元勇者提督   作:無し

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テスター

宿毛湾泊地 医務室

駆逐艦 綾波

 

海斗「綾波、大丈夫?」

 

綾波「はい…」

 

海斗「いきなり撃つなんて、何を考えてたんだ…」

 

綾波「…し、司令官を殺そうとしてた、だか、だから…バレて殺されると思ったんだと…思います…」

 

海斗「…うーん…はぁ…命が狙われてる、って思うと憂鬱だなぁ…」

 

綾波「そ、それにしては…開き直ってるような…」

 

海斗「命懸けの戦いは経験してるからね、それに焦ったところでターゲットから外れるわけじゃないし」

 

綾波「それは、そう…です、けど……」

 

海斗「それよりも綾波、君の怪我の方が問題だよ」

 

綾波「…手当ては済んでますし、わざわざ医務室のベッドを貸して下さるほどのことでは…」

 

海斗「キミは僕からしたら命の恩人だからね」

 

綾波「……私は…」

 

海斗「…キミを苦しめる言葉、なのかもしれない、でも僕はキミに今感謝してる、綾波、ありがとう」

 

綾波「おえええ…」

 

海斗「うーん、ごめんね?」

 

綾波「い、いえ!わた…おええ…ごめんなさ…おえっ…」

 

海斗「む、無理しなくていいからね?」

 

綾波「ごめんなさい、こめんなさい…おえっ…」

 

島風「へぶしっ!!」

 

隣のベッドから豪快なくしゃみが聞こえて来る

 

海斗「わ、島風大丈夫?」

 

島風「うー…おなかいたい…」

 

綾波「お、お腹…丸出しですからね…あの速度でそれは…すごく、さ、寒いと思います…」

 

島風「うん…さ、寒かった…でも熱が出るのは違うと思う…!」

 

海斗「しばらく安静にしてようね、服についてはどうにかなるか問い合わせてみるから」

 

島風「そ、それより…大本営はどうなったの?」

 

海斗「うん、それが特にどうにかなるって事は無さそうなんだ」

 

綾波「や、やっぱり…銃も暴発で…?」

 

海斗「そう片付けられそうだね、元の綾波達の扱いに関しても証明の手段が少ない、簡単に握りつぶされてしまう……と思うよ」

 

綾波「…だ、だと思ってました…で、でも民間人は、そ、そうは思いません…」

 

海斗「うん、艦娘システムの撤廃を求めての運動がSNSで起きてたね」

 

綾波「そ、それだけ…?」

 

海斗「まだキミが撃たれた事はまだ表に出てないし、何よりこれからも出ないかもしれない」

 

綾波「………」

 

海斗「…ごめん綾波」

 

綾波「司令官は、な、なにも悪くない…じゃないですか」

 

海斗「キミのために何もしない事を選んでしまった」

 

綾波「…わ、私1人の為に複数を、犠牲に晒しちゃ、ダメです」

 

島風「………」

 

綾波「そ、それに…声をあげれば…だ、誰かに届きますから」

 

島風「どういう意味?」

 

綾波「こ、この撃たれた銃創を、し、調べれば…か、隠し事はできません…」

 

海斗「…さて、買い物に行ってくるけど、二人とも欲しい者はある?」

 

綾波「い、いいえ…」

 

島風「…プリン、2人分お願いします!」

 

海斗「わかったよ」

 

綾波(よく食べるなぁ…)

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

駆逐艦 敷波

 

大淀「初めての記者会見はどうでしたか?」

 

敷波「…辛い…」

 

大淀「お疲れ様です、脚がないことも含めて何から何まで質問されましたからね、明日から有名人ですよ」

 

敷波「……アタシの判断は…正しかったのかな…」

 

大淀「貴方が私たちの話に乗ったことは、私は正しいとは思います、確かに茨の道ですけどね」

 

敷波「これで、綾姉ぇの事は…」

 

大淀「綾波さんの殺人の容疑は状況から恐らく勘違い…としておきましょう」

 

敷波「……その情報ってどこから?」

 

大淀「宿毛の朧さんです、あの人はあなたたちを強く恨んでるようでしたからね」

 

敷波「…だったら、嘘だったんじゃ…」

 

