元勇者提督   作:無し

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余裕

船内

駆逐艦 綾波

 

綾波「…お…おお、お疲れ様です」

 

曙「今はそういうのはいいわ、綾波…綾波、アンタにしかできないことがあるの、頼める?」

 

綾波「え、ええと…お、お役に立てるのでしたら…な、なんでも…」

 

曙「アンタの制服、貸して頂戴…びしょ濡れでもう着れないのよ、私の服は」

 

綾波「だ、だから裸なんですね……ぬ、脱ぐの、手伝ってもらえますか…」

 

曙「失礼な、下着は着てるでしょ…はぁ…はっくしょん!!」

 

アオボノ「ついでに下着も交換してもらったら?これから雨になるし、乾かないわよ」

 

曙「梅雨だしね、でも下着は流石に嫌だわ」

 

綾波「わ、私は…敷ちゃんさえ、助かるのでしたら…なんでも…なんでもします…!」

 

曙「やめてよ…なんかいかがわしい感じするから気持ち悪い」

 

アオボノ「雨合羽出しとかなさい、交戦予想区域に入るわ、羅針盤が反応してる」

 

綾波「……あ、あの…」

 

曙「…わかってるって」

 

綾波「敷ちゃんを、お願いします」

 

無理矢理体を折り畳み、ただ平伏する、今の自分にできる最大限の誠意を伝えるにはこれ以外が思い当たらない

折れた骨が肉を割く感覚、激痛に顔を歪めたくなる

 

アオボノ「……綾波さん」

 

綾波「…は、はい」

 

アオボノ「惨めですよ、今の貴方は」

 

曙「ちょっと…!」

 

アオボノ「貴方に利用価値がないとわかれば…私は貴方を捨てます、殺すのではなくね」

 

手を踏まれている、焼け爛れた皮膚をねじられ、皮膚が破けて膿が流れ出る

 

綾波「…っ…ぁ…!」

 

アオボノ「貴方にもできることがあるでしょう?それを考えて、やってみてください」

 

綾波(…私に、できること…)

 

綾波「わか…ぁぐ……」

 

後頭部を踏まれる、顔面が床に押し付けられ、鼻の骨が曲がる様に痛い

 

曙「やりすぎよ曙!」

 

アオボノ「曙には関係ないの、良いですか、貴方はただ求める立場じゃない…求め続けることができる立場じゃない、覚悟しなさい、貴方が進む覚悟を」

 

綾波「…すす、む…?」

 

アオボノ「貴方はようやく前の自分に戻ろうとしている、あの無様な足技で私を蹴り殺したあの綾波に」

 

綾波(前の私…嫌だ、それだけは嫌だ…!そんな事になったら私はもう誰とも居られなくなる、敷ちゃんを危険に晒す、司令官へ恩を返せなくなる、朧さんに謝ることができなくなる、私は…)

 

アオボノ「…余計なことは考えないことです、前の綾波の方がよっぽど利用価値がある」

 

綾波「ぎゃっ!?」

 

蹴り飛ばされ、転がる

 

アオボノ「泊地襲撃の際、貴方だけは陽動だと気づいた、何が理由で敷波を優先したのか、それはどうでも良い…提督の護衛に行かなかった罪は重いですよ」

 

綾波「……」

 

綾波(…前の私の方が…良いの…?必要とされてるのは…あの衝動のままに人を殺せる私なの…?…私は…今の、必死に生きてる私は邪魔なだけ…目障りなんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

正規空母 瑞鶴

 

瑞鶴「形になってきた…って感じね」

 

矢を的から外す

 

陽炎「瑞鶴さん、お疲れ様です」

 

瑞鶴「ああ…うん、陽炎…お疲れ」

 

陽炎「…調子、戻りましたか?」

 

瑞鶴「……まあね、一応ちゃんと当たる様になってきたし…」

 

瑞鶴(でも、あくまでも機械の様な…わかるんだ、形しかできてないせいで私は…戦えない)

 

陽炎「よかったです、司令にも報告しておきます」

 

瑞鶴「…ッ…」

 

瑞鶴(まただ、頭が痛い…)

 

ずっと頭が痛い、目眩が一瞬して、倒れそうになって、声が聞こえる

 

『助けて』って、私に誰かが助けを求めてるのに…その声がはっきり聞こえるのに…

 

あのあと病院に行っても私は正常、声が聞こえるって言ったら急に異常者扱い、信用できなくて逃げ出す始末…

 

瑞鶴「……ねぇ、陽炎」

 

陽炎「はい?」

 

瑞鶴「…翔鶴ね…翔鶴って知ってる…?」

 

陽炎「…えっと、それは…どの範囲で?瑞鶴さんの姉妹艦、という意味でしょうか」

 

瑞鶴(みんなこう答えるんだ、まるで腫れ物を触るみたいにそういうんだ)

 

