元勇者提督 作:無し
太平洋 深海棲艦基地
駆逐艦 アオボノ
アオボノ「数日ぶりですね」
キタカミ「ここまでバレてんのかぁ…すごいね、何で?」
上空を指さす
アオボノ「衛星です、しかし…成る程なかなかどうして面白い」
キタカミ「でしょ?こっちに来る?」
主砲を向ける
アオボノ「お断りですよ、私は今から…貴方の内臓を引き摺り出し、一つ一つを海面に並べ、首を刎ねて頭蓋を割り、脳みそをスプーンで掬う…ああ、そのためにちょっといいスプーンも買ってきましたよ、100均で」
キタカミ「おー怖い怖い、そんなに脅されたら怖くて本気になっちゃうかも」
アオボノ「脅し?いつ私が脅したんですか…アハハ、まさかコレが脅しだと?」
キタカミ「…違う?」
アオボノ「認識を改めなさい、コレは今からやることの宣言です」
キタカミ「上等…」
アオボノ「戦闘開始」
砲撃戦が始まる
アオボノ「前回対峙した時、貴方は確かに手を抜いていた」
キタカミ「まあ、狙いは倒すことじゃなかったしねぇ」
アオボノ「本当に提督を連れ去ることだけが目的だった?」
キタカミ「あとは大井っちも連れて帰りたかったかなぁ…邪魔されたけど」
お互いの砲撃が相手を捉える
アオボノ「…はぁ…馬鹿馬鹿しい」
キタカミ「馬鹿馬鹿しい?」
速力を落とし、静止する
アオボノ「貴方は随分と…いや、全くもって救いようがない」
キタカミ「そうだねぇ、だって誰も救えない深海に落ちちゃったんだから」
アオボノ「ドーナツとコーヒーカップ」
キタカミ「……」
アオボノ「何が同じかわかりますか」
キタカミ「…穴の数、穴の数が同じ」
アオボノ「そう、ドーナツとコーヒーカップは穴の数が同じ…この二つは一見全く違うものですが、本質は同じなんです」
キタカミ「……」
アオボノ「私と貴方も、本質はよく似ている…違いますか?」
キタカミ「軽巡と駆逐、艦娘と深海棲艦、違うところなんてあげ出せばキリがない、何処が似てるのさ」
アオボノ「でも私達はお互い、真理に近い場所に居る」
キタカミ「…真理?」
アオボノ「私達は碑文使いで、同じ形を想う、表面的には違っても中身はよく似ているかもしれない」
キタカミ「……」
アオボノ「…さて、貴方の時間稼ぎには充分付き合いました、始めましょう」
周囲に深海棲艦が浮上してくる
あの時の、あの撤退戦の時と同じ…
アオボノ「先に言いますが、私に同じ手は通用しませんよ」
キタカミ「どうかねぇ…」
タイミングを合わせた砲撃
キタカミの砲撃が全ての砲弾を弾き、ぶつかり合った砲弾が進路を変えて私に迫る
アオボノ「だから、効かないって…」
迫る砲弾を全て最低限の動きだけで回避する
キタカミ(背中にも目ついてんのかな…)
アオボノ「貴方は確かに全力じゃなかった、だけど数という刃は貴方を捉えてしまった」
キタカミ「サシの癖に何を…っ!?」
乾いた、銃声…
それと共にキタカミの脇腹に穴が開く
キタカミ「……やって、くれるねぇ…不意打ちじゃん…」
アオボノ「夜襲、挟撃、仕込みでも死んだフリでも何でも使え…これは戦争であって、試合じゃないんですよ」
拳銃を艤装の中に戻す
アオボノ「つまり、つまりですよ…私達はただの数なんです、1+1を無限回すれば必ず届く数なんです」
キタカミ「…何言って…」
アオボノ「今、貴方に引き算をしました…ええ、引き算です、その傷は…そしてこの辺にいる深海棲艦は、僅か1」
魚雷発射管が音を立てて発射の用意をする
アオボノ「貴方は果たしてどれだけの数を拾えたのですか?私が拾い続けた0の彼方の1とどちらが多いのか、試してみましょうか」
キタカミ「…人の強さってのは、数字で測れるもんじゃないんだよ」
アオボノ「ははは、御冗談…貴方も私も人じゃない、艦で、深海棲艦で、そして…私達はただの人工知能じゃないですか」
キタカミ「…提督はそうは考えないでしょ」
アオボノ「ええ、でも貴方は少なくとも人じゃなくなった」
キタカミ「……」
アオボノ「人じゃないなら私の理で測れてしまう」
魚雷発射管から魚雷が射出される
キタカミ「誰がアンタの思い通りになると…」
アオボノ「なるんじゃなくて、するんですよ」
キタカミさんとはやり合わない、周りの雑魚から削る
アオボノ(1と1にすればいい、1と1にすることが出来てれば勝てる相手…!)
