元勇者提督 作:無し
東京 オフィス
駆逐艦 アオボノ
アオボノ「私を使うなら私の要望にも従うべきでしょう、部長殿?」
数見「だから私は倉持海斗には手出しをしない…それ以上に何を望む」
アオボノ「荒潮さんを使った実験…これで荒潮さんに注射針一つ刺すことに私の承諾を取ってからにしていただきます」
数見「何故だ、君はあの少女と出会ったのはついさっきが初めてのはずだ」
アオボノ「深い仲なんですよ、それに私をタダで従わせようなんて随分と甘い考えです」
数見「…なら君も私の要望に応えるべきだろう」
アオボノ「勿論、差し当たってこれをご覧ください、南西諸島海域の海図と…完全攻略に向けた計画書です」
数見「…何?……参加者は君1人か、ふざけた事を…」
アオボノ「できますよ?一人で台湾付近まで行って来ましょうか、何百匹でも深海棲艦を殺してあげましょう」
数見「できるわけが…」
アオボノ「じゃあ、やってみせれば私の要望は通るんですね?」
数見「……良いだろう、監視の船をついていかせる」
アオボノ「足手まといはいりません、荷物持ちとして荒潮さんを連れて行きますけどね…もし荒潮さんを放置してたらその間に殺されかねませんし?」
数見「…どうやって証明して見せる」
アオボノ「その書類の艤装全てに記録機器をセットしてくださればそれで十分では?」
数見「わかった、そうしよう…だが、先に血液と皮膚などのサンプルが欲しい…万が一2人とも死んだら笑えないからな」
アオボノ「いいでしょう、艤装の手配は?」
数見「明日までに用意させる」
翌日
海上
アオボノ「ふぁ…あ…」
荒潮「…眠い?」
アオボノ「退屈なんですよ、孤独で辛かったものですから」
荒潮「……あ、あの…ありがとうございます…私のために…」
アオボノ「そろそろ四国の南ですね、貴方は私の指示を受けたらそこからまっすぐ北上してください」
荒潮「え…?」
アオボノ「南西諸島海域に行くのは私一人です、足手まといは要らないんですよ」
荒潮「で、でも…約束が…」
アオボノ「ボーナスです、予定以上の仕事をすればそれで良いんですから」
荒潮「そ、それが通るとは…」
アオボノ「あの約束が成立して、上手くいったとしましょう…今この会話も記録されています、今後貴方は幽閉され、監視下でしか外を歩けない…誰かに助けを求められない…」
荒潮「…そんな」
アオボノ「嫌だと思いましたよね、それで良いんです、人は何かを犠牲にしないと生きられない…弱いですからね」
荒潮「…司令官達には…」
アオボノ「特務艦として元気にやっている、と…それから…大湊について詳しく調べるように伝えてください、どうやらホコリくさいので」
荒潮「…わかりました」
アオボノ「気にしなくて良いんですよ、貴方は私に命を救われて…一生の恩がある、と覚えておけば」
荒潮「…ど、どう反応すればいいのかしら…?」
アオボノ「…おかしいですね、漣の好きなセリフだからウケるかと思ったのに…とりあえず笑ってくれると嬉しいんですけど」
荒潮「…ふふ…ありがとう」
アオボノ「ドラム缶を」
荒潮「3つも…重くない?」
アオボノ「早く行ってください、時間の無駄です…リアルタイムでモニターしてたとしたら既に貴方を捕まえようとしているかもしれない」
荒潮「…ありがとう、また」
アオボノ「ええ、また…」
南西諸島海域
アオボノ「…夜の海は冷える」
無線機を耳につけてスイッチを入れる
アオボノ「どうも、聞こえてますか?」
数見『随分と勝手な事をしてくれたね』
アオボノ「ボーナスだ…って聞こえてませんでした?今から良いものを見せてあげますよ」
