元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
駆逐艦 アオボノ
曙「何しにきたのよ」
アオボノ「恥を忍んで、提督に会いに」
曙「…イムヤ達は」
アオボノ「綾波さんによって逃がされた…綾波さんなら何とかするわ」
曙「…実はイムヤ達を探しにきてたりして」
アオボノ「そんな無駄な時間を過ごしたりはしないわ、私は私のやる事をやって帰るつもり、だから…そんなに殺気を振りまかないでいただけるとありがたいです、川内さん、那珂さん」
川内「…ま、何しにきてようと興味ないし関係もないんだけどさ」
川内さんが剣を抜く
川内「危険だと思ったらやるだけだし」
アオボノ「今は?」
川内「特に、やる必要はないかなって…まあ、今だけね」
アオボノ「…私がここに来たのは特務部の仕事ではなく、個人の都合です」
那珂「都合…って何かあるの?」
アオボノ「喋っても一切問題ありませんから喋りますが…端的に言えば敵地に特攻して少しでも設備を破壊し、情報を得ろと指示を受けました」
曙「何それ、それが仕事…?冗談でしょ?」
アオボノ「私は綾波さん達を取り逃した上に、部長に従う事をも拒んでる、使いにくい上にいつ裏切るか…使い捨てて当然よ」
曙「ならそんな仕事も断りなさいよ!裏切って戻ってくれば…」
アオボノ「全体にとって価値のある仕事だと考えたのよ、それに第一、あそこを裏切ったら軍の中に居場所なんかないわ」
曙「そんなの…そんなの私たちがなんとかする!」
アオボノ「アンタはどうでもいいけど他の人たちまで巻き込めないの」
川内「…ほんとに価値のある仕事なの?」
アオボノ「台湾での戦いは不自然な点も少なくなかった、深海棲艦の基地は複数あると考えられるし…アレはいつでも取り返せるから一度手放した…私はそう考えた」
那珂「基地を取られることまで想定内ってこと…?」
アオボノ「だからあそこの深海棲艦は一回撤退したのよ、そうじゃなきゃ無尽蔵に出てくる深海棲艦が抗戦をやめる理由がわからない…あとは深海棲艦も一瞬で復活できるわけじゃない…ってとこでしょうか」
那珂「どのくらいかかるかは…」
アオボノ「わかりません、とにかく不明なことが多すぎる…台湾にあった施設はただの軍事基地に見えました、得られた情報は僅か…今は出来る限りたくさんの情報が必要なんですよ」
川内「点つなぎのためにまずは点拾い…か」
アオボノ「番号くらい振っておいて欲しいですけどね」
那珂「…でも、その為に死ぬ必要なんて…」
アオボノ「私は
那珂「…戻るつもりなんだ」
アオボノ「当然です、提督は死ぬ事をよしとしません」
川内「多分誰でもそうだけどね」
アオボノ「私は、提督のために戦うと決めています」
曙「…だから?」
アオボノ「私の帰る場所はここで、私の戦う意味もここにしか無い」
曙「……」
アオボノ「じゃあ、私は提督に会って来ます」
曙「…クソ提督が許可を出さなかったら?」
アオボノ「懐かしいですね、その呼び方」
曙「話逸らさないでよ」
アオボノ「…出撃はします、どの道私の役割です、変わる事はない」
曙「……」
アオボノ「提督は私の提督です、ならば私の命を背負う責務がある」
曙「…アンタの勝手な都合で十字架背負わせるつもりなのね」
アオボノ「それは少し違う……っと…」
川内「何か居る…?」
那珂「敵、来てるんじゃない…?」
サイレンが泊地に鳴り響く
曙「…来なさい」
アオボノ「私の帰る場所に手を出されるのは癪だし、前回居なかった分は働くわ」
アオボノ(ここで攻め込んできた理由…何?何が目的なの)
提督 倉持海斗
海斗「龍驤、鳳翔は朝潮達を連れて機動部隊として動いて、金剛、天龍、阿武隈は機動部隊の前に展開、見える敵は全て攻撃して」
天龍「北上さん達が居ません、敵が来てるのは知ってるはずなのに…」
海斗「…今はいいよ、咎めるより先に敵を倒さないと…頼んだよ」
阿武隈「私たちが、ご期待に応えます!!」
