元勇者提督   作:無し

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姉妹仲

宿毛湾泊地

軽巡洋艦 北上

 

北上「なに、いい加減ウザいんだけど?」

 

亮「少しだけでいい、時間あるか」

 

北上「…アンタがなんかを嗅ぎ回ってんのは知ってるよ、で、何?」

 

亮「大井の事、許してやってくれないか」

 

北上「…っ…はぁ…関わらないって言ってるじゃん、それじゃダメなの?」

 

亮「…俺はダメだと思ってる、北上、お前本当は姉妹と仲良くしたいんじゃ無いのか?」

 

北上「姉妹?もしかしてアイツの事言ってんの?……冗談よしてよ、次アイツを姉妹だなんて言ったら…撃つよ」

 

亮「撃ってみろ」

 

北上「…チッ」

 

亮「お前、周りより少し賢いだろ?少なくとも馬鹿じゃ無い…俺を撃ったらどうなるかくらいわかるだろ」

 

北上「……だから大人しく話聞け…って?ふざけてんの?」

 

亮「ふざけてなんかねえよ、あの時お前を解体しちまったのは俺だ、お前が本当に大井に対しての憎しみしか無いのか…それが知りたいんだ」

 

北上「……」

 

亮「あの時の事は俺にも責任はある」

 

北上「だから怒りの矛先を俺にも向けろ?」

 

亮「そうだ、お前が憎しみを向けるべき相手は大井1人じゃ無い、俺もだ」

 

北上「だから何が変わるってのさ」

 

亮「相手を変えたきゃ自分が変わるしか無い…ってとこか」

 

北上「…そんなにあたしと大井に仲良くさせたいの?意味わかんないんだけど」

 

亮「俺もわかんねえ、でもやれるだけはやっておかないと後悔するだろ?」

 

北上「…納得して選択したとしても…後悔はするよ」

 

亮「かもな」

 

北上「……」

 

亮「大井も、お前も、相手に求める事しかしてない…と思ってな」

 

北上「求めるって…何を」

 

亮「さっき言った通り、姉妹を求めてる…様に俺は見えた」

 

北上「……」

 

亮「大井はお前の力を求めてる、だけどお前らお互いに求めてるだけだろ」

 

北上「あのさ、あたしも何も知らないわけじゃ無いんだよ、もしあたしがアイツと仲良くしたかったとして…アイツはあたしじゃないキタカミを助けたがってるの、わかる?」

 

亮「それは知ってる」

 

北上「あたしの望みがそうだったとして…手を貸せばあたしは要らない子なんだよ、だって本物の姉妹は別にいるわけだし」

 

亮「お前、ここの綾波型の事知らないのか?曙が2人いただろ」

 

北上「あんなのイレギュラー中のイレギュラーじゃん、それになんか変な部署行ったんだし、くる前と何にも変わんないでしょ」

 

亮「そう思うなら会ってきたらどうだ?」

 

北上「なんでそんなめんどくさい事…あのさぁ、そっちが何言おうと勝手だけど、あたしはあの大井と仲良くする気なんかないの、どうしてもそうさせたいならあたしの目の前で土下座でもさせてよ、そうすれば話くらいは…」

 

大井「聞いてくれるんですね」

 

亮「大井、お前いつから…」

 

北上「何?やるの?本当に土下座しちゃう?」

 

大井「確かに周りに変わる事を強要する以上、まず自分が変わるのは当然の事、それだけよ」

 

大井は何の躊躇いもなく土下座をしてみせた

その行為がより苛立ちを加速させた、何でこいつはあのキタカミのためにここまでできるのか…と

 

北上「……」

 

大井「話は聞くんですよね、深海棲艦と化した球磨型を助けるために…手を貸してください」

 

北上「あたしの力なんて借りなくてもできるんじゃ無いの?」

 

大井「……」

 

北上「アンタら2人ともウザいよ」

 

大井「ウザくて結構です、私は姉妹を助けるために尽くせる手は全て尽くしたい、私が戦うと決めた以上…妥協はしません」

 

北上「へぇ…」

 

大井「それに、私は人を思いやる事は今までしてきませんでした、今もあなたに対しては思いやりを欠いている自覚はあります」

 

