元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
提督 倉持海斗
帰投した艦隊を出迎えに表に出るとまず曙達と目があった
アオボノ「提督、申し訳ありません、キタカミさんは連れ帰れませんでした」
海斗「…わかった、敷波は?」
アオボノ「無事に、ですが詳しい検査が必要だと思われます…それとイムヤさんと、瑞鳳さんも保護しました」
海斗「休める部屋に案内してあげて、それが終わったら君も休んで」
アオボノ「ありがとうございます、ロシアに行った人たちは?」
海斗「昨日の時点で帰ってきて、今日は非番にしたよ」
アオボノ「夕張さんは」
海斗「医務室にいるんじゃないかな、あと、それ何?」
曙が持っている大きな布で包まれた何かを指す
アオボノ「…研究用の材料でしょうか」
海斗「研究…?」
アオボノ「それより、提督もまだ歩き回れる体じゃないはずです、お休みになったほうが良いかと」
海斗「全然問題ないよ」
医務室
駆逐艦 アオボノ
夕張「ひぇぇ…そんな大層なもの持って来られても…」
アオボノ「早くお願いします、それと夕張さんはネットには詳しいですよね」
夕張「え?まあ…そこそこ」
アオボノ「ヘルバに連絡を取りたいんです」
夕張「…ヘルバって…まあ、悪い人じゃないのは知ってるし…そうなると早いのは、The・Worldの公式のBBSかな、それかよもやまBBSっていうとこ、どっちでもいいから適当に質問してみたら連絡してるかと思うわ」
アオボノ「わかりました」
夕張「…ヘルバに何の用?」
アオボノ「最先端の研究所に用がありまして」
夕張「……ついでにこの腕も持って行ったら?」
アオボノ「私の技量でどうにかなる範囲までしか担当しません」
夕張「アオボノさんができない事ってむしろなんなの?」
アオボノ「身体能力を大きく超えた行動はできません、それから身体的特徴を生かした行動も真似するには限度があります」
夕張「例えば」
アオボノ「神通さんの蹴りは脚のバネをくまなく使い、軸脚も蹴りを前に押しだすサポートをすることで破壊力を上げています、これはそのままでは真似できません」
夕張「やってなかったっけ」
アオボノ「破壊力をあげるために全身のバネを使いました、勢いを集中させるために…ですが、あまり威力は上がりませんでしたし、隙もある、脚のバネだけを使うのが限度…オリジナルが完成され過ぎていましたね」
夕張「…威力以外は完璧と」
アオボノ「充分本人にも通用しました」
夕張「……この前ニュースでボロボロの神通さん達見たんだけど」
アオボノ「手合わせしましたから」
夕張「怖…」
アオボノ「私自身は強くないんですよ」
夕張「嘘だ」
アオボノ「誰かの真似をせず、私自身のスタイルで戦えば私は戦闘向きじゃない、相手の行動をよく見て指揮するほうが向いている、だから私はそれを自分の動きに当てはめました」
夕張「……それ、いってること無茶苦茶よ、誰でもできることじゃない」
アオボノ「でしょうね、でもモノマネは昔から得意でしたから、それよりそれはどのくらいで調べられますか?」
夕張「一度横須賀に持ち帰りたい」
アオボノ「ダメです、本部なんて信用できません」
夕張「…ここには研究用の機材も何もない、どうやって調べろって?」
アオボノ「……まあ、そうなるか…できる範囲の簡単なことだけでいいです、ヘルバに頼んでみます」
夕張「ヘルバは慈善活動してるわけじゃないんだし、そうそう手を貸してくれると思えないけど…?」
アオボノ「なら手を貸したいと思わせればいい、どんな手段を使っても」
夕張「……が、頑張って〜…」
執務室
瑞鳳
瑞鳳「少しの間お世話になります」
海斗「ゆっくりして行ってください」
瑞鳳「ゆっくりするつもりはないです、それより…あの曙についてなんですが」
海斗「…それは、どっちの?」
瑞鳳「…あー!ややこしい!青い方!」
イムヤ「瑞鳳さん、落ち着いて…」
海斗「曙が何か?」
瑞鳳「味方を見捨てて逃げるような事をして、何も処罰は無いんですか?」
