元勇者提督 作:無し
研究所
駆逐艦 春雨
春雨「…記録完了、と……やっぱり、嫌な気分になるなぁ…」
真っ暗な部屋の中でコンピュータを操作する
深海棲艦の死骸がチリのようになり、液体にに溶けていく
春雨「…と、破棄」
保存用のケースが液体が流れ、空になる
目の前のコンピュータに表示されるデータを眺める
春雨「…これ、何処までが許される行為なんでしょうか」
ヘルバ『何一つとして許される行為ではないわ』
春雨「うわっ!?びっくりしたぁ…せめてモニターつけてくださいよ…ただでさえホラーみたいな状況で脅かさないで貰えますか?」
ヘルバ『それより…死体は?」
春雨「液体に溶けました、ただの海水なんですけどね、はい」
ヘルバ『…そう、それは仕方ない事ね、上がっていいわよ』
春雨「…これ、価値のあるデータなんでしょうか、今の深海棲艦も元人間なんですよね?悪戯に苦しめるような…」
ヘルバ『薬を作るには…何度もいろんな物への実験が行われるわ、これはそのうちの一つに過ぎない、それに手探りである今は全ての行動が価値のある行動よ』
コンピュータの画面を眺める
春雨「…艦隊は今何処にいるんでしょうか」
ヘルバ『沖縄を越えたあたりで交戦しているそうよ、何も問題はない…と』
春雨「…もう少し、仕事していきます」
コンピュータを操作してデータをまとめる
海上
駆逐艦 アオボノ
アオボノ「残り2匹、南西と南東に戦艦級」
阿武隈「了解、南西方面撃破です!」
アオボノ「撃破了解、朧、其方は?」
朧「多分いける…魚雷発射!」
アオボノ(…直撃ルートは外れたか)
アオボノ「イムヤさん、朧のカバーに」
イムヤ『了解、回避行動確認…さぁ…いらっしゃい…!』
アオボノ「水中なのに一切ノイズがありませんね、どうなってるんですか?」
イムヤ『知らな…よし!やった!』
水柱が複数上がる
朧「撃破確認…!」
アオボノ「イムヤさんがやったんだけどね」
朧「…わかってる、わかってるよ…」
アオボノ(数日とはいえ基礎的な砲雷撃を疎かにしたツケが来てる…朧のメンタル的にも良くはない、ケアが必要か…)
海斗『敵戦力の殲滅を確認、交代だからリフトに乗って』
アオボノ「了解しました、イムヤさん、撤収です」
イムヤ『了解!疲れたぁ…』
朧「周囲警戒」
阿武隈「大丈夫、電探に感なし」
アオボノ「リフトあげてください」
艦内
朧「……」
アオボノ「ほら、麦茶…そんなにイライラしてるとふけるわよ」
朧「…ありがとう、でも余計なお世話」
朧は差し出されたボトルを強く握りしめるだけで口に運ぼうとはしない
アオボノ「毒なんか入ってないわよ」
朧「あ、うん…そこは信用してるよ、ただ喉が渇いてなくて」
アオボノ「前にも言ったけど、あんたは結果すぐに求めすぎよ」
朧「…わかってるんだけど…でもさ、例えば島風とか…」
アオボノ「あんた、ホント馬鹿ね」
朧「わかってるよ、島風は前の世界からあの武器を使ってたからで…」
アオボノ「いや、そうじゃなくて…島風さんはアンタより努力してるって言ってるのよ、今の体は人間のそれなのよ?あの速度での戦いなんて普通無理、でもそれを無理矢理やってる…その意味がわからない?」
朧「…アタシが全然足りてないって?」
アオボノ「別に多少強くなるだけならそれで良いわ、アンタが憧れてる相手は努力を怠らなかった天才よ」
朧「天才…」
アオボノ「天才ってね、実は沢山いると思うわ、アンタだって天才かもしれない、でも芽が出るのは努力を怠らなかった天才だけよ」
朧「努力せず強くなる人は…?」
アオボノ「適応力が高いだけよ、それも一種の才能だと思うけど、それに慢心して努力を怠る人が多い」
朧「…結局努力?」
アオボノ「一生かけて努力すれば何でもできる…なんて言うつもりはないわ、たとえどれほど塵がつもっても何年かけても私の身長ほど積もるわけないしね」
朧「えっと…?」
アオボノ「納期よ、例えば1日1枚ずつ紙を重ねて行く、100枚重なるのには100日かかる、でも納期は70日しかない」
朧「…30日遅れてるね」
アオボノ「これが今のアンタって事」
朧「…どうやっても間に合わない、か」
アオボノ「いや、何で1日に2枚にしないの?半分の50日で完成するわよ」
朧「え?」
アオボノ「まあ、すごく疲れるだろうし、身体が壊れかねない、だから作戦前に無理をするのを避けたのは間違いじゃないけど…アンタ自分や周りが決めたことに従い過ぎなのよ、そんなもん無視しなさい」
朧「…無視、して…か」
アオボノ「だってそうしないと勝てないし、死ぬから」
朧「…曙でも?」
アオボノ「私ね…現実の、人間の身体ってレベルアップするのかわからないの」