瑞鶴「…なんでもない、私ちょっと出てくるわ」

 

どうしたら、良いんだろう

 

龍田「あら、瑞鶴じゃない〜」

 

瑞鶴「馴れ馴れしいのやめてって言ったはずよ、龍田サン…出撃?」

 

龍田「南西諸島方面に出撃してる宿毛湾の艦隊の援護、私と秋雲ちゃん、陽炎ちゃん、着いてくる?」

 

瑞鶴「宿毛湾って…あそこは壊滅状態じゃ…」

 

龍田「あそこの人達ね〜…すっごく粘り強いのよ〜…何が目当てか知らないけど、意味があるはずよ〜」

 

瑞鶴(目的…意味…)

 

???『瑞鶴…助けて…!』

 

瑞鶴(またあの声…私には…貴方が誰かもわからないのに…)

 

???『瑞鶴…私はもう、仲間を攻撃したくない…お願い瑞鶴…私を…私を沈めて…!』

 

瑞鶴「…勝手なこと言わないでよ!翔鶴姉ぇ!」

 

不意に口を突いて出る言葉に龍田も私もキョトンとする

 

龍田「…翔鶴姉ぇ?」

 

瑞鶴「いや、これは…あーもう!時間ある!?」

 

龍田「少しくらいならあるけど〜」

 

瑞鶴「…付き合って、相談っていうか…愚痴に」

 

龍田「いいわよ〜」

 

 

 

 

 

龍田「つまり、毎日のようにそんな声が聞こえてるの〜?」

 

瑞鶴「翔鶴ってやつの記憶も…無いはずなのにあるのよ、何が起きてるのかわからない」

 

龍田「……私にもあるのよ〜、幼い頃、親の離婚で離れ離れになったお姉ちゃんと前世も一緒に戦った記憶」

 

瑞鶴「…なにそれ」

 

龍田「そのお姉ちゃんは、私がお姉ちゃんか持って思えるたくさんの人の中で一番強くて輝いてた、もちろん私の方が強かったけど、尊敬できる姉だと思えた…関係があったのはほんのわずかな時間だったけど、大切な思い出」

 

瑞鶴「…本当に?嘘じゃないの?作り物かもしれない」

 

龍田「世界5分前創造論、って知ってる?」

 

瑞鶴「…なにそれ」

 

龍田「世界が5分前に作られた…って言ったら否定できる?」

 

瑞鶴「そんなの、私が生まれた時から…」

 

龍田「今までの記憶、感情、感じたことや考えたこと、全てが作られたものかもしれない…」

 

瑞鶴「…いや、そんなわけ…」

 

龍田「証明できる?」

 

瑞鶴「……無理、だと思うけど…」

 

龍田「そう、無理なの〜♪」

 

瑞鶴(…ムカつく)

 

龍田「でもね、私はこう思った、たとえ証明できなくても、この気持ちは、この記憶は、この想いは…神様、創造主なんかじゃなくて私にしか創れない、積み重ねの記憶、私が本当に経験した、私が戦って、生きた記憶」

 

瑞鶴「…どうやってそれを証明するのよ」

 

龍田「ん〜?無理よ〜♪」

 

瑞鶴「………」

 

龍田「だけど、私はその記憶も、全部私だと思って受け入れたの、そうしたら…またお姉ちゃんに会えるな〜…って」

 

瑞鶴「…お姉ちゃんに……か」

 

龍田「…一緒にいきましょ?きっと、呼ばれてるから」

 

瑞鶴「……翔鶴姉ぇ…」

 

翔鶴『…お願い、瑞鶴…私を…終わらせて…』

 

瑞鶴「……人の頭に勝手に寄生して、好き勝手言うんじゃないわよ…!私が直接引っ叩いて…頭から追い出してやるから」

 

龍田「…来るのね?」

 

瑞鶴「当たり前よ!行ってやる…」

 

龍田「じゃ、早速いきましょ?何時間かすれば追いつけるわ〜」

 

 

 

 

 

 

与那国島

キタカミ

 

キタカミ「……何か来てる」

 

瑞鳳「…あれは…髪の青い曙?」

 

キタカミ「ちなみに今髪の色逆だからね、元々青かった方が青くないから」

 

瑞鳳「……頭が痛くなりそうですね」

 

キタカミ「…まって、アイツも出てきた」

 

戦艦棲姫…

 

瑞鳳「なんで…?アイツがわざわざ根城から出てくるなんて…」

 

キタカミ「…理由は知らないけど、そういやさ、まだデータが足りないから完全な予測」

 

瑞鳳「はい?」

 

キタカミ「アイツが深海棲艦を暴走させたり操るのって、近くないとできなかったりしない?」

 

瑞鳳「……だから泊地襲撃の際に自ら赴いた…と?」

 