大淀「いいえ、向こうに出ている夕張や他の者にも確認をしたところ、綾波さんが船が沈む前に人を拘束したという証言が出ました…」

 

敷波「た、ただ拘束しただけなんじゃ…!」

 

大淀「未必の故意って知ってますか?この行動に殺すつもりはないけど、コレで死んでも構わない…という意味です」

 

敷波「さ、殺意があったわけじゃ…」

 

大淀「…世間はそう取ってくれるかどうか…タイミングが悪かったですね、表に出れば復讐ととられるかもしれない…」

 

敷波「そ、そんな!じゃあこれのどこが正しいんだよ!」

 

大淀「別にその程度、言及する暇を与えなければいいんです」

 

敷波「意味がわかんないって…」

 

大淀「ウチの馬鹿(夕張)が一部の艤装に音声などの記録器をつけてたみたいで、それの音声をいま送らせてますけど、どうやら複数の艦娘が救命ボートが先に出ているのに自分たちが取り残されている、と発言していたようです」

 

敷波「…つまり?」

 

大淀「軍人の癖に民間人と変わらないような少女たちを放り出して逃げた、しかも一つの船のほぼ全員が…」

 

敷波「そ、そりゃいわれるか…」

 

大淀「しかも状況証拠から船を沈めたのも軍側、場合によっては大変な数の死者を出してましたからね、まあ逃げた方も別の船の砲撃でボートが無くなってかなりの死者が出ましたけど」

 

敷波「一体何が起きてたのさ…」

 

大淀「倉持海斗の謀殺と、それに関わる者の口封じ…結果としては両方失敗…最高の結末でした」

 

敷波「……何で口封じが失敗…?救命ボートは壊せたのに…?」

 

大淀「生存者が全員救助されたからですよ、宿毛湾泊地の艦隊の手によって」

 

敷波「な…なんで?」

 

大淀「倉持司令官の命令、と聞いてます、お陰でかなり有利に立ち回れる」

 

敷波「…訳わかんないって…」

 

大淀「そうですか?貴方達を受け入れたような人ですから私は疑問を抱きませんでしたけど」

 

敷波「そ、そりゃそうだけどさぁ…」

 

大淀「先手を取ればかなり有利です、あの場にいた全員が死ぬ一歩手前、命を救ってくれた恩人の頼みなら聞いてくれるかもしれません」

 

敷波「何を…?」

 

大淀「正直に話すだけでいいんですよ、上層部の指示で倉持海斗の暗殺をしようとした事、艦娘を見捨てて逃げようとした事…この二つを話せば上は消し去れる」

 

敷波「う、上手くいくの…?それ…」

 

大淀「3割くらいはあると思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 

戦艦 長門

 

長門「扶桑達は中々目を覚まさないな、私たちはすぐに目を覚ましたらしいが」

 

夕張「そうねぇ…電気ショックでも行ってみる?」

 

長門「おいおい…」

 

夕張「…にしても、これからどうなるのやら」

 

長門「全くだな、ところでお前は何を…」

 

夕張「見てわからない?ワイヤーフックを改造して立体機動装置をね」

 

長門「……なんでまた」

 

夕張「長門さんくらいになると、敵を狙い撃とうとしても逃げられてしまう…そんな事ない?あるわよね!そんな時!コレがあれば!」

 

長門「あー待て、わかった、それで敵を捕まえて殴り倒せと…?」

 

夕張「殴る必要はないの、敵を拘束して逃げられなくする道具だから」

 

長門「…アオボノ達に渡したらもっと有用なんじゃないか?」

 

夕張「巻き取りが主導だって言ったら要らないって言われました…」

 

長門「…手動なら、私も要らない」

 

夕張「だって自動にしたら重いんだもん!」

 

長門「…そっちのは?」

 

夕張「ああ、これ?これは敷波用の艤装ね、足の付け根にコレをつけることで水上歩行を可能にするの」

 

長門「…できるのか?そんな事」

 

夕張「実際にやってた相手に詳しい話を聞いたから大丈夫」

 

長門「……?」

 

夕張「ま、これであの危険人物コンビが戦えるようになっちゃった訳だし…警戒しなきゃねぇ…」

 

長門「…綾波も、敷波も…私にはあまり危険には思えんがな」

 

