元勇者提督   作:無し

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太陽

宿毛湾泊地 食堂

駆逐艦 曙

 

潮「提督、大丈夫かな…」

 

曙「死んだら死んだ時、やれる事をやるまでよ」

 

双剣をくるりと回し、鞘に収めては引き抜く

 

不安ではあるものの、何もできない、退屈な時間だけが過ぎて行く

 

曙(…どうなるのかしら…あのレ級が来てもう30分…まさかもう殺されてたり…)

 

漣「もうやられちゃってたり…」

 

朝潮「ああ、みなさんここに居ましたか」

 

曙「朝潮」

 

朝潮「さっきお茶を出す名目で見てきましたけど、一応無事でした」

 

曙「…そ」

 

結局不安は晴れないが…今の所は問題ないらしい

 

朝潮「融和した様な空気ではありませんでしたが…」

 

曙「もしそうだったら殴ってるわよ」

 

そうでなくても…一発二発殴っても文句は言われる筋合いはない

だけど私も敵を、それも1番危険だと思われる敵を迎え入れてしまった…

私に力があればそんなことにはならなかったのに

 

曙「何の話ししてた?」

 

朝潮「…わかりませんでした、3日後、というワードだけは聞こえましたが」

 

曙「3日後か…何かの日だっけ」

 

潮「さあ…」

 

漣「わからねー!なんでレ級大人しいのかも!ご主人様が直々に会ってんのかも!」

 

曙「…チッ…」

 

朧「ねぇ、みんな」

 

曙「朧?アンタ何で起きてんのよ」

 

潮「ダメだよ寝てなきゃ…」

 

朧「いや、だって…騒がしいし…」

 

曙「それは悪かったけど、アンタは寝てなさい」

 

朧「…何があったの?」

 

曙「知らなくて良いから寝てて」

 

朧に伝えれば大人しく寝ているなんてことはまずあり得ない

 

潮「漣ちゃん」

 

漣「あいよ!」

 

朧「2人とも離してよ、本当に何が起きてるの?」

 

漣と潮に両脇を抱えられた朧は大人しく引きずられて行く

 

朧「…磯の匂い?」

 

曙「海の前なんだから当たり前でしょ」

 

漣「はい、行きますよー」

 

潮「曙ちゃん、ちょっと待っててね」

 

曙「……はぁ…」

 

朝潮「…私もう一度見てきます」

 

曙「頼んだわ」

 

 

 

 

 

応接室

レ級

 

レ級「…そういう事だ、私はコレで帰るとするか」

 

海斗「……」

 

レ級「お前がどう振舞おうが勝手だが、南進すれば私と出会う、やめておく事だ、勝てない事くらいわかるだろう」

 

海斗「それは…わからない」

 

レ級「ほう?私に土をつけられるものがあると?」

 

海斗「確かに1人の力では君に勝てないかもしれない、だけど…」

 

レ級「…なるほど、団結は力か、それは面白い…私達には無い考え方だろうからな…私に見合う実力者がいないのが問題だが…」

 

手に炎を灯し眺める

 

レ級「この奇怪な炎は…実に面白い、お前との約束がなければもう少し調べる為に戦いたかった物だが」

 

海斗「…命を奪わないなら…いや、傷つけないなら構わないよ」

 

レ級「ほう」

 

海斗「専守防衛は置いておいて、殺し合う戦いじゃ無いなら構わないよ」

 

レ級「良いだろう、そうするか」

 

 

 

 

演習場

 

曙「…心配して損した、コイツの言うこと信じてんの?暴れる理由ができただけじゃ無いの?」

 

海斗「大丈夫だから、お願い」

 

レ級(…何故コイツはここまで私を信じる?不可解だ…コイツが私の戦いを許したのはデータ収集の為かと思ったら…)

 

レ級「私の戦力はとことん削ろう、まずは尻尾だ」

 

尻尾を手刀で断ち切る

千切れた尻尾がバタバタと跳ね回る

 

曙「うわっ…」

 

レ級「この尻尾に手は出すなよ、荷物が入ってる…具体的に言えば本だが、今の私には命以上の価値がある」

 

曙「…興味ないわ」

 

レ級「それと…腕を再生して構わないか、炎を扱いたい」

 

曙(…左腕が炎を司ってるって事?)

