元勇者提督   作:無し

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企み

宿毛湾泊地 執務室

提督 倉持海斗

 

海斗「今回の件で艦娘所属の施設は国内の防衛を最優先にするようにと通達があったよ」

 

朧「…大丈夫なんでしょうか、それで」

 

海斗「あんな事をされた後だし、色んなところからも防衛の要請が出てる…今は守りに徹する他ないね…」

 

扶桑「提督、失礼します」

 

海斗「扶桑?どうしたの」

 

扶桑「哨戒に出た朝潮型の皆さんがまだ戻ってなくて…連絡はありませんでしたか?」

 

海斗「朝潮達が…すぐに確認するよ、朧、念のため加賀と曙に用意をしてもらって」

 

朧「わかりました」

 

海斗(戦線が下がったと思ったらあの上陸作戦、近海も危険な事には変わりない…哨戒部隊の編成も…)

 

朝潮達に通信を繋ぐ

 

海斗「…朝潮、聞こえる?」

 

朝潮『はい、こちら朝潮です、丁度こちらから連絡しようとしていたところでした』

 

帰ってきた声からは切迫した様子も無く、胸を撫で下ろす

 

海斗「よかった…無事なんだね?」

 

朝潮『あの…?…何かありましたでしょうか…?』

 

海斗「君たちが帰投する予定の時間を過ぎても戻ってないから、確認をね」

 

朝潮『え!?も、申し訳ありません!山雲!時計の確認は任せてたはずです!……え?わ、忘れてた!?何やってるの!?』

 

海斗「…無事なようで何よりだよ…」

 

朝潮『本当に申し訳ありません、司令官…それと、報告、なのですが…』

 

海斗「何?」

 

朝潮『重症で海を漂っている方を保護しました、昨日の襲撃の犠牲者の可能性もあります、10分ほどで到着しますので搬送の用意をお願いします』

 

海斗「わかった、救急車を呼んでおくよ」

 

朝潮『それでは失礼いたします』

 

海斗「救急車…と」

 

 

 

 

 

海上

駆逐棲姫 

 

レ級「バラして捨てろって言ったのに」

 

駆逐棲姫「まあまあ、これで艦娘の施設がある程度把握できたし、良いんじゃないですか?でも心臓を貫いたのに生きてるなんて頑丈と言うか…ゾンビ?」

 

レ級「……しかし、なかなかえげつない…っと?アイツらが連れてるの、山城だけじゃない…?しまった、余計なのまで捨てたな…」

 

駆逐棲姫「知ってる顔ですか?」

 

レ級「…確か、秋月ってヤツ、まあ…いいか…どうせ一緒に吹き飛ぶんだし」

 

駆逐棲姫「ふふっ…ああ、ちゃんと駆逐級どもは撮影してこれるんでしょうか…きっと艦娘達も喜びますよ、人が内側から爆発するなんて…なかなか生で見れるものじゃないですから」

 

レ級「悪趣味な…」

 

駆逐棲姫「そうですかぁ?」

 

レ級「それで、無理やりこの作戦を通した理由は?」

 

駆逐棲姫「艦娘の基地の場所の正確な把握…現在稼働してる数は15ですねぇ、その中でも太平洋に面してるのは11と…そこそこ多いですね……1番手薄なのは…四国の徳島側、紀伊水道の方、あそこからなら気付かれずに入り込めるかな」

 

レ級「…まさか」

 

駆逐棲姫「深海棲艦を陸上で暴れさせるとどうなるのか、気になりません?多分たくさん逃げ遅れますよー」

 

レ級「…それは、面白くない」

 

駆逐棲姫「…ああ、貴方戦闘狂なんですね!じゃあ、貴方は艦娘の基地を襲撃すればいい…」

 

レ級「私1人で?」

 

駆逐棲姫「護衛つけて欲しいですか?」

 

レ級「いや、むしろつけるなら断るつもりだったし」

 

駆逐棲姫「じゃ、話は決まりですねぇ…」

 

レ級「…まあ、いいや」

 

駆逐棲姫「ふふっ…さーて、そろそろ花火が上がりますよ!」

 

