元勇者提督   作:無し

19 / 625
思うところ

駆逐艦朝潮

 

「……」

 

私がまず見たものは、妹である大潮が、未だ目を覚まさない司令官に馬乗りになり包丁を向けている姿だった

不思議とそれを止めようとは思わない、むしろ早くやれと、ずっと思っている

 

「…なんで止めないの…」

 

「止める理由がありませんから」

 

ああ、こいつは止めて欲しかったのか…

 

「……」

 

「なんですか、やめるんですか?」

 

「……なんで、そんなこと言いながら泣いてるの?」

 

「……え?」

 

手で目元を拭うと、確かに濡れていた

なんで?なんで私は、憎い相手が殺されかけて泣いている?

なんで私は、こんなにも司令官が憎い?

なんで、なんでなの…?

 

「…ぁ……」

 

そこで意識を手放した

 

 

 

黒いモヤがかかっている

頭がぼうっとして、何も考えられない

 

ただ、声が聞こえた

 

憎めと、殺してしまえと

 

なんでそんなことを言われるのかもわからないのに

目の前に現れた司令官に、砲を向け、私は放った

血と肉塊、それだけの、何かが砕け散った

 

痛い…痛い…

胸がな張り裂けそうなほど痛い

 

死にそうなほど辛い、なんで?なんでこんなに憎いのに…

なんでこんなに憎いの?なんでなの?

 

私は司令官を…殺したいの?

確かに強い憎しみがある、殺意も抱いているけど

それはなんでなのか、まるでわからない

 

 

 

「…?あぁ…ここは…」

 

いつぞやの部屋か、このモニターと、背後の司令官

何も変わらない…いや、違う、一つだけ違いがあるなら…

 

「…誰?」

 

モニターの中に、誰かがいたこと、そしてこっちを睨みつけている

 

誰なんだろう、この子は…

いや、誰かは知ってる

 

鼓動が速くなる

 

「なんで、なんで私がそこにいるの…?」

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

「よお、起きたか」

 

「…提督、ここは?」

 

「離島鎮守府だ、お前が目を覚まさないから帰るのを遅らせた」

 

「…演習は終わったんですね」

 

「ああ、バケモン1人に全部覆されたよ、ヤベー奴がいやがる」

 

「…なるほど、あの、ところで…」

 

「大潮か?お前が倒れたって知らせに来てくれた」

 

「…それだけですか?」

 

「ん?他になんかあったのか?」

 

「……いえ、なんでもありません、お礼を言ってきます」

 

「また、まだ動くな、帰るのは明日だ、明日になってからでも十分だろ」

 

「………そうですか」

 

 

 

 

 

提督 三崎亮

 

「んじゃ、また後でくるわ」

 

やけに何かを気にした様子が気になる

こいつは元々閉鎖的でここに強い思い入れがあることは知っている

俺の読みだと二択なんだが、まあ多分こっちだろ

 

「よぉ、色男」

 

まさか本当に意識不明だとは思わなかったが

現実としてそうなっている以上はそう言うことだろう

 

「ふーん…原因不明か、案外ネトゲしてたら、なんてオチかもな…せっかくだしログでも見せてもらうか」

 

執務室にでも行けば誰かいるだろ

 

「邪魔するぜ」

 

「邪魔するんやったら帰ってや〜」

 

「あいよ、んで、入っていいか?」

 

「おおっ!偉いノリええやんかー!嬉しいわぁ!」

 

「昔関西人の知り合いがいたからな、で?提督代理殿は?」

 

「今はおらんで、用があんのやったら伝えといたるけど」

 

「んー、ここの提督のパソコンを確認したいんだが」

 

「ふーん、じゃあ工廠行って直接聞いてき、その方が早いわ」

 

「助かる」

 

 

 

「邪魔するぜ」

 

「うわぁっ!?……ああ、こんにちは、どうされましたか?」

 

「そんな驚くなよ……なぁ、ここの提督のパソコンを確認したくてな」

 

「…理由をお伺いしてもいいでしょうか?」

 

「意識不明になった原因がネットゲームしてたから、とかなら笑えるだろ?」

 

「…まあ、なんにせよ、あまり弄らないでください、プライベートなものですし」

 

「わかってるって、ある程度見たら終わる」

 

許可をもらい、パソコンを調べる

 

 

 

「へぇ…これは明らかに普通じゃねぇな…」

 

「わかるんですか?」

 

「お、おお、居たのか」

 