指示を出した部隊を見送る
海斗(このタイミングでわざわざここまで攻めてくるなんて…しかもわざわざ泊地を狙う理由がわからない、深海棲艦を増やそうとしてるなら海沿いの街を狙うべきなのに…)
アオボノ「提督」
海斗「曙…」
アオボノ「たまたま泊地に戻っていただけですが、居合わせた以上提督の指揮下で防衛に参加させてください」
海斗「…助かるよ」
曙「で、私達はどうすればいいわけ?川内達も居るわよ」
海斗「…いや、一回待機だ、既に展開してる部隊の動きが崩れかねないから…川内さん達は大井さんと北上を呼んできてくれますか」
川内「…まあ、了解」
那珂「私大井ちゃんね」
川内「…うへぇ」
海斗「…このタイミングに攻めて来た理由、どう思う」
アオボノ「私にはわかりかねます、奪われた資材を取り返そうにもあまりにも遅すぎる」
阿武隈『提督!敵は20を越えてます!戦艦級は7確認…待って、もっと遠くに空母もいるみたい、艦載機来てます!』
海斗「曙、朧達と展開して防空に努めて」
曙「はいはい…私が出れば早いのに」
海斗「君の判断で前に出ていいよ、でもみんなが怪我をしないようにね」
曙「…わかったわ」
アオボノ「私もですか?」
海斗「…そういえば、艤装は?」
アオボノ「綾波型の物のみです」
海斗「……」
アオボノ「提督、一つお願いがあります」
海斗「…聞くよ」
アオボノ「阿武隈さんが視認できず、空母からの連絡もなかったということは敵の機動部隊の位置は恐らく阿武隈さんの位置から30ノットで2〜3分の距離と思われます、なので機動部隊とやり合わず水上部隊を叩きます」
海斗「どうやって」
アオボノ「私が囮になります、提督、どうか命令してください」
海斗「…無事に戻れる?」
アオボノ「提督が私を信頼してくれるのなら」
海斗「任せたよ」
アオボノ「ありがとうございます」
海上
駆逐艦 アオボノ
アオボノ(…さて、居たな、阿武隈さんの隊…おや、艦載機は航空戦に集中か)
天龍「え、あ、曙さん…」
阿武隈「えっ!?」
アオボノ「おや、随分と凛々しい雰囲気になりましたね、何かありましたか?」
阿武隈「ありがとうございま…って違う!前に出ないで!」
アオボノ「私が囮になります、好きなだけ撃ちまくってください」
金剛「ノー!危険デース!」
アオボノ「…いいえ、コレが1番安全なんですよ」
深海棲艦に肉薄してから離れる
アオボノ(まだやる必要はない、挑発に乗せればいい…)
戦艦級の砲口がいくつかこちらを向く
アオボノ(来た!)
魚雷を横に流す
アオボノ「…さて」
全ての魚雷が流してすぐに炸裂し、水柱の壁を作る
アオボノ「大波が来ますよ」
周囲の波が一気に荒れる
アオボノ「さあ、的当てゲームです」
姿勢を低くして波間に隠れ、砲撃を避けながら動く
アオボノ(っと?…流石阿武隈さん、戦艦級を2体落としましたか、のこりは5つだけ…)
主砲を取り出し、向ける
アオボノ「摘み食いとしましょうか」
主砲を撃つ、しかし戦艦級の装甲の前には意味がない
アオボノ「そして撃たれたら撃ち返す…見えた、直撃コース」
砲口がこちらを捉えた瞬間、そこに砲撃を撃ち込む
戦艦級の砲塔の内側で炸裂し、艤装を持っていた戦艦級の腕が吹き飛ぶ
アオボノ「おや、グロいですね…頭も半分溶けて…早く終わらせてあげますよ……うわ、飛び散った」
駆逐級が魚雷を放ち、突撃してくる
アオボノ(1人だと、ちょっとばかり面倒だけど…供回り全て貰えるなら充分か)
駆逐級を引き連れて奥へと進む
アオボノ(…そう言えばこっちには敵機動部隊が…まあいいか)
軽巡洋艦 阿武隈
阿武隈「よし、仕留めた!」
天龍「あの戦艦で最後…」
北上「なに?もうほとんど終わってるじゃん、せっかく来たのに…」
阿武隈「……」
北上を無視して砲を向けて撃ち抜く
北上「うわ、最後のも沈んだし…もう帰ろうかなアタシ」
川内「まだ終わってないよ」
北上「…空の話?アタシは無理…」
