元勇者提督 作:無し
「俺がここの提督だ、これからよろしく頼む」
「はい、駆逐艦朝潮です、こちらこそよろしくお願いします、提督」
軍服に身を包んではいるがまだ若い、話を聞けばまだ新人らしい
しかし戦果は上場、まともに教育を受けたエリートだ、とも
「お前の前いたところは…」
「最前線です」
「だったな、じゃあ同じ出身の者に案内を任せる、此方司令室、軽巡川内は至急来てくれ」
懐かしい名前が呼ばれた、私が着任して一ヶ月共に過ごした仲間の名前だった
すぐにドアがノックされる
「川内です」
「入れ」
最後に見た彼女と同じ彼女が、また居る
しかし、あの張り詰めた雰囲気は何処かへ消えたような
あそこにいたみんなの、死への恐怖と生への渇望が…
感じられない
「朝潮を案内してくれ、同じ鎮守府の出身だったよな、積もる話もあるだろう?」
「わかった、ありがとね、行こう、朝潮」
会釈し、部屋を出る
どうやらこの若い提督は艦むすとの距離感が近いらしい
それがいい事なのかは、わからなかった
「川内さん」
「……おめでとうって言っていいのかな、朝潮」
「…はい、あの子達のことは、受け止めた上でここに来ています」
「…誰が…?」
「霰と大潮……」
「…ごめん」
「川内さんは何も悪くはないんです、せっかくここにきたんです、本土を案内してください」
「…そうだね」
「あと、聞きたいことが」
「何?」
「…随分雰囲気が変わりましたね」
「……ここは出撃が多くないから…練度の高い子が本土防衛のために集められる場所だし…」
「…そうですか、なんで…あの子達はあそこに…」
「たとえ沈んだとしても、素早く練度を上げていろんな場所に配置する方が、効率はいい、それがトップの考えらしいよ」
頭に血が上りそうになる
「川内さんは何とも思わないんですか?」
「……思わなかったと思う?やめた方がいいよ」
「何故」
「結構面倒なんだよここ、大本営の目が光ってて、私達の自由なんて本当に仮初の物、余計なことしても解体されるだけ、情報操作もお手の物ってね」
「……解体された人が?」
「多分ね、私も実際その時いなかったけど、電ちゃんはもう見てない、ね」
「……ここの提督は何も言わなかったんですか?」
「掴み合いの喧嘩まで行ったって、殴り合いにはならなかったらしいけど、正直パフォーマンスだとしか思えないけどね……」
「神通さんは?」
「那珂ちゃんと出かけてる、多分ね」
「姉妹が揃ってるんですね…」
「……うん、私達は…」
「幸運だったとでも?」
「……ごめん」
「実力です、たとえ運が良くても、艦種の違いで強くて生き残っても、実力だと胸を張って言ってください」
「……わかった」
「大丈夫ですよ、だれも恨んだり憎んだりしませんから…」
「……私ね、本当に嬉しかったんだ、朝潮が来てくれて、またあそこから1人抜け出せたんだって」
「でも私は、ほかの人を置いて来た最低な奴です」
「大丈夫、絶対そんな事思わせない、私が…」
「いえ、私です、私が、この今を変えて見せます」
「…そっか、やっぱり同じだよね」
雰囲気が張り詰める
「いいね、そうなんだよ、そうじゃなきゃいけなかったんだから」
「忘れないでください、沈んだ仲間の為に、私達は戦うんです」
「忘れた事はないよ、あの提督の事も」
「……司令官は思ったより、私達のことを大事にしていましたよ」
「知ってる、全部聞いてる、だから、大丈夫」
「……さて、ここを案内してください」
「おっけー、任せといて」
ところ変わって離島鎮守府
正規空母赤城
「提督、貴方を責めるほど私は考えなしでは有りません、どうか頭をあげてください」
「駄目だ、僕のせいで君たちをここまで傷つけている、ただの自己満足なんだよ、だけど、許してくれるなら僕が納得できるまでこうさせて欲しい」
「……加賀さん、何か言ってください」
「………永遠にそのままでいてください」
「…加賀さん…」
「赤城さんは、何も思わないのですか?彼女は…翔鶴は貴方をあんなにも……」
「それとこれとは話が別です、提督は悪戯に翔鶴を沈めたわけでは…!」
「摩耶さんは、あんなに手厚く、看取られたのに、あの子は孤独だった」
「……」
「もし、あの子の妹がここに来たら?私になんて言えっていうの?なんで摩耶さんのように必死に庇ってくれなかったの?何故……何故私が貴方を、憎まなければ…恨まなければならないの!!」
「加賀さん…」
「何か言ってください、私はこれ以上待てません、今すぐにでも貴方を…殺したい…」
「…それだけは私が許しません、それに翔鶴だってそんなこと望んでなんか…」
「…いや、もし、それで納得するなら、僕はそれでもいいんだ、僕がここにきて、23人、殺した」
「提督が殺したわけじゃないでしょう!」
「変わらないよ、僕が、死にに行くような、指示をした、それがたとえなんであっても変わりはしない」
「……死にたがっている奴を殺しても、誰も浮かばれないんです」
