元勇者提督 作:無し
駆逐艦朧
「…発見!…敵の大きさが未知数だから距離が測れないけど方角そのまま!」
「全体像は見える?例の敵でいいんだね」
「間違いありません」
「第二艦隊へ、敵との距離が測れないため艦載機の発艦を要請!」
『了解、龍驤、お願い』
頭上を通り抜けていく艦載機
『……あかん、思ってたよりでかいわ……嘘やろ、撃ち落とされたわ、気ぃつけや…想像よりずっと速い…!詰めて来とる!』
「…目視!正面!砲撃開始!」
「浮いてるじゃん…魚雷効かないかもねこれは…」
『後方から砲撃開始します!巻き込まれないように注意お願いします!』
「正面班対空機銃で面の斉射開始!」
わかる限りの対策をして、できる限りの用意をした
「だめ!着弾前にかわされてます!」
「砲撃が通るように機銃で左右を潰して!」
「機銃をモノともしてませんけどー!?」
「不味いね、どんどん来てる…っていうか早すぎ!」
「鳥海!急ぎで回収して、不味いよ、合流次第全力撤退!第二艦隊は合流まで砲撃と艦載機からの攻撃の手を緩めないで…緩めたら死ぬ!」
「敵!消えました!」
「違う!潮!背後!」
石の人形は、赤い十字架をどこからか取り出し、それで私たちを薙ぎ払った
私はコンクリートみたいに硬い水面に叩きつけられた
かなりのスピードで、そして今まで味わったことのない痛みに苦しめられていた
「全員散り散りにはならないで!アオボノ!データドレイン!」
「わかってるわよ!」
正直、データドレインさえあれば何とかなると思い込んでいた
でもその希望も一瞬で打ち砕かれた
「効いて…ない…!」
「呆然とする暇はないよ!漣!引っ張って!全員いるね、鳥海、撤退始めるから合流して!」
「北上さん!朧ちゃんが!」
「…っ!朧、立てる!?」
「無理…打ち付けられた時…艤装ごと…骨もいったかも…」
「曙!つれて逃げて!」
「わかってる!潮!援護!」
「了解!」
「鳥海聞こえてる!?早く来て!」
『敵襲が!こっちにも!』
「っ……!」
石の人形は動かずこちらを見ている
まるで、死刑を宣告する死神のように
「鳥海達の援護は望めない…金剛!高速みんなつれてこっちまで来て!」
『もう向かってマース!』
「扶桑はそのまま射撃!…どうしよう…どうすれば…っ!」
石の人形が消えたと思えば、次は北上さんの体が浮き上がった
そしてその背中に赤い十字架、磔の形になる
事前に聞いていたデータドレインらしき技の予備動作
「…不味い…金剛!まだなの!?」
動けないながらもみんなで撃つ、私たちの砲撃だって岩くらい、砕けるのに…それを物ともせず、手のような部分を向ける
「…総員撃ち方やめ!全力で撤退!私はいいから早く逃げて!」
「何いってんのよ!」
そんなことを言う暇もなく
データドレインに北上さんが、貫かれる
「北上!」
ベシャッと音を立てて水面に落下する
石の人形は手を、顔のような部分に向ける
まるで何かを確認するようにじっとそれを見ている
「遅くなりマシタ!動けない人ハ!?」
「遅いのよ!朧と北上!早く連れて逃げて!」
石の人形はそのまま、じっと動かなかった
まるで、余韻を楽しむかのように、ただじっと
「………ごめん…」
結果として北上さんは意識不明にはならなかった
だけど高い発熱、嘔吐、精神的衰弱など、あげ出すとキリがないほどの不調に陥った
「…まるで、歯が立たなかった…なんなのあれ…」
「……」
みんな押し黙ることしかしない
鳥海さん達の班は特殊個体の駆逐艦に囲まれたそうだ
そしてそれは統率をとって操っている可能性を示した
戦闘データは、私が撮っていた
しかし、それも艤装とともに使い物にならなくなった
相手が悪かった…
そんな言葉で言い表せるのか…
「朧、大丈夫?」