レ級「スイッチは?」

 

駆逐棲姫「ここに…ポチッとな…あれ?あれれ?」

 

スイッチを何度か押す

 

駆逐棲姫「故障してますね、起動しない…海水に浸かったのが不味かったかな……何とも、運がいい」

 

レ級「…他は?」

 

駆逐棲姫「さあ?帰りましょうか…あー、残念」

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 応接室

春雨

 

春雨「病院に送る前に私が診てからで本当によかった…爆弾は無事に摘出しました」

 

海斗「…どうしてここに?」

 

春雨「綾波さんの事で、いくつかお話が」

 

海斗「…綾波の事は、直接メールを受け取った……敷波からも聞きました」

 

春雨「…でしたら」

 

頭を下げる

 

春雨「綾波さんを守れなかった事…誠に申し訳ありません」

 

海斗「気にしないで、とは言えないですけど…本気で綾波を守ってくれてた事はよくわかってます、ありがとうございました」

 

春雨「…倉持さん、私達は今イムヤさんの身柄をお預かりしています、今度は必ず守り通すと保証します」

 

海斗「…それは、イムヤを帰せない理由がある…って事ですか」

 

春雨「…イムヤさんは、今、心を病んでいます」

 

海斗「綾波が死んだから…?」

 

春雨「はい、そして追われる立場であったストレスの影響も大きいでしょう…そんな中でも自分を献身的に支え続けてくれた綾波さんは…イムヤさんにとってかけがえの無い存在だったと思います」

 

海斗「…そう、だと思います、僕も」

 

春雨「私達は、綾波さんの最期に立ち会いました…とても語れないような内容ですので、今回は…それと、厚かましいのですが、お願いがあります」

 

海斗「…お願い」

 

春雨「メール、見せてもらえませんか」

 

 

 

綾波から送られてきた遺書には、重要な事項がない

 

春雨「…成る程、倉持さん、仕事の話をしても構いませんか?」

 

海斗「仕事の話?」

 

春雨「…申し訳ありませんが、人払いを」

 

 

 

海斗「緊急の連絡以外は通さないようにしてあります」

 

春雨「ありがとうございます…綾波さんは本物の天才でした、私達では到底叶わないようなことを成し遂げてみせました」

 

海斗「…何の話を?」

 

春雨「綾波さんは、艦娘システムを一から作ったんですよ」

 

海斗「…それは、現行の?」

 

春雨「違います、今浸透してる艦娘システムはAIDAを利用したもので…副作用も有ります、ですが綾波さんは手術を必要とするものの、艤装と接続する事で常人を超えた力を出せる艦娘システムを創り上げた」

 

海斗「じゃあ…」

 

春雨「はい、扶桑さん達も戦えるように…と思い、この話を持ってきたんです」

 

海斗(でも、手術が必要…か、それにリスクも気になる)

 

春雨「…リスクに関しては、今の所副作用は出ていません、私が承認です」

 

海斗「…君はそれを使ってるの?」

 

春雨「はい」

 

背中の艤装の接続部を露出させる

 

海斗「…それが」

 

春雨「埋め込まれた時に痛みはありましたが…まあ、問題はありません、入浴などにも対応しています」

 

海斗「取り外しは…」

 

春雨「複雑な術式になりますが可能です……理論上は」

 

それができる医者はどれくらいいるのか、と言う問題は残るが

 

春雨「…これを仕事として持ってきた理由…それは二つ有ります、まず一つ、諸外国が今使ってる艤装はかなり性能が低いんです、それを此れに置き換え、各国の自衛力を高めたい」

 

海斗「…成る程、それは必要だ」

 

春雨「差し当たって、それを実行するための護衛を依頼したかったんです、伝わりましたか?」

 

海斗「…一つ目の理由については」

 

春雨「二つ目、これは…まあ、可能ならばという願望に過ぎないのですが…私を医官として雇ってくれませんか?」

 

海斗「春雨さんを…?」

 

春雨「此処には今は居ませんが、楚良も…あー…何でしたっけ…三崎司令も居ますし、今は居ませんが」

 