加速する
数見『君がどんなに働こうともあの少女ほどの価値はない』
アオボノ「いいえ、私一人で艦隊二つ分の価値がある…いや、もっとかな…まあ見てればわかります」
遠方に敵艦隊視認
アオボノ「戦闘開始」
主砲を空に向けて何度か放つ
アオボノ「駆逐2軽巡1重巡1軽空母2…戦艦はいないのか…居ても変わらないか…」
砲撃に気づいた空母がこちらに艦載機を出す
アオボノ「包囲は南西、風はなし…反航戦」
ドラム缶を手繰り寄せる
アオボノ「距離8キロメートル、速度は25ノット…駆逐は落とせるか」
主砲を構え、2発放つ
アオボノ「着弾、駆逐級2撃沈、前方から魚雷…止まれば当たらないか」
どんどん敵との距離が縮まる
艦載機が迫る
アオボノ「敵艦載機全滅…予備がないと楽なんですけど」
全機撃墜
アオボノ「さて…此処からはこれの方が相応しいか」
綾波型の艤装を脱ぎ捨て島風型の艤装を取り付ける
アオボノ「死ね…!」
魚雷をとにかく放ち、連装砲ちゃんを展開する
アオボノ「重巡、軽巡被雷、大破炎上…機械か燃料でも中に入ってるのかもしれませんね」
燃えた敵を連装砲ちゃんが撃ち抜く、火の塊が2つ爆散する
アオボノ「…まだ艦載機を出さないって事は、死ぬのを待つのみか…さようなら」
軽空母を蜂の巣にする、最初に放った砲弾が見事に軽空母の頭を割ってみせた
アオボノ「戦闘終了…6隻ならこんなもの、か…どうですか、私の価値は」
数見『…素晴らしい、良いだろう、気に入った…その海域の羅針盤反応が消滅するまで敵を殲滅して来れば…話は呑もう』
アオボノ「チ…此処まで来るのに半日近くかかったんですけどね、その上まだ数時間戦うのか…怠いですね」
数見『君の性能の限界を見たいのだ』
アオボノ(性能か…本当にモノ扱いだな…その方が都合がいいと言えば良いのかもしれないが…)
北東にある島が目に入る
アオボノ(あれは与那国島か…キタカミさんが出て来たら面倒だけど、どうなるだろうか)
羅針盤は東を指した
アオボノ「さて、次を殺すか」
連装砲ちゃんをドラム缶に入れ、ドラム缶を引っ張りながら進む
アオボノ「…おや、派手に暴れましたからね…見つかってるか、当然」
敵機が隊列をなして向かってくる
アオボノ「かなり距離が空いているせいで撃ち落としても…巻き込み辛いな…いや、いいか…全部撃ち落とせばいい」
ドラム缶から別の艤装を引き摺り出す
アオボノ「…これも自立タイプか…長10センチ砲」
長10センチ砲ちゃんをおろして機銃を取り出す
アオボノ「秋月型…か、どんなものか」
撃ち抜かれた敵機が火の玉になり落ちる
アオボノ「…やや右、か…?」
修正をしながら撃ち続ける
長10センチ砲も正確に撃墜する
アオボノ「…このレベルなら、任せても良いか、次、陽炎型…」
艤装を取っ替え引っ替えにしながら敵に近寄る
アオボノ「次…と、これで終わり…?暁型か…アームパーツの盾くらいしか特徴はないけど、バランスはいいかもしれない…でも重巡級の砲を防げるかどうか…受け流す形になるかな」
風切り音が聞こえる
アオボノ(砲撃…前方、戦艦級のレンジか…そして艦載機もしくはレーダーによる視認外からの攻撃)
そんなモノが人間大の的に易々と当たるわけがない、至近弾にすらならない
アオボノ(普通は当たるわけが無い、お互いに…普通ならば)
魚雷を走らせる
アオボノ「さて、砲撃の方向からの予測でしかありませんが…と?」
手元の羅針盤が狂ったように回り出す
アオボノ(…回る?回るって…この羅針盤は敵を探すモノ、つまり囲まれてる?)
