元勇者提督   作:無し

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実験γ

研究所

駆逐艦 春雨

 

春雨「んー……疲れました、まさか予定外に手術を受ける人間が増えるなんて…ねぇ、天龍さん」

 

天龍「申し訳ありません、無理を言って」

 

春雨「いえ、ですが良いんですか?戦艦の艤装の手術まだできませんでしたから…また日向の艤装としばらく離れ離れですよ」

 

天龍「…佐世保の方達が暴走したとなると恐らく警らの人手が足りません、そうなると宿毛湾に人出を求められる…この手術を受けてる人間が行くのが適切でしょうから…」

 

春雨「待ってください、しばらくは安静にしていただかないと困ります、術後は不調が少し続くと書面にありましたよね?」

 

天龍「大丈夫です、調子はいいので」

 

春雨「おそらく、数時間のうちに発熱もありますよ」

 

天龍「問題ありません、もともと体温が高いので」

 

春雨「貴方…何故そこまで急いでるんですか」

 

天龍「…さあ、何故でしょうか…さて、私は行きます、ありがとうございました」

 

天龍が部屋を出る

 

春雨「……全く、言うことを聞かない人ばかりで嫌になりますね、はい…おや?」

 

敷波「来たよ」

 

春雨「これはどうも、わざわざ来ていただいて…」

 

敷波「はい、これ」

 

敷波が艤装を置く

 

春雨「貴方が持ってるとは思いませんでした」

 

敷波「当たり前じゃん、アタシの脚は綾姉ぇのなんだから、艤装もそのまま…」

 

春雨「じゃあ貴方が使う分は?」

 

敷波「…用意してない?」

 

春雨「嘘ですよ、向こうにあるのでサイズを選んでどうぞ」

 

敷波「よし」

 

春雨「…しかし、綾波さんも不思議な方ですね…あれだけ怨まれていたのに、今ではこんなに死を悼まれるとは」

 

敷波「綾姉ぇは…ほんとは優しかったんだ…でも、なにより本当の綾姉ぇだけを見続けてくれた司令官やみんなのおかげだよ」

 

春雨「そうだ、貴方は狙撃の腕が良いとか?」

 

敷波「まあ…悪い事してた時にね、でも逆に狙撃で殺された」

 

春雨「奥に銃もあります、1つならどうぞ」

 

敷波「いや、もう組んだやつあるから」

 

春雨「それは…特務部での仕事も?」

 

敷波「多分そうなる、でも撃つのは深海棲艦だから」

 

春雨「なら良かった」

 

敷波「じゃ、朧に渡しといて」

 

春雨「ええ、それでは…ん?」

 

机の上の携帯のバイブレーションが響く

拾い上げ、画面を見る

 

春雨(ビトか、一体何を…っ!…これは…)

 

メールに添付された記事にはかつて利用したウラジオストクの港が衛星写真で写されていた

しかし、その港はその写真でもはっきりとわかるほどに無惨に破壊し尽くされていた

 

春雨(…ウラジオストクを使った事がバレていた…そして、この徹底的な破壊…私たちが艤装を輸送した事もバレている…なにより、直前に私の独断で行き先に釜山に変更していなければ…)

 

奥歯を軋ませる

 

春雨「…内通者がいるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

太平洋 深海棲艦基地

レ級

 

レ級「…コレは?」

 

駆逐棲姫「佐世保侵攻に失敗した子達ですねぇ、ああ、ほら、この子達なんて貴方と同じ戦艦レ級」

 

レ級「……」

 

ボロボロの肉塊を摘み上げる

 

レ級「死んでるのか?」

 

駆逐棲姫「まあ今は死んでますけど、そのうち目覚めるでしょう」

 

レ級(……)

 

レ級「一つもらっていく」

 

駆逐棲姫「もらうって…何に使うんですか?」

 

レ級「実験だ、見にくるか?」

 

駆逐棲姫「…いや、なんか貴方に誘われると行く気失せるんですけど…」

 

レ級(だと思った)

 

 

 

 

 

レ級「私の右手の痺れは未だ取れない…だが、これを…」

 

右手に意識を集中させる

 

レ級「……そうだ、やられた事をそのままやれるよう…」

 

