元勇者提督 作:無し
大湊警備府
駆逐艦 響
響「暁、私達はどうなるのかな…」
暁「大丈夫よ響、落ち着きなさい、雷は…まだ辛そうね」
雷「ごめん…すぐ準備するから」
暁「寝てなさい、そんな状態で出撃しても怪我するだけよ、本当は響に診てて欲しいんだけど、そうもいかないわ、帰ってくるまで頑張れる?」
雷「うん……」
響(ここに来てまだわずかな時間しか経ってないけど…だけどもう限界だな…こんな環境ではとても耐えきれない…)
暁「……ごめん、響、雷、私が艦娘になる事を選んだばっかりに…」
響「…仕方ないさ、元々私達に帰る場所なんかない……それに野山で暮らすのも悪く無いかもしれないしね」
雷「……そもそも、辞められるのかしら…今ここに在籍してるのは私達と数人の駆逐艦だけ…」
暁「…正直に言うと絶望的ね、まともに話を聞いてくれない、こっちが子供だと思ってやりたい放題してるんだもの…」
響「となると脱走しかない訳だが…いや、この話は後にしよう、出撃の時間だ」
暁「雷、安静にしてるのよ」
雷「うん、ごめんね」
負傷した雷を置いて出撃の為私たちは港へと向かった
暁「…あれ、誰かしら…知らない人が…」
響「……本当に誰だろう…」
暁「あ、私知ってるわ、少し挨拶してこなきゃ」
響「え?暁?」
駆逐艦 暁
暁「こんにちは」
不知火「…こんにちは、貴方は?」
暁「暁よ、よろしくね、不知火さんでしょ?」
不知火「…なるほど、私を知ってるなら疑う余地も無く…か」
軽く握手をする
暁「ここに配属されたの?」
不知火「配属先を選べなかったもので…宿毛湾か佐世保への異動願を早速出してきましたが破り捨てられて少し参ってしまいました」
暁「ここの司令官は乱暴だから…って、宿毛湾へ…?」
不知火「…まえの宿毛湾の皆さんが集まってますからね」
暁「ほんとに?…私も宿毛湾に帰りたい…」
不知火「どうにかしてここを出たいのですが…はぁ…急いでるのに」
暁「事情はわからないけど…今の私達は何も力になれないわ、ごめんなさい」
不知火「いえ、あてつけの様に感じたのならごめんなさい、出撃ですか?」
暁「そうなの、昨日荒潮さんを見つけて…今日は誰か見つかるかしら」
不知火(…連れてこられるのも地獄の様な気はしますが…)
暁「それじゃあね…」
不知火「…他は?」
暁「響だけよ、ここは戦える子があんまり居ないから…養成中の子も沢山いるし、成績が良かった私たちが頑張らなきゃ…」
不知火「2人で…?危険じゃ…」
暁「仕方ないの、それにまあ…なんだかんだ上手くやれてるし」
不知火「…そうですか」
海上
暁「全くもっていつも通り…ね」
響「駆逐級1匹のみ…か」
暁「早く倒しちゃいましょ、雷が心配だ…し…?」
悪寒、心臓を何かに掴まれた様な感覚、体が強張る
ル級「ギシィィィィ!」
背後から叫び声がしたと同時に肩を深海棲艦に掴まれる
暁「嘘…嘘!なんで…!」
いつもなら居ないのに…
響「暁!」
昨日が安全だったからと言って今日生きて帰れる保証なんて存在しない
ル級「ァッガァァァ…」
動けなく固定され、身動きの取れない状態で大口を開けたル級の顔が近寄ってくる
暁(た、食べられる…!?)