 

曙「…どうせ変わらないし、好きにすれば」

 

肉が潰れる音、ゴリゴリと何かが動く音が鳴る

 

レ級(…痛むな…)

 

レ級「ぐ……ッ」

 

右手を切断面に押し当てる

炎が腕の形を形成する

 

レ級「ふ…う…」

 

炎が消え、左腕が再生する

 

レ級「…やや収まりが悪いな…少ししくじったか」

 

曙(え、そう言うのあるのソレ)

 

レ級「それと、そちらから主砲を…そうだな、単装砲、サイズは好きに選んでくれ…いや、駆逐艦向けの物にするか、一撃で終わってもつまらない…演習は模擬弾頭を使うのだろう?それも込めて欲しい」

 

海斗「わかった」

 

レ級「魚雷は必要ない、扱えるが扱わないのでな…それとルールも決めよう、私はお前を殺さない、そしてお前に対する攻撃手段は素手と主砲だけだ」

 

曙「…炎は使わないの」

 

レ級「火傷は治しても痕になるだろうからな」

 

曙「ざけんな、そんな気遣いいらないわよ…!」

 

レ級「本で読んだ知識だったが…戦いの場では無粋だったか」

 

曙「…さっきのルール、アンタに対しての制約しかなかったけど」

 

レ級「お前にルールは不要だ、私を殺しても良い…どうせ蘇る」

 

曙(…大阪でもそうだった、確実に殺したと思ったのにコイツは蘇った、コイツが言ってる通り…たとえ殺しても蘇るなら…)

 

曙「じゃあ、殺してやるわ…必ず」

 

レ級「…薄汚いハイエナにしては良い顔をする」

 

 

 

 

レ級「軽いな…そして…弾は…ふむ、コレが模擬弾頭か」

 

砲弾を一つつまみ上げ、眺める

 

レ級「楽しもうじゃないか」

 

曙「…お断りよ、死ぬほどに後悔させてやる…」

 

レ級「勿体無いとは思わないか、観客もこれほどにいるというのに」

 

夜も遅い言うのに、周囲には完全武装の艦娘だらけ…

ルールを違えばこれら全員が襲い来るわけだ、この数を相手取る事のリスクは承知の上…

 

レ級(殺さず消えるべき、だろうな…まあ、約束は守られる物だ)

 

曙「先に始めなさいよ」

 

レ級「…では、やろうか…お前の名前は」

 

曙「特型駆逐艦18番艦、綾波型駆逐艦8番艦…曙」

 

レ級「曙…成る程、朝という意味だったか」

 

曙「夜明け、よ」

 

レ級「成る程、夜明けの名を持つお前がこの夜を乗り切れるのか…楽しみだ」

 

大きく後ろへと跳ねる

 

曙「何を…」

 

レ級(距離は200メートルと言ったところか、まずは砲撃の慣らしだな)

 

主砲を向けて撃つ

 

レ級(ブレはない、か…素晴らしい、良いぞ)

 

砲撃を放ち続ける

 

レ級(見せろ、あの炎を…)

 

曙「鬱陶しい!」

 

曙が双剣を振るい、砲弾を切り裂きながら距離を詰め始める

 

レ級「…接近戦しか脳がないのか?お前は」

 

相手が望むのなら、此方もそうするほかあるまい

 

レ級「…そうだ、一つ思いついたぞ」

 

曙に近づく

 

レ級「曙、これはどうだ」

 

背後に炎を出し、砲弾を爆発させる

 

曙(加速した!?)

