元勇者提督 作:無し
大湊警備府 執務室
駆逐艦 春雨
春雨「はい、ドーン、はい」
執務室の扉を蹴り開ける
徳岡「…随分と荒っぽいノックだこと」
夕立「来るとは聞いてないっぽい」
白露「前に居た涼風達は?」
春雨「邪魔だったので締めました、意識は失ってますが命に別状はありませんよ?」
夕立と白露が拳銃を取り出し向ける
春雨「馬鹿ですねぇ、私の機嫌次第でせっかく揃ったあなたたちをどうとでもできることをもう忘れましたか?」
夕立「死んじゃえばそんなこと関係ないんじゃないかしら」
白露「そもそも、妹に手を出されて黙ってるほど優しくないよ」
春雨「あーあ、私も妹なんじゃないんですか?白露姉さん」
白露「この前会ったのが初対面」
春雨「はいはい、離島での苦しみはお互い知ってるんですからもう少し仲良くしましょうよ?」
徳岡「それより、何の用だ」
春雨「貴方がその役職について、もし慢心が見えるなら殺そうかと」
夕立「…!」
白露「私達の前でそれが言えるんだ」
春雨「言えますよ?それに…貴方達のシステムは簡単に掌握できる」
白露「やってみなよ…」
徳岡「やめろ、喧嘩したって何も始まらない…で、何の話だ、俺が慢心って…」
春雨「人間爆弾、ご存知ないですか」
徳岡「…報告書は見た」
春雨「それだけ?」
徳岡「注意書きも張り出した、直接言うにも行動をアンタらに制限されてるんだ、そもそも此処の連中は頭がすげ替えられたのも知らない、いきなり言うこと聞くと思うか?」
春雨「…じゃあ、不知火さん達が知らないのは不注意か…成る程、しかし此処は被害がなかったと?」
徳岡「そもそもそんなもん来てねぇよ、報告もなかったし…ん?五月雨、何で入り口に突っ立ってるんだ」
慌てて振り向く
春雨「…おや、おやおやおや…五月雨さんじゃ無いですか」
春雨(気配がまるでなかった…後ろから撃たれてたら死んでたな…)
五月雨「私が…その、私、発見して…」
春雨(成る程)
徳岡「五月雨、まさかお前…その…」
五月雨「はい、私が1人で哨戒に出た時発見し、本人の口から爆弾の事実を聞き、トドメを刺しました」
白露「殺したってこと…?」
五月雨「……とても苦しんでいました、助からないのなら少しでも早く死にたいと言われて…」
徳岡「…そうか」
春雨「成る程、しかしそれを報告しないのはいただけませんね」
五月雨「…ごめんなさい、でも提督に非はありません…」
春雨「その様で…今後も同様の手口を使われるかもしれません、お気をつけを」
徳岡「…ああ…」
春雨「場所によっては自分が助かりたいからと爆弾の事を隠し、医務室に運ばれたところで爆死した方も居られたそうです」
夕立「……おぇ…」
白露「耳塞いでなよ」
徳岡「わかったから…アンタの本題は何なんだ」
春雨「駆逐艦暁、響の宿毛湾泊地への転属、それから駆逐艦不知火も頂いていきたいと思っています」
徳岡「…本格的に動いていいのか?」
春雨「今回の件でなくとも人材が不足している基地は多い、現在の所属艦娘は散り散りにして、皆さんでお好きに…ストーリーは…そうですね、他所の基地に艦娘が移ったせいで自分の悪事がばれそうになった高官殿が代理を立てて逃げ出した…と言う事で」
徳岡「もとの話とだいぶ違うぞ」
徳岡の座る椅子を指さす
春雨「そこが空席になれば良いんです、後釜なんて好きにできるくらいの力はありますから」
徳岡「…ヘルバ様様だな…」