川内「じゃなくて…本命が来る」
阿武隈「…やっぱり、この重い殺気…」
別の深海棲艦が浮上してくる
天龍「軽巡級3、重巡級2…と、そして…」
阿武隈(…この人が…キタカミさん)
金剛「…リアリー…?本当にキタカミなんデスカ…?」
キタカミ「…へぇ、この前会えなかった顔が揃ってるじゃん」
北上(…コイツか、コイツのせいでアタシはあんな想いをしてたのか…コイツなんかのせいで…)
阿武隈(…動けない、全身に槍がつきつけられてるみたいな緊張感…隙がない、もし今打とうとしたら一撃でやられる…)
川内「私が崩す、頼んだよ」
キタカミ「…いいよ、相手するよ…そんな事のために来たわけじゃないのにさぁ…」
キタカミさんが主砲を向ける
川内「…じゃあなんのために来たっていうの」
キタカミ「提督連れて帰るためかなぁ…」
阿武隈「提督を…?」
キタカミ「私が正しい…って、わかって欲しいから」
川内「…何処が正しいのかわかんないんだけど」
天龍「私もです」
キタカミ「良いんだよ、アンタらがなんて思おうと…もう無駄話も飽きたし…」
川内「…行くよ!」
距離を詰めようとする川内さん、そしてそれを寄せ付けないキタカミさん
周囲の深海棲艦の砲撃をかわしながら仕留めていく
阿武隈(川内さんはチャンスを作ろうとしてるだけ、だから全力じゃない…私は…私は一撃で仕留める準備だけを…)
北上「なんで撃たないのさ…あんな隙だらけなのに
北上さんが砲撃しようと砲を構える
阿武隈「待っ…」
キタカミ「…ハッ」
北上「…な…」
ガシュンという音が鳴り、北上さんの持っていた主砲が内側からひしゃげるように爆発する
北上「っあ…!な、何が…!」
阿武隈(やっぱり、主砲を向けて良いのは一瞬だけ…完全に意識の外の攻撃じゃないと倒せない!)
キタカミ「舐められたもんだよねぇ…私相手にそんな甘い考え…本当に別の私?」
北上「く…手が…ぁ…!」
大井「キタカミさん!」
キタカミ「おー…大井っちじゃーん」
北上「大井…」
大井「…なんでこんな事を…!」
キタカミ「えー?大井っちも深海に来りゃわかるって、こっち来なよ?」
川内「戦闘中に…随分とお喋りだね!」
阿武隈「今!」
川内さんが斬りかかったタイミングに合わせて砲撃を放つ
キタカミ「…うん、やっぱ良いねぇ…阿武隈、強くなったね…」
私の砲撃をいとも簡単に撃ち落とされる
私の攻撃は…まだ届かない
阿武隈「…私は、あなたを覚えていません」
キタカミ「…そう?頭で覚えてなくても…きっと身体は覚えてる、私の攻撃を恐れてる」
阿武隈(確かに、私の身体は…怖がってる)
大井「キタカミさん、木曾は…姉さんたちは今どうしているんですか」
キタカミ「今忙しいんだけどなぁ…見てわかんない?」
川内「ふっ…くらえ!」
キタカミ「…接近戦は嫌いなんだけどなぁ…」
大井「キタカミさん!」
キタカミ「…球磨姉も多摩姉も何回も殺されてグッチャグチャ、木曾も今は修復中、以上」
キタカミさんが川内さんの両手首を掴む
キタカミ「両手使えなくなっちゃったねぇ」
川内「お互い様でしょ…!」
阿武隈「もらっ…た!?」
両脚が何かに噛まれたような痛みが走り、海に引き摺り込まれる
キタカミ「阿武隈はちょっと面倒だから…大人しく捕まってよ」
阿武隈「ぷあっ!?…ごぽっ助けっ…!」
天龍「金剛さん、引っ張ってください!」
金剛「馬鹿みたいに力強いデース!この下に何体…!」
キタカミ「2人」
大井「……ふた、り…」
キタカミ「おっ、大井っち…勘が良いねぇ…」
北上「…大井、何つったって…」
天龍「こちら天龍です!だれか急いで爆雷を持ってこっちに!」
金剛「理由とかいいから早くするネー!!」
那珂「砲撃撃ち込んでいい!?」
阿武隈「おねっ…おねが…」
那珂「…見えない…何処に…ここ!」
足元が揺さぶられる
急に体が浮き上がり、海面に投げだされる
キタカミ「あー…離しちゃったか」
阿武隈(艤装が…壊されてる…立てない!)
