元勇者提督   作:無し

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価値

佐世保鎮守府跡地

正規空母 瑞鶴

 

『………』

 

もうどれだけここに立ってるのかな

 

私の目には、ずっとニセモノの世界が映ってる

遅かった、死んだら間に合わない、私には傷を癒す力がある、それをもっと振るえばよかった

私がやるべきことは数の手当てに専念すべきだったのに…

 

龍田も不知火も居ない

私がここの最高戦力になってしまった…だから頑張らなきゃいけなかった…なのに…守れなかった…

 

なんで私の目の前に見えてる世界は…壊れてるの?

 

こんなニセモノの世界に私だけ取り残されて…

みんな、みんなはどこ…?ねぇ、なんでみんなが居ないの…?

 

銃声と共に体が何かに貫かれる、焼けるような痛み

 

『…ウザいのよ…』

 

思い悩み、迷いながら…生きてるのなら…

なぜ私を撃つの…?これも幻覚?

 

また何か来てる…また敵が私を殺しに…

 

銃声がなって、体が焼け…ない…?

 

「瑞鶴!」

 

……痛くない…体は痛くないのに…

心が、心だけが痛い

 

「貴方達…やりすぎたわねぇ〜…?」

 

「死ね」

 

「よくも…よくも!!」

 

ああ、帰ってきたんだ…

ごめんね、家を守れなくて…

 

「立ちなさい、瑞鶴」

 

『…加賀さん…血が…』

 

「良いから、早く立って、ここに居てはキリがないわ」

 

銃弾を受けてるのに、平気そうな顔で私を起こして…

 

「あー!もう!艤装借りればよかった!」

 

「単装砲あったから使って!」

 

「必要ありません、この程度のつまらない相手にこの不知火が遅れを取るとでも?…さっさと死ね」

 

「よし!一通り片付いたかな…被害報告!」

 

「ある訳ないじゃな〜い…ちょっと本気出しちゃったわぁ…」

 

「全員無傷…いや、加賀さんが瑞鶴を庇って被弾してます」

 

『…今、治しますから…』

 

傷を治す、この杖が私にくれた力の一つ

もっと、もっと長く隠しておきたかったけど

この戦いで何度も使い続けなくてはならなかった

 

『…治りました」

 

「……本当に治るなんて…」

 

「あ、連絡来ました、急いで退避しましょう!」

 

「加賀さん、その穴だらけの服では目立ちます、コート使ってください」

 

「ほら!瑞鶴もこれ羽織って!あと髪も適当に後ろで結ぶからね!?」

 

髪…土煙が舞う中でめちゃくちゃに傷んでるんだろうなぁ…

 

「早く!こっち!」

 

「よし!向こうの大通りに出たら民間人のフリしていくからね!」

 

「…なんで私たちがこんな目に…!」

 

涙が取らない

 

「……今は生きること!!」

 

 

 

 

長崎 下水道

駆逐艦 不知火

 

連絡が来た通り来たけど…こんなところに本当にいるのかしら…

 

「あ、北上さん」

 

「んー、まっへはよ」

 

「…なんで鼻に洗濯バサミを…?」

 

「ごめんごめん、匂いがキツくってさぁ…おぇ…」

 

確かに鼻が曲がりそうな匂いではある

 

「無理せず、と言うかなぜここに…?」

 

「ま、たまたまだよねぇ、とりあえず向こうにいるよ、全員とはいかなかったらしいけど」

 

 

 

 

「龍田、瑞鶴、不知火、陽炎、秋雲…よく無事に戻ったな」

 

「申し訳ありません、私たちが離れたせいでこのような…」

 

「…提督…なんでこんなことに…?」

 

「なんの連絡もなく急に攻撃された、という事だ…敵が陸戦に慣れていなかったこともあり、全滅は免れたが…みんな疲弊している、致命的だな」

 

「横須賀の連中、ですか…」

 

「すべて、あいつらがやったこと…捻り潰してやりたいところですがそう簡単にもいきません」

 

「逃げ場も、物資もない…終の住処がこんなところという訳にもいくものか…」

 

「待ってね、今通信してるから」

 

「……逃げる手立てが?」

 

「舞鶴とは違う、今回は簡単に逃げられるよ」

 

…舞鶴同様、飛ぶのか

 

「よし、外に出ようか、もう一波乱はあるはずだけど…加賀、いける?」

 

「鎧袖一触よ」

 

折り畳み式の弓と矢束…?

