元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
駆逐艦 春雨
春雨「ええ、全く…むにゃ…」
亮「起きろ!」
耳元で怒鳴られ、気持ちの良い微睡が不快な頭痛へと変わる
春雨「何ぃ…?楚良ぁ…」
亮「お前…寝てんじゃねぇよ!」
春雨「えー…」
亮「検査結果は」
春雨「…全くの問題なし、健康そのものですよ…骨が折れたりもしてないし、みた通り防犯カメラの映像みたいに左肩抉れたりもしてない…高速修復剤使った後みたいですね、本人は覚えないそうですが」
亮「…そうか」
春雨「それと…暴走状態についてもある程度聞き取りでの調査なども行いましたが…曙さんの方はAIDAの活性化による凶暴化、つまりAIDA感染者らしい振る舞いなのに対して島風さんの暴走は…暴走というより確実に敵を倒そうとしてるだけに見えますね」
亮「でも意識はないんだろ」
春雨「ええ、残念ながら」
ペラペラと記録をめくる
春雨「単純にパワーも上がってるようですし、艤装で空中機動までやってのけた…これを制御できれば確実に戦力は跳ね上がる…」
亮「…そううまくいくとは…」
春雨「思えないけど、期待はしたい…さて、いきますかぁ…ウラジオストク」
亮「本当に行けるのか?」
春雨「まあ、問題ないはず…というか…」
春雨(懸念事項は無いわけではないけど…いや…待って、私達は一度ウラジオストクに行ってる、2度目は安全なのか、リスクがどれくらいあるのか…)
亮「おい?」
春雨「…ウラジオストクに行くのはやめる、嫌な予感がするから」
亮「じゃあどうするつもりだよ」
春雨「釜山、韓国を通る…必要なパーツの受け渡しさえすれば向こうで艦娘システムのアップデートを行う作業はオンラインでできる、でも…このルートだと2週間は…いや、贅沢は言えない…」
亮「…何か、俺にできる事はないか?」
春雨「さっさと昇進して、私たちの指揮をできるようになってくださいよ」
演習場
軽巡洋艦 那珂
那珂「よーし、基礎練はこれで終了!今日から型を作っていくよ!」
朧「はい!」
那珂「よーし、じゃあまずは組手をして今の朧ちゃんの動きを見ていこう!」
朧「いきなりですか…?」
那珂「うん、いつでもかかって来てね」
朧「……よし、行きます…!」
立ち技主体のキックボクシング…を真似た何か
那珂(こっそり勉強してたみたいだけど、うーん…逆にそれに引っ張られて動きを制限してるのかも…こっちからも軽くいこうかな)
軽いジャブだけを打って様子を見る
朧(どのタイミングなら…!)
お互いのパンチが何度か衝突する
那珂(…おかしい、パンチが衝突するのなんて滅多にない事だし、その上朧ちゃん…狙ってやってる?)
朧「でやっ!」
朧のハイキックを前腕で受ける
那珂「っー!?」
那珂(鋭い…!重くないのに速さ、力強さは異様にある…!)
受け流すように倒れ、海面を転がる
那珂「いいね…!那珂ちゃん熱くなっちゃうよ!」
体制を立て直して間合いを殺す
朧(速…今、動きが見えなかった…!)
那珂「ほら!行くよ!ほらほらぁ!」
体を左右に振り、打撃をかわしながら腹部へとフックを叩き込む
朧(加減されてるとはいえ…無理…!あ、違う!)
朧の膝が上がったのを見て抑え込む為に手を伸ばす
那珂(膝蹴りじゃない…?)
朧が膝を引いたせいで手が空をきり、重心のバランスが崩れる
那珂「ふぐっ…!」
側頭部を殴られ完全にバランスを失い、海面に手をつく
那珂「ストップ…うん、まさかこんなのくらうと思ってなかったけど…朧ちゃん、もしかして艤装をつけた想定の動きしてるでしょ」
朧「は、はい」
那珂「ふんふん、なるほどねー…じゃ、これ意味ないや」
立ち上がり、スカートのシワを伸ばす
朧「へ?意味ないって…」
那珂「いいよ、そのまま続けて…でも那珂ちゃんの動きはちょっと変わるからね〜」
那珂(もう朧ちゃんの型は出来上がってる、正直言ってそれが正しいかはわからないけど、それなら私が変に教えて型を崩すより実戦を叩き込む…)
那珂「だとしたら…神通姉さんかなぁ…?」
片手をダラリと垂らし、構えを変える
朧(…何を…)
那珂「行くよ」
体を大きく振りながら、右腕を鞭のようにしならせながら間合いを詰める
朧(そうだ、曙から聞いてる…確かこの腕の動き!)