海斗「……曙は最善を尽くした、と考えています」
瑞鳳「最善?アレが?もっとマシな言い訳が返ってくると思ってた…!」
イムヤ「…司令官、曙さんは…」
海斗「イムヤならわかるはずだ、曙は僕の考えを何よりも優先してくれる…僕は曙にキタカミを頼んだんだ、だけど曙は君たちだけを連れて返ってきた」
イムヤ「……わかります、けど…」
瑞鳳「話にならない…!」
海斗「キタカミはなんとしても連れ戻します、だけど現状この宿毛湾にはそれだけの力がない、残念ならすぐに助けに行くことはできません」
瑞鳳「それを私に言ってどうするつもりですか」
海斗「力を貸してください、お願いします」
瑞鳳「頭なんて誰にでも下げられる、戦わないことを選ぶのもそう、大体の人が戦うことを選ぶのは他に選択肢がない時と、自分が安全な時だけ」
イムヤ「…瑞鳳さんは何が望みなんですか?曙さんに処罰が降れば満足なんですか?それともキタカミさんを助けたいんですか?」
瑞鳳「…それは当然助けたい」
イムヤ「だったら、一緒に戦ったほうがいいのも…わかってますよね」
瑞鳳「……わかってる、だけど仲間をあんなにあっさり切り捨てられるなんて事が許せない、キタカミさんが私にとって特別な人だってことは確かに間違いないけど、それ以上に信用できないの」
イムヤ「…なら、他の人と組めばいい、ここに居るのは曙さんだけじゃない、信用できる人を探せばいい…違いますか」
瑞鳳「…そうだけど…」
海斗「そう言う事なら阿武隈がきっと力になってくれると思います、キタカミの事は覚えて無いけど、確かな腕がある」
イムヤ(…阿武隈さんか…この前会った時はよくわかんない事になったのよね…記憶が中途半端だからって事かな…)
瑞鳳「阿武隈…わかりました、今どこに?」
海斗「多分ランニングしてると思います、30分もすれば帰るはず」
瑞鳳「…ありがとうございます」
玄関前
軽巡洋艦 阿武隈
阿武隈「んー…よしっ、柔軟終わり…」
瑞鳳「阿武隈さん、こんにちは」
阿武隈「わっ、だ、誰?!」
背後からの声に驚いて飛び上がる
振り返ると病院で声をかけてくれたあの人がいた
阿武隈「…貴方は…」
阿武隈(何…この、感情…)
黒い、何か
瑞鳳「…何で私に敵意を向けてるんですか」
イムヤ「あ、阿武隈さん?」
…こっちの人は…敵だ
阿武隈「…じゃあ、2人とも敵…!」
瑞鳳「あ、ちょっと待って、何か誤解してない?」
イムヤ「あ、あの時は確かに深海棲艦を守ってたけど、今は敵じゃなくて、キタカミさんを助けるのを手伝って欲しくて…」
単装砲を向ける
阿武隈「キタカミ…助ける…?…貴方から…黒いものを感じる…貴方は誰?」
瑞鳳「黒いもの…?いや、いいや…私は瑞鳳、えっと…何も覚えてない?」
阿武隈「…瑞鳳……瑞鳳?」
記憶が、蘇る…
阿武隈「…キタカミさんの…記憶を奪った人」
瑞鳳「…そう、その瑞鳳」
瑞鳳(記憶が中途半端だ、とは聞いてたけど…これじゃ仲間になるどころか…)
阿武隈「……会わなきゃ」
イムヤ「へ?」
阿武隈「すいません、失礼します!」
思い出した…会えばきっと何かわかるんだ
住宅街
一軒の家のチャイムを鳴らす
不知火「はい……ああ、配達員の…今日は注文してませんけど」
インターホン越しにする声、何度か顔を合わせた事がある相手だと確信して問いかける
阿武隈「キタカミ…って人、知りませんか…!」
不知火「…キタカミ…?…キタカミ、キタカミ…」
反芻するように何度かその単語を繰り返す
不知火「……貴方のお名前は」
阿武隈「阿武隈です…宿毛湾泊地所属、軽巡洋艦、阿武隈」
不知火「…宿毛湾…阿武隈…キタカミ…成る程、私は不知火、か…」
阿武隈「……何か、思い出しましたか」
不知火「ええ、きっと全てを……待ってください、今出ます」
少しして玄関のドアをが開く
不知火「さて、何のようですか」
阿武隈「瑞鳳、って人はわかりますか?」
不知火「わかります」
阿武隈「イムヤ」
不知火「名前だけなら」
阿武隈「……私は、記憶が完全に戻ってなくて、この2人にキタカミを助けるのを手伝え、と言われた……どうすればいいかわからないんです」