海斗「東京のことがある程度片付いたら戻ってくるらしいです…」

 

春雨「…まあ、その…私がここに着任すればヘルバさんとの連絡も密に取れる、より協力的なサポートをさせていただきます」

 

海斗「……こっちに悪い話は何もない…けど」

 

春雨「勿論、物事には対価が必要です…対価は…そうですね、黄昏の鍵で如何でしょうか」

 

海斗「…キーオブザトワイライトを…?」

 

春雨「キーオブザトワイライト…幸せな青い鳥のような伝説、それが手に入るまでは私は貴方達と共に歩みましょう、如何ですか?」

 

海斗「…よろしくお願いします」

 

春雨「…それと、これをお返しします」

 

曙の剣を机に置く

 

春雨「綾波さんが最期に待っていました」

 

海斗「…曙には渡しておきます」

 

春雨「お願いします、あと…敷波に会ったと言いましたよね、彼女の脚は…」

 

海斗「…綾波にもらったと言っていました」

 

一つ、やる事は一つ片付いていた

 

春雨「なら、良かったです」

 

海斗「……」

 

春雨「そうだ、倉持司令官、お近づきの印に何か気になる事などありましたらお調べいたしますよ」

 

海斗「気になる事……大湊警備府、あそこにいる暁達について知りたい…!」

 

春雨「…ああ…大湊には我々も一枚噛んでいますから、調べるまでもなく」

 

海斗「…それは、どういう…」

 

春雨「誤解を招きたくないので、順を踏んで話します…まず、現在の軍の艦娘に対する扱いから…一言で言えば兵器です、人間としては見ていません」

 

海斗「そんな話…」

 

春雨「貴方は知らないでしょう、佐世保の方もそんな事知らないと思います、ですが艦娘は兵器です、艦娘はどんどん人間を超えた力を出せるようになっていく…」

 

海斗「なっていく…?」

 

春雨「…そうだ、もっとちゃんと説明しないといけませんね…まあ、何にしても…いや、簡潔に行きます、AIDAの入ったナノマシンを注入されたら身体はどんどん作り変わっていきます」

 

海斗「作り変わる…?」

 

春雨「常人をはるかに超えたパワーを手に入れられるんですよ…そんな事例、見たことありませんか?」

 

海斗(…そう言えば、長門や日向が瓦礫を持ち上げたりしたことがあった…今思えば2人がかりとはいえ…)

 

春雨「あるようですね、そして…スイッチ一つで艦娘を操作することも可能だと私は考えています…」

 

海斗「…操作…」

 

春雨「此処までできて仕舞えば、兵士を超えた兵器なんですよ…そして、思い通りに動かせる…」

 

海斗「だけど、みんなは…」

 

春雨「まあ、細かい事はいいですから…少なくとも、お偉方や今教育を受けている人はそう思ってます、もちろん楚良は別ですけど」

 

海斗「…暁達と、艦娘が兵器だと考えられてるのは…」

 

春雨「艦娘の作成コストは人間の素体が必要なことを除けば僅かな金額で作り出せます、AIDAナノマシンもいくらでも量産できるようになりましたから…ああ、その量産を可能にしてしまったのはお宅の明石さんですけどね」

 

海斗「明石が…?」

 

春雨「あの人には気をつけた方がいいです、裏で何と繋がってるやら…あ、話が逸れましたね…今言った理由から艦娘の扱いはどこでも最低なんです、大湊警備府は特に顕著でした…」

 

海斗「…でした、っていうのは…」

 

春雨「今はもうそこの頭を取り替えたんです、あまりにも非効率的で無駄に人が死に続けるのを見てられませんでしたから」

 

海斗「…じゃあ」

 

春雨「暁さんと響さんは無事ですよ」

 

海斗「…雷は…」

 

春雨「雷…?私は聞いてませんね、着任してないとか…」

 

海斗「いや、荒潮が居るのを確認して……まさ、か…」

 

春雨(…成る程、こちらについても遅かった訳だ…)

 

春雨「…申し訳ありませんが、事実確認の時間をください」

 

海斗「…はい」

 

春雨(おそらくもう手遅れ、か…)

 

