元勇者提督 作:無し
台湾
軽巡洋艦 夕張
海斗「う……みんな、大丈夫?」
神通「……」
夕張「神通さん頭を打ったみたいですね、気を失ってます…」
島風「そんな事より、さっきの子は…?」
龍田「降りてみるー?」
海斗「…待って、僕が降りる」
夕張「っー…ほんっと痛いなぁ…」
ドアが空いた音と同時に銃声がなる
龍田「あら…」
夕張「え?な、何!?」
海斗「誰か手を貸して!さっきの女の子が銃を…!」
島風「連装砲ちゃん!」
島風ちゃんがドアの隙間から連装砲ちゃんを抱えて出す
島風「撃てたら撃って!」
夕張「ちょっ!?」
龍田「死んじゃうわよー?いいけど」
砲音がなる
夕張「本当に撃った…?何考えてるの!相手子供よ!?」
島風ちゃんを引き寄せて問い詰める
島風「へっ!?い、いや…」
龍田「人を殺す力を手にしてる時点で、子供だとかそういうの関係ないと思うけどー」
海斗「大丈夫、島風は銃を吹き飛ばしただけだから…みんな降りてきて」
夕張「…多分折れてますね…うん、でもそれ以外に怪我はない…銃なんて子供が扱って良いような物じゃないんですよ」
女の子の手当てをする
手には当たらなかったと言っても強い衝撃が手に伝わる、
海斗「すっかり怯えてるみたいだし、周りには誰もいないし…どうしたものかな」
島風「…ごめんね、撃っちゃって」
海斗「…そろそろ車に戻ろう、見つかったらためらいなく撃って来ると思うよ、この子も撃たれると思っていい」
龍田「この子はどうするつもり?」
海斗「流石に連れてはいけない…けど…」
島風「…ここに置いて行くの?でも元々いたのは此処だし…」
夕張「本人の意思さえ確認できれば…まあでも、日本語はわかんないかー…」
雪風「日本語は…わかります」
夕張「え、わかるのっ!?てか日本語うまっ…」
龍田「ネイティブね〜」
雪風「…その、わ、私…日本人で…その…」
海斗「…とりあえず、屋外は危険だ、車に乗ってくれるかな」
雪風「いや…もっと安全なところがあります、その…よければついてきて下さい」
龍田「…それが罠じゃないって保証もないし、銃を持ってるような子を信用するのは簡単じゃないわ〜」
海斗「とりあえず、近くの民家に一回身を潜めよう、先に行ってて」
雪風「…私は日本生まれで…その、台湾に旅行できたら…深海棲艦のせいで帰れなくなって…」
島風(そういう境遇の子もいるんだ…)
雪風「…その、私…日本人だからって…艦娘システムの被験者に…」
夕張「日本人だから…って、そんな事関係あるの?」
雪風「知りません…」
龍田「艦名は?」
雪風「…雪風です」
夕張(日本艦…だから?)