春雨「そういう事で」
徳岡「…とりあえずこっちは了解した」
春雨「それと、白露型と睦月型の皆さんにはこの資料をよく読み、理解して納得したら署名と烙印をしてもらってください」
書類を渡す
徳岡「これは」
春雨「私が使ってるのと同じ…AIDA感染をしないで済む艤装を使うにあたって…そのリスク等も受け入れていただく必要が有りますから」
白露が一つ取り、ペラペラとめくる
春雨「おや、速読ができるんですか?」
白露「そんなわけ無いじゃん…ああ、あった…提督、ペン借りるよ」
白露が躊躇いなくサインする
徳岡「お、おい!」
白露「拇印でいい?」
春雨「構いませんが」
白露が親指の肉を噛み切り、血を垂らす
春雨(書類に血を垂らさないで欲しいなぁ…)
白露「できたよ」
春雨「…何にも読んでないんですよね?今なら取り消して良いですよ」
白露「取り消さないよ、だって1番じゃなくなるじゃん」
春雨「…くだらない理由ですね」
白露「そうでも無いよ、妹達が背負うリスクを1番に試せる…それに1番最初は私、理由は十分すぎるほどある」
春雨(危険なら自分だけで済ませるつもりか…)
春雨「くだらない、と言ったのは訂正します…では貴方も私に同行してください、すぐに手術を受けさせてあげますから」
白露「OK!」
佐世保単純
提督 度会一詞
度会「怪我人は葛城だけか…」
瑞鶴「…他のみんなは筋肉痛とかで動けないけど、重傷者はいない…でも、暴走の時の記憶もハッキリしてるからみんなショックを受けてて…」
度会「…立て直しは難しいな…時間がかかる」
瑞鶴「非番の子も何も手につかないみたいだし…」
度会「宿毛湾から人を出してもらってくれ、最低限の哨戒だけはしなくてはならない」
瑞鶴「…了解」
度会(…精神面はやはりまだ幼い少女達だ、このまま無理をさせるより…しかし、悠長な事をしていればまた攻めてくるかもしれない…)
度会「弱ったな、秋雲のことを調べる暇もない…」
宿毛湾泊地
駆逐艦 朧
朧「お疲れ様でした…」
神通「随分疲れてますね」
那珂「あのくらいで疲れてたら持たないよ?」
朧「…いや…他所でも曙や島風みたいに暴走する様な危険があるって考えると…私もそうなるんじゃ無いかなって…」
神通「空母の暴走はまだ一件も起きてないのが気になりますね、艦載機運用の都合上の様な理由があるのかもしれませんが」
朧「…それは、誰かが操作してるって事ですか?」
那珂「多分そうなるよね〜…だってあのタイミングの暴走って本土への上陸を防ぐみたいな感じだったじゃん、那珂ちゃん達が到着したら急に暴走治ったみたいだし?」
朧「…確かに」
那珂「だからねー、一応そこまで警戒しなくても良いのかなとは思うんだけど…」
神通「ほんの少ししか見る事はできませんでしたが…あの陽炎さんの動きは朧さん、貴方よりも上でしたよ」
朧「…はい」
那珂「神通姉さんはすぐそういう事言う…どっちが上だ下だじゃなくてさぁ…」
神通「今の朧さんでは暴走した人を止める力はないと言っているんです、そんな状態で艦娘システムのサポートから外れて綾波さんの艤装を使うつもりですか」
那珂「そんな事別に良いじゃん…朧ちゃんだってすごく成長して…」
朧「綾波の艤装は…私は綾波の艤装は今の艤装より凄いと思ってます」
神通「それは何故ですか?」
朧「…まだ、使ったことも見たことも無い、だけど…綾波が残された時間を使って完成させてくれた…それだけで信じられます」
