元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
駆逐艦 アオボノ
アオボノ(…まあ、結論はそこか)
綾波「…お、おそらく、す、推測通りなら何らかの形で…」
アオボノ「いつ?どうやって…どうやって私は仕込まれた…?病院で入院している時か?あの時に私は自分であることを失った…というのか」
綾波「お、おそらく…」
アオボノ「……」
書類を睨む
アオボノ「私の体内から何かを送受信し続けている…まるで爆弾のような物ですね、信号を受信できなくなれば私は爆散するのでしょうか」
綾波「…ど、どうする…んですか」
アオボノ「また宿毛湾を去ることになりそうですね、私に何の恨みがあるのやら」
綾波「…た、多分逆…」
アオボノ「逆、ですか」
綾波「発信してるのは…せ、戦闘データ…あ、曙さんを…引き込みたい人がいる」
アオボノ「かつてのあなた達のように?」
綾波は黙って頷いた
アオボノ「…では脳みそまで弄られる前に…ここを去りますか」
綾波「ど、どうするんですか」
アオボノ「提督に償う前に死ぬつもりはありません、かと言って誰かに利用されるのは嫌です、なので…修練を積む?いや、ここは大人しく隠居…ゲームしながら隠居も楽しそうですね、発つ前に提督に挨拶して来なくては」
綾波「…と、止められますよ」
アオボノ「でしょうね、やっぱりやめておきます…私は提督に言われたら従うしかありませんから…」
綾波「…こ、これ…け、携帯の番号」
アオボノ「…受け取っておきます、と言っても私は携帯を持ってませんけどね…戸籍があるあなたとは違って私は死人ですから」
綾波「…こっ…公衆電話…」
アオボノ「今稼働してる数は20万台を切ったそうですよ、果たして見つかるやら」
綾波「……そっその…れ、連絡!絶対に…絶対にしてください…!」
アオボノ(…意外ですね、知らないうちに随分と綾波に気に入られていたらしい)
アオボノ「…もしかして、私のことを妹だと思ってます?」
綾波「…だ…ダメですか」
アオボノ「…クフッ…アハハ!貴方が私の姉?馬鹿馬鹿しいにも程がある」
綾波「…ごめんなさい…ず、図々しいのは、知ってます…だけど…な、仲良くなれて…嬉しくて…」
アオボノ「……良いですよ?私に人の肉を無理やり食べさせたり蹴り殺したり…色々やってくれた貴方が私の姉を名乗るのならまず、朧に許しを乞うべきだとは思いますけど…まあ私は構いませんよ?」
綾波「ご、ごめ…ごめんなさい…」
アオボノ「次会う時までに朧と仲良くなっておいてくださいね、お姉ちゃん?」
綾波「お……は、はい…!」
アオボノ(まあ、綾波からすれば心の拠り所が欲しいとか、そんな理由なんだろうな)
アオボノ「提督にはちゃんとこう伝えてください、私は…」
執務室
提督 倉持海斗
海斗「つまり?」
綾波「あ、曙さんは…じ、自身に埋め込まれた物が何か…取り出せる物なのか…そ、それを確かめられるまでは戻りたくない、と…とにかく安全な場所に行く…って…」
海斗「キミを疑うわけじゃないけど、間違いなくそう言ったんだね」
綾波「はい…」
朧「…綾波、嘘だったら…撃つよ」
綾波「…間違いありません、わ、私は…間違いなく、そう聞きました」
海斗(そう聞いた…か、つまり綾波は何かを察してるんだろうな)
海斗「朧、悪いけどみんなに伝えておいてくれる?」
朧「…わかりました」
朧は部屋を出た
海斗「綾波」
綾波「…はい」
海斗「キミの考えを聞かせて」
綾波「…お、おそらく…い、今は何をされたのかを探ることに徹してる、とおもっ…思います…」
海斗「その後、どう動くと思う?」
綾波「……わかりません」
海斗「まったく想像がつかない?」
綾波「…いいえ、な、何でもやりそうで…ど、どれを選択するか…」
海斗「有力な候補とかはあるのかな」
綾波「…う、埋め込んだ相手を…消すとか」
