元勇者提督 作:無し
東京
春雨
春雨「うーん、まずいと思う…けどどうしようもない…楚良、私はどうすれば良い?」
亮「まず説明しろ、何を見てきたのか説明されないと話もできねぇ」
春雨「……最初に、まずは今後南西諸島の敵を撃滅するつもりらしくて、その指示が宿毛湾泊地に出るらしい…」
亮「それが何か問題なのか?」
春雨「司令官がただ椅子に座ってるのもおかしい、という事で現地に同行して指揮を取ることになってるんだけど…もちろん軍艦に乗ってね、そこで…その船は沈む予定みたいで…」
亮「どう言うことだ」
春雨「倉持海斗はハズレくじを引くはずだった、なのにそのクジはハズレどころか高額当選の大当たり、台湾から民間人を大量に受け入れたことで艦娘とその司令官の評価は鰻登り……当然上層部としては面白くないし、何より自分たちが甘い汁を啜れない」
亮「…だから殺す?流石にそれは…」
春雨「信じてくれなくても良い、これを知らないことにしても良い、全部楚良に任せる」
亮「……」
春雨「それと、川内たちの話の裏は取れなかった、だけど間違ったことを言ってるわけじゃないと思う」
亮「それはお前のカンか?」
春雨「まあ、そうだけど…向こうのデータベースを覗いても深海棲艦のデータが無さすぎた、深海棲艦は死骸を持ち帰ろうとしても沈んだり別の深海棲艦が持って帰ってしまうからデータが取れない、どんな説でも立てられる、なら宇宙人とかって言えば良いのにそうは言わない、それはなんで?」
亮「先手を打っても元人間だと知られると後々まずい…か」
春雨「しかも深海棲艦から復帰した艦娘も出てきた、より腰は重くなった……あれ…?」
深海棲艦から戻った艦娘って、よく考えたらデータを撮るのに最適な存在だ、解剖でもなんでもすれば良い…
南西諸島への出撃で倉持海斗を殺すことが上層部の狙いの一つだった、として……それだけのためにわざわざそんな大掛かりな真似はしない、深海棲艦から戻った艦娘を使うためにもか
亮「面倒な頼みをしたいんだが」
春雨「……」
亮「深海棲艦から艦娘に戻った奴らの確認してきてくれ、杞憂かもしれないけどな、拉致でもなんでもやりそうな気がしてならねえ」
春雨「了解、今同じこと考えてたみたい、ホントに」
亮「別に疑いやしねえよ」
春雨「でもそうなると、一番危ないのはこの子」
髪の青い曙の写真を見せる
亮「…コイツは…」
春雨「今宿毛湾泊地の近隣の病院に入院してる曙、深海棲艦あがりのね」
亮「どっちだ、これ」
春雨「再誕の方、よくわかったね」
亮「生え際の色が違うからな、変装してんのか?」
春雨「確かに、まあ詳しいことは知りませーん…とりあえずこの子もう少し入院してるみたいだから、見張っておきます、もし何かあったら?」
亮「…お前だとバレないように防げ、不安があれば逃げろ」
春雨「はい、じゃあまた、楚良」
亮「……」
宿毛湾泊地
軽巡洋艦 阿武隈
早朝の総員起こしよりも早い時間
ただ海面に立って神経を研ぎ澄ますだけの時間
前の世界の私の日常のことだったらしく、やらないと気分が落ちつかなかった
阿武隈「……キタカミさん…」
きっとこの時間も全て、私一人の時間じゃない
阿武隈「……ここからじゃ、朝日が見えないな…」
水平線に月が沈む
阿武隈「………」
夜の気配
阿武隈「誰ですか」
イムヤ「…私、覚えてない?」
阿武隈「……残念ですけど、それと貴方のような艦娘は知りません…ここの所属では無さそうですが」
イムヤ「…私イムヤ、イ号潜水艦の伊168、覚えておいて」
阿武隈「イムヤ……」
わからない、この人が誰なのか…
イムヤ「……会えてよかった、阿武隈」
阿武隈「何をしにここに…?」