響「やめろ!暁に…うわっ!」
響の周りを艦載機が飛び回り、爆撃する
暁「…そんな…」
予定外、想定外に命を脅かされる
ル級「ギヒャッ!?」
その命を救ってくれたのも予定外の存在だった
ル級「ギャァァァ!?」
ル級が目を押さえてとびのく
砲撃を受け、よろけて水上を転げ回る
アオボノ「急所はどんなものにも存在する…と言っても…奥の手までは見せられませんね…すり潰されて死になさい」
水柱が複数あがり、ル級を刻む
アオボノ「大丈夫ですか、暁さん」
暁「…あ、ありがと……あなた…曙さんなの…?」
真っ黒なレインコートに身を包み、腕には特務艦と書かれた腕章…
かつての姿とは違うけど、記憶の中の曙さんだった
アオボノ「…ええ、一応」
響の方を向き一発砲弾を放つ
敵機が互いに巻き込み事故をおこして堕ちていく
アオボノ「残念ながら私は特務艦という不名誉な役回りですが」
暁「特務艦…特務艦って、何をするの?」
アオボノ「何でもですよ、何でもやれ…と言われたから仕方なくここまで来て、たまたま見つけた貴方達を助けました…それ以上も以下もない」
暁「…たまたま…そう…それでもありがとう」
アオボノ「気をつけてお帰りを、私はこれで」
暁「…一緒に来ないの?」
アオボノ「特務艦の仕事は沢山あるので」
げんなりとジェスチャーをして沖の方へと去っていく
暁「…何がどうなってるのかしら」
響「知り合いかい…?」
暁「そうだけど…残念ながらまた敵かもしれないわ」
響「……とりあえず、戻ろう…艤装がボロボロだ」
大湊警備府
暁「…な、なに…これ」
不知火「おかえりなさい、ゴミ掃除を少ししていただけですよ」
暁「ご、ゴミ掃除…って!これはいくら何でも…確かに粗暴だけどここの司令官を…な、何をしたの…?」
不知火「雷さんが出撃していないことに腹を立てて殴ろうとした男を折檻したまでです、骨の2、3本は潰しましたけど」
暁「そ、そう…でも大丈夫なの?」
不知火「契約書通りなら…私達に手を出す事は犯罪です、そしてこれは正当防衛です」
暁(過剰防衛な気がするけど…)
不知火「この際です、上手く利用して配置を変えさせましょう…ここの司令官の元で働きたくはありませんから」
暁「…上手くいくといいわね」
不知火「…なにか不安な点が?」
暁「…なんて言うか、私たちって、人…なのよね?」
不知火「この世界においては」
暁「…人として扱われていない感じがするの、表に出なければ何をしてもいいと思われてるんじゃないかって…被害妄想なのはわかってるんだけど…」
不知火「まあ、不安を拭うのは難しいでしょう、だから気にしなくても…ん?」
荒潮さんが軍服を着た男の人に連れられて何処かに…
暁「荒潮さん…?何かあったのかしら」
不知火「確認してみましょうか」
暁「あの…」
憲兵「何だ」
荒潮「暁ちゃん…」
不知火(…嫌な空気ですね)
暁「荒潮さんをどこに連れて行くの…?」
憲兵「中央の研究所だ、こいつは深海棲艦だ、研究に回す」
暁「研究って…荒潮さんは深海棲艦なんかじゃないわ!」
荒潮「い、いいのよー…し、仕方ないから」
不知火(酷く怯えてる…研究材料にすると言われれば当然か…でも何故受け入れている…?)
不知火「どうみても人間に見えますが?」
憲兵「これは大本営の決定だ、邪魔をするな」
不知火(荒潮さんに逃げようとする気配もない…何かを握られてる可能性が高い…一体何が…)
アオボノ「心配ありませんよ、お二人共」
不知火「っ…!?お前は…!」
暁「あ、曙さん…?」
アオボノ「荒潮さんには…我々の調べ物に協力してもらうだけです、心配ありません」
不知火「貴方は信用なりません」
アオボノ「…提督に誓います、荒潮さんが傷つくような事はあり得ません」
暁「信じていいの…?」
アオボノ「ええ、それと不知火さん」
不知火「…何か」
アオボノ「上官を半殺しにするのは不味かったですね、逮捕されますよ」
不知火「理由は正当です」
アオボノ「…その証拠は」
不知火「録音機を持っています」
アオボノ「そうですか、でもそんな事…一切関係無いようでした」
不知火「…貴方は何を知っていて、何のために今話してるんですか」
アオボノ「私にもわかりません…今の所私も探る側の人間です…何がどうなっているのかを知りたいのは私も同じなんですよ」
暁「…荒潮さんのこと、お願いね」
アオボノ「ええ、用件が終われば無事に送り届けます」
不知火「………」
荒潮さんは憲兵と曙さんに連れられて行った
暁「…不知火さん、大丈夫なの?」
不知火「さあ、私のことも荒潮さんのことも…どうなるのやら」
車中
荒潮
窓が塞がれた暗い車の中
目覚めたときは海の上で浮かんでいて、陸で保護されたと思ったらいろんなことを言われてどうやら深海棲艦として扱われている
荒潮「…ねぇ?」
アオボノ「話す事はありません、ただ静かにしていればいい」
この調子では狂ってしまう
荒潮「…貴方は私の味方なの…?朝潮姉さん達は…?」
アオボノ「宿毛湾で元気にされています」
荒潮「…だから人質に取ったの?」
目の前の曙は驚いた表情を見せた
アオボノ「人質に?…そこだけ聞かせてください」
荒潮「…私が研究に手を貸さなければ他の姉妹を使うって…」
アオボノ「…まあ、人質と言えば人質か…私は今、貴方から初めて聞きましたが…一歩違えばそうなっていたかもしれませんね、どのみち深海棲艦そのものを研究するのは今の所不可能に近いですから」
荒潮「どういうこと…?」
アオボノ「深海棲艦の死体は消失するんです、海に引きずられたり、溶けるように消えたり…とにかく研究する前に失われる、だから深海棲艦だった私達は恰好の材料」
荒潮「…それじゃあ…」
アオボノ「貴方の無事は私が保証します、どんな手段を使ってもね」
荒潮「…本当に…?」
アオボノ「ええ、必ず」
荒潮「…信じるわ、それしか無いもの…」
アオボノ「まあ、期待していてください」
宿毛湾泊地
駆逐艦 曙
曙「帰ったわよー…って、誰も居ないし…」
部屋のドアを派手に開けたのに、真っ暗で誰も居ない
曙「あれー…おっかしいな、誰かしらいると思ったんだけど…ん?」
机の上に書き置きがある
曙「何何?朧か…もし今日帰ってたら大変なので書き置きしておきます、曙が泊地を抜けました…は?!」
曙(アイツが泊地を抜けたってどう言う事?またなんかやる気…?ここにみんながいないのは探しに行ったって事か…!)