春雨「今日は失礼します、書類などは明日持参致しますね…ああ、本部の書類はもう書き換えてありますので、3日後に着任致します」

 

海斗「…お待ちしてます」

 

春雨「私も貴方の指揮下です、どうぞもっとお気軽に」

 

握手を求めて手を差し出す

 

海斗「…じゃあ、よろしく、春雨」

 

何かに怯えたような、強張った手

雷の事なのか、綾波の事なのか

 

春雨「ええ、倉持司令官…しかし上官に握手を求めるのは非常識だったでしょうか」

 

海斗「いや…僕はそのくらいの距離感の方が」

 

春雨「それは良かったです」

 

 

 

 

 

 

医務室

提督 倉持海斗

 

海斗「誰が居る?」

 

川内「あ、こっちこっち」

 

海斗「川内さん、2人の容体は…」

 

朝潮達が保護したのは山城、そして恐らく駆逐艦と思われる少女

2人ともかなり衰弱しており、特に山城は止むを得ず修復剤を使ったのに一向に意識が回復しない

 

扶桑「提督…」

 

海斗「扶桑、君はずっと此処に…?」

 

扶桑「…ええ、その…例え会ったことがない妹だったとしても、妹ですから…せめて1番そばにいてあげたくて…」

 

川内「随分と痛めつけられてたし、海を長時間漂ってた…そして爆弾まで体内に埋め込まれてるなんてね…でも、本当に爆発前に取り出せた事と心臓が右側に有ったのは奇跡なんじゃない?」

 

海斗「心臓が右側に?」

 

川内「胸の刺し傷は心臓が左にあったら致命傷になってた、右にあったとしても出血多量で死にかけだったけど…」

 

扶桑「…本当に…許せません、深海棲艦がこんな事を…!」

 

海斗「そうだね…もう1人の子は?」

 

川内「曙が見てる、食堂で囲まれてるんじゃない?」

 

扶桑「提督、どうぞ行ってらしてください…山城が目を覚ましたらご連絡致しますので…」

 

海斗「わかった…扶桑、君も少しは休んでね、せっかく山城が目を覚ましても君が倒れてたら意味がないよ」

 

扶桑「お気遣いありがとうございます…」

 

 

 

 

 

食堂

 

海斗「あ、良かった、居た」

 

秋月「……」

 

曙「…ああ、何よ」

 

海斗「曙、これ」

 

秋月「…!」

 

曙に剣を渡す

 

曙「…綾波のところから戻ってきた訳ね」

 

海斗「さっき春雨さんが持ってきてくれたんた」

 

曙「へー…それより」

 

海斗「そうだね…えっと、君の名前はなんて言うのかな?」

 

秋月「秋月…です」

 

海斗「秋月、君達は…何があって海の上に…」

 

秋月「そ、その…覚えてなくて…」

 

海斗「覚えてない…?」

 

朝潮「司令官!こちらに司令官はおられますか!?」

 

朝潮が走りながら食堂に入ってくる

 

海斗「朝潮、どうしたのそんなに慌てて…」

 

朝潮「ほ、他の鎮守府や警備府で…同様に保護された方…!」

 

曙「息切らしてるじゃない、落ち着きなさいよ」

 

朝潮「ば、爆発っ!爆発したらしいんです!」

 

海斗「…待って、此処以外でも同じ時間帯に人を保護してた…って事?」

 

朝潮「そうです!各基地で1人ずつ保護し、全員爆発して亡くなったと…!」

 

曙「…おぇ」

 

秋月「…うう…」

 

海斗「山城は既に体内から爆弾を摘出した、秋月さんは爆弾を確認できなかった、多分大丈夫だと思う…」

 

曙「…山城の方の爆弾、何でわかったの?」

 

海斗「どうしても確認したいって春雨さんに…」

 

曙「春雨には何が見えてたのかしらね」

 

海斗「さあ…だけど山城と秋月さんだけでも助かって良かったよ…」

 

曙「…そうね、今はそう思う事にするわ」

 

朝潮「司令官、その件で問い合わせがありますので…」

 

海斗「わかってる、すぐ行くよ」


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