元勇者提督   作:無し

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責務

宿毛湾泊地

提督 倉持海斗

 

海斗「向こうからの連絡は?」

 

朝潮「ありません、もう2日になるのに何も言ってきません…敷波さんのことで手一杯のようです、綾波さんのことも、前回の敗北も全て無かったことにしようとしてるのでは?」

 

海斗「そうなると拓海たちがかなり動いてくれてるはずだね…でも、このまま有耶無耶にするのも良くない」

 

朝潮「そもそもの話、この戦いを続けられるのでしょうか、国内の艦娘システムへの反発も高いと聞きます、司令官も何か聞いているのでは?」

 

海斗「まあ……全く言われないわけでは無いかな、でもそれは仕方ない事だよ」

 

朝潮「仕方ない事、ですか……司令官、先日移送された方々ですが搭乗していた車が海に落ち、全員死亡したと」

 

海斗「………」

 

朝潮「どう思いましたか、これも仕方ない事ですか」

 

海斗「いいや、全くもって違う」

 

朝潮「司令官、あまりにも後手に回りすぎましたね」

 

海斗「…綾波の事に関しては?」

 

朝潮「全くもっての無視です、おそらくこのまま…」

 

綾波のことも無かったことにされるとなると、こちらができることはかなり少ない、大本営の動きが把握しきれないのも辛いか…

 

海斗「……どうするべきだと思う?」

 

朝潮「…あくまで私の予想ですが…司令官が動く必要はないのでは?状況が状況なだけにおそらくもう手を打ってあるのではないかと」

 

海斗「誰が?」

 

朝潮「誰かがです、火野さんなのか、それとも別の誰かなのか…司令官のお知り合いで今の状況を把握してらっしゃる方は?」

 

海斗「積極的に誰かに話すことはしてないけど…」

 

朝潮「なぜ話さないんですか…例えば情報操作に強い方に頼るとか」

 

海斗(情報操作となると…ヘルバか……頼めば手を貸してくれるだろうけど…)

 

朝潮「これ以上後手に回ることは許されません、前回の出撃組でも、艦娘が置いていかれたと言う事実に対して強い不信感や不安感を隠さない者も多いです」

 

海斗「そうだね…」

 

朝潮「司令官、艦隊が形を保つ為にはどんな形でもあなたの存在が強く影響します…厳しい言い方になりますが、責任を果たしてください」

 

海斗「わかった、甘えた事を言うつもりは無いよ、僕にできる限りは全てやる」

 

朝潮「ご決断ありがとうございます、それと…私事にはなりますが満潮の事で……」

 

海斗「大丈夫、満潮には別の仕事を振るつもりだよ、ごめんね」

 

朝潮「ご配慮痛み入ります」

 

海斗「こっちこそ伝えてくれてありがとう、気づいたことがあったらそのままなんでも言ってね」

 

朝潮「…では、一つ」

 

海斗「何かな」

 

朝潮「潮さん、山雲、そして天龍…いや、日向さん、以上三名はもう気づいてますよ、司令官の記憶の件」

 

海斗「……どこから漏れたんだろうね」

 

朝潮「さあ、でも今の音声は使えますね」

 

レコーダーをひらひらと見せてくる

 

朝潮「司令官、綾波の事を気にして記憶があるのを告げないのは…構いません、そこまで強いるつもりはありません、ですが……私達は…」

 

海斗「……朝潮、綾波のことは理由の一つでしか無い…最初は僕だって記憶が蘇った時にみんなと会おうとした、みんなと話したりもした……だけど、それは…あまりにも異端なんだ、許容されないんだよ、記憶を持ったメンバーだけで形成された狭い世界じゃ無い、記憶が無い人も大勢いるんだ……」

 

朝潮「…ですが…」

 

海斗「僕が君たちへの配慮に欠けていたことは、謝らせてほしい、ごめん…だけど、それとこれとは違うんだ、記憶がある事を話しても、余計に辛い思いをするだけなんだよ」

 

朝潮「そうですか…」

 

海斗「でも、ひた隠しにしたところで何もいいことはなさそうだね」

 

朝潮「…じゃあ?」

 

海斗「記憶がある事を隠すような真似はやめる、だけどそれはお互いに覚えてることが前提だよ」

 

朝潮「ありがとうございます、自分らしく居られる場が多くなる事できっとみんなも気が楽になるはずです」

 

海斗「だといいけど…気を緩めすぎて首を締めるようなことのないようにね」

 

朝潮「勿論です」

 

 

 

 

 

ヘルバ『なるほどな、話は理解した』

 

海斗「お願いできるかな、別に革命を起こしたいわけじゃ無い、今みんなを危険にさらさないために手を貸してほしい、ダメかな」

 

ヘルバ『造作もないことだ、だがなカイト、お前ともそろそろ大人の関係になるべきではないか?』

 

海斗「大人の関係か…高くつかないとありがたいんだけど」

 

ヘルバ『物分かりが良くてよろしい、だが安心しろ、金の話ではない』

 

海斗「……となると、ヘルバが僕に頼むなんて…海の事?」

 