神通「…期待外れかもしれませんよ」
朧「そんなことないです、絶対に…それに、暴走を止める為に暴走のリスクがある艤装を使ってたらミイラ取りがミイラになるかもしれないし…」
那珂「うんうん、那珂ちゃんはねー、朧ちゃんのそう言うところ応援したいなー」
神通「…成る程、では朧さんの活躍に私も期待しています」
朧「はい…!」
演習場
重雷装巡洋艦 北上
北上「…はー…」
阿武隈「次、西に3メートル」
北上「ちょい待ち…あのさ、これ意味あんの?」
阿武隈「自分から砲撃を教えてくれって言ったんですよ、責任持ってやってください」
北上「…じゃあなんで一発も撃たないのさ…」
阿武隈「撃たなくても当たる感覚が掴めないと意味無いんです…下に3ミリズレてます」
北上(…絶対意味ないし、そもそもなんで自分で構えてないのにわかるんだか)
阿武隈「余計なこと考えてたら永遠に終わりませんよ?」
北上「あー…あのさ、何回も聞いて悪いけど本当にこれ意味あんの?」
阿武隈「あるからやってるんです、手首垂れてますよ…えーと…」
阿武隈に手首を掴まれ固定される
阿武隈「このまま撃ってください」
北上「いや、アンタ的見てないじゃん…」
阿武隈「いいから」
北上「……」
撃った砲弾が的の中心を捉える
北上「別にちゃんと狙えばさぁ…」
阿武隈「言い訳しない、そんなんじゃいつまで経っても強くなれませんから!」
北上(…ウザ…)
北上「もう結構な期間やってると思うけどさ、何が成長するのこれ」
阿武隈「当てたいと思ったところに必ず当てられるようになる、そして敵や味方の射線の管理を…ちゃんと聞いてください」
北上「聞いてるっての…つーかあの…これでもう1人のキタカミに勝てんの?」
阿武隈「え?…そんなに早くは無理、だってあたし達よりずっと長い間同じ事してるもん」
北上「……アホらし」
阿武隈「アホらしいって…それでやめたら絶対勝てないけど…」
北上「……初めて会った時から無理だと思ってたし、別に良いや」
魚雷のスクリューだけを壊されたり、見えた瞬間航行不能にされたり…さんざ煮湯を飲まされた…もう面倒も良いとこだ
北上「どーせ誰かがやってくれるでしょ、ほら、アンタとかさ」
阿武隈「…そりゃあ、私はキタカミさんに勝つつもりだけど…思い出したけど薄らとだけだし、手の内も全然わからないから…うーん…」
北上「アンタも勝てないと」
阿武隈「…多分あたしじゃ無理…でも弱音なんか吐いたら絶対に勝てなくなる」
北上「…良いじゃん、諦めりゃ…楽だよ?」
阿武隈「…諦めたら、楽かもしれないけど…誰も私を見てくれなくなるから」
北上「は?」
阿武隈「どんな道でも後悔はする…だけど、やり遂げようとしてした後悔はあたしが頑張った証…どんなに悔しくても、辛くても、誰かに話せる、共有できる痛み」
北上「…諦めたら誰にも話せないって?」
阿武隈「だって、そんなこと言っても…挫折したことなんて、誰かに言いたくないし」
北上「……」
何故だろう
苛立ちが加速する
北上「じゃあアンタにとって進むのをやめたやつはみんな恥ずかしいやつなんだ」
阿武隈「それは…違うけど」
北上「何が違うのさ、アンタにとって途中で諦めたやつはみんなクズだって事でしょ?」
阿武隈「そんな事言ってない!あたしは…あ」
阿武隈が何かを言いかけ、やめる
北上(…後ろに誰か…?)
