元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地 工廠
工作艦 明石
明石「…くぁ…あ…眠…」
二徹明けの身体はとにかく空腹と眠気を訴えていた
明石「よし…ナノマシンの生成も完了したし…完璧…あれ?」
気づく事は通常の状況ならなかったはずだった
明石「…待って、そう、おかしい…」
図面、ナノマシン、全てを見直す
明石「…これ、修復液だけに使われてるわけじゃないんだ、そうか…艤装全部にナノマシンを…」
それに気づかずにナノマシンを艤装に組み込んでいた、実際曙ちゃんに渡した艤装には特に大量のナノマシンが搭載されている
でも、何故これに今まで気づかなかった?何が今引っかかっている?
明石「…わからない…なんで?何が…」
脳が正常な機能を取り戻し始めるとその疑問より空腹と眠気が頭を侵食し始めた
明石「…ご飯、お茶漬けとかあるかな…いや、冷麦とか食べたい…」
食堂
明石「間宮さーん、冷麦ありますか」
間宮「冷麦ですか…まだ夏前ですから入荷してなくて…ざる蕎麦かざるうどんなら…」
明石「…細い方がいいんだけど、そばは…うどんで」
間宮「ちょっとお待ちくださいね」
席について冷たいモノを待つ間水を口に含む
胃に入った水は嫌に染みて頭が少しハッキリとした
明石(…おかしくない?ナノマシンってまず何、何がどう動作してるの?調べなきゃ…いや、待って、調べるまでもないよね、全部わかってるんだ…じゃあこの前の艤装を…)
明石「そうだ!」
頭の中に浮かんだアイデアに自分で驚き机を叩いて立ち上がる
明石「やった!できる!できるんだ…!」
間宮「お、お待たせしました…あの、机は叩かないでくださると…」
明石「あ、ごめんなさい…」
冷たいうどんをさっさと食べきって工廠に向かう
明石「……あれ?なんだっけ…何か調べないといけなかったのに…まぁいいや、このアイデアは革新的だし!」
駆逐艦 荒潮
朝潮「おかえり、荒潮」
荒潮「…うん、みんなも無事みたいで良かった…」
朝潮「全員無事よ、安心して」
荒潮「…司令官は?すぐに伝えないといけないことがあるの」
朝潮「今は中央に呼び出されて出てるわ、どうかしたの…?」
荒潮「…いつ帰ってくるかわかる?」
朝潮「さあ…」
荒潮「…わかった、仕方ないわね〜…とりあえず…どうしましょ…あ、佐世保」
朝潮「佐世保?」
研究所
駆逐艦 綾波
綾波「…な、なんっ…何ですか、あな、貴方達…!」
軍服に身を包んだ兵士たちがいきなり入り込んできた、しかも完全武装状態で…
数見「我々は…特務部だ、この意味がわかるかな」
綾波「と、特務部…?」
綾波(…書類の偽造がバレた…?)
数見「キミの研究には興味がある、データを正確に全て回してもらおうか」
綾波「…!」
綾波(そんなことしたらイムヤさんや曙さんのデータまで…まだほとんど解析が終わってない物もあるのに…)
数見「勿論、拒否権はない…この施設自体承認した覚えも無いしな」
中央のモニターが轟音を立て、砂嵐の画面が表示される
ヘルバ『何故、私の研究所にあなたの許可がいるのかしら?』
数見「…これは、掃き溜めの女王」
ヘルバ『酷い言われようね、ここは私の研究所、そしてここの情報は全て私のものよ』
数見「まさかヘルバが絡んでいるとは思わなかったが…かと言って退くと思うか?今は戦時下だ、我々の行動全てを正当化する事は容易い」
ヘルバ『なら、私が貴方達にとって都合の悪い事実を明るみにする事も容易いわ』
数見「ほう…それがどうした」
ヘルバ『貴方達はただ人体実験に適した場所が欲しいだけでしょう?』
綾波(人体実験…!?)