どこに隠し持って…

 

「北上さん、誘導をお願いします、私の回収は最後に…それと龍田さん、貴方も戦えるのなら少し手を貸してほしいのですけど」

 

「構いませんけど、そんな弓矢で当たるのかしら〜?」

 

「精度は落ちますが、問題ありません、そもそもこれはあくまで艦載機を召喚する道具ですから」

 

「ふーん……提督、槍、お借りしますね?」

 

「ああ、不知火、お前も行け…拳銃と弾倉だ」

 

「了解いたしました」

 

 

 

 

 

「見えますか」

 

「ええ、たっくさん居ますね〜…」

 

…あのホテルの時を思い出しますね…

 

「不知火さん、私が艦載機を飛ばしたら即座に飛び出して手前の敵を狙って、私は大回りさせて後方から仕掛けます、龍田さんはここで出口の確保を」

 

キリキリと弓を引き絞りながらそういう

 

「了解しました」

 

「は〜い」

 

「では、いきます」

 

音を立てて矢が飛び出す

矢が炎に包まれて艦載機へと姿を変える

 

「性能はイマイチですが、こういう場なら充分ですね」

 

「それはあなたの腕故ですか」

 

飛び出して兵士の頭を撃ち抜く

 

「龍田さん!後方のカバーを!」

 

「うふふふ〜、誰に手を出そうとしてるのかしら?…デリート」

 

そう言いながら一薙ぎ

槍に触れたのかどうかもわからない距離の兵士が消えた…恐ろしい能力だ

 

遠方から機銃の音が響く

 

「心配いらないわ、旧式の戦闘機でも誤射はしません」

 

「九六式ですか、なんにせよ当たるのなら問題ありません」

 

「二度も言わせないで…鎧袖一触よ」

 

「これが初代一航戦、って事かしら…」

 

「違うわ、二代目よ…南東が手薄…いや、これは罠かしら…油断せず敵を倒してから逃げるべき…いや、座標を通知して経路の確保が先か…北上さん、お願いします」

 

「わかってる、この辺激戦区だから備えときなよー…」

 

USBメモリを何かに挿して…投げ捨てた?

 

「師匠、それは?」

 

「黒い森と接続するなんたらだって、あたし機械は疎いんだよねぇ…ま、でも簡単なことならできるからさ」

 

黒い森…?

 

「さあ、援軍様はいつ来るかなぁ…と…の前に新手が来ちゃったか」

 

「アハァ…良いですねぇ、実験的に作ったテレポーター機、ジェットボートなんかよりずっと快適に遊びに来られちゃいました」

 

テレポーター…?またトンデモなものを…

あの時の綾波だとは思うけど…テレポートが出来る…ヤバそうですね、逃げるのにも苦労しますよこれは

 

「アレは…龍田さん、雑魚は私がやります、あの駆逐艦を抑えてください」

 

「勿論よ…!」

 

…私も援護射撃に回るべきですね

 

「デリートしてあげる…!」

 

「ちゃぁ〜んと、解析してきてるんですよ、その槍も…」

 

…消す力が通じないのか…?

 

「なら撃ち殺すまで…!」

 

「およおよ、危ないですねぇ…」

 

近くにいた兵士を掴んで引き寄せ、盾にする

 

「な…!」

 

「消えなさい」

 

「はいは〜い、消えるのはこの子だけです」

 

そのまま兵士が槍に貫かれ、光を放ち消滅する

 

「うわぁ…やっぱ迫力エグいですねぇ、でも私の趣味じゃあないですね」

 

「お喋りは命取りよ〜?」

 

「その槍、残念ながら効力があるのは穂先だけ…つまり柄は無害…突き以外を私に見せたら貴方の負けです…もっとも、突きでもかわして柄を掴むことは容易いですが、この身体の反応速度はかなり高い数値を叩き出してますから」

 

「…試してみましょうか」

 

場が膠着した…

碑文高いほどじゃないにしろ、この綾波は強い…という事か

 

「……ミストが出てますね、何処かの誰かがやっぱり接続してましたか、黒い森に…じゃあ、これも試しましょう」

 

そう言って腕を振るい、何かを掴むような動作を何度かする

 

「あれぇ…?どうやるんだろ…ああ、もう出てましたか、そこに」

 