部屋を飛び出し、外へ向かいながら携帯を鳴らす
朧『もしもし?曙』
曙「朧!今あんたどこにいんの!アイツは見つかった!?」
朧『へ?』
曙「どこに行けばいいのよ!」
朧『え、と…曙、書き置き見た?』
曙「見たから電話してるんでしょうが!」
朧『えーっとね…まず曙を探すのは無し、詳細は後で話すけど曙を探す事で逆に危険に晒しかねない…だから今は待つだけ』
曙「…まあ詳しくは後で聞くとして…アンタらは?」
朧『新しく動く予定の鎮守府に演習に行ってたんだよ、ちゃんと書いてたでしょ?後2時間くらいで帰るから』
曙「…あ、そ…はぁ…」
電話を切り、座り込む
曙「…いつもハズレくじを最初に引くのはアンタね…そしてそれにみんなが巻き込まれる…いや、見捨てられなくて…手を伸ばすから…」
どうすれば良いのだろうか、悩みは尽きない
曙「ん?」
あれは、加賀と…龍驤だ
曙「よっ、何やってんのよ加賀」
加賀「見た通り、訓練終わりよ、龍驤さんを鍛えていたの」
龍驤「…はぁ…」
龍驤は酷く落ち込んでるようでこちらに気づく様子はない
加賀「もう1週間も心技体の基礎訓練を続けていたのだけれど…艦載機が飛ばなくて…あ、それと記憶はないわ」
曙「ふーん…ま、仕方ないか…食堂にでも行く?」
加賀「そうね、何か辛いものでも食べれば気持ちも前を向くでしょう」
曙「それはアンタだけよ」
加賀「そうかもね」
すぐそばで騒いでるのに気づかないあたりよほど疲れてるのか、悔しいのか
曙「…おーい」
龍驤「は、はい!?」
曙「ようやく気づいたか…加賀が食堂行くって…と言うか初めまして?」
龍驤「ぁ…あ…」
曙「あ?」
龍驤「曙ぉぉぉぉ!!」
曙「うわっ!?飛びつくな!」
龍驤「本物や!間違いない…久しぶりやなぁ…!」
曙「なにこれ、思い出したって事?」
加賀(発音が戻ってる…記憶の影響かしら)
龍驤「って…加賀ァ!オイコラ加賀!お前…お前なぁ!?」
加賀「…なにかしら」
龍驤「お前なぁ…知識がないんはしゃーないよ、やけど式神はちゃんとした特別な紙使わなあかんのに…お前…コピー用紙ってお前…!」
加賀「形さえあっていれば良いのかと思って…」
龍驤「ンな訳あるかぁ!1週間返せこのアホッ!」
曙「…な、なんかお疲れ」
龍驤「はーっ!かーっ!アカンわ、こら怒りが治らんわ、曙、飯でも食いに行こか!奢ったるから!」
曙「えっ、お金あるの?」
龍驤「一応元芸能人やからな!心配要らへん」
曙「…テレビで見た事ないけど…ラジオとか?」
龍驤「ふぐっ…ぅ…ま、まあ…その…」
加賀「主な収入源はフードデリバリーと言ってたわよね」
龍驤「おまっ…カッコつかんからそう言うのは黙っとかんかい!」
曙「成る程、ブレイクはしなかったのね」
龍驤「五月蝿いわ!奢らんで良いんやな!?」
曙「なんにせよ朧達がまだ帰ってないし、それからで良い?」
龍驤「って事は…えーと…どこやったら…」
曙「……味しなさそうだし素直に食堂で食べましょ」
龍驤「…せやな」