元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
駆逐艦 朧
朧(…納得できない、なんでアイツが私たちの仲間になんかなれるの…?認められない、理解できない信じられない…)
泊地に着いたのは深夜だったこともあり、私は眠れない夜を過ごす事になった
本当は違うはずだった、褒めて欲しい、認めて欲しい…
もっと別の話をするはずだった、私は覚えてる事、それらまとめていろんな話をしたかった…なのに…
気づけば私はベッドを抜け出し、廊下を1人で歩いていた
まだ灯のついた部屋の前で止まり、ノックもなしにドアを開く
綾波「…い、いい、いらっしゃると…思ってました…」
朧「…そう、なんで?」
綾波「……あ、貴方だけ…反応が違う…わた、しの…私の事…覚えてますよね…」
朧「うん、よーく覚えてる、少し顔貸して欲しいかな」
綾波「わかっ…わかりました…」
警戒を怠らない
何かあれば即座に殺してやる、それくらいの気持ちで…
食堂
朧「ほら、お茶」
綾波「い、いただきます…」
朧「……怯えてる割には、警戒心なく飲むんだね」
綾波「ぱ、パニック障害と…吃音症を患ってるんです…そ、その…昔から…」
朧「……それで?」
綾波「お、おびえてみえると思いますけど…私は、運命を理解してる…私は、血に濡れた…ざ、罪人ですから、幸せになろうなんて…おもっ…思ってませんから…」
朧「…たとえ毒が入ってても、飲んだ?」
綾波「…はい」
朧「なんで」
綾波「つ、償い…」
朧「…償い…?アンタがそんなこと考えるなんて思ってなかったな…」
綾波「…そ、そう思われても仕方ないと、思います…あ、あの…」
朧「何?」
綾波「…すぅ…はぁ……ごめんなさい…!」
朧「……謝らないで、私の心を晴らそうとしないで、貴方と仲良くなるつもりはないから」
綾波「そ、それでも…許されるつもりな、なんて、無いんです…私、私は…殺されて当然だから…」
朧「……悲しい事に、北上さんは何も覚えてないんだよね、なんとなくわかる、北上さんは何も覚えてないし、さざなみも覚えてない、曙も…青い方だし、前の世界の記憶を持ってるのは…あたし1人」
綾波「だ、だから…わた、わたしは貴方に…」
朧「それで済ませると思わないで」
綾波「………」
朧「徹底的に、苦しめて…同じ気持ちにさせるから」
綾波「…あ、アハ…」
朧「……笑わないでよ、気持ち悪い…」
綾波「ご、ごめんなさい…う、う、うれしくって…」
朧「…嬉しい……?」
綾波「よ、ようやく…ようやく、償える…私の罪…やっと…!」
朧「……あたしは、アンタのためにやるんじゃないんだよ」
綾波「わ、わか、てます…!だけ、だけど…私…」
朧「…時計の針は戻らない…綾波、何人殺したの」
綾波「………か、数え、切れません…数えることも…できません…い、命は、数じゃないから…」
朧「綾波がそれを言えるんだ」
綾波「い、いい…え…私に、言う権利は、あ…ありません…」
朧「……まともな倫理観がつきました、とか…そういうの要らないよ、そんなに償いがしたいならさっさと死ねば良い…」
海斗「朧、それは違うんじゃないかな」
朧「…提督…いつから?」
綾波「かひゅ…!…ひゅっ…」
海斗「わ、ご、ごめん…!僕が来ちゃ不味かったか…!」
綾波「だ…ひゅっ……ひっ…だいじょ…ぶ…です…!」
朧「提督、いつから居たんですか」
海斗「えっと…数え切れないって所から」