イムヤ「キタカミさんに言われたから来た、それだけ」
阿武隈「キタカミさん…キタカミさんって…」
イムヤ「……会えばわかる、だけど、今の阿武隈じゃ勝てないよ…」
阿武隈「勝てない…?キタカミさんは…敵?」
イムヤ「また会えるとしたら、戦場で」
阿武隈「…貴方も、敵」
イムヤ「そう、でも撃たないで、今戦うつもりはないから」
阿武隈「……わかりました、さようなら」
イムヤ「またね、阿武隈」
イムヤは水中に潜って消えていった
阿武隈「…キタカミさん……勝てない…私じゃ無理…?なんで?」
頭がぐるぐるする
阿武隈「……勝たなきゃいけない相手…キタカミさんを倒す…」
何をすれば良いのかわからないのに自然と体が動いた
まるで目の前に敵がいるかのような、黒い何かと対峙してるような感覚
阿武隈「絶対……負けない…!」
駆逐艦 島風
島風「……」
綾波「ひぅ…」
島風「私は青ちゃんのことは恨んで無い、1ミリも…だって負けたのは弱い私のせい、何も守れなかったのは、弱い私のせいだから…それに青ちゃんはそうしろ、と…命令されてただけだった」
でも、この綾波は違う
島風「貴方は人を傷つけることが好きだった…違う?」
綾波「そ、そうです…」
島風「悪戯に人を傷つけて、遊んでたんだよね」
綾波「はい……」
島風「じゃあ、もし目の前にその被害者がいたら?どうするの?謝る?」
綾波「…あ、謝ると思います」
島風「死ねって言われたら?」
綾波「……はぁ…ふぅっ…死ねません、死んでなくなるほど罪は軽くないし、私の命はもう司令官や朧さんに委ねました…」
島風「自分だけ死ぬ時を選ぶの?」
綾波「いいえ、でも…私が死んで何か変わるでしょうか、きっと死んだところで何も変わらない、残るのは虚しさだけだと思います」
島風「だからのうのうと生き続けるんだ?」
綾波「…違います、私は人を守る艦娘として生きます、私は…もう、私は自分の興味や欲望のために生きました、だからこれからの、二度目の命を人のために捧げます」
島風「……オッケー!じゃあこれからは綾波も仲間だね!」
綾波「…いいん、ですか…?」
島風「誰も夜に置き去りにしない、そう決めたから」
綾波「う…し、失礼します…」
島風「な、なんで吐くの…?エチケット袋もちゃんと持ってるし…」
綾波「幸せの許容限界を超えました…おぼぼっ…」
島風「幸せの許容限界って何…?」
綾波「おぼぼぼぼ…」
島風「ところで、昨日肉じゃが作ってたよね!」
綾波「は…はい…?」
島風「まだある?」
綾波「その…だ、誰も手をつけてないので…お鍋にたくさん…」
島風「えっと?」
中くらいの両手鍋に沢山ある…
島風「よーし!カレーにしちゃお!青ちゃんのとこ行くんでしょ?」
綾波「あ、青ちゃん…?」
島風「青ちゃんカレー好きなんだよね〜…うん、甘めだし中辛入れちゃって良い?」
綾波「は、はい…」
島風「よし!バター風味の肉じゃがカレー!もっていこう!」
綾波「も、持っていこう!?病院ですよ!?」
島風「退院前だし大丈夫だよ、病気じゃなくて怪我だし」
綾波「いや、その…」
島風「ほら、行こ?」
綾波「な、なんで私をそんなに…」
島風「なんでって、仲間になったんだから…仲良くしなきゃでしょ?」
綾波「………」
島風「今はわからなくても良いよ、私もわからないし、でも仲のいい友達が増えたら楽しいじゃん、細かい事はなし!ほら、早く行こ?」
病院
アオボノ「………」
綾波「あ、あの…お顔が引き攣って…」
アオボノ「ええ、当然かと思います、ちょっと色々複雑な相手二人がカレーライスを持ってきていきなり食べろと入院中の人間に言うのですから」
島風「仲直りのカレーって事で!」
