元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
重雷装巡洋艦 北上
「…やっと解放された…」
佐世保の連中は私に瑞鳳の記憶があるとわかるや否や連れ去り、尋問もとい可愛がりの連続…まあ、悪い方じゃないだけマシだよ、特に酷かったのは千代田と不知火だけど…
千代田は瑞鳳とわりと仲が良かったこともあり、いろいろな思い出話に花を咲かせようとしてマシンガントークで私をK.O.
不知火は瑞鳳に割と高圧的な態度を取ってた時期を気にして小さくなってた
龍田は私に今後の事とかを詳しく聞いてきたし、自分の実力についてとか、仲間想いな一面をよく見せてくれた
短期間とは言え唯一の碑文使いとして瑞鳳は佐世保を守り抜いた、そういう意味では私も、どこか誇らしい気分になった、多分記憶の影響
「よう、お疲れさんだな」
「おっすー呉の」
「青い奴といいよくその言い方するけど統一しねぇか?」
「何で呼ばれたいのさ、ハセヲとか?」
「三崎って選択肢はないんだな」
「……正直…なんだろ…あたしらの名前ってさ、本当に記号な訳じゃん…そう言う意味だと羨ましいなって」
「…そのニマニマ顔がなければ真面目に取り合うんだけどな」
「実際そうでしょ?北上なんてこの世にありふれたんだからさ」
「三崎も結構いるぞ」
「……でも、三崎亮はそんなに居ないだろうし、居ても全員が別々の人間」
「お前らも別々の艦娘だろ」
「…提督みたいなこと言うね、よく似てるって言われない?」
「カイトと?正反対だろ…」
「まあね」
「………」
「あたしを悲劇のヒロインだと思ってる?だとしたら大間違いだよ」
「…そうなのか?」
「あたし達は1人で生きていけない、特にあたしなんか見た通りじゃん…だからみんな支え合ってる」
「俺はカイトがいなくなったら完全に瓦解すると思ってた、お前らは常にみんなでカイトに引っ張られてるか、カイトをみんなで引っ張るかだと思ってたぜ」
「…間違ってないけどね」
「いや、間違ってたと思う、お前らはカイトがいなくてもやっていけてる」
「居なくなって何か…あれ…?待てよ…」
居なくなってない…としたら?
明石の狙いって何?何で島風を選んだの?朧の考えは?
「………」
「おい、どうした?」
直接確認しないとわからないけど…いや、まずは…だとしたら時間が足りなさすぎる…
「…おい、顔色が悪いぞ」
「時間が全く足りない…仮説に過ぎないけど明石はそれを信じたの…?」
「何かあるのか…?」
「…多分ね…!何で今気づくかなぁ…本当に手遅れじゃん…!!」
軽巡洋艦 天龍
「良かったです、本当によかった、木曾さんだけでも魔の手から救い出せて」
「ああ…アレはやばい…クソッ…!あんなヤバいもん…一体誰が…!?」
ことの発端は数分前、偶々私は球磨型の4人を見かけたのだが、その手に持ってるモノは…一瞬で私を凍らせるには充分すぎる破壊力だった
「…クソ、姉貴たちはもうラリってやがる…完全に目がイカれてやがった…」
「私の予報ではAIDAのせいだと思います…北上さんからお話は伺ってますので……」
「多分俺もそう思う、いくらAIDAが燃費悪いからって…アレはねぇだろ!なんだよ海鮮パフェ丼って!」
「潮さんと朧さんのコラボメニューです…!アレを完食するような人が現れるなんて…!」
そう、木曾さんは大井さん達に食わず嫌いを治すべきだと無理矢理食べさせられそうになっていた…あの酢飯の上にチョコソースとお造りをまばらに乗せて高々とホイップクリームの山を聳え立たせ、さらにその上からお造りをこれでもかと乗せた…
「アレは流石に積載量オーバーだ…!」
「それ以前にアレは一口で味覚が大破します…大破進撃を敢行するなんてありえません…!」
「本当にヤバかった…殺されるかと思ったぜ…いや、天龍助かったよ」
「私もアレのヤバさは身に染みてますので…あはは…」
オーバーなリアクションかと思うほどだけど…アレは死んじゃうから仕方ない…
「はぁ…ホントに助かった、そうだ、こんなもんで悪いけど…ほら、これやるよ」
「…これは…良いんですか?」