 

レ級「痛いぞ、耐えろよ」

 

加速した勢いのままにタックルする

 

曙「かは…ぁが……」

 

曙が水面を跳ね、転がる

 

レ級「模擬弾頭というのはどのくらいの威力があるのか」

 

主砲を向け、放つ

 

曙「あがぁ…!」

 

曙に直撃したのに無傷…

 

レ級「なるほどな、これなら死なんだろう」

 

続け様に引き金を引く

 

曙「この…!」

 

曙の姿が火球に包まれて消える

 

レ級(…前と同じか、確かに上から来るか正面から来るか分からないのは困るな…だが、コイツも前と同じ手を使えるとは思っていないはず…コイツには何ができる?)

 

思考する

 

レ級(私は曙を知らない、だから曙の行動を見てみたい…)

 

撃てば解決するのだろうが、それを放棄し火球に詰め寄り、前と同じ様に火球を蹴る

金属音が響いた

 

レ級「…ふん、期待外れだな…まさかその中で大人しく防御姿勢を取るなど…」

 

曙「…息、整えてたのよ…!」

 

曙に主砲を突きつけて放つ

 

レ級「そうか、ならば寝ていても良い」

 

曙「ぁ…がぁ…ぅぐっ!?」

 

倒れた曙を蹴り飛ばす

 

レ級「勝負あったか?…何も発見がなかったな」

 

 

 

 

 

 

提督 倉持海斗

 

海を転がる曙を潮が引き上げ、抱き寄せる

 

潮「曙ちゃん!」

 

朝潮「…司令官、この戦いはやはり無茶が過ぎます」

 

海斗(…やっぱり曙が負けるか…でも、これは無意味じゃない……)

 

加賀「曙に確認も無しに演習を約束した事も含めて…貴方らしくない点が見受けられますが、何の為の演習だったのか」

 

海斗「意味はあるよ、君たちがこれを見てる事もその一つだ」

 

加賀「…ここまで徹底的にやられた事で戦意を失う者も居るでしょうね」

 

海斗「……?」

 

少し離れたところから眺めている島風が目に入る

 

海斗(アレは、何を…)

 

周囲の音が消える

 

海斗「……これは…?」

 

加賀「何が起きて…何でまだ立って…」

 

曙が潮を突き飛ばして立ち上がり、海に降りる

 

海斗「曙、もう戦う必要は…」

 

曙「……」

 

加賀「…聞いているの?」

 

曙は何も言わずにレ級の方へと進む

 

 

 

 

 

 

レ級

 

レ級「…なんだ、ノックアウトかと思ったが…思ったよりガッツあるな」

 

曙「……」

 

レ級「…あ?」

 

レ級(いきなり無口になって…いや、違う…曙の目に炎が…これはまるで…)

 

私の周囲を炎が囲む

炎が弾ける音がぱちぱちと音を立てる

 

レ級「…ほう?」

 

レ級(炎で視界を遮られた…だが、それだけ…何処から来る?お前の最高速度でゼロ距離まで接近するまではあと10秒はかかる、この時間稼ぎの後は?)

 

背後から強風が吹き付ける

 

レ級(風?何が…)

 

確認しようと振り返った瞬間肩に剣が突き刺さる

 

レ級「な…!」

 

曙「……」

 

レ級(どうやってこんなに早く…!)

 

背後に飛び、炎から抜け出す

 

レ級「…この角度、振り向かなければ首に刺さっていたか…となると…」

 

今、炎から悠々と歩いて現れたコイツは…あの島風と同じだというわけだ

 

レ級「面白い…何処までやるのか」

 

肩に刺さった剣を引き抜き、曙に投げる

 

レ級「見せてもらおう」

 

曙に向かい右手を向け、サムズダウン

 

曙「……」

 

曙がゆっくりと此方に歩きながら近づいてくる

 

レ級(…不意打ちに頼るのかと思えば…どうするつもりだ、いや…慢心は、無しだ)

 

主砲を向けて撃ち続ける

しかし曙はそれを全て斬り落として見せる

 

レ級「先程より動きがスマートじゃないか…面白い、次は肉弾戦だ」

 

 

 

 

 

駆逐艦 朧

 

朧「…ねぇ、みんな…何これ」

 