「ぐっ!?」

 

「っあ…!」

 

龍田さんの脚が背後から飛んできた刀で貫かれて地面に縫い付けられる

 

「なに…痛いじゃない…うふふふ…!」

 

「おやおや、貴方周りが見えてないですね、お荷物を抱えてること、お忘れじゃないですか?」

 

「北上さん!」

 

「…ぁ…っぐ…」

 

両肩を貫かれてる…しかもあの位置、下手すれば出血が危険な域に…早く手当をしないと…

 

「おっと、動かないでくださいね?下手に動いたらお仲間にもう一本行きますよ?」

 

「…チッ…!」

 

「いやぁ…ずっと思ってたんですよねぇ……戦場にお荷物が来ちゃうと、遊ぶのが簡単だなぁって、最初からその北上があるのは見えてたんですけどね?でもそこまでいく価値もなさそうだし、と思ってたらそっちがこんなにお膳立てしてくれてるんですから!」

 

楽しそうに笑ってる…狂ってる

 

「下衆が…!」

 

「…殺す…」

 

『楽しそうな事してるね、私も混ぜてよ』

 

「…おや、これはこれは…佐世保の碑文使いですか、ずっと出てこないので死んだものと思ってましたが」

 

「…嘘…瑞鳳…?」

 

…いや、これは…

 

 

 

 

 

 

正規空母 瑞鶴

 

「………」

 

「気になるか」

 

「提督さん…まあ、そりゃね…私だって碑文使いなんだし…」

 

「……お前にとって、それは重荷か」

 

「…そりゃあ、すっごく…重いけど…持ってられなくても、これは私に縛り付けられたもの、引きずってでも進む…」

 

「そうか」

 

「……ごめん、様子気になるから見てくるね」

 

「ああ、行ってこい」

 

…さっきから聞こえてくる声が不穏だった

助けになれるなら行かなきゃ行けない

 

 

 

 

「…不味い状況…か」

 

少しでも時間を稼がなきゃいけない

 

「…イニス、私は…上手くやれる」

 

瑞鳳の幻覚を作り出す

きっと…時間は稼げる

 

『ねぇ、よくもウチの鎮守府を壊してくれたね…ちょっと、お仕置きされとこうか』

 

「…私は戦闘狂じゃないんですけどねぇ…不思議と昂ってきましたよ」

 

…よし、釣れた…今のうちに北上の救助をして、その次に綾波だ…

 

気づかれないように近づき、北上の方を抑えて刀を抜く

 

「…!!」

 

『リプス…ごめん、もう一回……リプス、よし、傷は塞がった…』

 

…暴れないのかと思ったけど、違う…本当に力が弱いんだ、私が抵抗されてもそこまで全力じゃないと思うほどに

 

「………」

 

『え?』

 

…今、なんて…?

 

「…かわしてばかりとは拍子抜けですね…」

 

『こっちの攻撃が一発でも擦れば勝ちだから、楽しまなきゃ』

 

「言ってくれますねぇ…!」

 

『じゃあ、そろそろいこうか』

 

綾波の拳が瑞鳳の幻覚をすり抜ける

 

「!!」

 

後方からの龍田の槍、そしてそれをかわされた時の保険に光の矢を放つ

 

「だから私、あなたの槍は買わせるって言ったじゃないですかぁ…」

 

「…てっきり強がりかと思ってたわ〜…」

 

光の矢を脚でガード、龍田の槍を紙一重で交わして竿を掴み、引き寄せる

 

「踏み込みが甘いせいで鋭さがなかったですねぇ、子供がやってる中当て遊びの時のようなおそ〜い突きでしたよ」

 

そう言って龍田の顔面に頭突きを喰らわせる

 

「やっぱり、自分らしいやり方が1番ですねぇ!」

 

よろけたところに顔面へのハイキック、地面に倒れた龍田の腕を踏みつける

骨の砕ける音が響く

 

「おや、叫ばないんですか?東雲さんは叫んでくれたのに」

 

「…被虐趣味もなければ、加虐趣味の相手を喜ばせる趣味もないもの…!」

 

「…わかってませんねぇ、逆に燃えるんですよ、それ」

 

そう言って横たわった龍田の腹を蹴り上げる

 

「さて、次は?」

 

全員、迂闊に仕掛けられないか…

 

「………」

 