朧「じゃあ、わかりますよね…こいつは何人も殺してる…いや、何十人、何百人かもしれない…そんな悪人なんですよ…!」
海斗「僕の顔を見ただけで呼吸困難を起こしてるのに…綾波に本当に人が殺せるのかな?」
朧「それは…」
朧(前の世界の記憶がないなら…私は綾波のやったことを証明できない…綾波のやったことを私が責めても…周りからすればただの弱い物いじめ…か)
海斗「…綾波」
綾波「ひゅ…ぁ…い」
海斗「キミと朧に何があったのか、僕はわからないし、キミがどれだけの命を奪ったのかも知らないけど…君はこれから沢山の命を守る立場にあるんだ、たくさんの命を奪ったのなら…誰よりも、それ以上に救えば良い…と思うんだけど、どうかな?」
綾波「ひゅ…ひゅご…おぇ…ぇ…」
朧「は、吐いた…」
海斗「わ、だ、大丈夫!?」
綾波「や、優しく…おぇ…しし、しないで…許容量が…」
朧「許容量て…え、何、優しくされたら吐くの…?」
綾波「…うぇ…は、ははい…わたっ…私なんかに…そんな、ぶ、分不相応な…」
朧(…って事は…つまり…)
朧「よしよし、背中さすってあげるね」
綾波「おえぇぇ…!!」
海斗「お、朧…?」
朧「なんですか?提督、私は綾波さんを介抱してあげてるだけじゃ無いですか」
綾波「おえっ!おぇぇぇ…!や、やめ…!」
海斗「…優しくされてダメージを受けてる…すごい光景だ…」
北上「ねぇ〜?こんな時間に騒がしくしないでよ…って、イエスマン帰ってたんだ…うわ、何この大惨事…臭いし…」
綾波「ごめ、ごめんなさ…う…!」
海斗「あ、あの子は綾波って言うんだけど、知らない人がダメなんだ、騒がしくしてごめん北上、部屋に戻っててくれる?僕が片付けておくからさ」
北上「……ならいいか…頼むよ?本当にさ…くぁぁ…」
朧(…北上さん…)
海斗「綾波、ずいぶん汚れちゃってるし一度シャワーを浴びてからもう一度ゆっくり寝て、また明日みんなに紹介するから…総員起こしには間に合わなくて良いから」
綾波「い、いえ…ひゅ…ぁ…ま、間に合わせ…ます…から…!」
そう言って綾波は駆け足で食堂を出て行った
朧「…はぁ…逃げられちゃった」
海斗「…朧、君の行動はとても褒められた物じゃないよ」
朧「何処がですか?誰が見ても私はただ介抱してただけ」
海斗「…そう言う意味じゃない」
朧「………」
朧(知らないって事は…凄く、残酷だ)
朧「…ところで、提督はこんな時間まで何を?」
海斗「報告書を送って、綾波と敷波についての資料を読んでた…あの2人にも辛い事情があるんだ、できれば…」
朧「大丈夫です、優しく、してあげますから」
海斗「……そう、なら今日はもう休んで、キミも怪我をしてるはずだ」
朧「衝撃はありましたし、ダメージもありましたが傷はありません、艤装は今修理してくれてるんですよね?」
海斗「…明日には治る、らしいよ」
朧「そうですか、失礼します」
執務室
駆逐艦 綾波
海斗「…起きてこなくても良い、って言ったのに…」
綾波「さ、さ昨夜は…ごめい…わくを、おかけしました…」
敷波「………」
総員起こしのラッパの後、すぐに身だしなみを整え、敷波と2人で執務室の前に行ったら丁度出会ってしまった
海斗「…大丈夫?息苦しい…よね?もう休んでても良いよ」
綾波「あ、あの…あの!」
海斗「……君達のことは、資料で読ませてもらったよ、その…僕には軽はずみに言葉をかけることは出来ないし…君達のことは…」
綾波「そ、う…じゃなくて…」
敷波「…綾姉ぇ…やめよう、やめた方がいいよ」