「ああ、改二になった時の付属品みたいなもんだけど…まあ、やるよ、使うだろ?」
「ぜひ頂きます…あ、成る程…矢張り軽巡ならこの…」
「馬鹿!俺は雷巡だって!」
「…あ、すいません私の話です」
正規空母 赤城
「賑やかですねぇ、100人くらいいますよ」
「そうね、とても珍しい光景です」
「……ところで例のブツは」
「ええ、準備できています…今回は翔鶴からGOサインが出たのでつい張り切ってしまいました…」
加賀さんが開けた鍋は真っ赤にグラグラと煮立っていて…
「おお…!これが今回の正規空母専用料理…」
「最後の晩餐のつもりでと言われましたので、溶けるだけ放り込みました」
「うーん…でも、流石にこれは暴力的では?」
かき混ぜたスプーンにドロリと液体がつく
「とろみも強いし、これほどに辛くては戦いに影響が出るかも」
「ではいりませんか?」
「いりますよ、頂きま…」
「居た!加賀さん!」
おや、この子が件の瑞鶴さんですか
「アナタ鼻水と涙が酷いわよ、ほらハンカチ」
「あ、ごめんなさい……グズッ…花粉症かなぁ…」
「それでどうしたの?瑞鶴」
「加賀さんが特製料理を振る舞うって聞いて、ぜひ食べたいなって思ったの、良ければ私にも食べさせて!」
「えっ」
「…アナタ誰に聞いたの?」
「翔鶴姉ぇだけど…?」
……ああ、悪い人ですね、翔鶴さん…
加賀さんは素直ですから翔鶴さんの悪戯心に気づかないでしょうが…
「それなら構わないわ、今装うから…といっても今日は簡単に炊き合わせにしたから、人様に出すには少々恥ずかしいのだけれど…」
「わぁ…真っ赤ね、トマトかしら…と言うか何で態々こんなところで…?」
…知らないってかわいそうですね…あ、辛い…!
「赤城さん、どうかしら」
「最高です…!久々にこんなに強烈なのを食べましたが…これはみなぎりますね…」
「良かったわ、私もこれを食べて明日に備えないと」
「…2人の活力の源か…!よーし!頂きます!」
あ、一気にそんなに…
「あつっ!…水水…あへ…みぶをほんばのに…」
唐辛子系統の辛味は油分ですからね、水は逆効果なんですけど…
「からっ!からぁぁぁ!?」
「…やはり貴方には辛過ぎたようね…んむ……良い出来ですね」
「本当に美味しくできてますね…瑞鶴さん、大丈夫ですか?多分牛乳とかもらってると思いますけど…」
「ぎゅ、ぎゅうにゅう…?来る前に飲んじゃった…」
あら…
「……翔鶴に念のためにと渡されていたけど、アナタのためだったのね、ほら、牛乳よ」
「あ、あひがと!……ぷはっ!…はぁ…舌も痛いけど…何より食道の形がはっきりわかるくらいに痛い…!何でこれを食べられるの…!?」
「ふふふ、私達は辛いものじゃないと満足できない身体になってますからね…」
「…いつその話をしても、辛くなりますね」
「……ああ、翔鶴姉ぇに大体は聞いたけど…うーん…同じ生活してもとても無理よ…!」
「あぐあぐ…」
「あら、赤城さん当たりですね、ジョロキアですよ」
「……一航戦怖い…!」
「ごくん…ふぅ…多分いろんな人がたくさん料理を作ってますし、向こうで食べられるものを食べてきては?水菓子も恐らくありますし…」
「阿武隈さんがこの前水饅頭の作り方を北上さんに教わってました、なので恐らく使ってると思います」
水饅頭…多彩ですねぇ…北上さん
「ごちそうさまでした」
「本当に美味しかったです、ごちそうさまでした」
「え!?2人ともお椀一杯で食べ終わるの…?」
「私たちが辛いものを食べるのは胃に満足感を錯覚させるためですから、これで充分なんです」
「戦闘中に胃の内容物を消化なんてしてたら体の動きが悪くなりますからね」
「そのストイックさが強さの秘訣…?ちょっと待っててください!」
「え?何をするつもりなのでしょう」
「…多分犠牲者が増えますね」
「私の後輩で葛城です!」
「…あの…よろしくお願いします…瑞鶴先輩…ここ凄い空気なんですけど…目が…」
「…瑞鶴、無理強いは良くないわよ」
「そうですよ、私達はこれを楽しんで食べてるだけなので…それに自分にできない事を他人に強要するような真似は…」