「まあ、壊されても困りますし…」

 

「ん…?なんでこれ……なあ、まじでネトゲしながら意識不明になったのか?」

 

「……その…現実で、意識不明になったと聞いてますけど」

 

「…………まさか…こっちに出てきたってことか?」

 

「…はい」

 

この質問の意味が理解できるならそう言う事だ

カイトは力を使って、現実に出てきた

そして何かをなしとげようとしているのか、それとも失敗したのか

 

「わかってる事を全部教えてくれ、力になる」

 

「…その……」

 

明石の話ではカイトはおそらくもうそれをやり遂げたらしい

ウイルスバグや、変異個体を倒すことが目的だったと

だが、実際は何をやり遂げたのかがわからない上に、一部のメンバーは特殊な力を手に入れ、それに振り回された

そして、鎮守府から離れたところに、謎のクリスタルがあり、そこにカイトを見たと言うものもいる

 

「なるほどな、全くわかんねぇけど、現実に出てこれたのか…」

 

「…どうしました?」

 

「いや、面白くなってんなと思ってよ…邪魔したな、またくるぜ」

 

 

 

工作艦 明石

 

全く心臓に悪い、せっかく、このスマホと、紙に書かれた電話番号について調べていたのに

このスマホは提督のものじゃないことは間違いなく、さらに電話番号はどこかの一般的なそれに見える

 

それよりも何よりも、速く済ませないと曙とも約束があるのだ、ネットゲームから救い出す、とてつもない話だが、やれることは全てやる

 

 

 

 

『もしもし、どちら様ですか?』

 

女性の声

しまった、何か合言葉みたいなものから来ると思っていた

まさか一般家庭みたいな対応されるなんて

 

『…悪戯か?』

 

「す、すいません!私、離島鎮守府所属の明石と申します、あの、その…!」

 

『成る程、要件を言え』

 

「えっと、その…」

 

『あまり時間がないんだ、速く要件を言え」

 

「その…この番号が書かれた紙をもらっただけで…その…」

 

『…誰にもらった?』

 

「ああ、その、気づいたら持っていたと言うか…」

 

『ふざけているのか?』

 

「い、いえ、決してそんなことは…」

 

『まあいい、工作艦明石…成る程、現在は提督代理か、流行病で倒れたことにして…ふむ…成る程な?』

 

「え、あの…なんで…」

 

全部筒抜けになってる…?

 

『この方が話が早いだろう、まず何が聞きたい、今疑問なことを言えばいい、いわば私は情報屋だ』

 

「…その…提督を助けたいんです…どうすれば…」

 

『それは無理だ、私にはそんな力はない、他のことにしろ』

 

「じゃ、じゃあ、なんで提督がこんなことになったのか…」

 

『データドレインで自分を保存したからだ、そのパソコンのデータを見ればわかる、ふむ…まあ、そのうち目覚めるだろう』

 

「本当ですか!?いつかはわかりますか!?」

 

『そこまでは知らないが、氷が溶けるように、自然と目覚める」

 

「よ、よかった……」

 

正直、もう目が覚めないと思っていた

 

『ドレインのデータを解析するのは楽ではない、これについては高くつくとカイトに伝えておけ、そしてその端末についてだが』

 

「こ、このスマホですか?」

 

『ああ、それだが、それもそれで改変されたデータの一部だな、データドレインによって生み出されたものだと思っていい、そして私に連絡を取らせた、ふむ、案外カイトは自由に動き回ってるんじゃないのか?』

 

「……だとしたらどんなにいいことか…」

 

『なんにせよ、また連絡しろ、ただし、夜と土日はダメだ』

 

「は、はい!」

 

『ついでに、私の名前はヘルバだ、よく覚えておくといい』

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 

 

「ふぅ……よかった…」

 

提督はちゃんと帰ってくる

それならそれまでここを守る

 

「大丈夫、私ならできる」

 

「あら、明石、電話終わったの?」

 

「うわぁぁ!?あ、曙ちゃんっ!」

 

「大丈夫よ、立ち聞きなんてしてないから……ほら、行くわよ」

 

「あ、うん…」

 

心臓に悪い…

 

 

 

 

「いい?まず私たちは右も左も分からないところに行くの、だから、準備は万端に」

 

「それは?」

 

「説明書と攻略本、呉のクソ提督からせしめてきたわ、これを読んで、乗り込むわよ…!」

 

「あ、あの…あんまり無茶なことしちゃダメだからね?それもともとネットゲームでのものだし、目をつけられて奪われたり、壊されたりしたら取り返しつかないから…」

 