綾波(…隠し通せ、って言われてるのはわかってる…だけど、私はこの咎を背負って生きるなら…できるだけ嫌われて、殺されたい…私は、なんでこの記憶を…)
綾波「わ…わた、私は…じん、人体実験を…」
海斗「…大丈夫だよ、綾波」
綾波「え…?」
海斗「君たちの罪は問われるものじゃない、正当防衛だからね」
綾波(…違う、そっちの話じゃない…)
敷波「…なんでその事を…」
海斗「君たちについての資料に記載があった…と言うか、さっきそれについて触れたつもりだったんだけど…」
綾波「……あの…その…」
海斗「あ、ごめんね、そろそろみんなに仕事を割り振らなきゃ」
敷波「……綾姉ぇ…」
綾波「…敷ちゃん…わ、わた…し…」
敷波「綾姉ぇは…もう苦しんだんだよ、だからもう良いんだよ…」
綾波「ダメ…ダメなの…あの時、私の中に急に…き、きき…記憶…人を…何人も殺して…」
敷波「それは綾姉ぇじゃない、別の誰かの記憶を持ってしまっただけなんだよ…」
綾波(違う、あの悦楽を、あの快感を、狂気を…全て私は憶えている、肌が感じてしまっている…そしてそれが怖くて、恐ろしくて…不安で、死んでしまいそうになる…)
提督 倉持海斗
海斗「全体に通達する点は2点、今日は全員の砲撃のスキルを確認します、それから昨日の朧達の活躍により、正式に君達艦娘の運用が決まり、他の軍事施設にも艦娘が導入される事になりました…君たちのおかげだよ、これで平和な海へと一歩近づいた…って感じだね」
北上「ねぇ、そのスキルチェックってさぁ…終わったら好きにしてていいわけ?」
海斗「構わないよ、まだまだ仕事は少ない、でも北上にも近いうちに出撃してもらう事になる」
北上「ダル…まあいいや、じゃあ順番はあたしが1番ね、100点で通るからさ」
演習場
北上「んー、あの的潰せばいいの?」
海斗「そうだよ、あの的に当ててくれれば良い、それは演習用のペイント弾だから当たったら破裂してすぐにわかる」
大体距離は200メートル先にある直径3メートルの的…この距離なら十分見える
北上「…弾数は10かぁ…これ外す前提で10発な訳?」
海斗「全部撃って、それでどのくらい正確に当てられたかを測る事になってるから」
北上「……ま、なんでもいいや」
そう言って北上は砲を放ち、装填して放つ
北上「みえるー?ほら」
海斗「…全弾がほとんど同じところに当たってるね、すごい精度だ」
北上「100点でしょ、あたし天才だからさ?…ま、それじゃあたしは適当にしてるから」
ペイントは一箇所に集中してる…これは全ての砲弾が大体同じルートを通ってる証拠だ
青葉「…北上さんは、凄いですね…」
海斗「次は青葉?」
青葉「いえ、その…私は最後なので…」
海斗「…じゃあどうしてここに?」
青葉「……司令官とお話がしてみたくて…」
海斗「僕と?構わないけど」
青葉「……その…司令官は、私の事は…ご存知ですか?」
海斗「…資料で読める範囲ならね」
青葉「…私との会話は…私が撮った写真は…憶えてないんですか…?」
海斗「君とは、この泊地で初めて会ったと思うけど…」
青葉「…そう…ですか…なら、今から…また私を知ってください」
海斗「うん、そのつもりだよ」
青葉「……私は、憶えてますから…」
敷波「…アタシもやらなきゃダメ?この通り背もたれ無しでまともに座ってるのも難しいんだよ」
海斗「…僕が支えてて構わないなら、支えておく…一応、君たちが艦娘という職業である以上…最低限のことはやってもらえないと僕もクビになるからね…」
敷波「…本当にイエスマンじゃん」
海斗「そう言うつもりはないんだけど…」