北上「何だ、わかってるんじゃん、そこまでわかっててまだ手伝えって?」

 

大井「勿論、ここまで来た以上は」

 

北上「……馬鹿なんじゃない?いや、清々しいよねぇ…うん、本物のバカなんだろうなぁ…何?あたしが手伝うメリットは?」

 

大井「…提示できる何かはありません、ですが私は全てを捨てる覚悟がある」

 

北上「じゃあ死ね、あたしには関係ない」

 

大井「……」

 

亮「待て、流石にお前も言い過ぎだ」

 

北上「もうさぁ…ほんっとうに時間の無駄…何?もう手伝いません、はい終わり、コレじゃダメ?」

 

亮「大井は今変わろうとした、姉妹を助けるためだけじゃない、お前に応えるために…」

 

北上「だとしたら、遅いんだよ…何年、いや何十年…とにかく遅すぎるし、やり方だって間違えてる」

 

大井「っ…」

 

北上「確かにあの時のあたしだって浮ついてたよ!だって艦としての記憶しか無いから、色んな仲間と再開できるとかさぁ…でも蓋を開けたらアンタらは地獄みたいなとこから逃げてきたらしい、けどあたしは違う、そのギャップとあたしのせいで苦楽を共にした姉妹と過ごせない憎しみを向けられた!」

 

大井「違う!そんな事…!」

 

北上「何処が違うのか…言ってみれば?あたしが居なければ良かった、そう思った事が本当になかったって…言えるのなら言ってみなよ、言ってみせろよ!」

 

大井「っ…それは…」

 

北上「大体さぁ、コイツは一番最初に必要なものを持ってきてない、何が変わろうとしてる?本当に変わろうとしてたならまず謝れ…!アンタがしてんのは最初から最後まで要求!一度だってあたしを見てない!」

 

大井「……そう、ね…本当に…ごめんなさい」

 

北上「言われてやっても価値なんかないんだよ、今更そんな事されてもさぁ…媚びてるだけじゃん」

 

亮(…そろそろ止めないと流石に不味いな…)

 

大井「…貴方に求める事はもうしない、貴方が嫌ならもう関わる事もしない…」

 

北上「…っ…」

 

大井「許してくれなくたっていい、今まで…本当にごめんなさい」

 

北上「意味わかんないよ、じゃあ何で謝ってんの?あたしはもう手伝わない、なのに謝る意味なんかある?手伝わせたいんじゃなかったの?」

 

大井「…結局、私は自分のことで手一杯、相手の気持ちなんてまるでわからない…だから私は今まで同様自分の力で問題を解決する事に全力を注ぐ…でも、これからは誰かを傷つける様な事は絶対にしない」

 

北上「ホントにさぁ、何なの此処の奴ら…揃いも揃ってわけわかんないこと並べ立てて…」

 

大井「貴方にも、これから貴方を傷つける様な真似は絶対しない、約束する」

 

北上「…だから今までの何もかも、帳消しにしろって?」

 

大井「お互いに、ね…提督、私は先に失礼します」

 

亮「お、おい…」

 

北上「……チッ」

 

亮「待て、北上」

 

北上「何…今頭にきてるからさぁ…ホントに撃つかもよ」

 

亮「…少しでいい、場所を変えよう」

 

 

 

 

亮「紅茶とコーヒー、どっちがいい、どっちも缶だけどな」

 

北上「砂糖は」

 

亮「コーヒーはブラック、紅茶はミルクと砂糖入りだ」

 

北上「…紅茶、次からはカフェオレ買っといて」

 

紅茶の缶をひったくり、さっさと飲み始める

 

亮「少し気になってたんだがな…踏み込んでいいことなのかわからなかったから…聞くのも憚られたんだが」

 

北上「さっさとして」

 

亮「お前、金を集めてどうしたいんだ?」

 

北上「……ああ、履歴書でも見た?…あれ履歴書でいいの?」

 

亮「さあな、個人情報が載ってる書類ってだけだし…で、何でわざわざ命懸けの仕事を選んだ?」

 

北上「…さぁねぇ…酒でもくれたら口が軽いかもよ?」

 

