元勇者提督   作:無し

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苛立ち

宿毛湾泊地 医務室

軽巡洋艦 北上

 

北上「…っ…?」

 

頭が痛い、体を起こす気力も湧かない

何でここにいるのか、記憶を遡って考える

 

北上「……ああ…」

 

北上(大井を庇って…)

 

意識した途端両腕が痛くなる

主砲が炸裂したせいで肉が裂けて、骨が剥き出しになった右腕

大井を砲撃から庇って骨も肉もぐちゃぐちゃになった左腕…

 

北上(…みたくないな…)

 

そう思う気持ちとは裏腹に両腕を持ち上げる

 

北上「…え?」

 

傷一つない

いまだに動かせば激痛は走る、なのに…傷は無い

 

北上(どうなって…)

 

痛みを堪え、ベッドに手をつき体を起こす

 

北上「っ…!」

 

ベッドのそばの椅子に大井が腰掛け、眠っている

 

北上「…甲斐甲斐しく、看病…ってわけ?」

 

夕張「ああ、起きた?良かったー…」

 

奥からの声と共にひょっこりと夕張が顔を出す

 

夕張「いやー、もう3日も起きないから提督心配して…ってそれは良いや、目が覚めたようで何より」

 

北上「…3日、か…あの後、どうなったの」

 

夕張「大将は取り逃したけど、基本的には全部倒せてるし…」

 

北上「…えと、そうじゃなくて…大井の…お姉さんたち」

 

夕張「……それは…」

 

言葉を濁す、ただ取り逃したとか、そういうのじゃないことは容易に想像がついてしまう

 

北上「どうしたのか、ハッキリ言って」

 

夕張「…自爆、させられたらしいの…その…キタカミさん、貴方じゃない方の…キタカミさんに」

 

北上「……」

 

…何で、イラついてるんだろう

何でこんなに悔しいんだろう

何でこんな感情が溢れてくるんだろう

 

夕張「…北上さん、泣いて…」

 

北上「……なんで泣いてんだろ、あたし…何でこんなにイライラしてるんだろう…」

 

夕張「……」

 

北上「ねぇ、アンタ姉妹いる?」

 

夕張「居ない、けど…」

 

北上「…そっか…姉妹ってなんなんかね、って聞きたかったのに」

 

夕張「それは…」

 

北上「変われって言われたから努力したのに…嫌いなヤツなのに命かけて守ったのに…大井の見てるヤツは…結局あたしじゃないキタカミ」

 

夕張「でも、今だけは見てくれてる…と、思うけど…」

 

北上「何?ホントに大井が看病してた…?だとしても負い目だからでしょ」

 

夕張「そこまではわかんないけど…」

 

北上「…3日も食べてないからお腹減ったや、出歩いても良い?」

 

夕張「え…いや、立てるならそれは良い、けど…」

 

ベッドから降り、立ち上がる

 

夕張「…一応松葉杖あるけど、使う?」

 

北上「いや、いいかな…腕のがキツいし…歩けるでしょ、多分」

 

夕張「そう…」

 

北上「んじゃ…ありがとね」

 

医務室を出る

 

 

 

軽巡洋艦 夕張

 

夕張「なんていうか…変わるものね、人って…そう思わない?大井さん」

 

大井「…バレてたのね」

 

夕張「まあ、ここで色んな寝てる人の顔見てたらね…狸寝入り位は区別つくようになるわ、ほら、例えば…そこの神通さんも本当に寝てる時は大口開けて寝てるから」

 

夕張がベッドの仕切りのカーテンを開く

 

神通「…本当ですかそれ」

 

夕張「やっぱり起きてた」

 

神通「なっ…謀りましたね…!?」

 

夕張「神通さんもご飯食べてきたら?リハビリついでに…ほら、松葉杖」

 

大井「…それで」

 

夕張「あー…何で寝たふりなんかしてたの?恥ずかしかった?」

 

大井「…その…あの北上さんの、いう通りで…たしかに私は北上さんの事なんかまともに見てなかったな…って」

 