右手の先の痺れがどんどん登ってくる

右手首のあたりまで来たところで痺れが溶けるように消えた

 

レ級(失敗したか…?いや…)

 

レ級の死骸に右手首を押し当てる

 

レ級「…物は、試しだ」

 

死体が大きく跳ねる

 

レ級「……痺れの感覚は…ない…コレに対する耐性はできたのか?」

 

レ級(耐性を作るために実験していたと言うのに…)

 

右手を死体から離す

 

レ級「…これは」

 

死体から右手へと光の糸のような何かが伸びる

まるで死体から何かを吸収するような感覚

 

レ級「……暁、響…誰だ?…そしてこの憎悪の感情…コレは、記憶…私には必要ない」

 

繋がりを振り払う

 

レ級「…ほう、この感覚は…」

 

右手に何かがまとわりつく感覚…

かつて望んだ物が、今この手に宿ったと言う確信…

 

レ級「…コレがなんなのかは、わからない…なのに、満たされたような…」

 

再び死骸に手を押し当てる

 

レ級「今度はどうだ」

 

死体から何かを吸収した感覚

 

レ級「…所詮ゴミはゴミか」  

 

レ級(しかし…これは…)

 

確かな感覚…見えない何かがそこにある

 

レ級「……私にもうあの攻撃は効かない…?…他にも試すべき事がある…早速行くか…?」

 

死骸を眺める

 

レ級「…これは」

 

 

 

 

アジト 

イムヤ

 

パソコンを起動し、データの一覧から綾波の作り出したデータだけを呼び出す

 

イムヤ(…どれがそうなのか位…わかれば良いんだけど…いや、確か綾波はメールでヘルバに送ったって言ってた…なら、もしかしたら…)

 

メーラーを起動し、その中から目的のメールを探す

 

イムヤ(…流石に削除してるかな……待って、コレ…)

 

イムヤ「…司令官への……そうか、私が司令官に伝える必要も無いんだ…」

 

その一つ下のメールに目が止まる

 

イムヤ「…これ、そうだ…有った…!」

 

パソコンに機器を取り付け、データを転送する

 

イムヤ「……私は、私に出来る事をやる、やれる限りの事をやってみせる…!」

 

転送が終わった機器を掴み、最低限の身支度を済ませる

 

佐藤「どこに行くつもりですか?」

 

イムヤ「黒のビト…!」

 

佐藤「…貴方の指名手配は未だ解かれていません、外に出ても捕まるのがオチです」

 

イムヤ「そんな事関係ない!私は綾波や司令官のためにやれる事をやる!こんな所で腐ってて良いわけがない!」

 

佐藤「そう言われましても」

 

イムヤ「退かないと怪我するよ…!」

 

佐藤「それは困りますね、私も仕事がありますし、痛いのはごめんですから」

 

佐藤が私を通り過ぎ、棚のボストンバッグを下ろす

 

佐藤「コレ、持っていってください」

 

イムヤ「……何それ」

 

佐藤「見た通りバッグですよ」

 

イムヤ「…じゃなくて」

 

地面にバッグを下ろし、ジッパーを開く

 

佐藤「あなたたちの逃走開始からもう3週間以上、警戒が手薄な場所も幾らかはあるでしょう、この中に着替えやカツラ、化粧道具とか…あと携帯端末と多少の金銭も入っています」

 

イムヤ「…なんでそんな物…」

 

佐藤「貴方を止めるほどの力は私にはありません、ですが貴方に死なれては困りますから…ああ、このバッグは防水ですけどちゃんと閉めないと水が入ります、水圧も10メートルまでは特に問題ないとは…」

 

イムヤ「…じゃあ、海を使える…」

 

佐藤「幸運を」

 

イムヤ(…どこに行けば良いのかも、どうしたら良いのかも判らないけど…今は私に出来る事を探さないといけない、私が戦う場所を見つけなきゃいけない…)

 

イムヤ「ありがとう、佐藤さん」

 

佐藤「それと…コレは小耳に挟んだ程度ですが、特務部のオフィスが破壊された事で思考のジャックが今はできないとか」

 

イムヤ「……泊地に戻るのも考えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 

駆逐艦 朧

 

朧「…38.5分…」

 

曙「本当に発熱した…か、手術、一気に受けなくて良かったわね」

 