周りに敵の気配はないのに…
前方に向き直り、まずは前方の敵を叩き潰すために速力を上げる
アオボノ「…戦艦1、空母2、重巡1、駆逐2…艦載機の動き、戦艦の砲撃から見て最大戦力か…潰しますか」
魚雷が大きな水柱を立て、空母2隻を巻き込む
アオボノ「おや、今日の私はどうやら幸運までもが味方しているようですね、4対1ですか…」
綾波型の艤装を装着する
アオボノ「3分ですね、カップラーメンを持ってきてたらちょうどよかったかもしれません」
ドラム缶を引いている紐を外し、全速で近寄る
アオボノ「まず戦艦級」
戦艦級からの砲撃をすり抜けるように近寄り、盾の様な艤装を思いっきり蹴る
が、びくともしない
ル級「…!」
アオボノ「へぇ、ガッツありますね…いや、当然か、私が買ったところで痛くも痒くもないんでしょうけど、そのまま動かないでくださいね」
戦艦級の艤装の裏側から水柱が上がる
ル級「ギャァァァァ!!」
アオボノ「私まで巻き込まれたくないですからね…あ、腕取れたな」
水柱の水圧に戦艦級がグチャグチャに刻まれる
アオボノ「残り3…」
主砲を向けて1発
アオボノ「後2…」
残された駆逐級なんて相手になるはずも無く、一瞬で仕留めて見せた
アオボノ「…麺固め、ですね…カップ麺は少し伸びたくらいが好きなんですけど…さて、羅針盤の反応は…後方か」
前方の敵を排除したことで羅針盤は後方にだけ反応を示した、しかしそちらを向いても敵の姿は一切ない
アオボノ「あー、聞こえますか、この通り敵は始末しました、反応も羅針盤が故障したのか来た方向からしかありません」
数見『故障だろう、帰還して構わない、充分な働きをせてもらったよ、まさか一度たりとも被弾せず敵を全滅させるとは』
アオボノ「了解」
数見『それと君は短剣を使うのではなかったのかね?そういう報告書が出ているが』
アオボノ(誰から…?私が使ったのは短剣じゃなくて双剣だし、一体どこからそんな報告がいったのか)
アオボノ「いいえ、それは間違いですね、それで…は…」
数見『…なんだ、どうかしたか』
アオボノ(…居る、何かが…だけど何?誰が居る?…!)
アオボノ「記録終了」
記録機の電源を切る
アオボノ「…どうも?キタカミさん」
キタカミ「よっ…曙…空いたかったよ」
首に継ぎ目の様な跡…そしてそれを境に首から下は真っ白な肌
アオボノ「趣味の悪いイメチェンですね」
キタカミ「…したくなんて、なかったよ…でも、こうさせたのは曙だ」
アオボノ「…なるほど、私にも責任の一端がある…良いでしょう、その責任を取れ、と?」
キタカミ「それは…そうだねぇ…でも、あたしは責任だなんて事、口にするつもりはないよ、これは救済なんだ、そういえば翔鶴も生きててさぁ…死んでも死んでも生き返れて…」
アオボノ(…急に目が変な方向を向いて、おかしくなったみたいな…)
キタカミ「この戦争ってさ、そっちに勝ち目はないんだよ、だってこっちは死なないんだから」
アオボノ「やっぱり…死体も再生するのか」
キタカミ「そ、そーゆー事…だからこっちに来る事は救済なんだ」
アオボノ「提督を裏切って良かったんですか?」
キタカミ「…提督は私の考えに賛成してくれるよ」
アオボノ「どこにそんな保証があるのやら」
キタカミ「…うるっさいなぁ…!ここで沈めてあげようか?」
アオボノ「あなたがどちらにつこうと興味はありません、敵対するなら倒すまでですから…どのみち戦うなら、今でも構いませんよ」
キタカミ「んや、けしかけたけど…今はやめとくよ、ほら、今日は天気が悪いからさぁ」
アオボノ(快晴なんだけどな…)
キタカミ「次会ったら、殺すから」
アオボノ(逃す…フリして背中からとかもありえるな、背中は見せたくないか)
アオボノ「それでは、さようなら」
キタカミ「…またねぇ」
アオボノ(…嫌な気分だ、けど…なんだろう、なんであんなにおかしく…頭の部分だけ深海棲艦になってないのか?わからないことが多すぎる)
宿毛湾泊地近海
駆逐艦 荒潮
荒潮「…無事に着いた…」
もう目の前だと言うのに追われるように泊地へと速度を上げる
荒潮「……みんな居るのよね…?」
目の前を青い炎が走る
荒潮「…あれ?私、もしかして前の世界に取り残されたのかしら〜…」
爆発音の後に爆風に吹き飛ばされそうになる
荒潮「…あれ、島風ちゃんと…曙さん?さっき別れたからもう一人の方かしら…」
島風「速い!速ーい!」
曙「待て!あーもう…追いつかない…!」
荒潮「…す、すごい光景…」
島風「…ん?あれっ?」
荒潮「あら〜…あ、あのー」
曙「…ああ、アンタ荒潮?」
荒潮「えっと…はい」
曙「そんなに固くならないでよ…え、何?泊地に入る?こんなとこで立ち話もなんだし」
島風「行こ、いまなら朝潮ちゃんも居るし」
荒潮「…やっぱり姉さんたちはここに居たのね〜」
曙「ま、安心しなさい…みんな元気だから」
荒潮「…よかった」