敷波「はいはい、足の付け根から先がない女の子に無茶させるのが趣味の男の言いなりになりますよ」
海斗「…ごめんね、お願い」
敷波「……そりゃっ!」
的外れな方向に砲弾が飛んでいく
海斗「…よし、十分だよ」
敷波「一回で良いの?」
海斗「うん、まあ…無茶させるわけにはいかないしね…次は綾波か…」
敷波「…綾姉ぇの事…」
海斗「うん?」
敷波「…ホントにありがとう…綾姉ぇは…私の事をずっと守ってくれてたんだ、綾姉ぇがああなったのは、アタシのせい…」
海斗「敷波、キミも綾波も…何も悪い事をしてないじゃないか」
敷波「…綾姉ぇは人殺しで、アタシは…殺すまでいかなくても…何回も何回も人を傷つけてる…いや、アタシも殺してるのかな」
海斗「……」
敷波「…資料で読んでるって言ってたけど…アタシ達は、薄っぺらな紙一枚で語れるような人生は生きてない…2枚は必要」
海斗「それは、キミの話を聞かせてくれる…って事?」
敷波「…アタシ達は艦娘になる前から姉妹だった、ずっと、ずっと前から姉妹だった…元々の名前に綾と敷が入ってたからさ…ずっと綾姉ぇ敷ちゃんって……」
海斗「不思議な偶然だね」
敷波「…アタシ、小さい頃に攫われてさ、逃げられないように脚に釘打たれたの、まあ…いろんな目にあったんだけど、2日くらいした後…綾姉ぇが助けに来た…警察なんかよりも早くね…攫った奴らは綾姉ぇを子供だからって油断してた…だから綾姉ぇは…そいつらを殺せた、だから銃を奪って殺しちゃった」
海斗「…キミはそれをみてた…」
敷波「うん…まあ…なんだろ…綾姉ぇ昔からパニックになりやすいし、喋るのも凄く下手で…そんな綾姉ぇが…オドオドしてる姿しか知らなかったのに…その瞬間だけ別の誰かになってたみたいだったよ」
海斗「そっか…だから綾波はキミの大切な人なんだね」
敷波「……でも、その日から綾姉ぇは…おかしくなったんだ、自分は幸せになっちゃいけないって」
海斗「…この世に幸せになっちゃいけない人なんていない、大丈夫…綾波もきっと乗り越えられるよ」
敷波「その3人だけなら…幸せだったのにな…」
海斗「え?」
敷波「アタシを拉致った奴等は3人だけ…綾姉ぇが殺したのも3人だけ…なのに…綾姉ぇは誰かの記憶で苦しんでる、アタシにも誰かの記憶がある…前世ってやつ…なのかな…あの世界では綾姉ぇは…人殺しで、狂ってて…あの3人を撃ち殺した時の綾姉ぇも…あの綾姉ぇと同じ笑顔を浮かべてた」
海斗「……それは気のせいだ、その時のキミは凄く辛い目にあった後だったんだ、見間違いをしてしまった…それだけだよ」
敷波「…見間違い…本当に…?」
海斗「綾波は優しい子だよ、ただ、キミを守るために必死だっただけ…」
敷波「……そっか、ありがと…提督」
海斗「…これからよろしくね、敷波」
敷波「次の綾姉ぇのテスト、アタシも手伝うよ…綾姉ぇ落ち着けるのはアタシが1番だし」
海斗「じゃあ、お願いしようかな」
敷波「任せといて」
綾波「…はっ…はっ…ふっ…ふぅ……」
海斗「あんまり無理はしないでいいからね…?」
敷波「綾姉ぇ、ゆっくり狙えばいいから、大丈夫だからね」
綾波「…狙って……撃つ…ひぃっ!」
なんとか一発砲を放ったものの、砲音に驚いて主砲を落としてしまった
綾波「や…やだ…ごめんなさい、ごめんなさい…!わ、私戦えません……!」
海斗「うーん…これは仕方ないね…綾波には戦闘以外の仕事をやってもらうようにしないとか…」
敷波「綾姉ぇ…」
綾波「やだ…やだ…」
縮こまって震えている綾波の頭を撫でる
