん、加賀さんも行ってあげてください」
「…私より翔鶴が適任です」
「今日は出撃してますから帰りが遅いので、加賀さんが行ってください」
「…そこまで言うのなら…」
素直じゃないんですから
駆逐艦 朝潮
「あ、繋がった、杏さんですか?」
『朝潮、久しぶり…下北以来だっけ、どうしたの?』
「少し確認したいこととか、ありまして」
『何?』
「杏さんはデータドレインを受けている、と聞いています…たとえば自分以外の方がデータドレインを受けていたら?」
『……ああ、そういう事…カイトはどうしようとしてるの?』
「世界の再誕です」
『それは、知ってるんだけど……うーん…ああ、わかった、もしかしたら、だけどそれでも聞く?』
「是非」
『多分ね、カイトはこう思ってる、なんで僕だけが…』
「僕だけが、ですか」
『私は私だけデータドレインを受けて、この意識が作り出されたものなのではないかと悩んだり、苦しんだりした…でもみんなが支えてくれたから乗り越えた、でも逆なら?それこそ誰も気にしてなかったとして…カイトの脳裏にはずっとチラついてたんじゃないかな』
「…それで?」
『世界の再誕に自分は相応しくない、と思ってると思うよ』
「相応しくない、とは…」
『取り残される道を選ぶと思う』
「…意味がよくわかりませんが…」
『最早ここからは完全な憶測、どんな科学者だろうとわからない事だけど…ネットとリアルが融合した世界を再誕させる、これは多分別の世界が出来上がると思う…ネットとリアルが交わらない完全な別の世界、過去のネットとリアルの関係性…伝わってるかな、えーっと…手元にクッキーがあるんだけど、このうちの一枚が今私たちがいる世界で、それを再誕させたら次の一枚になるんだよ』
「……その元々の一枚は?」
『食べちゃった』
「そうじゃなくて…」
『そういう事なんだよ、多分消えて無くなる…その消えて無くなる世界にカイトは取り残されようとしてる、自身も消えてしまいたいんだと思うよ』
「……そんな…」
『私で力になれることがあるならいつでも相談して、それと…司は何時でもあなたが使って良いから』
「…お借りします、一度身体をネットに宿しているなら…きっとこっちの世界でも扱えるはず…」
『じゃあね』
「はい、ありがとうございました」
…聞きたくない話だったけど、聞いてよかった、覚悟を固めなきゃいけない、これを誰かに言うことは司令官の負担になるかな…
『…ア"ア"ァ"…』
「…あなたの身体を…?」
…一考の余地があるかもしれない、でもそれはなんの解決にもならない…どうしたら良いんだろう…
旧 離島鎮守府
工作艦 明石
「ふざけないでくださいよ提督、私に何を背負わせようとしてるんですか」
「やっぱりキミにしか頼めない、お願いだ」
「冗談ですよね?これ、死ぬって事ですよね、私じゃなくて提督が」
「遅かれ早かれ死ぬんだ」
「死ぬことがわかってるなら…!尚のこと生きようとしてください!絶対にこんな話受けませんから!」
「…実は夕張にも頼んだんだ、だけどキミが動かなければダメだって」
「なんで夕張なんですか!」
「まあ、明石は怒るだろうなって思ったからかな」
「そりゃ起こりますよ…!?え、なんですか?私たちそんなに短い付き合いですか?だったらノータイムでハイハイってOKしたと思いますよ、え、なんなんですか?本当に」
「…明石、これも見てほしい」
「……健康診断書?夕張のお手製ですか…」
「認知外依存症の項目も作ってもらったよ、それとこの辺りとか」
「…数値はほぼすべて正常と呼べる範囲で…え?体重軽くないですか?なんですかこれ」
「体がデータに置き換わりすぎたんじゃないか、って言ってた、肉体じゃなくデータになったから体重に変化が出てるんだと思うって…認知外依存症が進行するか世界の融合度が上がれば元に戻るだろうとも言ってたよ」
「……嘘ですよね、何がこんなに…」
「明石、僕は君たちとの約束を忘れたりはしない、止まらない、だから手を貸して欲しい、頑張るために」
「……もう充分頑張ったじゃないですか…こんなの…」
「分かってたことだよ、死ぬのなんて…それに僕だけ生き残るなんて事はできないからね」
「………」
「これが僕の本当にやりたいことなんだ、心の底から望んでることなんだよ」
「……じゃあ、提督、一つだけ」
「何かな」
「…もし、叶うのなら……叶えられる機会が来たら…いつかデートしてください、何も他のことを考えず、他の誰も見ないで2人だけで」
「……わかったよ」
「分かってくれたなら、いいんです…約束ですからね」
「うん、約束だ」