「おや、貴方は確か宿毛湾の…ってまあ、北上を見た時点で宿毛湾が噛んでるのは知ってましたが…ここで私に矢を放てば大本営への反逆罪が貴方どころか宿毛湾の全員に適用されますが?」

 

『加賀さんダメ!貴方は関係ない!』

 

「……この一矢は、提督の意志、私たち全員の意志よ…私達は仲間を傷つけたものに、一切の容赦はない」

 

そう言って放たれた矢を軽々と砕く

 

「…随分と軽い意思で」

 

「…そうかしら?意志、と言うのには幾つかあるのよ…強く望む心を示す時は、思うじゃなくて志すと書くの、知ってるかしら」

 

「……だから?」

 

「第二射は既に放ってるわ」

 

その声と同時に真上から機銃が降り注ぐ

 

「アハッ!良いですねぇ♪」

 

側転でその場を離れてかわす

随分と遊んでいるところから、まだ余裕綽々か

 

「それと、もう一つ言っておくけれど…貴方、後ろを見る癖をつけたらどう?」

 

「後ろ?」

 

「ばびょんっ!ハァイ?初めまして、私春雨、佐世保襲撃の実行犯について詳しく聞きたい事があるんだけど…そこの所どうなんですか?」

 

綾波の後ろから出てきたと同時に首に刃を当てて拘束する

 

春雨…何処の艦娘だろう…

 

「…ああ、貴方呉の所属ですか」

 

「あれぇ?バレちった…まあ、良いけど、話さないと死ぬよん?」

 

「……随分と他の春雨とキャラが違うようですが…調子が崩れるんでやめてくれませんか?」

 

「それ、持ち味ね」

 

…掴みどころのない…

 

「…あー、もう、気分が害されました…今日は帰ります」

 

「帰れると思ってる!?この状況で!?たっはー…頭おかしい子だった…」

 

「天才は理解され難いですからね、敷波」

 

「まだ居るの…!」

 

「…何処に…!?」

 

…どこにも敷波なんて…

 

「残念、探すにはちょっと遅かったですね、北上はもらいましたよ」

 

『…居ない…そんな…』

 

「隙を見てテレポートしたってことかしら…なら尚のこと貴方は返せないわね」

 

「私を手にかけたら、北上の安全も保証できませんけどねぇ…」

 

「…何処までも腐ってる…」

 

『ド外道が…!』

 

「ま、褒め言葉も聞き飽きたので、さようなら」

 

そう言って綾波は姿を消した…

…北上は本当にああやって連れ去られたわけだ…

 

「…んー…春雨も帰りますね」

 

『…いや、アンタは何しに来たのよ」

 

「実際に何があったかを確かめに、まあ充分わかりましたので、それではごめんなら〜」

 

「……随分と活気のある子ですね、呉はニンジャのように動くよう育てるのでしょうか」

 

「そんな事よりも問題なのは北上さんよ、どう報告したら…私がついていながらこんな事になるなんて…!」

 

加賀さんの動揺っぷりから、本当に良くないことがより伝わってくる

 

「……仕方ない、一度戻らないと…アオボノさんは何を…」

 

そう言ったところにその当人がやってくる…と、まあ…

 

「待たせたわね!」

 

「遅い!貴方何やってたのかしら、貴方のせいで…!」

 

「…え、と…その、ごめん、場所が正確じゃないから何回か変なところに出て…」

 

「北上さんが攫われたわ、早く戻って報告をしないといけない、早く運んでちょうだい」

 

「……わかった、あーもう…とりあえず他の人のとこに案内して、すぐに移送するから」

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

重雷装巡洋艦 北上

 

「……へぇ、思ったより良い部屋だね」

 

肥溜めにでも投げ捨てられると思ったけど

まあ、牢屋より少し良い部屋に入れられるとは嬉しい限りだ

 

「スイートルームを用意しましたから」

 

「じゃあ欲張ってロイヤルにして欲しいんだけど」

 

「私と同室でいいならそうしますよ?」

 

うげ…

 

「じゃあいいや」

 

「あら、つれないですね」

 

「同衾相手くらい選ばないとね、サービス悪いなぁ」

 

「こっちでも選べませんよ、東雲さんと同室です」

 

…曙と、か…

なら悪くはないのかもしれない

 

「ところで、貴方は捕虜…じゃなく実験材料として連れてこられたので、その覚悟は良いですか?」

 