「そんなに死にたがってるように見えるかなぁ…」
「…私も死にたいから……」
「……みんなそうなんですよ、私達みたいに、もう色んなところに同型の艦が着任して、配属先がない人は、もう、みんな」
「……救いなんてないんでしょうね」
「あるよ、まだ、諦めちゃ駄目なんだ、きっとある、僕らは諦めたら止まる事もできず、絶望に沈むだけなんだから、まだ、戦わなきゃいけない……」
「それは他人の死を喜べと?どこかの私達が死んでその後釜に入れる時を待てと?」
「そうかもしれないし、その前に戦争が終わるかもしれない」
「……生きることが救いなのでしょうか」
「僕からすれば、ただ、平和に生きてくれれば、それは君たちが幸せなんだと胸を張って言えることなんだ」
呉鎮守府
提督三崎亮
「なんで俺が軍人になんかなったんだろうな」
「さあな、だが、私はそんな気がしていたよ、君のような正義感の強い男なら、こうなるだろうと」
「……そうかぁ?」
「なあ、亮、君は自分を勇者だと言えるか?」
「…あの事か?ンなわけねぇだろ、ああなったのも全部偶然だ」
「そうか、君らしいな」
「……で、なんでわざわざこんなとこまで来たんだ?」
「…旧友に殴られに行く前に、心構えでもしようと思ってな」
「殊勝な事で」
「いつか君にも合わせたいよ、多分、君とも面識がある」
「俺が知ってる奴か?」
「いつだったかなゆらぎの話、君以外からも聞いたことがあったものだね」
「……そいつは気になるな、オレの先輩って訳か?」
「そうなる」
「いきなり人を殴るようなタイプだとは思えないけどな」
「それだけのことをさせている、ヒトの形をしたものを殺し続ける仕事を、させている」
「……なら殺されてこい」
「優しい奴でね、殺しはしないだろう」
「同じ提督業でも、そんな地獄なんて想像できないな」
「……いつか見にいけばいいさ、だが、私の予想が正しければ…」
「お前の考えはだいたい外れる、期待しねぇよ」
「そうか、それではな」
「ああ、またな、拓海、次はサッカーでも見に行くか」
テーブルに広げられたカードの束を片付ける
「久しく観てないな、それも良いかもしれない」
駆逐艦荒潮
「ねぇ、提督、どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
「そんな風には見えないけどぉ…」
「…お前もあそこの出だったな」
「……なぁに?あそこに戻れって話?」
ふざけた風を装っているが顔が強張ってしまう
「…言わねぇし、たとえそうでも言えねぇよ」
「上からの命令に逆らうと、後が怖いわよぉ」
「気にすんな、さて、朝潮がここに着任した」
「え…?」
そんな訳はない、姉は死んだ、私を助けに来て
二度同じ失い方をしたのだ
「おまえが出撃中だったから川内に丸投げした、探せばまだその辺に居んだろ」
「わかったわぁ、ありがとねぇ…!」
「おう、仲良くな」
「もちろんよぉ」
姉さんを探す、同じ姉さんを
あの日沈んだ姉を探す
あの日の姉を今こそ取り戻そうと
「姉さん!」
「…貴方は、荒潮ですか…本日よりこの鎮守府に着任しました、朝潮です、同型艦として、よろしく」
「おかえり荒潮、情報が早いなぁ」
わかっていたのだ、同じな訳がないと
「…姉さん、私を覚えてないの…?ねぇ…お願いよ…」
だけどすがりたかった、私を守って散って行った姉を、今度は守りたかった
「…前任の朝潮…ですか」
「そうみたい、だね…」
「前任って何よ!姉さんは…姉さんでしょう…ねぇ、お願いよぉ…!」
「すみません、荒潮、私は、貴方の知ってる朝潮とは、違うんです」
聞きたくない
「ですが、その代わりになれるように、貴方の支えとなる為に、必死に生きていきます、なので、どうかこれからよろしく願いします」
「…わかったわぁ…そりゃあ、そうよねぇ…いきなり……ごめ…あ、違うの…これは…」
涙が溢れる、見ず知らずの姉の優しさからなのか、それとも二度と届かぬと思い知らされた悔しさからなのか、ただ泣く
必死に泣く、止めようとは思えない、遠くにいる姉への弔いと、もう大丈夫と言うメッセージが届くように
「ごめんなさいねぇ…もう大丈夫、ほんとにね」
「…心配しないでください、私は…貴方を助けるために死んだりしません、一緒に帰って見せます」
「…嘘は嫌よぉ?」
「大丈夫ですから…誰も貴方を1人にしないと、約束します」
「じゃあ、許してあげるから離してぇ?」
「それはできません、ですがこのままでは動けないので、代替案として手を繋ぎましょう」
「…わかったわぁ…」
手をつなぎ、確信した、姉妹が死んでいる
だからこんなにも力強く、臆病に手を握っている
さっきの言葉は、生半可な覚悟では言えない言葉だろう
だから、もう、信頼できる姉を私も離したりしない
「…司令官も意地が悪い、やっぱり、私が慢心なんかで…」
姉の言葉は聞こえないフリをした
きっと、最後まで生き延びると誓って