元勇者提督   作:無し

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撃退

海上

駆逐艦 アオボノ

 

アオボノ「……」

 

朝潮「どうかしましたか?」

 

アオボノ「…いいえ」

 

加賀「…こんなところではやはりあまりいいものは食べられませんね」

 

朝潮「まあ、そうですね」

 

アオボノ「…静かな海です」

 

朝潮「何ですかいきなり」

 

加賀「爆音でその海を突っ切ってるのだけれど」

 

アオボノ「静かで、深く、暗く…恐ろしい海…」

 

海面は澄んでいるのか、濁っているのかもわからない、それほどまでに深い

 

アオボノ「…日の光の届かない深い海の底に…誰がいるのか、私にはわかりません」

 

加賀「ポエマーになったのかしら」

 

朝潮「さあ」

 

アオボノ「深淵を覗く時、また深淵もこちらを覗いてる、と言いますが…この真下には何がいるんでしょうね」

 

大きな鯨がすぐ下を通っていく

 

アオボノ(UMAも深海棲艦と呼べるのでしょうか)

 

加賀「…カップ麺が食べたいのだけれど」

 

朝潮「IHヒーターありますよ」

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地

駆逐艦 島風

 

島風「何アイツ…!」

 

長門「とにかく撃て!後ろの怪物は艤装だ!そっちに構うよりとにかく本体を叩き潰す他ない!」

 

戦艦棲姫、そう呼ばれる敵が出て来た

どうやって倒せばいいのか、同じ人の形をしてるのにわからない、皮膚が硬いのか砲撃を受け付けていない

 

北上「これ効いてんの?当たってんのに…傷一つつかないってマジ?」

 

夕張「あの化け物みたいなやつにくっついてる砲!当たったら不味い!」

 

声が混雑してる、誰が何を言ってるのか意識を割かないと聞き取れない

 

島風「長門さん!」

 

長門「道は開ける!はぁっ!」

 

砲撃で目の前の深海棲艦が消し飛ぶ

 

島風「斬る!!」

 

横回転をしながら斬りかかる

金属音がして弾かれて空中に投げ出される

肉を斬り裂くつもりだったのに、予想外の感触に手が痺れる

 

島風「硬い…というより…!」

 

島風(まるでバリアでも張られてるみたい、剣が届く前に壁に当たったみたいに弾かれた…!)

 

戦艦棲姫「フゥン…」

 

ガコンガコンと音がして怪物の主砲がこちらを捉える

 

島風「…あ…」

 

島風(これ、死ぬやつじゃん…)

 

島風「連装砲ちゃん!」

 

連装砲ちゃんに私を撃たせて吹き飛ばされる、一瞬前まで私がいた場所を巨大な砲弾が通り過ぎていく

 

島風「痛い…!でも、生きてる…」

 

明石(…あの砲弾…建物に当たった…というかあそこって…)

 

あの砲弾に当たってたら…想像したくない、水面を滑るだけで体が痛い

 

長門「島風!無茶するな!」

 

夕張「これって砲撃当たってるの?なんかおかしくない…?」

 

日向「長門さん、一緒に前へ!押し切るしかありません…!」

 

長門「ああ!」

 

島風(その辺の深海棲艦なら倒せるのに…)

 

格が違うというか、どうすれば倒せるのか…

単純にダメージになっていない?

 

長門「全主砲…斉射!」

 

日向「撃ちます…はっ!」

 

戦艦棲姫「グゥ…!?」

 

戦艦棲姫が大きく体を揺らし煙に包まれる

 

島風「効いた…!」

 

長門「装填…もう一撃だ!」

 

日向「はい!」

 

戦艦棲姫「ククク、ククククク…!」

 

煙を払いながらこちらに歩んでくる戦艦棲姫は脇腹が抉れ、血が滴り落ちていたのに…その傷口はどんどんと塞がっていく

 

長門「な…!」

 

日向(生半可な攻撃は効かず、その上…再生する…完全に化け物…!)

 

北上「これ勝ち目あんの…?…あ」

 

北上さんの撃った砲弾が戦艦棲姫の傷口を抉る

 

長門「効いたぞ…!?」

 

島風「…見えないけど、きっとバリアみたいな物に守られてたんだ…さっきの攻撃でそれが壊れたんだ…!」

 

夕張「バリアって…そんなものアリ!?」

 

 

 

 

 

駆逐艦 曙

 

朧「曙!聞こえた!?」

 

曙「わかってるっての…右!」

 

雑魚の群れが止めどなく溢れる

 

朧「明らかにおかしいよこれ…深海棲艦による国内の犠牲者は数えられてるだけではまだ4桁、私達が常日頃からの出撃でも結構倒してるのに…」

 

曙(ここへの襲撃にまるで総力をかけてるみたい、しかもそうだとしたら深海棲艦は統率が取れていて…)

 

朧「切り抜けた…!」

 

敵の群れを突っ切る事に成功した

これで敵は挟まれたという事になる

 