朧の目が右腕に向く
那珂(知ってる、か…)
間合いの一歩外で腰を大きく落とし、脚を最大限伸ばして足払い
朧「え…」
そして体制を崩したところに足払いした足に引き寄せられるように近づき、左手で胸ぐらを掴んで前蹴り
朧「ぁがっ…!」
那珂「これくらいの勢いで行くから、覚悟してね」
朧(…動きが、わからない…さっきの移動、それに足払いの後の移動がまるで瞬間移動したみたいに…)
那珂「ほら、立たないと追い討ちするよ?」
朧「い、今立ちます!」
那珂(朧ちゃんガッツはあるし…思ってる以上にセンスもある、あとは自分の思った通りに体を動かせるようになれば一気に化けるのかなぁ…)
那珂「あ、先に艤装つけておいで、水上歩行用以外も解禁!ただし、弾は演習用の模擬弾頭にしてね」
朧「は、はい!」
那珂(…読めない分、実弾を使われたら本当にやられかねないからなぁ…)
朧「準備完了です」
那珂「あ、そっか…そのタイプの主砲使ってるんだ…」
首から紐で吊るされ、使用の際は両手での操作が必要なタイプの主砲…
那珂「大きすぎるかなぁ…合ってないとか思うでしょ」
朧「いや…そんな事は」
那珂「使い慣れてるかとかじゃなくて、今の闘い方に」
朧「…それは確かに…」
那珂「さっきのパンチのうち合いの時にわざと拳を衝突させて来たのは艤装で拳が保護される前提だから、そしてその後膝蹴りをしようとして途中でやめたのは魚雷発射管を掃除してないと意味がないと感じたから」
朧「…そうです」
那珂「というか、拳衝突させるなんて鍛えてないと割れるよ?」
朧「割れっ…」
那珂「あと魚雷を直接刺すのはリスキーだし、炸裂した時巻き添え食うからやめた方がいいと思うなー」
朧「わかりました…」
那珂「でも蹴りは鋭くてよかったよ、艤装付けて蹴りの特訓とかしてたでしょ」
朧「は、はい、やってました」
那珂「あの速度が出るなら艤装アリでも充分武器になるかなぁ…脚の引き方も覚えれば魚雷も扱えるかも」
朧「えっと…」
那珂「ま、習うより慣れろか…いいよ、おいで」
那珂(次は川内姉さんで…)
朧(…私は、絶対に強くなる)
那珂「さあおいで!」
医務室
神通「それで二人してそんなにボロボロに?」
那珂「いやー、模擬弾頭って硬いんだねー、あはは」
朧「那珂さん、主砲の口径なんですけど、片手で扱うことを考えるとこのくらいが限度かと…」
那珂「あ、多分朧ちゃんの腕力なら全然大丈夫だよ、それと水上歩行用の艤装もさー…」
朧「それは、大丈夫です…アテがあるので」
那珂「アテ?」
腕を強引に引っ張られ、薬液をかけられる
那珂「痛っ!?痛いいい!」
神通「お話もいいですが、まずは先に治療を…」
那珂「神通姉さんガサツなんだから他の人にやってもらいたいんだけど!」
神通「…なんですって?」
消毒液のよくしみた綿を力強く押し付けられる
那珂「痛い!もはやしみて痛いよりも握りつぶされそうで痛い!」
神通「このまま骨を砕いてあげましょうか!」
那珂「助けて川内ねえさーん!」
春雨「あの、うるさいんですけど」
神通「あ、どうも…」
那珂「救世主だ!」
朧「…目やについてますよ」
春雨「まあ、サボって昼寝してたので…ふぁ…うるさいから起きちゃいましたけど」
神通「…それは、なんだかすいません…」
那珂(サボってるなら別にいいような…)
春雨「朧さん」
朧「は、はい?」
春雨「艦娘システムの更新の手術、受けませんか?」
朧「…綾波の、ですよね…」
春雨「ええ、皆さんまだ完全に受け入れられてないようで」
朧「受けます」
春雨「それはよかった」
朧「その代わり…一つ欲しいものがあって」
春雨「うわ、めんどくさ」
那珂(言うんだ…)
春雨「で、なんですか?」
朧「綾波の艤装」
春雨「へぇ…良いですよ、探して来てあげます、その代わり釜山までの護衛任務をあなた達に任せます」