ヘルバ『そうなる、お前達には海を渡り、ロシア、ウラジオストクまで物を届けてもらいたい』

 

海斗「非公式の、それも誰にもバレちゃいけない輸送作戦…か」

 

ヘルバ『厳しいか?』

 

海斗「正直不可能に近いよ、そもそも宿毛湾泊地は太平洋側に面してる、日本海を通って行くにしても…誰にも見られないのはほとんど不可能だね」

 

ヘルバ『では、バレないようにすれば問題ないと?』

 

海斗「勿論、手を貸してくれるなら…まず、現在の港や浜辺周辺の警戒は哨戒艇が出てるのは知ってる?」

 

ヘルバ『愚問だな、各基地から小型船が毎日のように出て行くのだからニュースさえ見ていれば誰でも知っている、ライブ放送をやっていた時は生々しい現場の凄惨な光景を見せられた』

 

海斗「今艦娘が大量に増えてる、だから哨戒艇に艦娘を乗せようと言う案が出てる、それを通して欲しいんだ、そうすればまず、日本から出ることはできる、おおよそ1000キロの旅になる、ヘルバの運んでほしいものってどんな物?」

 

ヘルバ『中身は知らないほうがいいが、片手にさっぱり収まる程度のものだ、ポケットにでも入れろ、受け渡しも現地に取りに行く者を用意しておく』

 

海斗「ざ、雑だなぁ…」

 

ヘルバ『報酬は先払いにしておく、明日からお前達も忙しくなるぞ』

 

海斗「わかってる、助かったよ」

 

ヘルバ『朝刊と一緒に送り届けておく、1週間以内に届けてくれ』

 

海斗「1週間だね、了解」

 

これでこっちは大丈夫…問題は誰が届けに行くかだ、曙達に行ってもらうのがベターな感じかな…でも大体600海里を移動するには…20ノットで30時間はかかる、それに燃料を大量に持たせるとしても…

 

海斗「哨戒艇をそのまま使う方がいいのかな、だとしたら乗組員も…うーん…」

 

全部僕1人で考えるにはちょっと無理があるか…

 

加賀「失礼するわ、提督」

 

海斗「あ、加賀か…」

 

加賀「何?嫌な反応ね」

 

ポケットに入るサイズ…充分艦載機で送れる可能性は高いな…もしそうなら燃料と時間を節約できる、だけど一晩をどこかで明かすことにはなるか…

 

海斗「加賀に重要な仕事を任せることになりそうなんだ、詳細は明日話すよ」

 

加賀「…構わないけれど…それより、如月が目を覚ましたわ」

 

海斗「如月、か…」

 

大変な時期に着任したからあんまり関わることがなかったんだよね…

 

海斗「扶桑は?」

 

加賀「まだよ、目を覚さない理由は不明、だから永遠に目を覚さないこともありうる…他の子の時も言えたことだけどね」

 

海斗「目は覚ますはずだ、心配ないよ、如月は今どうしてるの?」

 

加賀「同じ駆逐艦ということで朧が面倒を見てるわ、だけど…如月の方がすっかり怯えてる、どうも記憶があるみたいで貴方の事、随分と怖がってたわ」

 

海斗「…僕って人相悪いかな」

 

加賀「そうじゃなくて、あんなに酷い戦いにいきなり巻き込まれたのだから…」

 

海斗「まあ、当然だよね…如月もこの世界で人間して生まれてるんだし、可能なら親元に返してあげたいな」

 

加賀「…一度死んでるのよ、もし目の前で殺されてた時、いきなり送り返されても化け物扱いされるのがオチよ」

 

海斗「海から戻ってきた子にも選ぶ権利はあるはずだ」

 

加賀「そうかもしれないけど、それはそれで難しいものよ」

 

海斗「とにかく、会いに行ってくるよ」

 

加賀「そうして」

 

 

 

 

 

医務室

 

海斗「夕張さん、如月は?」

 

夕張「そこのベッドです」

 

朧「あ、提督」

 

如月「……えっと…ご、御用でしょうか…」

 

海斗「ああ、えっと…おはよう?」

 

如月「お、おはようございます…」

 

海斗「朧、どのくらい話せた?」

 

朧「どのくらい…うーん…とりあえず前の世界との違いは一通り…でもちょっと…」

 

海斗「ちょっと…?とりあえず、如月、君は艦娘として戦うか、それとも元のように人として生活するか、どっちを選びたい?僕は君が望んだ通りに生きていけるようにできる限りサポートする」

 

如月「ま、待ってください、あの…元のようにって…?」

 

海斗「君が深海棲艦にやられる前みたいに人間として…もしかして覚えてない?」

 

如月「覚えてないも何も…わ、私の最後の記憶はあの戦いで…本当に何が何だか」

 

海斗「長門みたいな状態か…どうしようか」

 

夕張「児童養護施設に入ってもらう、とか?年齢的にも10歳ちょっとに見えますし」

 

朧「そもそも、どうしたいの?如月は」

 

如月「…えっと…わ、わからないんです…私はあの戦いでも何もできなかった、貴方達のあるっていう人間としての記憶もない…人として生きていけるのかもわからないんです…」