朧「レベルアップって…ゲームじゃないんだし」
アオボノ「そうよ、でもアナログって面白くない?0と1の境界には無限の数があるの」
朧「…0.1とか、0.2って事だよね」
アオボノ「0.01とか0.526とか、もっと細分化できるけど…それだけたくさんの数字があるのよ、それこそ無限にね」
朧「…それがどうレベルに繋がるの?」
アオボノ「レベル1とレベル2、ゲームなら確実にレベルが高い方が有利よね」
朧「まあ…うん、そうだね、知識とかでひっくり返せるけど…」
アオボノ「例えば、レベル99とレベル100、この差ってどのくらいだと思う?」
朧「…うーん…」
アオボノ「1レベルで上がるのがずっと変わらずに5だったとして、ゲームのステータスならたった5なの」
朧「495と500…5と10」
アオボノ「そう、レベルが低いほど小さい数字が大きな差になるのよ、それで、さらに話を変えるけど…曙と私、どっちが強い?」
朧「えっ…それは…」
アオボノ「測れないって事は差が小さいのよ、実際勝ったり負けたりしてるから、ほぼ互角かしら…だけど、私はこう考えてる」
朧「……」
アオボノ「私達は
朧「負けない…」
アオボノ「それは、勝負は時の運って言うこともあるし…ねぇ?当然ひっくり返る事だってあるわ、だけど私は負けない」
朧「……」
アオボノ「でも、数値だけで全てが決まる世界なら…私は負けない、例え小数点より遥かに下の数値でも、0と何も変わらないと言われるような数値でも、その微かな1の差が私を勝たせてくれる」
朧「…その微かな1を拾うために努力してるの?」
アオボノ「そうよ、ようやくわかった?」
朧「うん、わかった」
アオボノ「結局、負けるときは負けるし、勝つときは勝つ、だけど自分の努力が足りなくて誰かを失うようなことになったら…泣きたくても泣けないでしょ」
朧「アタシは、逆に泣いちゃうかなぁ…」
アオボノ「泣くくらいならその時間を前に向くためにあてて、戦い続けなさい、自分が生きる為に」
朧「…わかったよ、曙」
艦内にサイレンが鳴り響く
アオボノ「…敵航空隊ね」
朧「翔鶴さん…かな?」
アオボノ「だとしても、対峙するのはまだ先よ…甲板に出るわよ、対空射撃には参加しておかないと」
甲板
軽巡洋艦 北上
北上「…チッ……あたしも残りたいって言えば良かったな…」
あの時見た対空射撃が脳内で何度もリピートされる
自分には到底できない、あの一射で全てを打ち砕く…
北上「……3.4…と…まだいるな」
全部落とせばいい、全部…
大井「こちら大井、南西からの敵機、排除しました」
すぐ近くで大井が敵機撃破の報告を送る
北上「……おつかれー、あたしもどるわ」
大井「…お疲れ様です」
ぎこちなく、ギクシャクした声になってしまった…
漣「北上さんおつっ!」
北上「…何、駆逐…あんたいたの」
漣「酷くないですかー…普通にいましたよ、テンションまじ下げー…」
北上(…あ、ダメだ…この子あたしとコミュニケーション取ろうとしてくれてるのに…取れないわ)
足早に自室に戻る
北上「…はぁ……怠いわ、やっぱ」
こんなに苦労するくらいなら、ストレスを感じるくらいなら…1人の方がマシだ…
東京 特務部研究所
駆逐艦 綾波
綾波「もう一回、言えって言ってるんですよ、私と部長様の目の前で」
兵士の首を脚で締め上げ、尋問する
兵士「しょ、所属不明の艦娘に強奪されました…!」
綾波「貴方達は深海棲艦の死体の消滅を見届けるのが任務でしたよね?記録映像を持って帰ってくる任務でしたよね?それが失敗って……生きてる価値ありませんよね?」
兵士「お、お許しを…!おゆ…ぁが…!」
綾波「……」
数見に視線を送る
仕方ないと言ったように視線を外され、拘束を解く
綾波「次失敗したら殺します」
うつ伏せに倒れている兵士の後頭部を踏みつける
数見「…キミにも罰を与える事になるが」
綾波「ああ…これ、ストレスのせいなんですよ、アハハッ…許してくれません?無能な奴等を半殺しにしたくらい…ほら、私は有能ですから」
数見「……」
綾波「…ああ、成果ですか、良いですよ、まだ実験できてませんけど…ほら」
注射器を見せる
数見「それは」
綾波「深海棲艦を人間に戻す薬……の、実験段階の品ですね」
数見「試してはいない、か」
綾波「完成が遅かったですしねぇ…あ、人間に打っても問題ないのは確認しましたよ、一応いっときます?」
数見「自分で打て」
綾波「はいはい、ぷすっと」
自分の二の腕に針を刺し、薬液を送り込む
綾波「んっ……ぁはァ…」
数見「まるで薬物依存者だな」
綾波「ええ、どうです?一本」
数見「……報告書は一週間以内に上げるように」
綾波「はいはーい、わかってまース」