私は北上さんと同室に入院した、ついでに提督も同じ部屋に移した
骨折など通常と違う怪我、入渠はしたが良くなる様子もないため自然治癒と医学による療法で治すことになった、と言っても相変わらず医者はおらず、今は固定して安静にしているだけだが
本土からの医者もまだ派遣できないため、他鎮守府にやむを得ず要請する運びとなった
私より弱っている相手に心配される
中々苦しい気持ちになる
「…ごめんなさい」
「弱っちゃダメだよ、まあ、私も弱ってるんだから人の事言えないけどね」
「…はぁ…」
「自信無くすよねぇ…なぁんにも効かないし」
ただただ無惨な敗北だった
雷巡 北上
何が悪かったのか、と言えば…
ネズミが人に挑む様に無謀な戦いをしたことに尽きる
急所を知っていれば勝てたのかもしれない
ネズミが人の頸動脈を噛み切り、仕留めることがあれば、大金星だろう
だけど私たちは、ネズミにすらなれなかった
岩には歯が突き立てられない
朧は諦めた顔をしている
私だって折れた…もう戦う気力なんてかけらもない
でもやらなきゃ、私たちがやらないと、もっと苦しむ人が増えるだけ…
工作艦 明石
「ふむ、出迎えご苦労」
横須賀の提督、この人はどうに好きにはなれないが、やはり頼れるならここだった
私を助けてくれたこともそうだが、何より提督の旧友である点が大きかった、素早い対応をしてくれた
「…鎮守府の件ですが」
「こうなる様に仕向けたのは私だ、気にするな、上へはいつも通り報告するだけだ」
「…ありがとうございます」
「それで、交戦した相手の写真などは…」
「…ありませんが、本部からの連絡と違わぬ見た目をしていたとみんな言っていました」
「…なるほど、了解した、それと、軍医の代わりにうちの所属の医療班を連れてきている」
「よろしくお願いします!夕張です!」
「難のあるやつだが、しばらくここに駐留させる、それと、今回の戦いにあたり、我々から前線への支援物資だ、とりあえずあとはその資料に書いてある」
「ありがとうございます…」
「…彼は」
「未だ目を覚ましていません…」
「ふむ…夕張を案内してくれる者を1人、君と2人で話がしたい」
「わかりました、加賀さんを呼びます」
加賀さんはすぐに来てくれた、あの人なら何かあっても十分に対応してくれる
「君たちの交戦した敵だが、スケィスという」
「すけぃ…?」
「スケィス、10年と少し前に、カイトが倒した最悪の敵だ」
「提督が?」
「まあ、交戦した場所はネットゲームの中だったがね、その頃はまだ私は仲間になっていなかったが、何度か話を聞いた、恐ろしく強い敵だったと」
「つまり、それもネットゲームから現れた…」
「そう見るのが妥当、だが…」
「何か?」
「……いや、それよりも、何か攻撃は効いたのかね」
「全く、何一つ効かないと」
「…やはり腕輪が…いや、待て、ここの北上は意識不明になっていないそうだな」
「……はい」
「…腕輪を所持しているものがいるのか?」
「………はい…」
「……何ということだ、まさか…だが、それだけでも来た価値がある」
「…どうするつもりですか」
「どうもしない、だが決して誰にも話すな、漏洩すれば今の状況など一瞬で変わる、全てが終わるぞ、あれは…世界を壊す力だ」
「………」
「腕輪については?」
「全く、何も…」
「ならば私の知ってる限りを話そう、先ず腕輪だが、あれを乱用すると暴走する、良い結果で済むこともあれば、悪い形になることもある…なにより、死に至る恐れもある、カイトはそれを承知で無理な使い方をしていたが、気をつけたまえ、それだけは望んでいないはずだ」
「…それを抑える方法は?」
「腕輪を使わずに敵を倒せ、自分の手でとどめを刺すんだ、そうすれば少しずつ腕輪の暴走の危険は減っていく、はずだ」