亮「お前15だろ、ダメだ」

 

北上「レディの年齢把握してるなんてキモーい」

 

亮「で?」

 

北上「…動じないねぇ…言われ慣れてんの?」

 

亮「聞かれたくないか」

 

北上「そりゃあ給料の使い道なんて誰も知られたかないよ」

 

亮「…そうか、まあ確かにな」

 

北上「…そういや…なんて呼べばいいんだろ」

 

亮「三崎でも何でもいい、呼びたい様に呼べよ」

 

北上「……じゃあ、提督かなぁ…イエスマンよりも提督っぽいし、一応は部下だった時あったし」

 

亮「イエスマン…?」

 

北上「まあ、ソレは置いといてさ、提督はお金貯めて何かしたいこととかないの?」

 

亮「急だな…いや、元々そういう話だったのか…金を貯めて…か、特に思いつかねえ、一生生活できる様になったらゲームでもして過ごすんじゃねえの?」

 

北上「夢がないねー、お金だよ?アレがあれば何でもできるんだよ?」

 

亮「でも、一瞬で消える…二年前の事件覚えてるか?世界中のネットワークが初期化された事件」

 

北上「…あれで電子マネーだの、ネットバンクだの…いろんな会社も倒産した…ってニュースは見たよ、いろんな人が働けなくなったりもしたって聞いた、あたしは特に被害受けなかったけど」

 

亮「銀行のデータとかも結構やられてたらしいしな…ま、今がそんなに悪くねえってのもあって金を貯めてまで手に入れたいモンはねえな」

 

北上「さっきの話の意味は?」

 

亮「必死で貯めても消える時は一瞬ってことだ、それも理不尽にな」

 

北上「理不尽に、一瞬で…かぁ…やだなぁ…」

 

亮「何が欲しいんだ?そこまで貯めなきゃ手に入らないものか?」

 

北上「……何だろ、人かなぁ」

 

亮「人?」

 

北上「家族とか?家族構成とか書いてない?あたし一人っ子でさ」

 

亮「…それは、姉妹を買いたい…って意味か」

 

北上「かもね、今更だけどこんな手段じゃなくてもお金なんて稼げたしさぁ…本能がそうさせた…のかも」

 

亮「買えるもんじゃねえだろ、姉妹なんて…」

 

北上「そうだねぇ…でも、あの大井に手を貸したところであたしは姉妹が手に入るわけじゃない」

 

亮「手に入れるもんでもない…と、思うけどな…」

 

北上「欲しければ手に入れるしかないんだよ、わかんないかなぁ、この気持ち」

 

亮「どうやって手に入れるんだ?」

 

北上「…さあね」

 

亮「……俺は一人っ子だけどな、弟みたいに大事な奴がいる」

 

北上「へぇ、興味あるな、その話…何でそんな関係になったのかとか」

 

亮「望んでそうなったわけじゃなかったけどな」

 

北上「そんな事より、どうやってそんな仲になったの?」

 

亮「たまたま俺が売り子をしてた店にな、そいつが姉ちゃんの誕生日プレゼントを買いに来たんだ」

 

北上(コンビニのバイトか何か…?)

 

亮「でも金が足りなくてな、で、ちょっとまけてやった」

 

北上「結局金じゃん」

 

亮「今のは単に初対面の時の話だっつーの…でも、そっから一緒に遊んだりする様になった」

 

北上「遊ぶ…ねぇ…」

 

亮「ま、なんて言えばいいのか、正確にはわかんねえけど…相手に認めてもらうことが重要なんじゃねえのか?」

 

北上「…相手に、認めてもらう…」

 

亮「それに、たとえそういう仲だったとしても…絶対に相手にムカつかないなんてことは無いし、お前が望んでる程いいものじゃ無いかもしれない」

 

北上「……わかってるさ…そんなの」

 

亮「ま、お前がわかってるって言うなら…なんだ、深く首突っ込むつもりは無いし…」

 

北上「その方が助かる」

 

亮「でもな、多分お前と大井は姉妹なんだろうぜ」

 

北上「……だとしても、大井の姉妹はあたしじゃ無いんだよ」


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