数見「場所を提供してくれるのなら…ここは退いてもいい」
ヘルバ『場所ね、なら土地くらいはあげるわ、誰も寄り付かない様な場所を…機材と人材は自分で揃えなさい』
数見「この辺りが妥協点か、今日のところはこれで失礼する」
綾波「…な、何だったんですか…」
ヘルバ『何だったかと言えば…威力偵察かしらね、この施設をどうやってかぎつけたかは後から調べるとして…向こうの目的はわかるかしら?』
綾波(目的…情報が少なすぎるけど…)
綾波「ひ、引き抜き…」
ヘルバ『そうね、場所なんていくらでも用意できるはず、となれば欲しいのは技術者と既にあるデータ…貴方、目をつけられたわね』
綾波「……」
ヘルバ『今更だけど、あの男…数見が特務部の部長である事については裏が取れた、他にも面白い話があるわ』
綾波「…面白い、話…?」
モニターの画像が切り替わる
綾波「曙…さん…?」
ヘルバ『何故この子は数見と関わっているのかしらね?』
綾波(…曙さんが泊地を去った理由は何かを仕込まれたから、あの男はそれを除去できるとでも…いや、待って、私にもそれを使うというのなら)
急いで自分の血液や皮膚片、必要なモノを揃える
綾波「…え?正常…まだ仕込まれてない?それとも時間の問題…いや、私は何か勘違いしてるんじゃ…!」
ヘルバ『何か気になるの?』
綾波「あ…えと…その……お、お願いします!力を貸してください…」
ヘルバ『内容によるわ、何が欲しいのかしら?お嬢ちゃん』
綾波「…な、名前です、貴方の名前と力を借りたいんです…あ、貴方の名前を使いサンプルを集めたいんです…」
ヘルバ『サンプル、どんなサンプルで、何のために』
綾波「に、人間の…データ…こ、これを見てください」
自分のデータ、曙のデータ、そして深海棲艦の腕のデータ
ヘルバ『…貴方のもの以外は共通してる欄が有るのね』
綾波「た、たしかに…曙さんは海帰りです、深海棲艦のデータと同じで不思議ではありません…で、でも今艦娘になってるのに…こんなに同じなんです…で、でも…人にしか見えない…な、何かおかしいんです!」
ヘルバ『何か、ね…まあ良いわ、データは用意してあげる』
綾波「ありがとうございます…!」
ヘルバ『私も気になる点があるの、いくつか確認して良いかしら?』
綾波「な、なんでしょう」
ヘルバ『貴方の艤装、自分で作ったのかしら』
綾波「はい…?ほ、砲が撃てないので…き、機関と水上歩行用の艤装を作りました…」
ヘルバ『そう、ありがとう』
大湊警備府 営倉
駆逐艦 不知火
不知火「…はぁ…本当に悪い方向に行くとは…」
暁「不知火さん、一応…ご飯持ってきたけど」
不知火「要りません」
視界に入れる必要もない、きっと暁さんが抱えてるプレートには粥のような流動食…いや、それよりも酷い何かしかない、初日で経験済みだ
不知火「…響さんは?」
暁「…1人で出撃させられたわ」
不知火「1人で…?正気かあの男…!」
暁「…駆逐艦一隻で南西諸島までの敵を撃滅した部隊があるらしいの」
不知火「だからそれを真似て…か…優秀すぎて私たちにこんな…チッ……」
暁「…響、帰ってくるかな…」
不知火「この扉を開けられますか、私達なら必ず連れて帰ってこれます」
暁「そうしたいけど…無理なの、鍵がないし…私が出撃したら次は雷、失敗しても他の子に行かせるって…」
不知火「…最悪ですね、どうすれば…いや、どうしようもないのか…」
暁「……ごめんなさい、また後で来るわ」
不知火「ええ…お待ちしています」
足音が一つ、遠ざかっていく
不知火(時間が無いのに、こんな事に無駄な時間を使い、更には…最悪としか言いようがない…ん?)
足音が2つ近寄ってくる、暁のものと思われる小さな足音は走っているようだった、つまりもう一つの足音の主は歩幅の大きな大人
不知火(様子を見に来たか…扉が空いたのなら飛びかかって抜け出せる…しかも、2人で1人は暁さん…いける)
ドアの裏に隠れ、覗き窓から映らないようにする
重い金属音とともに鍵が開く
不知火(確認すらせず扉を開けたか…なら話は早い)
扉が開いたと同時に人影に向かってタックルをする
暁「きゃっ!?し、不知火さん待って!」
不知火「沈め」
躊躇なく殴りかかる
渡会「待て不知火!」
声に反応して身体が固まる、自分が馬乗りになっている相手を確認する
不知火「…司令…?な、何でここに…」
暁「不知火さんを引き取りに来たらしいの…」
不知火「…どういう事ですか?」
渡会「宿毛湾の荒潮という艦娘にお前がここにいると聞いた、だから問い合わせたんだが…どうにもお前が上官を殴り、営倉に入れられていると言われてな、手に余るとの事だったから佐世保で引き取ると…」
不知火「成る程、ですが不知火は…」
渡会「お前が考えなしに人を殴るような奴ではないと言うことくらい、わかってるつもりだ」
不知火「……でしたら司令、一つお願いがあります、急いで出撃しなくてはならないのです」
渡会「詳しく聞くつもりはない、早く行け」
不知火「感謝します、暁さん、急ぎますよ」
暁「う、うん!ありがとう!」
廊下を走り、艤装の保管場所に行き艤装を装着する
暁「響の出撃内容は近海哨戒って事になってたけど…多分違う、きっと深部まで行かされたはずだわ!」
不知火「でしょうね、近海の哨戒を1人で行った…程度では大した戦果にはなりません、行きましょう」
海に飛び出す
不知火「速度を合わせていきましょう、決して離れないで」
暁「もう合わせてるわ!最高速度はこっちの方が早いもの」
不知火「…そうでしたっけ、まあいいです…前方に人影2つ!」
暁「2つ…敵?…待って、あれ雷と響よ!」
不知火「考えは同じでしたか、見つかって良かった」
暁「2人とも!助けに来たわ、もう大丈夫よ!」
響「暁…!?だ、ダメだ、逃げて…」
不知火(…肌がピリつく…何か不味い、何処かにいる…!)