曙「…我ながら、無茶するわよねぇ…?」

 

朧「でも、アリだよ…いまなら…!」

 

これなら適当に魚雷を流すだけでも充分すぎる

 

朧「曙!」

 

曙「カバーするって…!」

 

前を向いて撃つだけで敵にダメージを与えられる、だけどそんな自由がいつまで続くか

 

朧「…曙!アレ…!」

 

曙「…あそこって…」

 

執務室だったところが崩落し、そこから煙が上がってる…

 

曙「……そんな事、知るか…!」

 

朧「曙!」

 

曙「アイツは悪運だけはある、今はここの敵を倒す事を優先する!」

 

 

 

 

 

 

執務室

キタカミ

 

キタカミ「ごほっ…ちぇっ…危ないっての…」

 

誰だ、こんなところに特大の主砲をぶち込んだバカは

崩落した壁から外をチラリと覗く

 

キタカミ「…アイツ…!」

 

戦艦棲姫がいる、わざわざここまで出て来た…翔鶴を暴走させる為に

 

ヲ級「グガァァァァ!!」

 

瑞鳳「けほっ…キタカミさん!このままじゃ…!」

 

キタカミ(翔鶴を殺そうとした途端にあの砲撃ぶち込んできて…あー腹立つ…決心鈍るでしょうが…!)

 

翔鶴に砲を向ける

 

キタカミ「…ごめん」

 

ガチッと音を立てて引き金を引く

砲火を浴びた翔鶴が崩れ落ちる

 

キタカミ「ああ…やっちゃった」

 

また、仲間を手にかけてしまった…

血溜まりの中に斃れてる仲間の顔を、もう一度だけ…

 

瑞鳳「…キタカミさん!危ない!」

 

ヲ級「ギィ…シャァァァァ!!」

 

牙を剥き、獣の様に噛みつこうとしてくる

これがかつての仲間だったのに、完全に尊厳を失い、化け物として死ぬしかない、化け物にされてしまって、人としての生も、価値も、全て奪われた仲間の成れの果て

 

キタカミ「…こんな時も体はしっかり動くなんて、嫌になるよねえ」

 

私の身体はまるでこうなると分かっていた様に噛みつこうとした翔鶴の口に主砲をぶち込む

こんな姿になった仲間にできることはただ一つ、思えば最初からそうすれば良かったのか

中途半端に期待させ、より辛い思いをさせるくらいなら

 

キタカミ「…恨んでくれて、良いよ」

 

もう一度だけ引き金を引く

 

瑞鳳「……」

 

キタカミ「こんなのってないよねぇ…ああ、あたしって最低だ、仲間を殺したのに…これが姉妹じゃなくてよかったなんて思ってる…自分が何したか分かってんのかなぁ…!アハハッ」

 

狂いそうだ

 

キタカミ「…ああ?…提督…?」

 

机の裏側にいたはずの提督の姿がない…いや、この辺りが瓦礫だらけで何が何だか…

 

キタカミ「…あれ…なんだろこれ…」

 

急に頭が震えるような、怖い、寒い

 

誰か助けて、慰めてよ、誰かそばにいてよ

 

イムヤ「…キタカミさん、これは」

 

キタカミ「……ああ、イムヤじゃん…アハッ…ごめん…ごめん」

 

イムヤ「……逃げましょう、急いで…深海棲艦が引き始めて…すぐにここにみんなが」

 

キタカミ(…みんなが…か)

 

キタカミ「そりゃぁ…不味いよねぇ…あはは…」

 

瑞鳳「キタカミさん…」

 

キタカミ(だめだ、体が震える、ああ…これが死にたいってやつ?ダメだ、助けてよ…誰か助けて…)

 

イムヤ「…瑞鳳さん」

 

瑞鳳「わかってる!」

 

瑞鳳に抱えられたまま施設を飛び出す

 

瑞鳳「…どこに逃げれば…」

 

イムヤ「この辺りの地理は頭に入ってます!山に逃げてその後海に出ましょう!」

 

瑞鳳「…遭難しそう…!」

 

キタカミ(…助けてよ…提督)

 

 

 

 

 

海上

戦艦 長門

 

長門「…何だ、なぜいきなり敵が退き始めて…」

 

日向「…一旦、勝利…と言って良いのではないですか…こちらも満身創痍ですが」

 

夕張「冗談じゃない…やりたい放題されて逃げられて…あーもう!」

 

島風「……提督…?ねぇ、あれ…」

 

長門「執務室か、あそこは…!」

 

日向「急ぎましょう!」

 

 

 

 

 

駆逐艦 朧

 

朧「何でいきなりこっちに…!」

 

曙「目の前で沈んでいってる…本当に何よこれ…」

 

朧「…アレ…!」

 

曙「ボスってわけ…」

 

怪物を従えた長身の女…

 

戦艦棲姫「…フゥン…?貴女…」

 

此方を見つめ、立ち止まった…?