海斗「…とにかく、見つけて連れ戻したい…けど、何を埋め込まれたか調べないうちは危険だね…でもそれなら僕たちで守れば良い」
綾波「……」
海斗「綾波?」
綾波「し、司令官…目を、目を見せてもらえませんか…?」
海斗「目?」
綾波が近づいて目を覗き込んでくる
綾波「……」
海斗「…綾波?」
綾波「…し、失礼しました…な、なんでもありません」
海斗「目がどうかしたの?」
綾波「…ひ、ひどく充血してるので、せめて今日は早い時間に眠って下さい、が、眼精疲労にはビタミンB2が良いので…他の栄養も含む鰻など…た、たべて、よく休んでください…ま、間宮さんに用意してもらいます、ので…」
海斗「わ、わかったよ」
綾波「し、失礼します」
綾波は一礼して部屋を出て行った
海斗「…うーん…弱ったな」
東京 喫茶店
駆逐艦 曙
曙「っはー…こっちは物価高いわね、パンケーキが千円超えるなんて…やってらんない」
亮「お前ちょっと口閉じてろ」
大井「……」
千草「…あ、あの?」
曙「ま、いいや…えっと…何で日下千草まで出てきてんの?」
千草「えっと…一応姉として…と言うか、貴方と会ったこと、ありましたっけ…」
曙「一方的に知ってるわ、艦娘の駆逐艦曙、よろしく」
日下千草に手を差し出す
千草「ど、どうも…」
大井「それで?今日は私にどんな用件ですか、艦娘の人」
曙「要点だけ言うわ、アンタ以外の球磨型はみんな深海に堕ちた、あたし達としては全力でぶつかって殺しに行くわけだけど…アンタどうすんの?」
大井「…球磨型?なんですかそれ」
曙「…そう、じゃあ質問を変える、球磨、多摩、キタカミ、木曾、残らず殺して良いの?」
亮「おい」
大井「………」
曙「選びなさい、どっちを選んでも良い、アンタは関わらずに一生を生きても良い」
大井「いきなり殺すか殺さないか選べって、何が言いたいんですか?私に…知らない人の命を背負え、と?」
曙「そう、それなら良いわ、選ばないなら選ばないで…後悔しても遅いわよ」
大井「…ふん」
曙「一生そうやって知らんぷりしてなさい」
亮「おい!」
千草「待ってください、曙さんでしたよね、少しだけ時間をもらえませんか?」
曙「…ねぇ、もしかして記憶持ち?」
亮「…ああ」
千草「…こっちを見て」
大井の顔を無理やり自分の方に向け、向かい合って話す
曙「…意外とパワー系なのね」
亮「ヒーラーの癖に殴るタイプだ」
千草「ちょっと2人とも黙ってて下さい」
曙「…はーい」
大井「…何?痛いんですけど」
千草「後悔しない?」
大井「後悔って…何を」
千草「私は、この世界で…妹ができて嬉しかった、前の世界よりずっと楽しく生きてこれた…もちろん辛いことばかりだったけど、みんなが居て、やっと歩けた、前を向けた…」
大井「何を言って…」
千草「1人になろうとしないで、きっと私や、三崎さんが居ても…貴方は孤独なまま」
大井「…何を知って…」
千草「艦娘の適性検査、受けたんでしょう?全部知ってる、何で迷ってるのかも…」
大井「…それは…」
曙「…ちょっと待って…もしかして、アンタ記憶があるの?」
大井「…そうよ…あるわ、だとしたら何?大井として生きろって?そうするべきだ、って言いたいの?」
亮「マジかよ…」
大井「そりゃあ記憶が戻って真っ先に姉さんたちに会おうとした、身の回りにいる人間が誰なのか分かったし、どうやって顔を合わせるべきかって…それも楽しみになった、一瞬だけですけどね…」
千草「…記憶がある、となると艦娘として生きる事を周りに期待される、少なくとも私と三崎さんが記憶がある事はわかっていましたから」
大井「艦娘になって…私は何が為せるのか、キタカミさんの様に強くない私がなる意味なんて無い…と思ってたのに…なんで…」
曙「つまり、アンタは知らないフリを突き通すつもりだった…って事?姉妹がどんな状況になってるか聞いておきながら…!」