「む!瑞鶴先輩に無理なことなんてありません!」
…これは厄介な子ですね
「私ももう一度挑戦するので、2人前装ってください!」
「…牛乳はもうないわよ」
「ちゃんと持ってきました!」
…つまり失敗前提、と
「え、や、鍋の蓋が空いた瞬間…これは……!」
「ほら、葛城、これが一航戦の強さの秘密よ…!私達もこれを食べて決戦に臨むわよ!」
「…あ、えっと…あはは…」
「返事!」
「は、はいぃぃ!!」
さっきあんなこと言ってましたし、助け舟は…まあなくても良いでしょう
「加賀さん、これを入れましょう」
「……ハチミツ入りヨーグルトですか、まあ…このくらいなら美味しく食べられるはずです」
さっきより赤いシチューのような質感になりましたね
「よし!頂きます!」
「…うえぇ…い、いただきまぁす……」
瑞鶴さんは威勢がいいですね…
「…辛い!けどさっきより全然大丈夫なような…」
「多分この卵を落とせばもっと食べやすいですよ」
「あ、ありがとうございます、赤城先輩!」
「先輩ですか、照れますね…」
葛城さんも卵を入れれば何とか食べられるみたいですね
「このくらいなら…ふふ…でも、これが強さの秘訣って、一航戦のお二人は随分と特殊な訓練をされてるんですね?」
「訓練じゃないわ、これは飢えを凌ぐ為に続けていくうちにそういう嗜好になっただけだから」
「…へー…」
「葛城、これ食べてみて」
…瑞鶴さん、それはさっき貴方が食べきれなかった…
「え、あ、はい…あむ………ああああぃぁぁぁぁいやぁぁぁ!!」
「あんまり不躾な態度を取らないこと」
「ふふ…瑞鶴も言うようになったわね」
「へへ…私も先輩ですから」
…悪戯っぽい笑みは翔鶴さんによく似てますね
「ひぇんはい!はらい!はらい!」
「水よ」
訂正します、性格からよく似てますね
「びゃぁぁぁぁ!!」
「はい牛乳」
「んぐ…んぐ…ぷはっ!酷いじゃないですか!辛過ぎて頭がおかしくなりそうでした!」
「ふふっ、さっき私も経験したから良いじゃない、お揃いよお揃い」
「え、あー…うーん…」
手慣れてますねぇ…
「んー…相変わらずの匂いですね」
「おや、翔鶴さん」
いろんなお皿を…カルボナーラにガトーショコラに海鮮パフェ丼に…
朧さんも帰ってるようですね
「翔鶴姉ぇ!ちょっと酷くない!?よくも騙したな!」
「ふふ、でも楽しかったでしょ?」
「…まあね!ありがと!」
良い姉妹になりましたね…
「あ、海鮮パフェ丼、食べます?」
「カイセンパフェ…?」
「ドンブリ…?」
瑞鶴さんと葛城さんが首を捻り顔を見合わせる
「この真っ黒焦げの卵焼きでも良いですよ?北上さんのやつなんですけど…」
ガトーショコラに見えたそれは卵焼きだったんですね
「あ、それ私食べます、北上さんが瑞鳳の記憶を受け継いでるって言うから無理を言って頼んだんです」
…さらっとえげつない事を…
今の北上さんが料理なんてできるわけがないと思いますけど…
「じゃあ私は丼の方を……」
…あの子もチャレンジャーですね、知らないと言うのは、悲しいものです
「……何で生クリームとお刺身が混在して…あれ?あはは…」
「…じゃりじゃりするし苦いし…くっ…やっぱ瑞鳳の卵焼きって美味しかったのね…」
私達とは別の意味で食にチャレンジャーな子達ですね
「ご飯と生クリームとお刺身が変な…うぷっ…」
「葛城!葛城ィィィ!」
「衛生兵は居ませんかー!」
大惨事になりつつありますね…
「さて、艤装の整備でもしてきましょう」
「そうですね、翔鶴さん、責任は自分でとってくださいね」
「はーい!あ、このカルボナーラ絶品ですねぇ♪」
…1人だけあたりを食べてるところが抜かりないと言うか…
駆逐艦 朧
「…よし、美味しくできたよ」
「こっちも炊き上がったわ」
「海鮮パフェ丼もう売り切れちゃったよ」
「え?ウッシーオ、アレを誰が買っていったんdie?」
「もともとあんまり食べる人がいないと思って6つだけ用意したんだけど、翔鶴さんと弥生さんが一つずつ、後は大井さんが姉妹分って持って行っちゃった」
「…つまり私の海鮮がない…?」
とうとうカニさんを食べる時が来た…?