夕張「そう?みんなそういうから警戒心薄れてきちゃった」

 

長門「私にしてみれば、人間の方が怖い、今回の件も含めてな」

 

夕張「人間が怖いのはいつも時代もみんな一緒、あれほど腹黒い生物はそうそう居ないって…あ、でも艦娘で一番腹黒いのが居た」

 

長門「アオボノか」

 

夕張「そうそう、誰だったかサヨリみたいだって言ってたのよね、見た目は綺麗だけど腹をひらけば真っ黒!」

 

長門「ははは、それは良いな」

 

アオボノ「では明日からサヨリとでも名乗りますか」

 

夕張「良いんじゃない?人間っぽい名前だし」

 

長門「ああ、そうだな…ん?……いつから、そこに…」

 

夕張「あ、あー…どうも、アオボノ様、御用件の方は…?」

 

アオボノ「買い物に行きますが何か必要な者はありますか、メロンさんと筋肉さん」

 

夕張「…いえ、何も」

 

長門「右に同じ…」

 

アオボノ「そうですか、それでは」

 

夕張「……怖…」

 

長門「流石自称最高戦力だけはあるな…プレッシャーが半端じゃない」

 

夕張「機嫌取るために艤装改造しよっと」

 

長門「…どうなっても知らんぞ」

 

 

 

 

 

 

工廠

工作艦 明石

 

アオボノ「失礼します…寝てないんですか?」

 

明石「何ですか、今忙しいんです」

 

アオボノ「…買い物に行くので、必要な物があったら…」

 

明石「……軽食と飲み物、お願いします」

 

アオボノ「わかりました、ところでそれは…」

 

明石「あなたの艤装です」

 

アオボノ「……一体何をしようと…」

 

明石「使えばわかります、しばらく話しかけないでください」

 

アオボノ(…今日はまた、随分と感じが悪いな…)

 

アオボノ「それでは」

 

明石「……だめだ、どうすれば速力と負荷を…」

 

アオボノ(……)

 

明石「これ以上速力をあげたら制御できないし…何より危険…」

 

アオボノ「明石さん」

 

明石「うわっ!?ま、まだ居たんですか!?」

 

アオボノ「物は理論では完成しませんよ」

 

明石「…何が言いたいんですか」

 

アオボノ「そんなに危険な代物なんですか?」

 

明石「…危険というか、えっと…いろんな問題が…」

 

アオボノ「それは確実に発生する?」

 

明石「……いや、一部はそうですけど半分くらいはまだ憶測の段階で…」

 

アオボノ「じゃあ確かめましょう、それを使って」

 

明石「…使うって…誰が」

 

アオボノ「私が使います、テスターをさせてください」

 

明石「…本気ですか?死ぬかもしれませんよ」

 

アオボノ「貴方は優秀な技術者です、それに命をかけるだけの覚悟も、価値もある」

 

明石「……私が、優秀な技術者…」

 

失敗してばかりで、夕張に罵倒される日々の私が優秀とは、とんだお世辞だ

 

アオボノ「貴方が自身を無能と言うのでしたら…この話は無かった事にします」

 

安心感と、悔しさ

 

アオボノ「私は、貴方の言葉を信じます、貴方の腕を信じます、命を賭けて、貴方が本気なら私は地獄の底まで行く覚悟です」

 

明石「……それは、何故…」

 

アオボノ「貴方が提督の大事な仲間だからです、それ以上でもそれ以下でもない」

 

明石「…貴方は、あの人の言うことを全て鵜呑みにしてるんですか?」

 

アオボノ「違います、こうして申し出てるのは私の意思です、私の考えです、根幹にあるのは提督の役に立ちたいという想いですが」

 

明石「……狂ってる、貴方は狂信者?」

 

アオボノ「…そうですよ?恋は人を狂わせる、その感情が貴方にもよく理解できたはずなのに」

 

はず、なのに…過去形…

 

明石「……何でしょうね、貴方が死んでも私は何も思わないかもしれない」

 

アオボノ「答えは?」

 

明石「私の作った装備で死ぬ覚悟はいいんですね」

 

アオボノ「勿論、貴方のプライドがそれを許すのであれば」

 

明石「許すわけがありません、せいぜい私の役に立ってもらいます…!」

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