アオボノ「……確かに、私は一方的な加害者でしたから…貴方がそれで満足してくださるなら異存はありません…が…カレーに糸蒟蒻とバターは初めてみました」
島風「もともと肉じゃがなの、それにバターはほら、バターチキンカレーってあるし」
アオボノ「これはビーフですが……頂きます」
恐る恐ると言う感じにカレーを口に運ぶ
そこまで警戒する必要はないはずなのに
アオボノ「…味見しました?」
島風「え?してないけど」
綾波「えっ」
島風「カレールーを入れれば大体余裕で美味しいよ!」
アオボノ「…まず、バターは要りません、具材に醤油系の味が染みていて、バターとも合うはずなのですが…私は合うのかなと思っていたのですが…微妙です、バターが強過ぎる…果てしなく変な感じです」
綾波「そんなに…?」
島風「そんな事ない…はずなんだけど…とりあえず食べよっかな」
綾波と自分の分を用意する
アオボノ「………」
島風「なに、そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔して…」
アオボノ「常識って知ってます?ここ病室ですよ、仮にも見舞いに来た人が自分の分の食事を用意して食べる…しかもカレー…」
綾波「さ、さすがに…」
島風「もう用意しちゃったもーん…あむ」
…なんとも言えない味…美味しいんだけど…
綾波「…いた、いただきます…むぐ……美味し……くない…」
アオボノ「バターが多過ぎる気がしますね、どのくらい入れたんですか」
島風「1ポンド!」
綾波「ひぇっ…」
アオボノ「……それは美味しくなくて当たり前でしょう…完食する勇気が無くなってきました、ただでさえ寝たきりで不安だったのに」
島風「うーん…」
アオボノ「と言うか貴方は料理できましたよね…?」
島風「……私ができるの、野菜ラーメンだけです」
アオボノ「…貴方人に出す料理作らないでくれませんか?」
島風「はぁい…」
アオボノ「とりあえずこれはちゃんと食べるので、次は朧達と一緒に作ってください…」
島風「青ちゃん…!」
アオボノ「青ちゃんもやめてください…はぁ…」
綾波「…ふふ…」
島風「あ、笑った」
綾波「ご、ごめんなさい、つい…!」
アオボノ「…笑えば良いんじゃないんですか?貴方が笑った方が提督は御喜びになると思います」
島風「うんうん、提督はみんな笑顔な方が嬉しいと思うよ」
綾波「……司令官がお喜びになっても、他の複数の方が不愉快な思いをされるはずです」
島風「…筋金入り?」
アオボノ「お手上げです、これはビョーキなので」
島風「綾波ちゃんも入院しとく?精神科」
綾波「か、勘弁してくださ…うぅ…気持ち悪くなってきた…」
アオボノ「内科受診しときますか?」
綾波「だ、大丈夫です…遠慮しときます」
島風「あ、内科といえば北上さん」
アオボノ「…北上?」
島風「うん、この前の演習の前くらいに内科受診してたよ!徘徊してる時見かけたもん」
アオボノ「…へぇ」
綾波「……誰…!」
島風「え?」
アオボノ「…何かいますね」
綾波「…で、出てこないなら…こちらから仕掛けます…!」
島風「どこ?どこにいるの?」
アオボノ「……いや、もう逃げましたね…いつから居たのか…そろそろ危ないかもしれませんね…」
綾波「多分、ずっと居ました…気づけなかった…」
アオボノ「島風さん」
島風「何?」
アオボノ「夕張さんにこれを渡してください」
島風「通帳…?」
アオボノ「お願いしたものを作って欲しいと言えば伝わるはずです、それからそれも渡してください」
綾波「……見るつもりはなかったのですが、名義が…」
アオボノ「人としての名前です、申請してみたところ私の死んだ家族の保険金が降りたもので」
島風「…なんていうか、おっも〜い…」