夕張「本音が聞きたかったから寝たフリなんかしてたわけだ」

 

大井「…まあ…その、はい」

 

神通「褒められた事ではありませんが、見つめ直す機会になったようですね」

 

大井「…そうね、良い機会だったわ」

 

夕張「…にしても、さっにの北上さんえらく落ち着いてたなぁ…頭とか打ってたりした?」

 

大井「いや…アレが本来の性格なだけ…とか」

 

神通「……夕張さん、私もそろそろ修復剤をください、骨の治り方が不安なので」

 

夕張「いや…三崎さんに止められてるし…」

 

神通「そうですか…話は変わりますが良い匂いですね、またカップ麺ですか」

 

夕張「うぐ…食べに行くのめんどくさくて…ココ最近みんな不調だし」

 

神通「へぇ、シーフード味ですか」

 

夕張「え、ちょっ…それ私のカップヌードルでっかいやつ…」

 

神通「…ズズズ…久々に食べましたが、美味しいですね」

 

夕張「ああ…私のシーフードヌードル……」

 

大井「…私知らないから、お先に」

 

神通「姉さんがこういうのは許してくれないので…むぐむぐ…久しぶりに食べられました…でも、ちょっと伸びてるのはいただけませんね、硬めの方が私は好きです」

 

夕張「ご飯よりさっきの話の方が重要ってか…もー…良いもん、カレー味がここに…あ、あれ?無い!全部無い!」

 

神通「あ、私のシーフードヌードルが…」

 

川内「川内参上っと…神通?何でこんなもの食べてるのかなぁ」

 

夕張「川内さん、その手の袋は…まさか私のカップ麺ですか!?」

 

那珂「そのー…間宮さんがせっかくご飯を作って待ってるんだからちゃんと食べなさいって事で…」

 

川内「神通にはうちの提督から、夕張さんにはそっちの提督から、連行の命令がくだりましたとさ」

 

夕張「えぇ…私忙しいのにぃ…」

 

那珂「……」

 

神通(…あ、那珂ちゃんお腹減ってるんですね、シーフードヌードルに目が釘付けに…)

 

那珂「川内姉さん、私がそのカップ麺捨ててきちゃうね」

 

川内「いや、ダメに決まってるでしょ…非常食として保存しとかないと」

 

那珂「ぅぐ…そ、その既に出来上がってるヤツは流石に保存できないし…」

 

川内「…ああ、そっかそっか、那珂には目に毒だね、先食べてきて良いよ」

 

那珂「やった!」

 

神通「味覚を司ってるせいで目に映るだけでも味が口に溢れる…ある意味拷問でしょうね」

 

川内「今の所役に立ったの見た事ないよね…那珂は敵がいたら気付けるって言ってたけど」

 

夕張「あのー…川内さん…私のヌードル…」

 

川内「2人とも早くご飯食べたいなら食堂に来てね」

 

夕張(くっ…こうなったら天井裏のカップ麺を食べるしか…)

 

川内「あ、そうだ神通」

 

神通「…なんでしょうか姉さん」

 

川内「夕張さんって他の場所にも隠してたりする?」

 

神通「…私の感知するところでは無いのですが…」

 

川内「チーズバーガーセット、買ってきてあげても良いよ」

 

神通「天井裏とデスクの3段目、それから床下に3ケースずつあります川内姉様」

 

夕張「ちょっと!それはずるいって!」

 

川内「待って、早口すぎて聞き取れなかった…あーもうとりあえずあとでいいや、夕張さんは強制連行ね」

 

夕張「やだぁぁ!」

 

 

 

 

 

食堂

軽巡洋艦 川内

 

川内「…どしたの、この騒ぎ」

 

決して誰かが暴れるというわけでは無いが、其々がヒソヒソと何かを確認し合うような素振り

この泊地では今まで全くと言っていいほど見なかった光景

 

夕張「…あ、あそこ、加賀さん達いますよ」

 