朧「…まあ、ね…提督には」

 

潮「伝えておくからゆっくり休んでね」

 

漣「何かあったら携帯で連絡するのですぞー」

 

朧「うん、ありがとう…」

 

朧(…頭、ぼーっとするな…そういえば最近は七駆で過ごす時間も短くなってたっけ…最後に遊びに行ったのいつだろ…)

 

微睡の中に意識が落ちる

 

朧(…何かの、匂い…)

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

軽巡洋艦 天龍

 

天龍「宿毛湾泊地より派遣されました、天龍です」

 

曙「同じく、曙、漣、潮、以上4名」

 

度会「協力感謝する、と言っても最低限の哨戒さえしてくれれば構わない、それ以外の時間は好きに過ごしてくれ」

 

天龍「かしこまりました」

 

度会「それでは此方もやる事があるので失礼する」

 

 

 

 

天龍「…ふう」

 

曙「大丈夫?アンタ顔色悪いわよ」

 

天龍「…そうでしょうか」

 

天龍(発熱は思ってたより辛いですね、ですがこの程度なら任務に支障はありません)

 

漣「佐世保といえば佐世保バーガー食べたいですなぁ」

 

潮「博多ラーメンも行きたいねー」

 

曙「自由時間貰ったって言っても観光に来たわけじゃないの、そこは理解しなさいよ」

 

天龍「そうですね、あまり気を緩めないように」

 

漣「ちぇっ、ぼのたんは変に生真面目だしぃ」

 

潮「天龍さんは根っからの真面目だもんね…」

 

天龍「……あまり良くないでしょうか」

 

漣「良くないというか…」

 

潮「他所の天龍さんの適応者はみんな荒っぽいって聞きましたよ」

 

天龍「…まあ、私も見た事はあります、軽巡洋艦の艤装なのに自信過剰な方もおられて少々心配になりましたが…」

 

漣(天龍さんが慎重すぎるだけなような…)

 

天龍「軽巡洋艦は駆逐艦よりは耐久がありますが…しかし格上相手の戦いだと特に沈む時は一瞬です、自信を持つ事は大切ですが過剰な自信は慢心を、そして慢心は死を引き寄せます」

 

曙「日向の時は結構前出るのに?」

 

天龍「戦艦の耐久力があります、皆さんの盾とならずしてどうしろと…」

 

曙「駆逐艦が前に出るのが定石でしょ、戦艦は射程が長いんだから後ろにいても何にも問題ないわ」

 

天龍「…そうかもしれませんが…手の届く範囲で誰かを失う事はしたくありません」

 

潮「…そんな事があったんですか?」

 

天龍「……私が前の世界で日向として戦っていた時に…何度もありました」

 

漣「おう…」

 

天龍「後悔するのなら…やるべきだと考えたんです、でも皆さんすぐに私より強くなっていきますから…そんな必要もなくて」

 

曙「まあ、天龍の考えをどうこういうつもりはないけど…それでアンタは…」

 

龍田「あら〜、天龍ちゃんじゃない」

 

天龍「…どうも」

 

龍田「やだー、そんな他人行儀な挨拶しないでよ、姉妹艦なんだから」

 

天龍「…まあ、そうですけれど、私は誰に対しても態度を変えるつもりはありませんので…」

 

龍田「…そう?なら仕方ないわねー」

 

曙「…暴走したって聞いたけど?」

 

龍田「そうなの、だから検査を受けてー…今は全然大丈夫よ〜」

 

曙「…ま、大人しくしてれば良いんじゃない、今は」

 

漣「うぉっと、時間です!」

 

天龍「行きましょうか、哨戒任務」

 

龍田「…いってらっしゃ〜い」

 

 

 

 

 

海上

 

天龍「…なんで着いてきてるんですか」

 

龍田「あ、大丈夫、許可は取ったから〜」

 

天龍「そういう話ではなく…」

 

曙(…寂しかったって事かしら)

 

漣「そう言えば他の方は見かけなかったけども」

 

龍田「秋雲ちゃんのお見舞いに行ってるわー」

 

曙「秋雲…?なんかあったの?」

 

龍田「意識不明なの」

 

天龍「意識不明…」

 