「……良いですかも何も、御構い無しでやるつもりのくせによく言うよ」

 

「アハッごもっともですねぇ!」

 

よく笑うバカだなぁ…

 

「あ、そうだ、あと1時間してから始めますね、東雲さんにも手伝ってもらわないと」

 

……本当に、趣味が悪い

 

 

 

 

駆逐艦 綾波

 

「はい、お連れしましたよ〜提督」

 

「……」

 

「よく来た、で?成果の方は」

 

「劣勢になったので撤退、碑文使いと、それに準ずるものが1人ずつですから、妥当なんじゃないでしょうか」

 

あの春雨は何かある、データを取るには危険すぎた

 

「なら良い、レプリカの方は」

 

「こちらに」

 

「この空間のミストは」

 

「充分、海よりも濃い濃度ですので動作に支障はありません」

 

「ならば良し、東雲、プロテクトは」

 

「解除できません」

 

「それは貴様の意思か?」

 

「いいえ」

 

やっぱり、何か別のものが絡んでるな、何かデータのようなものに乱れがある…私のチップは完璧なんだからそれしか無い

 

「とことんショックを与えるしか無いな、呼び出しには応じると思うか」

 

「人質を手に入れたので、確実に」

 

「人質?」

 

「北上を捕らえました、今私の実験室にいます」

 

「上等だな、それで釣り上げろ」

 

「勿論です、さ、東雲さん…お食事に行きましょうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

駆逐艦 東雲

 

「…食堂は向こうですが」

 

「ああ、せっかくなので部屋で食べて欲しくて、次の仕事に移るまで時短じゃ無いですか」

 

…あの悪趣味な部屋で食べるのか…

 

「あ、お待たせしました、お加減の方は?」

 

「…曙」

 

本当に北上をここに連れて来たのか

 

「さ、東雲さん、食事ですよ」

 

「…何も見当たりませんが」

 

「え?あるじゃないですか、ねぇ、北上さんには見えませんか?」

 

「……本当に悪趣味だね、アンタ」

 

「それ程でも♪」

 

…何を…?

 

「あー、もう焦ったいなぁ…リモートしちゃいますね」

 

身体が勝手に動く、北上の方に

 

「…ぇ…?」

 

頭によぎったのは…い…嫌だ…

 

「首を噛みなさい」

 

「…ぁ…」

 

私の口は大きく開いて、北上の両肩を鷲掴みにして逃げ場を無くして…

 

「……浅いですねぇ…ほら、もっと深くいきましょうよ」

 

思いっきり歯を突き立てる

 

「……ッ…ッ!」

 

血の味が口の中に広がる

 

「噛み切れるとは思ってないんで、引きちぎって良いですよ」

 

「ぁ…っあ!…」

 

ブチブチと音を立てて肉が引きちぎれる

 

血がどくどくと流れ出ている

 

「ほら、咀嚼して」

 

…酸っぱいような、肉の味…

 

「呑み込みなさい」

 

「…!」

 

否が応にも私の口内に入った肉は嚥下される

 

「貴方もなかなか鳴いてくれませんね」

 

「……この位…なんとも無いからね…」

 

「10分もすれば致死量の血が流れ出るかもしれないのに?とんだ強がりですね」

 

「ほら、もっとやってよ…それとも怖がってる?サディストの皮被った臆病者」

 

「…気が変わりました、東雲さんは脚から食べてください、私がこの人の顔を食べてあげますから」

 

……狂ってる…でも、やらなきゃ…

 

「捨てられたく無いなら」

 

ここにしか居場所は無い…

 

「…っが…!…ぅぐ……」

 

鉄の匂いが充満する

 

「そろそろ死にそうですねぇ、ぺっ…ほら、どうですか?気分は」

 

「…はは…は…」

 

なんで、この人は笑えるの…?

 

「壊れたか…回復アイテムに関しても実験が必要ですし、そっちも試そうかな」

 

「……やっと…なれる…」

 

…なれる…?