特に深刻そうな面持ちの加賀

という事は想像は容易い

 

川内「とうとう来たか…」

 

 

 

川内「ちょっといい?」

 

加賀「…何かしら」

 

川内「とうとう来たの?特務部」

 

加賀「…ええ、翔鶴を連れに…密告者がいるそうだけど、表向きの方便ね、私たちの思考が筒抜けなのなら…」

 

川内「……仕方ないか、それで?」

 

加賀「提督が今1人で対応してるわ、翔鶴は万が一の為に…」

 

川内「…為に?」

 

加賀「1人で逃したわ、私の独断で…だから誰もまだ知らない…少ないけどお金も渡したし、暫くは耐えられるはず…」

 

川内(たしかに、行き先を誰も知らないなら捕まるリスクは低い…翔鶴は特に指名手配をされてるわけでも無いし…)

 

加賀「…なんであの子ばかり、こんな事に…」

 

夕張「連絡手段とかは…」

 

加賀「持ってないわ、とにかく遠くに逃げるようにとだけ伝えてある、きっと今頃新幹線にでも乗って…」

 

川内(…ここのメンバーは、特に離島時代のメンバーは繋がりが特に強い…それをすぐに捨てて遠くに逃げるなんて…できるのかな)

 

夕張「ホントに遠くに逃げてるんですかね…まだ近くで様子伺ってたり…」

 

加賀「…そんな事したら、自分がどうなるかくらいわかってるはずよ」

 

川内(…神通に探させよう、このままじゃ心配だし)

 

夕張「あ、あれ?川内さん?」

 

川内「ごめんちょっと」

 

加賀「…はぁ……」

 

 

 

 

軽巡洋艦 阿武隈

 

阿武隈「…あのー…」

 

北上「…なに」

 

阿武隈「何でご飯食べ進むほど不機嫌な顔になるんですか…そんなに美味しく無いですか?」

 

北上は一瞬驚いた表情を見せた

 

北上「…いや、別に…」

 

阿武隈(気づいてなかったんだ…滅茶苦茶イライラしてそうなのに…)

 

北上(…確かに、なんかイライラするなぁ…何でだろ、怒るようなことなんて何も…)

 

阿武隈「…その、よければ午後の訓練一緒にどうですか?」

 

北上「……別に、良いけどさぁ…あたしなんかに構ってていいの?」

 

阿武隈「その、はい、ちょっと思うことがあって…」

 

北上「……」

 

阿武隈(…それにしても、意外だったなぁ…さっき特務部の人が来るまで提督と普通に話しながらご飯食べてたんだもん…うん、北上さんも変わってるんだ…)

 

北上(何だろう、さっきから何かおかしい、急に何かが蠢いてるような…眠ってた何かが目を覚ましたみたいな…)

 

阿武隈(それにしてもよく食べるなぁ…)

 

 

 

 

マンション

駆逐艦 綾波

 

綾波「…イムヤさんの細胞には…変化は無いですね、これもダメです」

 

イムヤ「そう…」

 

綾波「……その、データは十分取れました…」

 

イムヤ「…うん」

 

操作していたパソコンの画面が切り替わる

 

綾波「ひゃっ!?」

 

ヘルバ『あら、お化けでも出たかしら』

 

綾波「へ、ヘルバさん…!」

 

イムヤ「あ…えと、お世話になっております…」

 

ヘルバ『気にする必要はないわ、だけど貴方達は追われる立場、何時迄も留まることはできない…次が見つかるまではおとなしくしてなさい』

 

綾波「…へ、ヘルバさん…これ、見てください…」

 

取ったデータを送る

 

ヘルバ『…伊168についてのデータは変化なしね…こっちは?今までのものとは違うみたいだけど』

 

綾波「艤装と…艦娘システム…それについての検証のデータを纏めました…憶測もかなり含まれてます…な、なので、使えるのはデータだけだと思いますけど…」

 

ヘルバ『…AIDAの活動が宿主の体力に影響する、というのは?』

 