海斗「…よく頑張ったね」
綾波「あ…ああ、ありが…おええぇ…」
敷波「あ、綾姉ぇ…う、海に吐こうか…」
海斗「そう言う問題じゃないと思うよ、敷波」
綾波「おげっ…おえぇ…」
敷波「あ、魚が跳ねた…大きいの釣れそう」
海斗「し、敷波…?現実逃避はやめようか…」
敷波「…まあ、姉ちゃんはアタシが見とくから…提督は次の人のやつ見てきなよ、待たせるのも悪いしさ」
海斗「そうだね、まあ…ここから撃つ予定だったんだけど、仕方ないか」
青葉「…それで私だけ海の上から…?」
海斗「大丈夫?無理なら綾波達に動いてもらうつもりだけど…」
青葉「…大丈夫です、けど…」
海斗「…青葉も、綾波達に思う所があるの?」
青葉「ないと言えば、嘘になります…あの人たちは色んな人を傷つけましたから…でも、それを証明することは出来ません、私には何もできないんです…」
海斗「そうだね、でもたとえ証明できたとしても…青葉に誰かを傷つけるようなことはして欲しくないかな」
青葉「…わかりました、司令官がそう言うなら…私はあの2人に関わりません」
海斗「ありがとう」
青葉「その代わり…このテストで良い結果を出したら、青葉の言う事を一つだけ聞いてください」
海斗(言う事を、かぁ…青葉なら大丈夫かな?)
海斗「わかったよ、内容は?」
青葉「…結果を出してから、お伝えします」
青葉は北上ほどでは無いがかなりの精度の砲撃をやってのけた
実戦で充分に通用するとわかるほどの
青葉「どうですか…?や、約束には…届いたでしょうか」
海斗「完璧だよ、それで僕はどうすれば良いの?」
青葉「…ネットゲーム…」
海斗「ネットゲーム…?ネットゲーム用のパソコンが欲しい、とか?」
青葉「…あ…パソコンが要るんだ…え…えっと…えぇと…」
海斗「……もしかして、ネットゲームをやってみたい…って事だったの?」
青葉「え?あ…そ、そうです!わ、私何も知らないけど!流行ってるネットゲームをやってみたくて!!」
海斗「うーん…僕もやってたのは昔だからなぁ…最近のにはあんまり詳しく無いけど、教えられる範囲は教えるよ」
青葉「是非!お願いします!!」
海斗「わ、わかった…わかったから落ち着いて?」
青葉「す、すいません…The・Worldってやつ…やってみたいです」
The・World、世界で二千万本を売り上げた大人気ネットゲーム…
知らない人の方が珍しいとまで言われるものだ、年頃の女の子としては興味を持つことはごく自然なコト…
海斗「うん、それなら他のよりもわかる事は多いから教えられることも多いかも…パソコンは持ってないんだよね?今度一緒に買いに行こうか」
青葉「は、はい!お願いします!」
嬉しそうに笑う青葉は、いつもより元気そうだった
執務室
海斗「よし、報告書も提出したし…明日の出撃任務だ…」
明日の出撃には青葉と北上を起用する事になる
岩川のあたりから南進、南西する部隊と二つに分かれ、周辺の深海棲艦の調査、必要なら佐世保の基地に艦娘を配置したい…と言う事らしい
青葉も北上も充分に強いけど…北上には不安がある
慢心気味で、自分は天才だ…なんて言うあたりが特に…
でも結果は出してる、実戦こそまだだけどいろんなテストを満点で合格、結果を出し続けられるようならイメージアップのために起用したい、と言う話も最初に聞いた…
北上への期待が枷になる、なんて事がなければ良いけど
海斗「…あとは、明石に会わないと…」
工廠
明石「…ああ、貴方が私の上司ですか」
海斗「うん、その…よろしくね?」
