元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地 演習場
軽空母 瑞鳳
演習開始の信号弾が上がる
瑞鳳「…推して、参る!」
弓を振るい、海を進む
加賀「……貴方、艦載機の数が随分と少なく見えるけど」
瑞鳳「これでもできる限り連れてきてます」
瑞鳳(…それに、割と高くつくし…)
加賀「作戦はさっき聞いた通りでいいのね?」
瑞鳳「はい、向こうに発見されるまではこちらから出しません」
曙「…随分と離れたわね、向こうが何処にいるのか、見当も…」
瑞鳳「今日はいい南風が吹いてる、匂いがちゃんと乗ってきてるから…場所はもう捕捉してる」
曙「…猟犬」
島風「先に手を出さないのは…フェアじゃ無いから?」
瑞鳳「それもあるけど…先に見つけさせれば奇襲しやすくなる」
曙「…ああ、そういう事」
島風「普通なら絶対逆だと思う…」
軽巡洋艦 川内
川内「神通」
神通「はい、補足してます、此処より南東に…」
川内「よく見えてるなぁ…どうする?」
神通「…此処で私が余計な手出しをするのは無粋です」
川内「よしよし、よくわかってるね」
神通「それに…瑞鶴さんなら見つけられる」
瑞鶴「さっきからヒソヒソと…!うるさい!」
葛城「ず、瑞鶴先輩落ち着いて…」
瑞鶴(なんなのよ…何で今日はこんなにうるさく感じるの…!)
川内(…私達は慣れてたけど、碑文使い同士が集まって碑文が活性化してる…のかな、感情が昂ってる様に見える…)
神通(…必要とあらば…)
瑞鶴「葛城!艦載機、出すわよ!」
葛城「は、はい!」
放たれた矢が炎を纏い艦載機へと姿を変える
瑞鶴「彩雲隊がスグ見つけるはず…あの舐め切った面…真っ青にしてやる!」
川内(舐め切ってるのはどっちだか…)
駆逐艦 島風
島風「連装砲ちゃん!対空射撃用意!」
曙「いや、アタシが堕とすわ、練習もしたいし」
島風「むー!活躍しーたーいーの!」
瑞鳳「心配しなくても彩雲よりも大物はたくさんいるから…」
加賀「そうね、彩雲に固執する理由はないわ、それより曙、ちゃんと落としなさい」
曙「わかってるっての…」
クルクルと指に引っ掛ける様に双剣を回し、私の前に曙が飛び出す
曙「…点じゃなくて、線ッ!」
大きく双剣を振るい砲撃を連なる様に召喚し…
曙「弾けなさい!」
炎で燃やして爆破する
爆風でバランスを崩した彩雲は水面へと錐揉み回転をしながら堕ちていく
加賀「…派手すぎね、スマートに仕留めるべきだと思うわ」
瑞鳳「同意です」
曙「うるっさいわね!?」
島風「堕とすのおっそーい!」
曙「アンタはどうせ天津風にいい顔したいだけでしょ!?」
島風「そ、そんなことないもん!誘ったけど見に来てくれるかわかんないし…」
瑞鳳「…そろそろ、行きましょう」
加賀「わかりました、戦闘機のみ全機発艦します」
瑞鳳「…行ってきて!」
島風「…コレ、不利だよー…」
瑞鳳「承知の上、でもこの不利な戦いが私の能力を引き出してくれる…!」
瑞鳳さんは弓を折り畳み艤装に収納し…
島風「うわ、メリケンサック…」
瑞鳳「……ただの籠手なんだけど」
曙「カッコ鋼鉄仕様」
瑞鳳「鋼鉄ではないんだけど…」
加賀「金属製なのは否定しないのね」
瑞鳳「まあ…ちょっとは仕込んでますし、それにコレしか近接手段はありませんから」
曙「もう碑文の力はないんだし、そもそも近接に拘る理由なんてないんじゃないの?」
瑞鳳「空母は夜が弱点、夜間の戦闘に特に弱い…でも私はその逆」
曙「暗闇の中を一方的に相手を視認…いや、匂いで嗅ぎ分けられる?」
瑞鳳「そう言うこと、あとは…まあみてればわかる」
加賀「…敵航空隊と交戦開始」
瑞鳳「こっちの方が戦闘機も多いし…技量も上…!」
遠くの空に炎が迸る
瑞鳳「速力上げて!このまま突っ込んで反航戦に持ち込みます!」
加賀に矢を一つ投げ渡す
加賀「…彩雲?」
瑞鳳「北東に!とにかく高く!」
加賀「…わかったわ、だけどコレ…いや」
加賀が弓矢を放とうとするものの、違和感を訴える
加賀「…ふっ…」
ギリギリと引き絞り、放つものの…艦載機に変化しない
瑞鳳(…何で?不良品?)
