元勇者提督   作:無し

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睨み合い

宿毛湾泊地 執務室

提督 倉持海斗

 

海斗「…ふぅ…」

 

|FMDを机に置く

 

暁「…司令官」

 

海斗「暁、起きてたんだね…気分はどう?」

 

暁「大丈夫…だけど…随分難しい顔をしてるわ…」

 

海斗「心配しないで、気にしなくて良いんだよ」

 

暁「…私、ここにいて良いのかしら…」

 

海斗「安心して、みんな君の仲間なんだから…」

 

プロペラ機の音が近づいてくる

 

海斗(春雨達が帰ってきた…)

 

海斗「響は…まだ寝てる、か…暁、少し待っててくれる?」

 

暁「…わかったわ、早く戻ってきてね…」

 

海斗(…やっぱり暁の様子がおかしい、何があったか聞かないといけないけど、暁は答えたがらないだろうし…いや、考えても始まらないか…」

 

 

 

 

春雨「佐世保派遣組、戻りました」

 

海斗「…天龍は?」

 

春雨「命に別状はありません、自分で失血を抑えてましたし致命傷も避けている…あと少し内側でしたらもっと内蔵に問題があったでしょうね、必要な手術は既に済んでますので…ああ、もちろん麻酔なしで」

 

曙達の方を見ると無言で首を振る

どうやら事実らしい

 

春雨「それよりも倉持司令官、例の子は」

 

海斗「夕張に見てもらったけど…わからないことが多いって」

 

春雨「…じゃあ私が診ます、それと不確かですが…彼女は雷だと漣さんと潮さん、曙さんから証言が」

 

海斗「雷…?本当に…?」

 

漣「顔が変わってる様な気もしたけど多分間違い無いです」

 

潮「…多分」

 

海斗「すぐ確認しよう、春雨も来て」

 

春雨「私は別の仕事があります、貴方の供回りは他の面子で十分でしょう」

 

曙「アタシも残る」

 

海斗「…わかった」

 

 

 

 

医務室

 

満潮「あれ、司令官じゃない」

 

海斗「満潮?何でここに…」

 

満潮「誰も居ないのはまずいんじゃないかって…如月と交代で」

 

海斗「そっか、ありがとう…ところでその子が運ばれて来た?」

 

満潮「…らしいけど」

 

ベッドに近づき、顔を眺める

 

海斗(…確かに、雷に見える…)

 

満潮「どうしたの?」

 

海斗「いや…身元がわかるんじゃないかと思ってね」

 

海斗(夕張が気づかなかったのは気になるけど…あれ?さっきと少し顔つきが変わった様な…)

 

 

 

 

 

駆逐艦 春雨

 

春雨「いやぁ、助かりましたよ…特務部さん」

 

秋津洲「何のことかわからない…ってのはもう無駄か…」

 

春雨「ええ、無駄ですよ…ただ、やり合うつもりはありませんから」

 

秋津洲「……」

 

春雨「それと…特務部というのは厄介なことをしてる様ですねぇ、まさか貴方がマハのダミー因子の適格者とは…」

 

秋津洲「そっちは本当に何のことかわからないかも」

 

春雨「いいえ、わかるはずですよ…貴方はダミー因子に適応している、そして秋津洲の艤装にマハが埋め込まれているのも把握しています」

 

秋津洲「…一体、どこまで…」

 

秋津洲が鞄に手を伸ばす

 

春雨「ここでやり合うのは不味いんじゃないですか?貴方の命は確実に失われますよ」

 

曙「そうね、アタシは見過ごすつもり無いし」

 

秋津洲「……二式大艇ちゃんには深海棲艦掃討用の装備も備わってる、死ぬのはどっちか…」

 

春雨「試しますか」

 

秋津洲「っ……今日は、やめとくかも」

 

春雨「ならそれでは」

 

曙「あんまりおイタしてたら本当に叩きのめすわよ」

 

秋津洲「…舐めてると足元掬われるかも」

 

 

 

 

春雨「素直に帰ったか」

 

曙「…ダミー因子って、何なの?」

 

春雨「簡単に言えば碑文使いだと誤認させるための物…AIDAにそう誤解させる事で艤装の使用者の性能を向上させるんですよ」

 

曙「へぇ」

 

春雨「…さて、雷さんの方を見に行きましょうか」

 

春雨(…やりあえば流石にこちらが不利でしたね)

 

 

 

医務室

 

春雨「…うわぁ…これ、酷いですね…そういう事か」

 

海斗「何かわかったの?」

 

春雨「この人、死んでます」

 

曙「…死んでるって…」

 

春雨「心臓が動いてるので血は流れてます、目を覚ませば脳も働くでしょう…でも死んでるんです、今は身体を再生している段階…というかとんでも無いのはあのレ級か…」

 

春雨(龍田さんの暴走、そしてこの雷…そこから考えられる最悪の可能性…アイツはデータドレインをコピーした、一度受けただけで)

 

海斗「どういう事?」

 

春雨「この方はもう肉体無いんですよ、全部失ってる、でも、それでも再生してるんです…ナノマシンを肉体と誤認してると言えばわかりやすいか…」

 