「…提督はどうやってあの化け物を?」
「他の八相のようにプロテクトを破壊してからデータドレインで弱体化させて倒した、と言っても伝わらないだろうな、まず、スケィスとは八相と呼ばれる敵の一体だ、合計で八体いる」
「…あれが、八体…?」
何も考えられなくなりそうになる
「普通、ウイルスバグを倒す際、そのプロテクトを破壊しなくてはならない、八相も同様にだ、だからまずはプロテクトの破壊、破壊すればガラスの割れる様な音がなる、そしてそこからすぐにデータドレインで改竄する、奴らの不死性を取り除くんだ、そうすればようやく強敵といったレベルだな」
「………ふざけてるわけじゃないんですよね
「大真面目だ、何度苦労させられたか」
「………」
勝てない相手だ、間違いなく、今のままじゃ
「苦しい戦いだとは思うが、我々は力を貸さない、腕輪を持っていない以上、悪戯に被害を出せないのでね」
「腕輪があれば被害は出ないんですか?」
「少なくとも意識不明は免れる、ちょうど君らの北上のように」
「………」
「交戦データすら表には出せないな、まあいい、とりあえず、健闘を祈る」
言いたいように言って離れていった
こちらは何もわかってないのに
???
??? ???
『どうやら、アテは外れたみたいですね…カイト』
何かが嘲笑う
『ヒヤリとしましたが、ふふふ…時間稼ぎにしかならなかった…こうなるべきだったのです、もっと前に…しかし、アウラの覚醒はまずい…せっかく操ったモノも、私を振り払いかけている…これでは……いや、今のアウラなどとるに足らない…力をつける前に…消す』
給糧艦 間宮
「あー、お腹が減りました」
「今日は私達が当番ですから、好きなものを作りましょう」
食う母、もとい空母のお二人が今日の担当
辛い出撃があったばかりなのに、気丈に振る舞っています
「うーん…どうにも…」
「せっかくだし焼き鳥とかどうですか?」
「……自虐ですか?」
「そういうつもりはなかったんですが、ローストチキンとかにしましょうか、七面鳥を…」
「あの、ここはあんまり豪華なものは…」
「でも今日くらいは豪華なもので今後の為にやる気を…」
「そうですねぇ…じゃあお鍋にでもしますか、みんなで囲んで食べられるお鍋に」
「あ、素敵ですね、じゃあ全席鍋にしちゃいましょう」
「よーし、じゃあお鍋に決定、私ちゃんこがいいと思います!」
「すき焼きは譲れません!」
「水炊きも美味しいですよ?」
戦争が始まってしまった
工作艦 明石
「…その、うん、別にいいんですよ?ただ私たちの明日のお食事を削って節約していけば」
「ごめんなさい」
「大変申し訳ございません」
「周りが見えなくなってました」
「まあ、その、ちょうど横須賀の方もいらしてますし、食料を含めた品が届いたタイミングだったので、今回は…」
「……よし…」
「…やりました……」
「空母2名の一週間のおやつ抜きで手を打ちますが」
「そんなっ!どこまでがおやつですか!?」
「赤城さん、食事ならおやつに含まれないわ、大丈夫」
「…〇七三〇の朝食、一二〇〇の昼食、一九〇〇の夕食以外を禁ずる、と言い直しますね」
「殺生な…!」
「…くっ…後生です、どうか、どうかおにぎりだけでも…」
「どうせ爆弾サイズなのでダメです」
「わ、私には…」
「まあ、その、朧ちゃんと潮ちゃんにおいしいものを振る舞ってもらってください」
「………死ねと?」
「間宮さん、私たちも辛いんです…」
「その…同情するわ」
「変わりましょう!!」
「嫌です!死んでしまいます!」
「……甘いご飯はおはぎがあるけど…その…」
「わかったら以降は気をつけてください、次は実行してもらうので」
「「「わかりましたっ!」」」
この日の夕食はいつもより噛み締め、よく味わいました