加賀「どうなってるの…?」
瑞鳳「仕方ない、別のを…いや、自分でやります、整備不良みたいで」
もう一度弓を取り出し、構え、放つ
今度は艦載機へと姿を変えた
瑞鳳「加賀さん、残りは?」
加賀「52型12機、彗星20機、流星20機」
瑞鳳「よし、私は全部戦闘機と彩雲に費やしたので、あとはお任せします」
加賀「了解しました」
瑞鳳「さて…と」
島風「…敵!東に!」
加賀「いつの間にかかなり南進してましたね」
瑞鳳「お互い視認した…か」
といっても豆粒程度、波の合間にチラつく距離
島風(来る…!)
瑞鳳「…作戦通り、作戦通りにね」
島風「何秒ですか!?」
瑞鳳「40秒!カウント開始!」
曙「神通は引き受ける…いけるのよね…!」
島風「私は…川内さん」
加賀「私にあの駆逐艦達を担当させるのは間違いだと思うのだけれど」
瑞鳳「20秒前!」
曙「…よし、勝つ!!」
曙の艤装が蒼い炎を噴き出す
島風「5…4…3…」
瑞鳳「敵射程に突入!散ッ!」
正規空母 瑞鶴
瑞鶴「ただでさえ人数不利なのにバラバラに…!?」
白髪の駆逐艦が最速でこちらへと迫る
瑞鶴「陽炎!秋雲!」
陽炎「わかってます!」
砲撃戦が始まる
前方の駆逐艦目掛けての弾幕が進路を塞ぐ
秋雲「うわっ!?熱ッ!」
陽炎「これ、あの曙の炎!」
秋雲「あーもう!正確な位置がわかんないって…!」
瑞鶴「上から艦載機で指示する!……待って、何の音?」
唸る様な音
振動が海を伝わる様な…
瑞鶴「…何か…来る!」
炎の壁を突っ切り島風が川内の目の前に現れる
川内「な…!神通!教えてよ!?」
神通「フェアじゃありませんから…それに、私の相手は別に居ます」
島風「連装砲ちゃん!」
川内「あーもう!」
瑞鶴「陽炎!援護!」
陽炎「無理です!対空射撃で余裕が…!」
瑞鶴(いつの間に…!いや、あの艦載機遅い…まだ速度が乗ってない…!)
神通「よく聴いて下さい、艦載機の位置を!」
秋雲「む、無茶ですって!」
瑞鶴(よく…聴く…)
砲戦の音…
艦載機のプロペラ音…波の音、風の音…
私の心臓の音…
瑞鶴(…全部違う音だ)
炎が私に向かって伸びる
瑞鳳「目覚めて、瑞鶴」
瑞鶴「…そこか!」
炎から飛び出してきた瑞鳳に向かって弓で殴りつける
瑞鳳「…弓は人を殴る道具じゃないよ、瑞鶴」
弓を掴み、鍔迫り合いの様に睨み合う
あと数秒これが維持できればそれでいい、爆撃機が爆弾を持って戻ってくる、それで決めればいい
瑞鳳「…よっと」
私の肩を掴み、軽々と飛び上がり背中に回る
戻ってきた爆撃機は爆弾を放つことなく矢となり私の矢筒に収まる
瑞鳳「爆撃機は匂うよ、火薬の匂いが他より強い」
瑞鶴(匂い…嗅覚…)
全ての音が…
布の擦れる音、髪が靡く音すらも…
瑞鶴「…わかる」
瑞鳳が飛び退き、構えを取る
瑞鶴「…なんでわかるの」
矢筒から矢を引き抜き、引き絞る
瑞鳳「目覚めて、戦う為に」
矢を放っては撃ち落とされ、拳打を必死で避ける
明らかにこちらの戦える距離ではない、だが逃げることも叶わない…
瑞鶴(…やるしかない…!)