キタカミ(周りから削るなんて余裕あるじゃん…その隙を全力で叩く…さあ、これにどう対処するか、そして対処できたとしてどうするか…)
アオボノ(…もうそろそろ、仕込みが効く頃かな)
深海棲艦を全滅させる
アオボノ「…なっ…!」
足元に巨大な魚雷…
アオボノ(先に仕込まれてたら回避が間に合わな…いや、こうなったら!)
艤装を取り替える
キタカミ(加速してこっちに…!?)
すぐ後ろで魚雷が炸裂して水柱が上がる
背中を裂くような痛み、艤装のひしゃげる音
アオボノ「ぁ…っ…がああああっ!!」
吹き飛ばされ、水面を転がる
裂傷に海水が染みて痛い、艤装の破片も刺さってる
キタカミ「まさか…その足の艤装…島風の?」
アオボノ「…がぁ……あ…え、えぇ…そうですよ、その通り…」
キタカミ(…こっちの起爆タイミングが完璧だと信じて突っ込んできた…だとしても、判断が遅かったね…)
起きあがろうとしたところに白い手が伸び、体を掴まれる
アオボノ(二の矢もある…か…!)
爆雷を海に投げ込む
キタカミ(そんな至近距離、自分も無事じゃ済まないのに…)
アオボノ「あがぁああ!!」
キタカミ「…驚いたな、そんなに無理矢理…」
アオボノ「……死ななければ、いい…」
体に力が入らない
アオボノ(力が入らないなら…骨で立つ)
キタカミ(…何で、立てるの)
アオボノ「ふーっ!…っ…かはっ…」
よろめきながらも立ち上がる
キタカミ「色々喋りたい事は無駄話は悪い癖らしいし、じゃあね」
キタカミさんが主砲を向ける
アオボノ「ク…クク……ハァ…だから、ダメなんですよ」
水を伝わり鈍い音が響く
キタカミ「!?」
アオボノ「こういう過程を踏むことは予想してませんでした…だけど、私の思い通りにするんです…!」
キタカミ(背後から魚雷が…!)
アオボノ「刺さった魚雷、外せたらいいですね」
水柱がいくつも立ち、キタカミさんを斬り刻む
キタカミ「が…がぽっ…!」
アオボノ(だから、ダメなんですってば…)
キタカミが吹き飛び、水面に崩れ落ちる
キタカミ「ごぽぇ…ぁ…」
キタカミに近づき主砲を向ける
キタカミ「や…やる…じゃ」
引き金を引き、頭を含めた全身を撃つ
肉塊と化すまで
アオボノ「…戦闘終了…喋る前に、完全に殺し切るんですよ、相手が喋る余力残してるなら殺しておきましょう…」
アオボノ(……あっけない、幕切れだったな…あのキタカミさんがこんなに呆気ない…)
艤装を整える
アオボノ(機関は壊れた、そして…ダメージが全体的に深刻、燃料漏れのせいで残り少ない燃料で目の前の島に上陸して、敵をできる限り潰す…生還する手段は…自力じゃ無理か)
アオボノ「今回は、いってきますって言えなかったなぁ…」
アオボノ(深海棲艦は変に燃料や鋼材を溜め込んでる、もしかしたら船もあるかもしれない…その前に既に瀕死の私が持つのか…いや、持たせなければ帰れない、少しでも情報を手に入れて提督達の役に立つ)
アオボノ「…やるか」
宿毛湾泊地
提督 倉持海斗
海斗「…ようやく事務処理が終わった…」
亮「よっ、戻ったぜ」
海斗「おかえり、向こうはどうだった?」
亮「学生の中じゃ英雄扱いだがな、センセー方はイライラしてたぜ」
海斗「公的な記録が残るほどの功績だからね」
亮「自分が言ってれば、何で思ってるんだろうな…ん?何だそれ…
海斗「……詳しいことは川内さん達に聞いて、少し…確かめなくちゃならないことがあるんだ」
亮「…わかった」
海斗「…ふぅ…青葉はThe・Worldでカイトにキルされたって言ってた…でも僕はそんなことしてない…The・Worldにもしばらくログインしてないし……とにかく、確かめなきゃいけないことが多い…」
手元の書類に目をやる
海斗「暁達の異動も通れば良いんだけど…」
いろんなことが起こりすぎた、そのせいでこの異動が通らなければ全部がパァになる
海斗「…考えても仕方ないか、やれる事からやっていかないと」
佐世保鎮守府
正規空母 瑞鶴
瑞鶴「提督さん、その話本当なの?」
度会「ああ、秋雲はゲームをプレイ中に意識不明になった…」
瑞鶴「なんでそんな事に…というか、ゲームでしょ?そんな事になるわけ…」
瑞鳳「瑞鶴、忘れたの?碑文の力は元々ゲームの中の物、あんなのが存在してる世界じゃ何が起きても不思議じゃない」
度会「そういう事だ」
瑞鶴「……」
度会「The・Worldは危険なゲーム…そう認識される事を運営元のCC社は…今のCC社は嫌っている、しばらくすればサーバーは閉じられるだろう」