北上「…大井」
いつの間に背後に…
大井「北上さん、見苦しいですよ」
北上「…あ?」
大井「自分が諦めたからって他人にまで諦めろというのは、見苦しいですよ」
北上「…黙れよ」
大井「あなたを邪険に扱うつもりはありません、ですが何にでも超えてはいけないラインがあります…感情の浮き沈みが激しいことも理解はしましたし、私は受け入れましょう」
北上「受け入れる?何を今更…」
大井「貴方は否定されるのが怖い」
北上「…怖い?あたしが?」
大井「私達の所為なんですよ、私達があの時貴方を受け入れられなかった、その所為である事はちゃんとわかってます」
北上「さっきから何言って…」
大井「貴方がキタカミさん…深海側についたキタカミさんを殺したいのは不安だから、もし戻ってきたら自分の居場所が無くなるんじゃないか、そう思ってるからですよね?」
北上「……今でも居場所なんか…」
大井「私を、貴方の姉妹として受け入れてください」
北上「…姉妹として…」
大井「北上さん、私は貴方の居場所になります、貴方が不安に襲われているなら守ります、だからもう誰かに八つ当たりなんかしなくて良い」
北上(…こんなのじゃ、ない…あたしが求めてるのは…)
大井「私達であのキタカミさんを…」
阿武隈「すいません、大井さん」
大井「…なんですか」
阿武隈「…姉妹と一緒だったことがないあたしが割って入るのはよくないと思うんですけど…姉妹ってそういうものなんですか?」
大井「どういう意味ですか」
阿武隈「そんな何かの為に何かを犠牲にするようなのが姉妹なのかなって…」
大井「私は何も犠牲にしてなんか…」
阿武隈「北上さんと姉妹になる為にキタカミさんを犠牲に…あー、ややこしい…!とにかく、キタカミさんを倒す事で姉妹になれるって考えてるなら違うと思うんです!」
大井「何が違うのよ」
阿武隈「…私にとって離島時代のキタカミさんは姉のような存在だったんだと思います、思い出そうとすると温かい気持ちになるから、みんなの話を聞けばみんながそう言ってたから」
北上(…あたしとは、違う…)
阿武隈「だから、大井さんもキタカミさんの事は好きだったと思うんです、それは今も」
大井「…あのキタカミさんは私を撃った」
阿武隈「そんな事言ったら綾波ちゃんなんてたくさんの人を傷つけた、今ここにいない曙さんもそうです、でも仲間として受け入れられてる」
大井「……」
阿武隈「それと、北上さん」
北上「…何」
阿武隈「球磨型の北上が2人いても…あたし的には全然おかしくないと思います、だって曙ちゃんも2人居たし」
北上「…それは…」
阿武隈「姉妹を独り占めしたかったのかもしれないし、不安だったのかもしれない、結局あたしにはわからないけど…ほら、2人いても双子みたいな感じで楽しそうじゃないですか!」
大井「……」
北上(…結局、それってどうなんだろ)
阿武隈「それに…あたしは姉妹が居なくても寂しくなんかない、沢山仲間がいるから」
北上「仲間、か…」
阿武隈「北上さんもそうです、みんな仲間だって思ってくれてる…後は北上さんが受け入れるだけ」
北上「…あたしが?」
阿武隈「大井さん程には大事に思えないかもしれないけど、大切な存在だって思って欲しい」
北上「…別に大井のことなんか」
阿武隈「大事な存在じゃなきゃ命懸けで庇ったりしませんよ」
大井「……」
阿武隈「大井さんは、どうなんですか?」
大井「……助けてくれた事は絶対に忘れたりなんかしてない、感謝もしてるし…」
阿武隈「そうじゃなくて」
大井「…大事な存在、だと思うわ」
阿武隈「なら、それが2人だけの姉妹の形です」
北上「あたしらだけの?」
阿武隈「きっと頭で考えるような事じゃないと思いますけど…私はそうだって思って」
大井「…なるほどね、そうかも」
北上「うええ…納得してるし…」
大井「北上さんは?嫌?」
北上「……まあ、今は…それで良い」
阿武隈「よし、解決!……したところで、なんでこの話に?」
北上「諦める諦めないの話」
阿武隈「ああ、そうだった…キタカミさんを比較的簡単に越える手段、一つだけありますよ」
北上「は?じゃああの話何?」
阿武隈「砲戦では、絶対に勝てません…だから、砲戦じゃなくて雷撃戦を重視する」
大井「…確かに、キタカミさんの砲撃は一撃必殺の精度だから雷撃はあまり使わない…」
阿武隈「と言っても、あの射線管理の技術や元々の雷撃スキルがあるので……どのみち斃すのは到底無理…」
大井「まあ…でしょうね」
北上「いや、わかった…良いよ、そういう事なら」
阿武隈「…伝わってよかった」
北上「確かに一人だとキツイだろうけどさ」
大井「…成る程、私達なら…斃せるでしょうね…」
阿武隈「よーし、じゃあ今から雷撃の基礎から学んでいきましょうか!」