不知火「…成る程、キタカミさんを覚えてないんですね」
阿武隈「……キタカミって、誰なんですか」
不知火「私にとってキタカミさんは師匠です、貴方にとっても、」
阿武隈「師匠…」
不知火「…一緒に助けに行きましょう、手のかかる師匠を」
阿武隈「…うん、わかった…」
阿武隈(…きっと、キタカミを助ければ記憶が戻る…そうすれば全部わかるはず)
自室
駆逐艦 綾波
敷波「綾姉ぇ、なんか、おかしいよ?大丈夫?」
綾波「え、そ、そんな事ないよ?」
敷波「…そーかな…」
綾波(…敷ちゃんの足を見てすぐ可能性には気づいたけど、詳しく観察して確信した、この脚は簡単に言えば別人の物、それも死んだ人間の物…)
敷波(…綾姉ぇはこれでようやく何も負い目がなくなったんだ、もっと元気になってほしいんだけど…アイツも綾姉ぇの命をもらうって言ってたのにボコボコにされて逃げたらしいし)
綾波(……調べるべきだ、調べなきゃいけないんだ…敷ちゃんのために、司令官にも伝えなきゃいけないんだ…だけど…私は、私はこんなことを……相手の意思など歯牙にも掛けず、興味のために全てを…)
綾波「おえっ…おええ…」
敷波「わっ!?綾姉ぇ…嬉しいからって吐くなよ〜…」
綾波「うえっ…ご、ごめんね敷ちゃん…私、本当に嬉しくて…」
綾波(……嫌だ、もう敷波を失いたくない、護らなきゃいけない、敷波は私が守らなきゃいけない…だから、だから私は…口を噤む、きっと私が頑張れば何かわかる、だから私が…)
部屋の扉が叩かれる、心臓が強く跳ねる
敷波「はーい」
アオボノ「青い方の曙です、綾波さんは」
綾波「は、はい」
歯を打ち鳴らしながら震える手で扉を開ける
アオボノ「どうも…あなた、すごい汗ですよ」
綾波「す、すす…すみません…な、何でしょうか…」
アオボノ「…貴方に仕事を頼みたくて、研究室を作るつもりです、そこで貴方には深海棲艦について研究してもらいたいのですが」
願ってもない
綾波「…やります、やらせてください」
アオボノ「…それではお願いします、それと…敷波…」
何かを察して曙さんが言いかけた言葉を呑み込む
アオボノ「気づいてましたか」
綾波「……あ、姉…ですから」
アオボノ「…なら、ご自由に」
綾波「…あの、あ、曙さん…」
アオボノ「はい」
綾波「…あ、貴方は…」
アオボノ「大丈夫、提督には言いません、それでは」
綾波(…違う、何か違う、私の考えてることとは何かが違う)
アオボノ(綾波に気づかれるとは、意外だったな)
深海棲艦基地
キタカミ
キタカミ「かはっ……ぁが…」
戦艦棲姫「貴様ノセイデ!貴様ノセイデ!!」
キタカミ「…は……はは…何?あたし、なんか…したっけ」
戦艦棲姫「貴様ガ負ケナケレバコンナ事ニハ…!」
キタカミ「…無理無理、あんなの…勝てるわけないじゃん、あたし、弱いらしいし…?」
戦艦棲姫「オマエモ深海棲艦ニ成レ…!」
復活したバケモノ型の艤装が大口を開けて近づいてくる
キタカミ(うわ、こっわ……死ぬのってやっぱ怖いなぁ…)
戦艦棲姫「喰ラエ」
ばくりと首から下が怪物の口内に入り激痛が走る
キタカミ「がっ…!あっ……」
すり潰されるように咀嚼されている感覚
戦艦棲姫「貴様ニハ特別ニ一番苦シイコースヲ用意シタ」
キタカミ「…ぐぁ…あああ…」
キタカミ(声、出な…もう体なんて潰れてるのに…何でまだ意識が…!)
戦艦棲姫「生キタママ、深海棲艦ニナレ」
キタカミ「っあ……」
戦艦棲姫「ヨウコソ、深海ニ」
怪物に吐き出され地面に落ちる、体は私の意思を無視して立ち上がり、両手を視界に入れる
キタカミ(…肌が、白い…)
戦艦棲姫「意思ノアルママ、カツテノ仲間ト殺シアエ」
生気のない両腕、首から下だけが深海棲艦となった事をはっきりとわからせられた…
キタカミ(ハハ…最悪だ、よくもまぁ、こんな事に…いや、自分で選んだ道なんだ)
戦艦棲姫「貴様ノ姉妹ニモ、モウ遠慮ハシナイ…共ニ死ネ」
キタカミ(……そら、そうなる…か…やだな、仲間を沈めるのは…誰か、止めて…)