瑞鶴「…意識不明者を元に戻す手段は?」
度会「あるとすれば、The・Worldの中だけだろう」
瑞鳳「そしてサーバーが閉じられれば…」
瑞鶴「意識は二度と戻らないって事…?そんなの許されるわけがない!」
度会「許される許されないでは無い、CC社はThe・Worldの価値をこれ以上落としたく無いはずだ、意識不明者が出たと騒ぎ立てれば今すぐにでもサーバーを閉じるだろう」
瑞鳳「今運営してるのは新バージョン以降への準備期間だから?」
度会「ああ、だからサーバーを閉じたとしてもあまりデメリットはない」
瑞鳳「…どうしよう」
度会「…俺からCC社にあたってみる」
瑞鶴「提督さんが?」
度会「元々俺はCC社の人間だ」
瑞鳳「そういえば、そんなこと言ってたような」
度会「少しでも情報を手に入れられればいいんだが…そうだ、陽炎はどうしている」
瑞鶴「それは…その、塞ぎ込んでたんだけど…」
瑞鳳「待って、The・Worldだっけ、そのゲーム陽炎もやってたよね…」
瑞鶴「もしかして情報を集めるために…!」
度会「すぐ止めろ、何より危険だ、陽炎までそうなりかねない」
瑞鳳「わかった、私が行く」
サイバーコネクトジャパン社
度会一詞
ビルに入ろうとした時にとぼとぼと出てくる男に目が止まる
度会「…松山?」
松山「あ…ええと…」
松山「これ、コーヒー」
度会「ああ…久しぶりだな」
松山「…まあ、君が辞めてからもう何年になるかな…」
度会「今もグラフィッカーを?」
松山「まあ、だけど今朝謹慎を言い渡された」
度会「とうとうバレたか」
松山「…自社のゲームをプライベートでプレイしてはいけない、なんてルールがおかしいんだ、私は自分のグラフィックを楽しみたいだけなのに…」
度会「開発側の我々はプレイヤーに一般公開されていない情報を知っている、そんな我々がゲームをプレイする事は一般プレイヤーの楽しみを奪う事にもなる」
松山「それについてはわかってるんだ、だから節度は…いや、君には何度もそうじゃ無いと言われたな…」
度会「例えば、ネットゲームでバグを利用することの何が許されないか…」
松山「オフラインのゲームならそれによってる利益も不利益もその個人の物、オンラインゲームでは自分以外の誰かにも影響する…耳が痛くなる程聞かされた」
度会「…もうCC社の人間じゃ無い俺がいうことでも無いか」
松山「だとしても、正しい事だ…それよりも、何で今更CC社に…」
度会「…未帰還者について、何か知っているか」
松山「黄昏はもう終わった、未帰還者は全てリアルに復帰した…だろう?」
度会「…新たな黄昏が迫っているとしたら」
松山「そんな事…いや、待て…出たのか、未帰還者が…」
度会「ああ、被害者は中学2年生の少女、The・Worldをプレイしていて意識不明になった…」
松山「…何で君がそんな事を…」
度会「艦娘システムはわかるか、今俺は艦娘の指揮に当たっている」
松山「艦娘、未帰還者…まさか…」
度会「何か知ってるのか」
松山「…つい先日の事だ、実は俺も未帰還者になりかけた…と思う」
度会「何?」
松山「…カイトというキャラについては」
度会「CC社の人間で知らない者はいない」
松山「…彼にキルされた、そしてそのあと数時間意識が戻らなかった…」
度会「…なんだと…」
度会(カイトのプレイヤー、つまり…倉持海斗が…)
松山「…その時にギルドメンバーと行動していた、そのキャラクターの名前はオークラ、彼女は自身の名前の由来について艦娘としての名前を英語に直してから略したものだと言っていた」
度会「…秋雲、オータムクラウド…成る程な」
松山「どうやら、その時の彼女だったようだな…その時、もう1人一緒にプレイしていたメンバーが居た、彼女も艦娘らしい…」
度会「名前は」
松山「青葉と名乗っていた、由来はわからないが…」
度会(青葉といえば宿毛湾の…いや、横須賀か?)
松山「今のCC社にその話を持っていけばすぐにでもサーバーを閉じるだろう、リビジョンXの開始前にThe・Worldというブランドが汚れる事を嫌っているからな…」
度会「…自分達で解決しろ、か」
松山「いや、俺も力になれることがあれば何でもやらせて欲しい…正直言ってあんな事になるとは思わなかった、だが俺が不覚を取らなければあの子は意識不明になっていなかっただろうし…」
度会「…今は必要ない」
松山「…俺が必要になったらいつでも声をかけてくれ」
度会「ああ」