 

朧「…確かに不安か…」

 

夕張「満潮ちゃんみたいな扱いは?」

 

海斗「うーん…難しいところだね…朧、長門を呼んでくれる?」

 

朧「さっきメールしました、多分もうすぐ来ると思います」

 

夕張「なぜ長門さんを?」

 

海斗「如月と同じ立場から意見をくれると思ってね」

 

夕張「…あー、あの…実は私は聞いてるんですけど…」

 

長門「失礼します…夕張さん、もう言ってしまったか…?」

 

夕張「…あー、長門さん、ちょうど今言おうと…」

 

海斗「さっきからなんの話を…?」

 

長門「……そ、その…騙すような真似をして申し訳ないが…私は人としての記憶を持っている、ただ、人間社会に戻りたくないというのがあって…」

 

海斗「そうだったんだ…うーん…別にそれならそうと言ってくれればよかったのに」

 

長門「人間嫌いだった私としては…あの環境には戻りたくないな…」

 

夕張「海で目覚めた時にいきなり記憶が蘇ったみたいで、急な事だったらしくて、混乱してたみたいなので…勘弁してあげてください」

 

海斗「いや、責めるつもりはなくて…うーん、長門は今も戻るつもりはないの?ここに今いるのは君の意思なんだね?」

 

長門「…ああ、間違いなく私の意思だ、情けない話、人間から生まれたとか、人間として育てられたとか、その事実が耐え難かった、怖かった…それを忘れられるのは、戦いの中だけだ」

 

海斗「うーん…だとしたら尚更人間社会に戻ってほしい気持ちもあるけどね、今の君はどうやっても人間なんだから」

 

長門「…そうか、それより如月」

 

如月「は、はい…」

 

長門「私は艦娘として生まれ、人として生まれ、今まで生きてきたが…どちらにも辛いことがある、だがもし艦娘としての道を選ぶのなら…私達は如月の味方だ、何かあれば守る事ができる」

 

夕張「長門さんってカッコつけるわよね」

 

朧「離島時代の名残じゃないですか?駆逐艦達を守ったりしてたって聞きますし」

 

長門「聞こえてるぞ」

 

如月「…私はどうしたら…」

 

海斗「如月が人間の道を選んだ場合、記憶喪失で親のいない子供として扱われると思う、そうなると親元を離れることになった子供達が集められる施設に行くことになるはずだ、そこから学問と、一般的な教養などを身につけて社会に出る事になる」

 

如月「…艦娘になったら?」

 

海斗「保証できるのは衣食住、それと基本的人権、後職業だからお給料に関しては、このくらいかな、出撃とかで変動するけど」

 

如月「艦娘の方が自由そうですね…命懸けですけど」

 

海斗「大丈夫、戦わないって選択肢もある、もし戦うのが嫌なら別の仕事を割り振るつもりだよ」

 

如月「…司令官さんは、私に艦娘になってほしいんですか?」

 

海斗「なって欲しい、か…うーん、僕は君にやりたいようにやって欲しいかな…人間として生きるのなら僕の友達に手を貸してくれるように頼んでみるけど」

 

如月「……どうしたら…」

 

朧「如月、戦うのは怖い?」

 

如月「…いえ、話を聞く限りあんなに恐ろしい敵はもういないみたいですし、普通の深海棲艦となら…」

 

朧「艦娘も割と自由で楽しいよ、大変な作戦もある…っていうか返り討ちになったとこだけど」

 

如月「…人としての記憶、それが私にあるのなら、それが戻ってくるまで艦娘として戦わせてください」

 

海斗「歓迎するよ、如月」

 

朧「何かあったら私か髪の青い曙を頼って、あと朝潮も」

 

夕張「怪我したら私が手当てはしますけど、この世界には修復剤も何もありません、だから怪我はしないように気をつける事」

 

如月「う、腕が飛んだら?」

 

夕張「腕なんて生えてくるわけないでしょ、何も変えは効かないの」

 

如月「…じ、自身無くなってきました…」

 

敷波「すいませーん、司令官…あ、居た、横須賀から戻りました」

 

海斗「おかえり敷波、大変だったね」

 

如月「あ、足がない……ひぅ…」

 

朧「…敷波は刺激が強かったか…」

 

敷波「…うん、なんか、その…生きててごめん」

 

海斗「えっと…敷波、ごめん、今起きたばかりで混乱してるんだ、部屋に綾波がいると思うから会ってきて」

 

敷波「はーい…はぁ…」

 

如月「ああ、あの、あの子…足が…!」

 

海斗「えっと…深海棲艦にやられたわけじゃないんだ、でも艦娘としてここにいる、艦娘システムはもともと孤児を雇用する事で生活を保護する、って政策も兼ねてるみたいだから…」

 

如月「あ、ああ…そ、そうなんですね…あはは…はは…」

 

夕張「めっちゃビビってる…」

 

朧「でも戦闘で足が吹っ飛んだらああなるのか…」

 

如月「ぴぃ!?」

 

長門「…余計に脅してどうする…」

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