 

「提督の気持ちが漸くわかる…ああ、こんなに痛かったんだ…」

 

真っ黒に濁った目で、虚空を見つめながら呟く

 

「……なるほど、私を体良く利用したつもりですか?現実を受け入れた方が楽だと思いますけどねぇ」

 

「…痛かったね…ああ…代わってあげられない事があんなに苦しいなんて…」

 

「…元からイカれてたって事ですか、つまんないですねぇ…」

 

…狂信的だけど、狂ってるわけじゃ無い…

何かを確信した目…あの濁りきった目には何かを信じる芯がある

 

「曙…わかる?この姿を見てよ、ほら、その目で見なよ」

 

「…っ…」

 

自分の意思で動かないはずの体が…退がった…

 

「ほら、提督はアンタにやられて…こうなったんだよ…ねぇ…!」

 

まるでゾンビみたいに這い寄って…

 

「もっとよく見なよ、ちゃんとその目に焼き付けてよ、重ねてよ…自分がやった事をもっと…!」

 

「……おや?プロテクト値が非常に下がってますねぇ…これは僥倖、敷波、急いで連れてきてください」

 

私が悪いんだ…全部悪いんだ…だから捨てられる…

何処にも行けない、私はここに永遠に囚われたままなんだ…

 

「なんで怯えてんの?ねぇ、アンタは誰に助けを求めてたの?」

 

私は誰に…?

 

いきなり北上さんに液体がかけられる

 

「ぶぇっ…修復材…?」

 

「回復アイテムを模したものです、治ったようですね、本当に便利」

 

「…で?だから何なのさ」

 

「貴方にはお礼を言わないと…お陰でプロテクトを無視できそうですから」

 

「…プロテクト……?」

 

後ろから私の首が掴まれる

 

「ッ!…提督…?」

 

「東雲、よくぞプロテクトを解除した…再誕はお前にはすぎたオモチャだとは思わないか?私が使ってやろう」

 

「え…?」

 

再誕の力がなくなれば私は必要ない…?

 

「心配するな、モノには利用価値がある…捨てられたく無いなら、死ぬ気で働け…なぁ?東雲」

 

モノ…?私は…モノなの…?

 

「私に捨てられたくないのだろう、大人しく実験台となれ」

 

耳元で機械音が鳴り響く

 

「いや…いやっ!いやぁぁぁぁ!!」

 

脳が蝕まれるような感覚…

身体中が焼けるような…何もかもを抜き取られるような…

 

「ああぁぁぁぁぁ!!」

 

「…ほう…コレが…素晴らしいな」

 

…私は、私の価値が…失われた…?

私はもう必要ない……

 

「おい、綾波…データを出せ」

 

「はい,用意できています」

 

「……成る程、これがセグメントか…東雲、貴様が持っていたのならなぜ報告しなかった」

 

…声が出ない…全身が焼けるように痛い…痙攣が止まらない…

 

「…ダメですね、暫く応答しませんよ、それと私のチップにも異常が見られました、このセグメントが意識を乗っ取っていたとおもわれます」

 

「回収の手段は」

 

「この試作データドレインではダメ…というより、セグメント自体のガードが硬すぎるんですよ、ガードが崩れたら十分抜き取れます」

 

「どうすればいい」

 

「…まあ、結合部ほど弱いっていうじゃないですか、残りのセグメントを東雲さんに集めてまとめて奪いましょうか」

 

「成る程な、それでいいとしよう…東雲、まだ貴様を使ってやる」

 

…使う…使われる…モノ…私は……モノ…

 

「所詮貴様は裏切り者、何処へも行くことなどできんのだからな、ククク、全く傑作だ」

 

そうだ、私は…裏切り者で…

 

「違う!曙は…ぅぐ…!」

 

「余計な事を言うのはやめてもらいましょうか…ほら、自分のお肉ですよ〜」

 

…もう、寒くて冷たいのは嫌…

 

「ついでに両手も杭で打ちつけちゃいましょう、ほら、カーンカーンカーンっと」

 

死にたくない…孤独なのも嫌…

それなら…物でもいい…

 

「…お願いします…私を使ってください…」

 

「ほう、綾波、これは最良の結果だ、約束通り東雲はお前にやろう」

 

「ありがとうございます、いやぁ…アハッ…嬉しいですねぇ、いきなりオモチャがふたつも増えちゃった」

 

「存分に楽しめ、だが私は先に試す事がある…東雲、一度死ね」

 

…一度、死ぬ…

もう何度も死んだのに…

 

また首を掴まれ、持ち上げられる

 

「今から貴様の首をへし折る、構わんな?」

 

「…はい…」

 

もう何度目かもわからない再誕の感覚に…私は全てが砕けるような錯覚に陥った

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