海斗「よいしょ…と、遅くなってごめん」
まだ気絶してる神通さんをおぶって入ってくる
雪風「あ、あの…その…私、こんな事言っても信用されないとはおもうんですけど…その方を知ってます…」
海斗「え?」
雪風「神通さんですよね…呉の…」
龍田「記憶持ち、ってことね〜」
海斗「…とりあえず、味方であるって方はわかってもらえたのかな」
雪風「はい、大丈夫です…」
夕張「台湾で何が起きてるか、教えてもらえる?」
雪風「その…私もよくわかってないんです、でも…今残ってる民間人はほとんど台湾の南側に集められてて…北側は残ってる軍が好き勝手してます…」
海斗「君は?」
雪風「私…雪風は、日本人だし…それに、艦娘システムの適応者だから北に行けって…でも、私この世界で戦った事もないし、艤装も貰ってないんです…」
龍田「戦えないのに送り込まれたのねー」
雪風「…その…北には、軍人さんと来たんです…でも、施設に入った途端私たちが乗ってた輸送車両は味方に撃たれてみんな…小柄な事が幸いして雪風だけは逃げることができました…」
夕張「待って、味方を撃った…って人間同士の殺し合いが始まってるの?」
雪風「…わかりませんけど、雪風も狙われました…その時に銃を盗んで…無人の民家とかで食材を盗みながら今日まで生きてました…」
夕張「そっか、大変だったのね…でも何であんな事…」
雪風「……こんなに辛いのは軍のせいなんだ…って思うと…許せなくて、せめて1人でも…って」
海斗「そんなこと考えちゃダメだ、僕達だったから君をかわしたけど轢かれてたかもしれない、それに人殺しなんて…」
雪風「…わかってます、でも、もう辛いんです!」
夕張「提督、この子の話を鵜呑みにするなら明らかな異常が起きてますよ」
島風「何で味方を撃ったりなんか…」
龍田「可能性としては、その方が得をするから…じゃ無いかしら?」
夕張「火事場泥棒…って事ですか、民間人南に集めちゃえば民家は漁り放題、確かにやりたい放題できるでしょうけど…でも…」
神通「倉持司令官」
海斗「…神通さん、目が覚めたんだね」
雪風「神通さん…あの…」
神通「雪風さん、挨拶は後で…倉持司令官、敵が迫っています」
海斗「…派手に音を立てたからね、仕方ないか」
神通「殺害の許可を」
海斗「……」
神通「倉持司令官、貴方のやってる事は美徳ではありません、ただの怯えです…私達に殺させるのが怖いんじゃなく、自分の指示で人を殺すことに怯えている」
海斗「そういう訳じゃないよ、ここで台湾軍の人間を手にかける事はとても危険だと思うんだ、雪風の話からも同じ台湾軍なのに事態を把握出来ていない、やるならその理由を説明できないと台湾との戦争に発展する」
龍田「…確かにそうかも知れないけど、これだけつけ狙われてる時点で十分すぎる気もするわね〜」
海斗「客観的に証明できないと意味がないんだよ、神通さん、敵はどのくらい近いのかな
神通「…この家の外に6人、今にも入って来るのではないでしょうか…」
窓から様子を伺おうと近づく
神通「ただ、窓から見える位置にいたら狙撃されるかと」
夕張「ひっ…!」
海斗「発砲は許可するよ、できるだけ殺さず話を聞ける形で捕らえるんだ、今はとにかく情報が要る」
神通「…譲歩します…龍田さん、此処は任せました」
龍田「1人でやるの?」
神通「流石に6人を相手にして貴方のことを気遣う余裕はありませんから」
龍田「あら、侮られたものね〜」
神通「侮ってなんかいません…ですが、私は…いえ、とにかく待っていてください」
龍田「……わかったわー」
神通
神通(…流石に、外でやる為には数を削らないと、相手に遊びはない…誘い込んでゼロ距離の接近戦に持ち込むしかない)
艤装から鉄の棒を取り出し、組み合わせて身の丈より長い2m近い槍を作る
神通「…馴染みませんね」
屋内で長物は振り回せない…
神通(倉持司令官達は奥の部屋、私は玄関前…敵が入って来る位置はどこか…)
神経を研ぎ澄ます、土を踏みしめる音、ガラスを壊す器具を設置する音
神通「…そこ」
槍を両手で握る、石突のあたりを右手で逆手にとり、もう片方の手で槍を支える
槍を水平に構え、右手に力を込める
神通(…私ももしかしたら艦載機を飛ばせるかも知れませんね)
神通「穿ちます」
槍を思いっきり押し出して放つ
壁を貫き、ガラスの割れる音が響く
神通(当たってない?いや、今穴から血飛沫が見えた…悲鳴一つあげないなんて…)
兵士がバタバタと走って入って来る
神通(進路はそこ、私の位置は不明瞭ならまだ撃てない)
音を立てずに物陰に隠れる
足音が複数近づいて来る
神通(…やはり、普通ではないような…)
物陰から飛び出し、襲いかかる
神通(3人しか居ない?)