「……それもそうね、でもネットゲームに持ち込めるとは限らないし、まずは試しよ」

 

 

 

 

 

「ちょっとまだなの!?」

 

「キャラメイクって難しくて…」

 

「適当でいいって!速くしなさいよ!」

 

 

 

「そのキャラクター、なかなか可愛いね」

 

「……はぁ…なんでなのかしら…」

 

「どうしたの?」

 

「名前みた?これ…」

 

「…カイトってなってるね…」

 

「キャラメイクがない時点で気づくべきだったわ…クソ提督のキャラをそのまま使ってることになるみたいね」

 

「………代わろうか?」

 

「いや、これでいいわよ……えーと…あ、これね、成る程、これがこれで…」

 

「うーん、情報収集も何もなさそうだけど…」

 

「おい、お前ら」

 

「…何よ、あんた」

 

「初心者か?俺の名前はキソ、お前らに最高のギルドを案内してやるぜ?」

 

「………なんか覚えがある名前ね」

 

「…たしかに」

 

「ん?ああ、たしかに俺は昔の艦の名前を使ってるからな!有名だからなー!ははは!」

 

「…マニラで大破着底してそう…」

 

「うるっせぇな!それでも最後まで頑張ってたんだよ!悪いか!?」

 

「……えっと…呉の所属の方ですかね…」

 

「………知らないなぁ、そんな鎮守府」

 

「…昨日北上に真っ先に落とされてたわよね」

 

「………マジかぁ…マジかぁ……」

 

「あ、あの、合ってます?」

 

「うるせぇ…合ってるよ畜生…!」

 

「あ、私曙だから」

 

「私は明石です」

 

「……お前らかよ!!」

 

 

 

「ふーん、気分転換ねぇ…とりあえずメンバーアドレス交換するか?」

 

「いいわよ、ほら」

 

「……っと、こうかな…」

 

「よし…ん?明石はそのままなのに、曙はカイトなんだな、キャラメイクもそうだし、お前詳しいんじゃないのか?」

 

「……その、これ、借りてるキャラだから…」

 

「へぇ…そいつ結構凝った造りにしてるなぁ…いろんな資料で見るのにそっくりだぜ!」

 

これ本人のやつですって言ったら凄いことになりそうですね

 

「しっかし、いいなぁ……そこまで揃えるってなると結構レベル高くてさ、昔のイベントの限定品とかもあるんだよ、似たやつはデフォであるけどな、その見た目で歩いてたらうるさいやつとかも出てくるだろうから気をつけな」

 

「ふん、こんなもんに目を白黒させてるやつの気が知れないわ」

 

「いや、それ本当にすげぇんだぜ?人にやっちゃとんでもねぇ額を出す事もあるくらいだ」

 

「へぇ…これそんなに凄いんですか」

 

「ああ!カイトっていやぁ、ゲームとは言え伝説のヒーローだしなぁ…俺らも似たようなもんだけど、ゲームで世界を救ったってなると近い存在に感じるんだよ、だから自分もってさ」

 

「…わからないでもないわ、私たちが戦艦を羨むようなもんでしょ?」

 

「…俺で言えば昨日の姉さんだがな」

 

「…あれは凄かったわ、意味分からなかったもの」

 

「そうだ、今度色々教えてくれよ!普段姉さんがどんな練習してるのかとか!」

 

「そんなこと直接本人に聞きなさいよ!鬱陶しいわね!」

 

「そんなこと言うなって!代わりに俺のギルドを見せてやるから!な!な!」

 

「ま、まあ、私が教えるので、今日のところは…」

 

「よし!決まりだな!じゃあこれ、ギルドキーだ、さあ行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

「ガビだぞ(^ω^)」

 

「うわっ何このいかつい赤いおっさん!」

 

「うちのギルマスだ、俺らのギルドはこのゲームで一番でかいんだ」

 

「へぇ…」

 

 

 

 

「なんにも有益な話はなかったわね」

 

「そうですね…」

 

「ん?何か知りたいことがあったのか?」

 

「カイトのことについてよ、昔のことじゃなくて最近の、ね」

 

「もう何年も前に引退したって話だが……いや、5年くらい前にもいたって話だな」

 

「ふーん……最近はないのね」

 

「気になるなら調べといてやるぜ」

 

「お願いします」

 

「おうよ、じゃ、今日はここまでだから、それじゃあな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。