「ボーロ、そんな絶望顔しないで…つーか……ぼのたん、なんか…口直しを…」
「カレー多めに作っておけば問題ないわよ…多分」
「今日のは特に美味しそうだね!」
「7駆カレー、最高の出来でごぜーますよ!っかし…なぜ北上様もいきなりカレーを作れなんて…」
「むしろ海軍なんだから当然なんじゃない?ほら、早く配る用意して」
「あれ?ぼのたん!ご飯が!ご飯が!」
「え、嘘、さっき見た時普通だったけど何かダメ?」
「美味しそー!」
「…殺すぞクソピンク」
「元気いいなぁ…」
「ほらほら!装うよー!」
…この楽しい時間があと24時間のうちに崩れるのか…
私は、充分な用意をした、だから…
「……」
あとは信じるだけ、みんなを
駆逐艦 曙
「…お腹減った…結局移動費が足りなくて5駅くらい歩きだし…お昼にはついてるはずなのに…喉も渇いたし…!」
まあそもそも態々獣道を通る事を選んでる時点で疲れるのはわかりきってる
見つかればタコ殴りにされて当たり前なのだから、今は見つかるわけにはいかない
「…っと思った矢先に…」
「随分とやつれてますね」
「明石さんほどではありませんよ、何でこんなところに?」
「ちょっと野暮用で、島風ちゃんと走り回ってました」
…あのスピードお化けとランニングとは、昨今の工作艦はフィジカルがモノを言うのだろう
「それで?」
「あー…私ですか、私は…宿毛湾泊地に野暮用が」
「聞いてます、じゃあ行きましょうか」
「え、ちょっと何で襟を掴むんですか、伸びちゃう伸びちゃう」
「堂々と表から入りましょうか、せいぜいリンチされる位ですよ」
…わかってて連れて行くのかこのピンク頭は…いや、当然か、提督を殺したのは私だし、明石さんの恋心はよく知ってる
「…心配しなくても、そうはさせませんから」
「……え?」
「あなたへの怒りは微塵もないとは言い切れませんが…私には古い友人と再会できた喜びの方が大きいんです」
…意外だった、リンチの挙句にトドメを刺してくるなら明石かなとすら思ってたのに
「それに腕輪が完成したのはあなたのおかげ、それの恩もあるし…どうせ私のやる事、知ってますよね?」
「まあ、大体は…そして明石さんなりのアレンジも予想できます」
「なら上等じゃ無いですか、私が何したいかまで知ってて、止めないんですから」
…なるほど、私に動くな、と言うことか
「わかりました、私にも不利益はありませんし動きませんよ」
「それは重畳…じゃあ…って、セグメント…どこ行ったんですか?」
「私も隠し事の二つや三つありますよ」
「…お互い出し抜きあいですか、まあ良いや…ゲートハッキング」
「……レプリカの腕輪でそんなことが…」
「走り回った価値、あるでしょ?」
…成る程、ようやく完全に理解できた…
これは苦しいかな、少し…胸が苦しい
「さて、行きますか」
「はい」
宿毛湾泊地
「…随分と賑やかですね」
いろんなところから湯気が立ち上って、それぞれの香りがする
「決起集会、と言うことになってます、帰る場所を失った人も大勢いる…」
舞鶴に関して…完全に私も実行犯として…
「どうします?」
「償いはしますよ、来世にでも」
「それなら挨拶は要りませんね」
「私は挨拶したいけど」
…気配がなかった…
「どうも、弥生さん」
「私たちの帰る場所を壊してくれた件について…ゆっくり話がしたい」
「私1人に責任を負えと?」
「生き残りが1人なんだから仕方ないと思う」
「………」
「あー、悪いんですけどそう言うの後にしてくれません?戦いが終わったら好きなだけどうぞ」
「…でも…」
「でももだってもなし、第一その時の曙さんは洗脳されてたし、その曙さんを操ってた元凶とはもうすぐ戦える、なのに曙さんを責めるんですか?」
「……」
「納得していただけたなら結構、まあ、思うところはあるでしょうけど今は目の前の敵に集中してください」
明石、こんなキャラだっけ…