朧「釜山?」
春雨「那珂さんと神通さんも」
神通「…私達も?」
春雨「折角ですから」
那珂「良いかもね、対人は叩き込んでるけど深海棲艦との戦いはまだ教えられてないし」
神通「…保護者役ですか」
春雨「貴方達なら安心してお任せできます、最重要の任務ですから♪」
朧「それはいつ…」
海上
那珂「まさか今から行ってこいなんて…ねぇ」
朧「完全に良いように扱われてますね…」
神通「でも高速艇を借りられたおかげで片道1時間で済みますよ」
朧「前回も韓国のルートを通ればよかったのに…」
那珂「なんかー、内陸でも空のルートは今危険らしいんだよね、物資が循環しないからどこも資源不足で」
朧「…成る程、じゃあこれもかなり危険なんでしょうか」
那珂「賭けだって言ってたねー」
神通「…見えました、深海棲艦…」
那珂「よーし、那珂ちゃんが深海棲艦との戦い方を教えちゃおう!」
船を降りて深海棲艦と対峙する
那珂「ひとーつ、ふたーつ、みっつと」
神通「駆逐2、軽巡1」
那珂「よし、手は出さなくて良いから…那珂ちゃんの動きをよくみて」
水面を蹴り、距離を詰める
朧(まさか砲撃をせず…?)
敵の砲撃をステップを踏むようにかわし、ゼロ距離に持ち込む
那珂「ドーモ、那珂=チャンデス!」
駆逐級をサイドから蹴り上げ、浮かび上がったところに拳打、そして肩の副砲からの砲撃
朧(今の、どうやって…)
那珂「基本は砲戦!だけど接近戦になったら開き直って格闘戦に持ち込んだ方が楽!その時は絶対海に手を潜らせる事!」
両手で海水を掬い、次の深海棲艦を捉える
那珂「格闘戦のメリットは魚雷を全く気にしなくて良い事、そして…」
こちらにむいた軽巡級の砲口を殴ってズラす
那珂「砲撃も近づけば一切できないから独壇場になる…ただし」
片足を後ろに引き、背後からの砲撃をかわす
かわした砲弾が軽巡級に直撃し、沈む
那珂「ちゃんとさっきを感じ取る事…背後から撃たれてやられてたらダメだからね」
近づいてきた駆逐級を踏み潰す
朧「…無傷で…」
那珂「ただし、近接戦闘は基本的に最終手段!必要な時にだけにしようね」
朧「は、はい!」
神通「…結局何故手を濡らしたのか」
那珂「主砲ってすぐ熱くなるからね、触ると火傷するからちゃーんと冷たい海水で濡らさないと触っちゃダメ!」
朧「ああ…そういう…」
那珂「まあ、本当に気休め程度だから」
大湊警備府
駆逐艦 五月雨
五月雨「五月雨、着任しました!護衛任務はお任せください!」
徳岡「パーティー以来だな…元気にしてたか?」
五月雨「はい、また提督のもとで戦える日が来るなんて…夢みたいです!」
夕立「よーし、これで揃ったっぽい!」
白露「まあ、場所は違うけど…いっちばん戦果をあげよう!」
五月雨「……あの、すいません」
夕立「?」
白露「どしたの五月雨」
五月雨「なんで二人揃って男装…それも警備兵の…」
夕立「あ、五月雨は知らないのかしら」
白露「みんなだよ、みんな艦娘としてじゃなくて食堂で仕事してたり清掃してたり、とにかく今は目立たず集まる事を優先してたから」
五月雨「なるほど…提督、お疲れ様でした…」
徳岡「ああ、わかってくれるか…夕立に執務室前に立たせりゃ騒ぎは起こす、食堂では時雨が生煮えの米を出す、睦月達はサボってゲーム、白露に関しちゃ無断出撃、倉庫の燃料や弾薬の数をちょろまかすやつまでいる始末…」
白露「出撃したいもん!」
夕立「ここの艦娘は提督さんの事よく思ってないっぽい」
徳岡「白露は置いといて、夕立、ここの連中は元々いた上司が悪かった所為で嫌な思いしてるんだ、それくらい想像の範囲内だろ」
夕立「いー!だ」
徳岡「…本当に言うこと聞かん奴らだなぁ…」
五月雨「お、お疲れ様です…」
徳岡「…まあ、お前は正規の艦娘だ、色々上手いことやってくれ…」
白露(投げ出した…)
五月雨(丸投げされた…)