キタカミ「何の狙いがあったのか知らないけど、何がしたかったのかも知らないけど、わざわざ安心して寝てられる住処を離れる理由わかんないしさぁ…それと、実は木曾から聞いてるんだよね」

 

瑞鳳「木曾さんから…?」

 

キタカミ「アイツを刺し殺してやろうと思ったけど、それもできない、体が動かなくなった…って、深海棲艦を暴走させたり操れるなら…ありえるくない?」

 

瑞鳳「…まあ、むしろ距離に制限があるなら助かるんですけど…

 

キタカミ「ホントそれね…さて、行きますか」

 

瑞鳳「どっちに手を貸しますか」

 

キタカミ「……ここは戦艦棲姫、って形になるかな…人質取られてるし、適当に曙達追い返せば話は終わりじゃん」

 

瑞鳳「わかりました」

 

キタカミ「……あー、胸糞悪いな…戦艦棲姫の事殺したいのに」

 

 

 

 

 

海上

駆逐艦 アオボノ

 

前方に深海棲艦の群れ、そしてそれに南西の方向から近寄ってくる2人…

 

アオボノ(…来た)

 

キタカミ(やる気満々…って感じだねぇ、協力申し出ても撃たれてたんじゃないのこれ)

 

アオボノ「お久しぶりです、キタカミさん」

 

キタカミ「んー、前会ってからはそんなに時間経ってないけどね」

 

アオボノ「もう顔を隠すのはやめたんですか」

 

キタカミ「……視界塞いで相手できると思えないし?」

 

アオボノ「嬉しいです、そこまで評価していただけて」

 

キタカミ「………」

 

アオボノ「…随分と、落ち着きましたね」

 

キタカミ「無気力なだけだよ、お互いに徳のない戦いをする事に」

 

戦艦棲姫「オイ」

 

キタカミ「黙れ、本当ならお前から先に殺したいんだ、真っ先に消したいんだ」

 

戦艦棲姫「…コレヲ見ロ」

 

戦艦棲姫のそばにヲ級が浮上する

 

キタカミ「っ…!…あたしはアンタとの契約に乗った覚えはない…!」

 

戦艦棲姫「関係ナイ、契約ハ結バレタ」

 

キタカミ「島風を差し出すつもりはないって言ったけど?これ以上の勝手は認めないって言ってんだよ!」

 

アオボノ(…へぇ…)

 

戦艦棲姫「差シ出ス必要ハナイ、私ガ自ラ貰イニ行ク…ダガ、眼前ノ此奴ラモ…面白イカモシレン…ソレニ」

 

アオボノ「ああ、何か私に?」

 

戦艦棲姫「オマエ、深海ノ気ガ強イナ」

 

アオボノ(深海の気配…?)

 

キタカミ「…どういう意味」

 

戦艦棲姫「コイツナラ優秀ナ兵士ニナル…ククク、オマエモ来ナイカ?」

 

アオボノ「……はぁ、馬鹿ですねぇ」

 

主砲を向ける

 

アオボノ「深海棲艦の側に着いたら提督と居られないじゃないですか、お断りします」

 

戦艦棲姫「ナラ、ソノ提督トヤラモ受ケ入レテヤル」

 

アオボノ「…あー、ごめんなさい中途半端に答えた私が悪かったですね、アンタらと交渉する気はないのよ、さっさと敷波を返して失せなさい」

 

キタカミ「…敷波ならウチで預かってる」

 

アオボノ「ってことは完全にアンタらに用は無くなった…さっさと帰れば命だけは助けてあげる」

 

戦艦棲姫「生意気ナクチダ、ナラ…コウイウノハドウダ?」

 

戦艦棲姫が手を叩くと深海棲艦が浮上してくる

 

アオボノ(…まるでなりそこないのような…普通のよりグロいわね)

 

キタカミ「お前…!」

 

戦艦棲姫「戦エ、サモナクバ…ワカルダロウ?」

 

キタカミ(言われなくても追い返すつもりだった…けど…)

 

アオボノ「その深海棲艦が何か……いや、もしかしてその深海棲艦は…」

 

キタカミ「…わかる?姉妹艦さね、あたしの…そして、今となっちゃ人質、沈んでほしくないから、死んで欲しくないから…あたしは盾にならなきゃいけない」

 

アオボノ「成る程、それで?」

 

キタカミ「……悪いけど、さっさと帰ってくんないかな…じゃないと殺さなきゃいけなくなるし」

 

アオボノ「殺す…ですか、残念、とても残念です」

 

キタカミ「…あ?」

 

アオボノ「キタカミさん、貴方も随分と落ちぶれてしまった…でも当然です、守らなきゃいけない物があると人は弱くなる」

 

キタカミ「つまり…負けないってわけだ」

 

アオボノ「キタカミさん、提督がお呼びです…敷波共々出頭していただきます」

 

キタカミ「…手加減しないよ」

 

アオボノ「今の貴方にはそんな余裕がない」

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