響が砲撃を受け吹き飛ぶ
響「ぁが…っ…く…!」
暁「響!ど、どこから…!?」
不知火「…今の砲撃、そうですか…やはり敵なのですね」
主砲を構え、速力を落とす
不知火「警戒!位置は既にバレています、自分の身を守ることを最優先にしてください…さもないと全滅です」
暁「…どういうこと」
不知火「敵は、キタカミさんです」
暁「そんな…!」
砲撃が飛んでくる
不知火「そこか…!」
飛んできた砲弾を撃ち落とし、位置を推測して放つ
不知火「私が攻撃を続けます!暁さんは急いで回収を!」
暁「わかった!」
正確に自分めがけて飛んでくる砲撃を全て撃ち落とす
なんとか此方に注意をひいていられるうちはまだ安全だ
暁「…い、雷が居ない!」
不知火「何ですって…?さっきは居たはず…!」
響「い…雷は…私を庇って撃たれて…ぅ…」
暁「そんな…沈んだ、って…事?」
響「動けないところを…何かに…うわっ!?うわぁぁぁっ!」
不知火「何が…!ソレか!」
響の体に白い手が海から伸び、水中に引き摺り込もうとしている
暁「させない!」
暁の砲撃で白い腕が吹き飛び赤い液体が海に流れ込む
不知火「……暁さん、響さんを連れて退きましょう!」
暁「…わかってる」
響「待ってくれ…きっと雷は…」
不知火「黙っててください…うっ…!」
上から来る砲弾だけを撃ち落としていて気づかなかった…低い弾道の砲弾が腹部にめり込み炸裂する
不知火「かはっ…!…がぁ…!な、何でこの角度…跳弾か…っぐ…」
患部を握り締めながら立ち上がる
暁「不知火さん!悪いけど先に退くわ…!」
不知火「ええ、そうしてください…じゃないと私も生きて戻れない…」
逃げる、ただ逃げ続けるしかない
傷口から血が流れている、思ったより傷が小さいのは救いだった
不知火(…この速度で移動し続ければ不知火の位置は掴めないはず…)
前方から強い風が吹き付ける、傷口が嫌に冷たく感じる
不知火「寒い……いや、不味い!」
砲撃が飛んでくる
不知火「突風で速力も落ちてしまったし…方角もバレた…絶望的か」
せめて立ち向かってみるか?いや、何ができるというのだろう…大人しく逃げ続けるしかないか
不知火「……?追撃が止んだ?」
これ以降砲撃が来ることはなく、警備府まで辿り着くことができた
不知火(…おかしい、何故攻撃が止んだ?不知火を捉えられていないと誤認した…訳がない、何だ、何が理由だ)
考えても結論は出なかったが、とにかく帰還はできた、それを喜ぶ他なかった
暁「…不知火さん、ありがとうね」
不知火「いえ…お役に立てず申し訳ありません」
暁「大丈夫、仕方なかったの…」
不知火「この無謀な出撃については?」
暁「…それが、特に咎められないかもしれないの」
不知火「…人が死んでるんですよ?そんな事が…」
渡会「不知火、理由については今調べている、今は…」
不知火「……司令、不知火は残ります」
渡会「そうか、お前ならそう言うかとは思ったが…」
不知火「1人でも多く、守って見せます」
渡会「わかった、俺は戻る…陽炎達もお前のことを気にしていた、連絡してやってくれ」
不知火「勿論です、すいません」
渡会「謝る事じゃない…またな」
不知火「はい、それでは」
海上
キタカミ
キタカミ「…何で邪魔してきたのかなぁ…」
ヲ級「……」
キタカミ「翔鶴、これは救済なんだよ?」
ヲ級「違ウ…キタカミサン…」
キタカミ「邪魔しないでよ、戦艦棲姫がうるさいだけだよ?」
ヲ級「…キタカミサン、ヤメテクダサイ、モウコンナ暗クテ冷タイ海ニ誰モ呼バナイデ」
キタカミ「…翔鶴、なんで翔鶴がそんなこと言うのさ…私は翔鶴たちの為に…」
ヲ級「私ヲ言イ訳にシナイデ下サイ…!私ハコンナノ…!」
キタカミ「…じゃ、死ねば?」
キタカミ(…あれ、何でこんなこと言ったんだろ)
ヲ級「…死ニタイデスヨ…死ネルナラ」
キタカミ「…いや、ごめん、今のは違くて…あれ…はは」
ヲ級「…サヨウナラ」
キタカミ「…なんだろ、これ…ねぇ、何なの?誰か教えてよ…」