龍田「あ、出撃は関係ないの、ゲームしてて急になったらしくて…」

 

曙「…ゲームで意識不明…つまり未帰還者か」

 

曙(朧に後で教えておこうかな…確か仲が良かったはずだし)

 

天龍「…心ばかりですが、お見舞い申し上げます」

 

龍田「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ〜、きっとすぐ目を覚ますし…あら?」

 

龍田の視線を追う

フードを目深に被ったレ級が視界に入る

 

天龍「…アレは、戦艦レ級…」

 

曙「…マジで?」

 

レ級がゆっくりと此方に向かってくる

 

天龍「砲戦用意!」

 

レ級「待て、此方に攻撃の意思はない」

 

曙「んなもん信じるわけないでしょうが!」

 

レ級「…これを」

 

レ級が何かを投げる

べしゃりと音を立てて目の前に落ちる

髪が真っ白に染まっているものの、肌は人と同じ肌の色…

 

天龍「…人間…?」

 

曙「っ!また爆弾仕込んで…!」

 

レ級「安心しろ、そんな事はしていない」

 

天龍「…信用できるわけがありません、漣さん、直ぐに春雨さんに連絡を」

 

漣「了解!」

 

レ級「…そこまで疑われると腹立たしいな」

 

天龍「私たちからすれば…貴方たちのしたことの方が余程腹立たしいです…!」

 

刀を抜き、構える

 

レ級「……」

 

レ級が右手を此方へと向ける

 

レ級「その人間、おそらくそのままでは死ぬだろうな…衰弱しきっている」

 

曙「…それで」

 

レ級「早く連れて帰ってやると良い」

 

潮「…そうしたくても、できない…!」

 

天龍(このまま見殺しにはしたくない、春雨さんの到着を待つ他ないのに…)

 

レ級「そいつは数刻前までレ級だった奴だ、つい先日ここで交戦しただろう?」

 

龍田「…あのレ級のうちの一体…」

 

レ級「私はもう帰る…つもりだったが」

 

レ級の周囲を炎が包む

 

天龍「あの炎は…!」

 

曙「もう使いこなしてるって訳ね…」

 

レ級「ここだ」

 

天龍(背後から声…)

 

振り向き様に斬り払う

金属にぶつかった感触で止まる

 

レ級「…良い、そういう事か…」

 

天龍(腕で受け止めた…?でもあの感触は確実に鉄の…!)

 

レ級「…お前だ」

 

レ級が龍田を見る

 

龍田「あら、私に御用かしら?」

 

レ級「お前から一番…感じる」

 

レ級の掌底が龍田を捉える

 

龍田「え…」

 

レ級「捉えた」

 

曙「いい気になってんじゃ…!」

 

レ級「邪魔はさせない」

 

レ級と龍田が炎の球に包まれる

 

天龍「炎…!私が斬り込みます!」

 

炎を斬り払い、中に入る

 

天龍「…これは…」

 

中に居たのは倒れた龍田一人だけ…

 

天龍「周囲警戒!レ級が消えました!」

 

炎がかき消える

 

曙「…本当にどこに」

 

漣「い、居た!あそこ!」

 

レ級が水面からゆっくりと浮上する

 

レ級「…目隠しとして、あの炎は便利だ」

 

曙「…チッ…!」

 

レ級「良いデータになった、コレで私は帰る」

 

レ級が水中に消える

 

天龍「複縦陣!周囲を警戒しながら龍田さんを連れて帰ります!」

 

曙「…元レ級って奴は」

 

天龍「それは…」

 

潮「…ねぇ、まってよ…この子、雷ちゃんだよ」

 

曙「…雷…?」

 

天龍「…間違い無いんですか」

 

漣「…ホントだ、顔が見えなかったし髪の色が違うから判らなかったけど…」

 

天龍「……二手に分かれます、曙さん達は泊地に雷さんを連れて帰ってください」

 

曙「アンタは」

 

天龍「一人で龍田さんを連れていきます、泊地には春雨さんもいるはずです」

 

曙「……襲われたらどうすんの」

 

天龍「どうにかします、皆さんも自分の命を優先してください」

 

曙「…了解」

 

潮「春雨さんとは海上で合流できるように連絡とったよ!急ごう!」

 

天龍(…さて、此方も急がないと…)

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