大井「…キタカミさん、今真下に居るのは…」
キタカミ「んー…ちょっと待って、いい加減この体制きついから!」
キタカミさんが川内さんを蹴り飛ばす
川内「ごふっ…」
キタカミ「さてさて、紹介しとこ…っと、また新手?」
アオボノ「いいえ、囮ですよ」
川内「…曙」
天龍「無事でしたか…」
アオボノ「囮のつもりでしたが、機動部隊とも交戦してしまいました」
阿武隈(…敵の水上部隊を引き連れて敵機動部隊と交戦して…無傷で帰ってくる囮…)
那珂「全部沈めたの…?」
アオボノ「まあ、当然ですね」
金剛(当然の意味調べて来いデース)
キタカミ「面倒なの来たなぁ…」
曙「面倒な奴第二号も来てあげたわよ、遅くなって悪かったわね、ほら爆雷!」
天龍「っと…その…もう、必要ないような…」
那珂「貸して、多分この辺り!」
爆雷の爆発とともに深海棲艦が飛び出してくる
ト級「ギシッ…ガギィ…」
中心は脚のない女性の体、そして両手に乗った二つの大きな頭のような艤装
大井「…コレが、姉さん…?」
キタカミ「ちょーっと違う…達だよ」
大井「…嘘、嘘よ…なんでこんな…」
キタカミ「末の妹なんてさぁ…可愛くてしょうがないじゃん?だから木曾の分まで必死に動いて、その結果何度も殺された…」
北上(…その結果がこの…)
大井「…球磨姉さん、多摩姉さん…本当に姉さん達なの…!?」
ト級「…グシッ…グジャルル…」
大井「ねえ…なんで…」
キタカミ「そんなに難しく考えないでよ、姉さん達なのは変わんないしさぁ…大井っちもこっちに来る?案外楽しいよ」
大井「……」
アオボノ「提督、曙です…キタカミさんと交戦します、撃破命令を」
キタカミ「お、提督に繋いでんの?ちょっと喋らせてよ」
アオボノ「お断りします」
曙「命令なんか待つ必要ないわ、こんだけの人数で囲んでる…ここで殺す」
川内「それは迂闊だよ、何仕掛けてくるかわからないんだから」
アオボノ「……」
キタカミ「…はぁ…ま、良いけどさ…」
アオボノ「提督から…捕獲の命令が出ました、貴方と、そこの深海棲艦の」
キタカミ「マジ?相変わらず甘いね…良かった、変わってなくて」
アオボノ「ええ、相変わらず提督は提督です、ですから…」
其々の主砲がキタカミさんを捉える
アオボノ「大人しく捕まってくれますか」
キタカミ「お断り…かなぁ……やるよ」
ト級「ゴガアアアアア!!」
ト級が周囲に砲撃を振り撒く
大井「やめて!姉さん!」
大井がト級の艤装にしがみつく
大井「お願いだから…正気に戻って!」
北上「大井!馬鹿なこと言ってんなよ!話の通じない深海棲艦相手に!」
大井「止めないで!あの深海棲艦は姉さん達なの!」
キタカミ「大井っちも寂しいよねぇ、大丈夫、一緒に帰ろ」
川内「大井!」
アオボノ「先に仕留める!」
北上「…この…!」
軽巡洋艦 北上
なんで嫌いな相手守って死ぬなんて馬鹿な真似…
憎くて、死ぬほど嫌いな相手なのに…怨んでる相手なのに、何度も跳ね除けたのに…なんで…
どんなに考えてもわからない、どんなに考えても納得できない
傷口に海水が沁みる
頭がぼうっとして、耳鳴りがして、体が痺れたみたいな感覚で海水に呑まれていく
ああ…でも、不思議と今回は辛くない、この死は…寂しくない
視界外から胸ぐらを掴まれ、引き起こされる
誰が何を喋ってるのかも聞き取れない、傷口が痛くて動けないのにそんなこともみんなみんなお構いなし
こっちの都合なんて誰も受け入れてくれない
何秒だったのか、何時間だったのか、コンクリートの上に投げ捨てられる
急に痛覚も聴覚も戻ってくる
北上「ぐぇ…」
海斗「夕張!急いで!」
夕張「待ってください、傷が深すぎて……修復剤を使うしかありません」
海斗「…使って」
北上「がっ…ああああああ!!」
激痛が走り、身体が跳ねる
北上「あが…か…!」
海斗「北上、堪えて…大丈夫だから、もう少しだけ耐えて…!」
夕張「…大きい傷口は塞がりました、このまま医務室に!」
海斗「わかった!」
呼吸より早いペースで心臓が跳ね続ける
痛い、動いてないのに息が上がる
北上「…っ…」
視界が霞む、こんなに痛いのに…なんでこんなに眠いんだろう