「さ、行きますよ…あなたがリンチされるべき相手は他にいるでしょ?」
「……結局されることには変わらないんですね」
…カレーの良い匂い、よく慣れ親しんだ匂いとは少し違うけど、美味しそうな…優しい匂い、あったかくて、刺激的で、なのに少し甘い…
「あ、明石さん…と……漸く…帰ってきたんだね…ボーノ」
漣が気づくなり机を飛び越えて近寄ってくる
強烈なビンタが大きな音を立てる
「心配かけないでよ!みんなどれだけ心配したと思ってんの!?ご主人様が行かせたのも間違いだったけど…なによりボーノは自分の事考えなさすぎ!その挙句みんなボロボロにして…!」
顔をくしゃくしゃにして…見てらんないわね…
「何の騒ぎ…?あ、曙ちゃんだ、おかえり」
「軽いわねぇ…潮は…さて、立ちなさい曙、そしてこっちに来なさい、そこじゃ目立ちすぎるから」
曙に物陰に連れ込まれる
朧と漣、潮までついてきた
「さて、まあ…まずは色々あるけどね、特に問題なのは…アンタがカイトを殺したこと…致命傷だったのかはわからない、結果的には認知外依存症のせいで消滅したけど、アンタはカイトを刺したの」
私の罪の一つ
「ボーノ、ボーロや漣を連れ去ろうとしたのは…ボーノの意思なのか、それだけハッキリさせましょう」
「曙ちゃん、みんなを攻撃したのは、曙ちゃんの意思じゃないんだよね?」
「………」
断頭台にかけられた気分とは、こう言うモノか…
今更嘘の一つもつくつもりは無い、今更嫌われることを…避けられない
「朧と漣を連れて行こうとした時、その時はまだ私の意思ではなかった…だけど、ゴレの時、あの時は…私の意思」
「……だと思ったわ」
「私は私の意思で殺した、攻撃した、傷つけた…」
「…最低だね」
「はぁ……」
自分から捨てた居場所に帰ろう、と言うのは…やはり考えが甘すぎた…と言う事らしい
「っ!」
漣に抱き寄せられる
「お疲れ、ボーノ、1人でスパイしようとしてたのも知ってるし、1人で苦しんでたのもわかってるから」
潮の手が髪を撫でる
「無罪放免じゃないと思う、けど…守ってあげるから」
曙が背中を叩く
「シャンとしなさいよ、アンタらしくもない」
朧が顔を持ち上げる
「…大丈夫だよ、おかえり…曙」
…私は、本当にここに帰ってこれたんだ…
「……ただいま、みんな…」
ひとしきり、みんなで泣いて、笑って…最後の生を謳歌する、思いっきり今の時間を生きるんだ…それが私の役目で、私の望みで、私が生きる意味だから
「うわ、島風も戻ってたのね」
「えー、なんですか、私が戻ってちゃダメなんですか」
「…随分とキャラ変わりましたよね…」
「いつか、リベンジしますからね!」
カレーのスプーンを私に向け、島風が笑う
どうやら島風は私の事を深く恨んでるわけじゃない様子だった…舞鶴に行って日が浅いのが理由…?
「明石も来る?せっかくだしみんなで食べた方が美味しいわ」
「じゃあ是非、一緒に食べさせてください」
1人いないけど、みんないる
あの時より多いのに、あの時の人が足りない…
そう、これは…最後の戦いの為の誓い
「いただきます」
「今日のは自信作!と言ってもシンプルなやつだけどね」
「ありったけの素材をぶち込んだんだから不味いわけがないわよ」
「おっいしー!」
「ホントだ、美味しいですねこれ…」
カレーを口に運ぶ
少し甘いかな…
「口に合わなかった?」
朧が心配そうに覗き込んだから、ついすぐに飲み込んでしまった
「丁度いいわ、美味しい」
「よっしゃ!ボーノから美味しいって言われたら大丈夫!」
「少し甘いくらいだけどコレならみんな食べやすくていいでしょ?」
本当に、美味しい…だけど、一味足りない
後一味だけ足りないのに…今はどうしても手が届かない
「…曙、大丈夫だよ」
「わかってる、私もわかってるから」
…早く、戦いの刻が来るのを心待ちにしてしまう
私たちの揺るぎない勝利を、心待ちにしてる…
「夕暮れ竜の加護があらん事を」