 

戦艦棲姫「イイ目…堕チナイ?」

 

曙「何言って…」

 

戦艦棲姫「貴女ジャナイ」

 

朧「アタシ…?」

 

戦艦棲姫「待ッテルワ」

 

そう言って沈んでいった…

 

朧(…どういう、意味…?勧誘って事だよね、意味がわからない…)

 

曙「…朧、早く戻るわよ…見逃してくれるみたいだし」

 

朧「うん…」

 

 

 

 

 

執務室

駆逐艦 島風

 

島風「…な、何これ…!」

 

夕張「この死体は…!……なんだ、深海棲艦…か」

 

青葉「…これ…まさか……」

 

日向「瓦礫の下敷きになってるんじゃ!?」

 

長門「待て!中に居るなら慎重に持ち上げろ!潰しかねんぞ…!」

 

明石「あ、あの…そこに帽子が落ちてます」

 

瓦礫のそばに軍帽…

 

海斗「…誰か、いるの…?」

 

長門「ここか…よし、日向、そっちに回ってくれ」

 

日向「…せーのであげますよ…せーの!」

 

島風「い、いた…!」

 

血だらけで倒れてる…

 

夕張「引き摺り出すよ、明石!割とグロいから駆逐艦を近づけないで!」

 

明石「え、あ、わかった」

 

夕張「せーの!…よし」

 

海斗「ありがとう…助かったよ」

 

島風「だ、大丈夫…?」

 

海斗「うん、君達も…いや、怪我がひどいね…夕張さん、みんなの手当てをお願いできる?」

 

夕張「貴方も重傷者ですって…指、何本に見えますか?」

 

海斗「…4?」

 

夕張「2です、頭を強く打ってますね、それと…この部屋とあの死体…何があったのかも」

 

海斗「こっちからも聞かせてね」

 

夕張「…さて、怪我人の数が多すぎるし…とりあえず救急車はまだですかね」

 

青葉「…し、司令官…少しだけ良いですか」

 

青葉さんが話しかけたら、提督は少し俯いて顔を背けた

 

青葉「…司令官、そう、なんですか…?」

 

海斗「……」

 

青葉「な…何とか言ってくださいよ…ねぇ、司令官!」

 

明石「ど、どうしたんですかいきなり…」

 

夕張「…ねぇ、青葉さん…これ…いや、この人は…誰なの」

 

青葉「……翔鶴さん…」

 

島風「え…?」

 

部屋の真ん中で転がっている顔が潰れた死体が、かつての仲間…

 

海斗「……」

 

青葉「…否定、してくれないんですか…?」

 

海斗「……」

 

青葉「なんで…なんで、何も言わないんですか…!違うって……これは違うって…言って、言ってくださいよ…!」

 

海斗「ごめん…」

 

青葉「うぁ……あぁ…そんな…そんなのって無いですよ…!」

 

青葉さんが泣き崩れる

 

夕張「……青葉さん達が何を知ってるかは知らないけど、後で詳しく聞かせて、長門さん、提督を運んで、救急車が来るまでに手当てするから…みんなも、こっちに」

 

 

 

 

 

 

 

 

海上

駆逐艦 アオボノ

 

アオボノ「……」

 

加賀「泊地が気になるの?」

 

アオボノ「いいえ、私が気になるのはいつだって提督の事のみです」

 

加賀「…それは、罪悪感?」

 

アオボノ「何割かは、そして恋しいという気持ちもあります、何をしても、どんな時も考えてしまう」

 

加賀「……だから艦隊を抜けるつもり?」

 

アオボノ「私がやった事は許されませんから、綾波の様な事を言いますけど」

 

加賀「…あれは洗脳されて…」

 

アオボノ「そうじゃない、私は最低な殺人鬼、綾波と同類の……あの時の私は機械に徹しようとした、正義とか、悪とか…もっと言えば法律とか、道理、子供でもわかる様なやっちゃいけない事も何もかもから目を逸らした…人工知能のくせに」

 

加賀「人工知能…ね」

 

アオボノ「人の形をしてるのに、膨大なデータの塊なのに…当然である事を無視してしまった、誰がそんな私を許すのか、島風さんは許すと言った…それは…あの人が馬鹿だからです」

 

加賀「馬鹿とは、酷い言いようね」

 

アオボノ「馬鹿なんですよ、優しすぎる…曙みたい、アイツは厳しいふりしてるかもしれないけど…甘っちょろいところは、根は変わらない」

 

加賀「……もうすぐ着くわ、陸が見えた」

 

アオボノ「要件が終わったら…帰りましょう、早く」

 

加賀「……」

 

アオボノ「私は罪を背負いすぎた、提督はその罪を全部消し飛ばしたけど、私の心は未だ枷が掛かっている…わたしは今のままでは提督に全てを捧げられない」

 

加賀(まず、そもそも求められてないと思うのだけれど)

 

アオボノ「…今も消えない骨を砕く感触、食む肉の味…過去に囚われてる…と、形容するのは簡単ですが…私は結局、この苦しみから解放して欲しいだけなのかもしれません」

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