一度でいい、相手を出し抜けさえすれば…一瞬の勝機さえ見えれば…
瑞鶴(…火薬の匂い…?そうか!)
瑞鳳(…顔つきが、変わった…)
真上向かって弓を引き絞る
瑞鳳(真上に…!?)
爆撃機を放つ
瑞鶴「行け!」
ただひたすらに上に、そして上ったら海へと
瑞鳳(特攻!?)
瑞鶴「そんなに鼻が聞くなら…コレでどう!」
爆風と煙で周囲の視界が潰れる、何も見えない
瑞鳳「ゴホッ!…ゴホッゴホッ!」
瑞鶴(…位置は、掴んでる)
もう一度爆撃機を放つ
瑞鳳(…見えないし、匂いも…これは…)
瑞鶴「トドメ!」
瑞鳳「いっ…たた……やるわね…でも、今の爆撃で逆に煙が晴れた…」
瑞鶴「嘘…!まだ倒せないの!?」
瑞鳳「……復讐する者…」
瑞鳳が詰め寄り、ゼロ距離で弓を押し当て引き絞り
艦攻の爆弾を直接押し当てられる
瑞鳳「喰らえッ!」
瑞鶴「ぁが…っ…あぅ…」
瑞鳳「……旗艦、撃破…と…」
軽巡洋艦 川内
川内「はぁ…疲れた」
演習終了の信号が上がる
島風「もう少しで倒せたのに…」
川内「さ、流石に…はー…負けたくないって…」
川内(…目的達成できたのかなぁ、コレ…鎮圧どころじゃなかったけど)
神通「ね、姉さん…」
川内「うわー…こっ酷くやられたね、髪の毛酷いよ?」
神通「…燃えるかと…」
川内「はいはい、撤収するよー」
島風「連装砲ちゃん、お疲れ様」
神通「瑞鶴さん…おそらく、覚醒しました、ですが受け入れることが出来ないと言うのは、変わらない様です」
川内「受け入れる…か、瑞鶴は佐世保を目の前で潰されたり…色々嫌な思い出ばかりだっただろうから…時間はかかるだろうね」
神通「…はぁ…つ、疲れ、ました…」
川内「よし、早く撤収して休もう」
医務室
正規空母 瑞鶴
瑞鶴「…ぅぐ…」
加賀「起きたようね」
瑞鶴「…貴方は…加賀さん」
加賀「意識ははっきりしてる…と、それなら良いわ」
瑞鶴「……あの」
加賀「何?あまり時間はないのだけれど」
瑞鶴「…翔鶴…って、誰ですか?」
加賀「貴方の姉妹艦、それ以上でも、それ以下でもないわ」
瑞鶴「……」
加賀「貴方の力は…守るためのモノ」
瑞鶴「守る…?」
加賀「救うとか、そんな器用なこと…無理に頑張らなくて良い、1人で全部解決しなくて良い…危険なら逃げれば良いの」
瑞鶴「逃げる…」
加賀「貴方、私の言葉、覚えてる?」
瑞鶴「言葉…?」
加賀「貴方が良いと思ったことをやりなさい、そうすれば前に進めるわ」
瑞鶴「ぁ……それ、加賀さんのセリフじゃない…んですよね」
加賀「そうね、ただの受け売り…でも、大事な言葉」
瑞鶴「…また、頑張ったら…褒めてくれますか」
加賀「頑張りすぎなければね」