大井「…そう、そうよ!怖くなった…この世界には人として命を与えられた私がいる…前の世界とは違う、もし腕が吹き飛んだら2度と元には戻らない…魔法みたいな力もない…そんな世界で戦う事を恐れて何が悪いのよ…!」
曙「アンタねぇ…!」
亮「やめろ、これも一つの選択だ…それに無理な戦いをして無駄死にする様な真似、誰も望んじゃいねぇ」
千草「周りの期待、誰かの理想…それに無理やり合わせる必要なんかない…でも、自分から離れていく必要もない」
大井「…私は…離れてなんか…」
千草「本当に離れてないと思うならそれで良い、私たちに貴方の生き方を変える力はないから…私たちにできるのは変わらずに貴方の居場所である事だけ」
大井「…居場所…」
亮「…曙、今日は悪いけど帰ってくれ、大井にも時間がいる」
曙「見たいな、ゆっくり考えて…どのみち後悔なんてするものよ」
大井「…そうね、自分の手で介錯すれば、とか…誰かに任せて投げ出せばとか…どっちを選んでもそう考えると思う…でも、それでも…キタカミさんや姉さん達…木曾も…深海が居場所な訳がない…!」
曙「…決まりね」
大井「重雷装巡洋艦、大井…艦隊の救出作戦に参加します」
亮「良いんだな」
大井「ええ…何よりも…私だけが関わらないなんて事、許されるわけがない、許せるわけが無いの…!そうよ、大事な姉妹を見捨てて生きていく人生なんて…死んでるのと変わらない」
千草「…行ってらっしゃい」
大井「ええ…この世界での短い様で長い間でしたが…貴方の妹としての人生も楽しかったです」
亮「別に今生の別れじゃねぇんだ、そこまでかしこまった挨拶する必要ねぇよ」
大井「…それもそうね…じゃあ、行ってきます、四人目の姉さん」
曙(そういえば龍驤はどうしてるのかしら)
大井「すぐに戦線に参加する方法はある?」
曙「無いわ、軍人…まあ、公務員として登録される訳だし?その手間だけはかかるけど、待っててあげるから」
大井「…わかった、待ってなさい」
曙「さて…私も宿毛湾に帰るかぁ…」
亮「ああ、またな」
曙「…思いっきり…暴れてやる、楽しみね」
大井「私としては不安の方が多いけど」
某所
駆逐艦 アオボノ
アオボノ「…貴方達が私に何かをした?」
数見「なぜ君が所属の泊地を抜け出し、逃亡しているのかは問わない、キミほどに利口な少女は初めて見たよ、曙」
嫌な笑顔を浮かべる男だ
アオボノ「貴方は」
数見「数見だ、特務部を率いているものだと言っておこう…キミをスカウトしにきた」
アオボノ「その前に、私に何をしたか答えてもらえますか」
数見「発信機と…それからこんなものを」
あからさまにソレ専用というスイッチを懐から取り出す
その手のボタンはイヤと言うほど身に覚えがある
アオボノ「押さなくて結構…貴方への暴言はどのくらい許されるんでしょうね」
数見「一切を禁ずる、話が早くて助かる、私に従いなさい」
アオボノ「…おかしいですね、艦娘システムは望めば民間人に戻れると言う契約を含むはず」
数見「死人に口なし、と言う言葉はご存知ないか?」
アオボノ「…チッ…」
アオボノ(つまり私みたいな海から戻ってきたタイプは対象外…と言うか人権もなしか)
数見「キミを特務艦に任命する」
アオボノ「拒否すれば?」
数見「どうやらキミを動かすには…倉持海斗、そして綾波型を手にかけるのが早いのかもしれない」
アオボノ「…手にかけなくて結構です、従いましょう」
アオボノ(とことんクソだな…)
数見「配置は本部へと移ってもらう、ついてきたまえ」
アオボノ(…運命は変わらない…と言ったところか)
海上
荒潮
荒潮「…ぷぁ…っ」
肺に大きく息を吸い込む
潮の香りと焦げ臭い匂いが鼻腔を塗りつぶす
荒潮「…ごほっ…ここ…どこ?」
目の前に小さな手が伸びる
暁「…掴んで、陸まで引っ張るから」
荒潮「…あら〜…」