綾波「わ、私…AIDAで艦娘を監視するシステムを一回乗っ取ろうとしたことがあって……」

 

イムヤ(さらっとエグいこと言ってる…)

 

綾波「その時見た情報の中に…ええと…ぐ、具体的に例を挙げると、出撃後や一定の時間にAIDAの活動が酷く鈍ってたんです…」

 

ヘルバ『…成る程ね、単純に脳に寄生するわけじゃない、体力が影響するというのはあながち間違いではないかもしれない』

 

イムヤ「…一定の時間っていつ?」

 

綾波「…12時頃、19時頃…差異は有りましたけど…く、空腹時はAIDAの活動が鈍るんだと思います…」

 

イムヤ「…お腹減ったらAIDAの活動が鈍るって…そんなの…ホントに?」

 

綾波「…大規模作戦の時の…曙さんによる…一時的な支配…」

 

イムヤ「…確かに、夕方に出発して、そこから襲撃もあったりでみんな大変だったし疲れてたけど…」

 

綾波「…あ、後…AIDAは依代を…手に入れてます」

 

イムヤ「依代…?って、式神とか…そういうヤツ?」

 

ヘルバ『ナノマシン』

 

綾波「そうです…曙さんの炎…アレは、ナノマシンを放出し、発火させたものです…」

 

イムヤ「え?そうなの?」

 

綾波「…自然と操ってるみたいです…だから、きっと身体強化なんかにも使え……あ、そうか…」

 

何で気づかなかったんだろう

 

パソコンに向かい合いデータを眺める

 

イムヤ「ちょっと…?」

 

綾波「イムヤさんのデータと艦娘システムを使う艦娘のデータは低い割合で一致していた…」

 

過去のデータを遡り、深海棲艦のデータを探す

 

綾波「……ヘルバさん、AIDAを検知するプログラムは作れますか」

 

ヘルバ『作るも何も、元々存在はする…必要?』

 

綾波「はい」

 

ヘルバさんから送られてきたファイルを適用する

 

綾波「……そうだ、そうだったんだ…」

 

イムヤ「…深海棲艦にAIDAが…」

 

綾波「違います…深海棲艦は、人間の体細胞を砕き、その体細胞から…厳密には違いますが、ナノマシンのようなものを作っている…」

 

イムヤ「…どういう事?」

 

綾波「深海棲艦は、ナノマシンの集合体です…」

 

イムヤ「…私たちがナノマシンの集合体…」

 

綾波「……その、イムヤさんは少し違うみたいですけど…大雑把に言えば…」

 

ヘルバ『それで?』

 

綾波「これをイムヤさんと同じレベルにするには…あ、れ…違う、AIDAの形…」

 

イムヤ「AIDAの、形…?」

 

綾波「形だけじゃない…ちがう、このAIDA…別物」

 

イムヤ「別物って…?」

 

ヘルバ『…確かにAIDAは複数種存在する、でもそれを知っていたの?』

 

綾波「いいえ…で、でも…私の推測通りなら…きっと元に戻せる…!」

 

イムヤ「ホント!?どうやるの!」

 

綾波「イムヤさんと同じAIDAに感染させるんです…そうすれば、きっと意識は戻ります」

 

イムヤ「意識は…って、身体は?」

 

綾波「……そうだ、身体も戻さないと…」

 

イムヤ「ま、其処までは考えてなかったか…でも、これすごい事じゃない!?」

 

ヘルバ『大きな前進だと言えるわね、よくやった…と褒めておこうかしら』

 

綾波「…ありがとうございます!」

 

いつぶりだろう、こうして笑えたのは

褒められて嬉しかった、心の底から嬉しかった

役に立てたことで自分を必要としてくれたことで、とても…幸福だった

 

イムヤ「ちょっと綾波…泣かないでよ」

 

綾波「…う、嬉しくて…」

 

イムヤ「…きっと、深海棲艦を元に戻して…この戦争を終わらせよう!」

 

綾波「…はい!」

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