曙「…どういう事?」

 

春雨「コレを形成してるのはナノマシンの様な物です、コレは人間じゃ無い、皮膚も、中身の筋肉、脂肪、内蔵、血液、この髪の毛一本までぜーんぶ機械でできてるんですよ、言うなればホルムンクス…人造人間です」

 

海斗「…そんな」

 

春雨「ロボットといっても良い、でもきっと本人にその自覚はない…もしかしたら月日が経って成長し、人間のように振舞うかもしれませんが…それでも所詮は人外、機械です、永遠の時を彷徨うでしょうね」

 

曙「深海棲艦全てそうって事?」

 

春雨「そこまでは…流石に飛躍しすぎですよ」

 

海斗「…なんとか…」

 

春雨「なんとか?貴方話聞いてました?今何を口走ろうとしてました?貴方脳みそ壊れてます?コレは人間じゃなくて機械なんですよ、機械…伝わらないなら頭に直接書き込みましょうか、何を何とかしろと?死んだ者は甦らない、それがこの世の理です」

 

海斗「…ごめん、わかってる…」

 

春雨「限りなく人に近い存在でも人じゃ無い、きっと目を覚ませば人として振る舞うんですよ、でも貴方はコレを機械だと受け入れる必要がある」

 

海斗「…機械…」

 

春雨「記憶の奥底の自分になろうとしてるんでしょうね」

 

雷の髪をかき分ける

 

春雨「付け根が茶髪になり始めている、顔もどんどん雷さん本来の姿に近づくでしょう…ああ、やはり機械というより培養されて作られた人造人間の方が近いかもしれません」

 

海斗「……」

 

春雨「そんなに不服ですか、顔に不愉快と書いてあります」

 

海斗「…それは、ね…」

 

春雨「…言い方は悪いでしょうが、紛れのない事実…貴方は司令官としてそれを受け入れる必要がある、貴方はここの長なのですから」

 

海斗「わかってる…今僕が気にしてるのは…暁になんて言えばいいのか、かな」

 

春雨「…ああ、成る程」

 

春雨(そう言えば私が連れてきたんでしたね、しかし面倒なことになった)

 

海斗「…今の雷に雷の意思が宿っているのか、それとも…」

 

春雨「まさか貴方まだそんな夢見て…」

 

曙「そういう奴よ、それにアタシもこの雷に雷としての記憶や意思が宿ってるなら…それは雷として扱われるべきだと思う」

 

春雨「馬鹿なんですか?わかりにくい説明でしたか?コレは偽物の雷さん、本物は既に死んで…」

 

亮「海斗!」

 

医務室の扉が荒々しく開く

 

春雨「楚良、ここは医務室で…」

 

亮「悪いが今それどころじゃない!海斗、来てくれ!」

 

海斗「…わかった」

 

曙「春雨、アンタ横から口出ししそうだしアタシと晩ご飯でも食べに行きましょ」

 

春雨「…何食べても不味くなりそうなんですが」

 

 

 

 

 

 

執務室

提督 倉持海斗

 

海斗「…やっぱり、こうなった…」

 

亮「知ってたのか…?」

 

テレビ『アメリカ政府の声明ではこれはサイバーテロの影響であり、犯人は許されざることをしたと…』

 

アメリカのミサイルは軌道を変え、あろうことかフランスの軍事基地を攻撃、フランスから射出されたミサイルはイギリス、イギリスはドイツ…そして、色々な国がお互いの国を攻撃し、最後にアメリカの軍事基地にもミサイルが降り注いだ

防衛システムが生きていたおかげで被害は最小限に留められたが結局は大量の死者が出たことに違いはなかった

 

海斗「…レ級が言ってた、悪戯に犠牲者を出すだけだからやめろ…って」

 

亮「会ったのか?」

 

海斗「ゲームの中で…」

 

暁「司令官」

 

海斗「暁、ごめんね…少し待ってて」

 

暁「…わかったわ」

 

海斗「本当にコレはサイバー攻撃なのかな…どうやってハッキングを…」

 

亮「…腑に落ちねえ…なんでミサイルを落とす場所を選べたのに防衛システムは生きてたんだ?」

 

海斗「わからない…」

 

亮「…とにかく、こっちも忙しくなるな」

 

海斗「……」

 

 

 

 

 

海上

レ級

 

レ級「…?……どう操作するんだコレは…ああ、コレでいいのか」

 

携帯に番号を打ち込む

 

敷波『はい、こちら敷波…』

 

レ級「ああ、繋がった…こういう物なのか、携帯とは」

 

敷波『…?どちら様…』

 

レ級「深海棲艦、戦艦レ級」

 

敷波『レ…レ級って…!』

 

レ級「お前のボスは?」

 

敷波『何でこの番号を…』

 

レ級「お前のボスはと聞いたんだ」

 

敷波『…居ない、中央に呼び出されてる…』

 

レ級「チッ…戻ったらこう言え、私の警告を聞けばこうはならなかったものを…と」

 

敷波『警告…待って、アンタらの…深海棲艦の狙いは何なの?』

 