明石「……あの子達どうにかしてくれません?これを修理するのってなかなか大変なんですよ、わかりますか?この機械の精密さ…パーツを作る工場だってまだ国内に少ないんです、確かにこの艤装と呼ばれる機械、これを触れることは光栄ですよ、でも扱いが雑なんですよ…私1人に全部の修理をぶん投げといて…ホントに…!」
海斗「ご、ごめん…丁重に扱うように言っておくよ…」
明石「……いや、良いんですけどね?向こうさんは命懸けだし、私はここで安全を保障されてるし?…はぁ…いきなりキレてすいません、一応の上司様に対して」
海斗「…えっと…?」
明石「私は模範的に機械のように修理だけするので、あんまりここには来なくても大丈夫ですよ」
海斗(あ、いきなり嫌われてるな…)
明石「…なんですか、その目…気に食わないんですけど」
海斗「ごめん…あれ、明石、キミもThe・Worldをプレイしてるの?」
奥の方で付けっ放しの画面が目に入る
明石「うわ…切るの忘れた……えっと…まあ、休憩中に…」
海斗(多分明石が怒ってたのは修理でゲームの時間が削られたから…かな?)
明石「…なんですか、その笑顔…ムカつくんですけど」
海斗「あ、ごめん…青葉って子はわかるかな?」
明石「…ああ、髪の色似てるなーって程度には」
海斗「あの子も近いうちにThe・Worldを始めたいらしいんだ、良ければ仲良くしてあげてくれるかな?」
明石「…なるほど…2人になれば効率も……」
明石は自分の世界に入り込み、ぶつぶつと独り言を始めてしまった
海斗「あ、明石…?」
明石「あ、すいません、そう言うコトでしたらお任せください、あのネクラちゃんを元気にしてあげますから!」
海斗「ね、ネクラちゃん…」
明石「あれ?根暗な感じじゃなかったですか?」
海斗「そう言う言い方は…どうかなぁ…」
明石「…はいはい、青葉、でしたっけ」
海斗「うん、青葉の事、よろしくね」
明石「わかりましたよっと」
海斗(ちょっと…性格に難あり……だね…うん、ちょっと…)
海斗「あ、朧の艤装はどうなってるか聞いても良い?」
明石「まあ、そのオボロって人は知りませんけど…装着者の安全を守る装置がイカれてます、所謂大破状態…ってヤツ?」
海斗「修理は終わってない?」
明石「……いや、終わると思ってるなら相当なバカですよね、あれは熟練の技術者でも直すのに相当な労力がいる…ただ鉄の塊を組むだけじゃ無くて基盤や回路、その辺も修理しないといけないんですよ…?」
海斗「…そんなに大変なんだ、ごめん、何も知らなくて…」
明石「一応本部からの連絡で近いうちに修理用の特殊なものが届くらしいんで、それが来たら楽にはなるそうですが、それまでは扱いを厳重にお願いします」
海斗「わかったよ、発注しておかなければならない機材とかは?」
明石「……このリストで」
…半分くらいパソコンのパーツ…?
海斗「これってパソコン用のパーツに見えるけど、艤装に使われてたりするの?」
明石「あー…えっと…ほ、ほら、艤装の修理状況とかを整理しやすいパソコンを用意しておこうかなと…あっちのパソコンはプライベートのものですし」
海斗「……このグラフィックボードとかは、要らないんじゃ無いかなぁ…」
明石「チッ…」
海斗「えっと…お金は渡すからその範囲で必要なパソコンを買ってきてくれる?多分そうしないと経費で落ちないと思うよ、一応軍だし…」
明石「…わかりました…はぁ……」
大きくため息をついて明石は工廠の奥に戻っていった
海斗「うーん…あはは…」