銃口が向く前に1人の頭をハイキックが捉える
その蹴りの勢いのまま軸足を入れ替えて踵でもう1人にハイキック、最後の1人の銃を掴み銃口を真上に向けて相手を壁に押し付け、腹部に膝を入れる
神通「っ…!これは…」
兵士の顔に生気はない…と言うより、既に死んでいる様な…
土気色の肌とは対照的にギラついた目
神通(まるで…何かに寄生されている…?)
背後から物音
神通(あの蹴りで意識を奪えていない!?まさか本当に…!)
掴んでいる兵士を倒れている別の兵士に投げる
神通「なっ…」
倒れている兵士のうなじあたりに小鬼の様な小さな深海棲艦が張り付いている
神通「深海棲艦!」
小鬼を蹴り飛ばす
吹き飛んで壁にぶつかり潰れて消える
神通「まさか全員に…!」
起き上がった兵士の銃口を手で逸らし、腕を蹴りでへし折り無理矢理銃を奪う
神通(操られてるならまだ生きてるかも知れない…捕まえれば情報が…)
先ほど開けた風穴から外の様子を一瞬覗く
神通(3人もこっちに銃を向けて…!)
慌てて飛び退いたところに複数の銃弾が通り抜ける
神通「御構い無しに撃ってきてますね、私にもそれほどの腕があれば…」
引き倒した兵士の両肩を打ち、無力化する
神通「2人…3人目」
取り憑いている深海棲艦を撃ち抜き砕く
神通「このまま外!」
窓から飛び出す
3人の兵士が別々の方向を向いたまま胴体を槍に貫かれ身動きが取れない
しかし銃口だけは無理矢理こちらに向けて撃って来る
神通「はぁっ!」
体を捻り、射線をかわして回り込み深海棲艦を掴み取り、握り潰す
神通「…援軍…ですか」
複数の足音が聞こえる、それも各方向から
神通「…ふぅっ……やれます」
槍を掴み、大きく振るう様に刺さった兵士を投げ飛ばして引き抜く
神通「今の私を相手に戦うことがどう言う結果を招くのか…とくと味わっていただきます」
体が鈍い、動きが異様に遅い
しかしそれは何の問題にもならない
神通(…視える、全てが)
槍と壁を使い、立体的な軌道で敵の中心に降り立ち、一薙で敵を弾き飛ばす
神通「狙撃も…御見通しです…!」
位置さえわかれば怖いものなど無い、位置さえわかって仕舞えばどこなら撃てないかさえ把握して仕舞えば…
神通「もう一つ…!」
槍を大きく振るい、兵士の頭に打ち付ける
うつ伏せに倒れたところに露出した深海棲艦を石突で払い、潰す
攻撃の挙動のまま狙撃の弾丸を槍で弾く
神通「無駄です」
銃を拾い、撃って敵の脚を潰す
脚を潰し、進路を潰し、人を潰す
大きく体を捻り、敵の視線を全て掻い潜る様に、地を這う様に迫り、仕留める
掴み取っては握り潰し、切り裂き、砕く
槍で突き、撃ち落とし、引き裂く
槍で銃を弾き、接近して肉を引き掴み、ちぎる
殴り、蹴り、掴み、壊す
足の関節を狙い、敵の姿勢を崩し、最小限の動きで深海棲艦を破壊する
神通「これで最後!」
足刀蹴りを胸部に叩き込み、そのまま兵士が仰向けに倒れる勢いのままに深海棲艦を踏み潰す
神通「………はぁっ…」
身体が浮き上がるような動作と共に力が抜け、自身の体が正常な動作を再開するのを実感する
神通「深海棲艦の全滅を確認…ですね、あとは狙撃手ですが…」
目の前の兵士の身体に穴が開き、血が噴き出す
神通「っ!そんな…!わざわざ全員殺して…」
安全な場所に運ぼうとしようものなら撃たれる…
屋内の兵士なら何とかなるかも知れない
神通「…居た、生きてる…」
息のある兵士を引きずり、奥の部屋に戻る
龍田「…あら、大怪我してる?」
神通「え?」
夕張「その…血塗れで…」
気がつかなかったが腕や服にべったりと赤い血が付着していた
人の血なのか、深海棲艦の血なのかはわからないが