レ級「私もそれを求めている、だが、闘争は最も手軽な手段だ…む?」

 

光が私を照らす

 

レ級「忙しくなる、コレで失礼」

 

敷波『ちょっ…』

 

携帯を切り、尻尾に飲み込ませる

 

レ級「…こちらに敵対の意思はない」

 

曙「泊地の目の前まで来ておいてそんなの通用すると思ってんの?」

 

レ級「ああ、通用すると思っている…それに、まだお前一人しかいない、お前では私に傷をつける前に死ぬぞ」

 

曙「アタシにやられたくせに?」

 

レ級「戯けが、死に体の私を痛ぶっただけだろうが」

 

曙(…乗ってこない…か、本当にやり合いに来たわけじゃないのか…それとも)

 

レ級「…もしやり合うのなら、全員殺してやるぞ」

 

曙「…タダでやられると思うな」

 

曙(って言っても…まともにやりあう事すらできない…どうすれば…)

 

レ級「…私を前に考え込むな、そんなに隙を与えてはいつ死んでもおかしくない」

 

曙「…何しに来たのよ」

 

レ級「カイトに会いに来た、アイツはまだ話が通じるだろうからな」

 

曙「…なんで」

 

レ級「お前と無駄話をしたいわけじゃない、さっさと繋げ」

 

曙「一応ウチの総大将よ、そう易々と…」

 

右手を向け、艤装を展開する

 

レ級「私は、お前と会話しに来たんじゃないと言った…私の日本語、通じてるのだろう?」

 

曙「……こちら曙、対象の要求は面会…相手はカイトを指定してる…」

 

レ級(…脅すくらいなら約束を違える事にはならんだろう)

 

曙「武装を解除して、そうじゃないととても会わせられない」

 

レ級「断る、ここは敵地だ、そして私達は敵同士だ…なにより、腕一本あれば貴様らを殺すことができる」

 

曙「……」

 

レ級「…妥協点として…」

 

右手で左肩を掴み、ちぎり捨てる

 

レ級「コレでどうだ、お前たち全員を縊り殺せる腕を一本捨ててやる」

 

曙「…深海棲艦ってのは…怪我をいつでも再生できるもんじゃないの?」

 

レ級「できる」

 

曙「だったらそれに何の意味があるのよ」

 

レ級「…再生せずとも殺せる…が、この場で再生はしない、そう約束しよう…再生を開始したら約束を違えた…明らかな敵対とわかりやすいだろう?死ぬ覚悟くらいはできるぞ」

 

曙(…どこまでも上からな…)

 

曙「…聞こえてる?…そういう事だから…わかった……ついてきなさい」

 

レ級(漸くか、私にも痛覚は有るのだがな)

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 応接室

 

レ級「数時間ぶりだな、カイト」

 

海斗「…何故、ここに?」

 

レ級「無論、話し合いの為だ…だから、場所なんて海の上でもよかった、こんな行儀のいい場所でなくてもな」

 

海斗「…ちょっと失礼します」

 

カイトがドアに近づく

 

海斗「もう良いよ、通常通りの配置についてて…絶対に近づかないで」

 

ドアの方から複数の足音が去って行く

 

レ級(天井裏にも居たな…つまりコレで全員消えたか)

 

レ級「この場を任せられた人間が完全に護衛を解くとは…」

 

海斗「もし攻撃の意思があればどのみち僕は助からない…それなら君に専守防衛を守ってもらう方がずっといい」

 

レ級「…良いだろう、気に入った…先に言っておくがミサイルの事は私は無関係だ、嫌に頭が回る奴がいる物でな」

 

海斗「…それで」

 

レ級「それだけだ、後は…他のレ級、私がお前達にくれてやったレ級だが…どうなった?」

 

海斗「…何故そんなことを?」

 

レ級「人の身に変性していたからだ、あのままあそこに居たとしたら死ぬほどに苦しい生活をしなくてはならんだろうからな…どうだ、目を覚ましたか?」

 

カイトが首を横に振る

 

レ級「まだ、か…それは弱ったな」

 

海斗「君は、何を…」

 

レ級「何を?それは簡単な話だ…私の存在意義を見つけること、それが戦争なのかは知らんがな…人が死ねば深海棲艦にされる、深海棲艦になった者は人間になることもある…もしくはそのまま深海棲艦として再度作り直されるか」

 

海斗「作り直される…?」

 

レ級「そうだ、深海棲艦は簡単に言えば粘土だ、何度でも形を作れば動作する…人間と違ってな…ああ、だが一部違うのもいるらしいが」

 

海斗「粘土…」

 

レ級「私はそれを人に戻すことでどうなるのかが知りたかった」

 

海斗「戻す…君が戻した?」

 

レ級「コレが見えるか?」

 

右手を持ち上げて見せる

 

海斗「……薄らとだけ」

 

レ級「なら充分だ、これはどこぞの艦娘が使ってた技を分析した物でな…そいつはデータドレインと呼んでいた」

 

海斗「データドレイン…!」

 

レ級「知っている様だな」

 

海斗「…知ってる、だけどそれは…」

 

レ級「…詳しく、聞かせてもらおうか」

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