神通「……ほんとうですね」
島風「た、タオル、タオル借りよっ」
神通「それは後でいいです…倉持司令官、兵士達に深海棲艦が取り憑いていました」
海斗「取り憑いていた…?」
神通「これです」
小鬼の様な深海棲艦の死体をみせる
海斗「…これは」
神通「いいえ、殺しましたが襲いかかってきた兵士全員の首元にくっついていました、意識などを支配する力があるんだと思います」
海斗「取り憑かれた人は?」
神通「生きてはいる様ですが…外の方は全員殺されました、秘密を守る為でしょう」
夕張「…人間は深海棲艦にとって道具…って事?」
神通「道具…まあ、それも一つの言い方ですね」
海斗「夕張、これをみて」
兵士のうなじあたりを見る
ぽっかりと穴が開き、中の構造が丸見えになっている
夕張「…ま、まさか無理矢理脳幹に何かを刺して操ってる…?でも、そんな事したら死んじゃう…と言うか、この人ももう…」
神通「…死にましたか」
夕張「うん…いや、こんな深い穴が空いたら普通人は死ぬって…」
神通「倉持司令官、夕張さんの話通りなら…深海棲艦が寄生した人間は漏れなく死ぬことになるでしょう」
海斗「わかってる、今記録をとってるから」
神通「急所を狙っても?」
海斗「…許可するよ、ただし深海棲艦が付いている相手に対してだけ…いや、君たちが命の危険を感じたならその限りでは無いけど…」
神通「ハッキリしませんね」
海斗「……」
私の非難に耳を傾ける事なく深海棲艦の死体をケースに詰め、写真とメモを取り続ける
夕張「あー、提督、いいですよそんな事私がやりますから…」
海斗「いや、気にしないで、これのために僕が来てるから」
神通「…そんな事より、ジャミングを何とかしましょう、このままじゃ本隊が無防備なまま到着してしまいます」
海斗「近くの港までは大体徒歩で5分くらいの距離だ、そこを確保しに行こう」
夕張「そこまで行けば脱出用の船くらいは…」
雪風「船は殆ど潰されてます、深海棲艦に攻撃される事を恐れて生きてる船は全部楽に上げてて…軍艦は南にしかありません…」
神通「…構いません、とにかく港へ」
艦内会議室
正規空母 加賀
加賀「彩雲で見てきた情報通りだと、一帯は血の海だったわ、人間同士の殺し合いね」
度会「何故人間同士が…」
加賀「前回輸送作戦からもうかなりの期間が経ってる、盗賊まがいの事をする輩が出ても何もおかしく無いと思うけど」
度会「……それより、上陸部隊は」
加賀「見つからなかった、でも信号の地点に壊れたボートがあったし、民家に隠れてる可能性があるわ、救援のために追加の部隊を送るべき…だと思うけれど?」
亮「情報が無いのに行かせるのは無謀だろ、それに向こうには神通もいる、簡単にはやられねえよ」
加賀「だとしても苦しい状況のはずよ」
会議室のドアが開く
アオボノ「失礼します、少し良いですか」
加賀「部外者は立ち入り禁止よ」
アオボノ「いえ、おそらく上陸した部隊は近くの船が停泊できる港に向かったのでは無いか…と思いまして」
度会「可能性としてはあるか…」
加賀「……そのようね、もう一度艦載機を出します、すぐに見つけるわ」
亮「それより、通信機を潰されてるんだとしたらそっちを回復させたほうがいいんじゃ無いか?」
アオボノ「同意します、通信ができないからあの様な手段、しかし通信機が壊れてるわけでは無いんですよね?」
加賀「ボート以外は放棄されていなかったわ」
アオボノ「なら通信を阻害されている…さて、どう阻害しているか」
加賀「出来そうな位置を教えなさい、爆撃するわ」
アオボノ「それは…どうなんですか?」
度会「許可を取ってくる、少し待ってくれ…」