騒がしかったから、また起きてきて、出てきただけ…

なのに、目の前に広がってる光景は…明らかに異質で…

 

潮「朧ちゃん、ダメだよ寝てなきゃ…!」

 

朧「待って、教えて…曙が帰ってきたの…?」

 

漣「……違うよ、あれはボーノじゃない」

 

間違い無いのに、今レ級と戦ってるのは…死んだと思ってた曙なのに…

 

朧「…じゃあ、アレは誰…」

 

潮「曙ちゃんは、曙ちゃんなんだよ…」

 

レ級の攻撃を受け流し、カウンターで戦いの主導権を奪う姿も…確実な砲撃を撃ち込み、攻撃の手を潰して圧倒する様も…全てが

 

朧「…曙みたい…」

 

潮「…うん、そうだね…」

 

漣「ぼのたんなのに…ボーノにしか見えない…」

 

あのレ級を封殺して…圧倒して…

大胆で、容赦が無い、そして確実な…

 

朧(…ああ言う風に…なるべきなのか…それとも)

 

 

 

 

 

 

 

レ級

 

レ級「…かはっ…ははは…!」

 

曙「……」

 

圧倒的な暴力の前に、立つことすらままならないとは…何とも、不愉快極まりない感情が渦巻く物だ

 

レ級(コイツ、さっきの移動も含めて色々と謎が解けてきた…私の真似をしたな、私の様に爆風を受けて加速して近寄ってきた…あの炎の音だと思い込んでいた音の中に爆発音もあったのか…)

 

鳩尾を蹴られ、膝をつく

 

レ級(それと…一撃一撃が重い…あまり受け続けては死にかねないな)

 

レ級「面白い!お前の事をハイエナと言ったのは訂正する…!」

 

曙「……」

 

レ級(眉一つ動きやしないか、つまり…コイツはあの時の島風と全く同じだ…まるでただの機械…しかし、私は何を感じている?)

 

曙が急所を狙い双剣を振るう

 

レ級(…この暗い夜に…朝を引き連れてきた…実に面白い物だ…曙か…いや、まだだな)

 

海面を転がりながら、空を睨む

まだ空は暗いまま…星と月だけがこの夜を照らしている

 

レ級(まだ夜だ…暗く、恐ろしい夜…となれば、私が負ける道理は無いわけだ)

 

 

 

 

 

駆逐艦 朧

 

朧(…2人とも、動きが止まった…)

 

膠着状態…2人とも睨み合ったまま動かない…

 

レ級「ははは!アハハハハハ!!」

 

突如レ級が大声で笑い始める

 

潮「…何で、笑ってるの…?」

 

漣「頭いかれてるんでしょ…」

 

レ級が此方を向く

 

朧「っ!」

 

ギラついた視線に射抜かれた様に…動けなくなる

 

朧(…見られてるだけで、こんな…でも、恐怖じゃない…何で動けないの…?)

 

此方を向いたレ級の背後から曙が襲いかかる

 

レ級「……」

 

レ級が曙を蹴り飛ばし、そして徹底的な追撃

先ほどとは全く逆、優勢なレ級と一瞬の反撃の隙すらもない曙

 

レ級「そうだ、よく見ろ…これが私だ…!」

 

レ級が曙の首を掴み、此方へと投げ飛ばす

 

潮「さ、漣ちゃん!」

 

漣「おーらい!おーらい!」

 

朧「いや、この速度で飛んでくる人間を受け止めるのは…」

 

長門「任せろ」

 

長門さんが間に割って入り曙を受け止める

 

漣「ナイスキャッチ!」

 

潮「大丈夫ですか?」

 

長門「何、この程度…」

 

レ級「そうか、無事な様で何よりだ」

 

レ級が曙の顔を覗き込む

 

長門「な…いつの間にここまで…!」

 

レ級「いや、投げ飛ばした後に力を込め過ぎたと思ってな、殺さない約束だったのに陸地に投げては…死にかねないだろう?」

 

朧「……」

 

レ級「もう終わるか?曙」

 

長門「やめろ!もう意識を失っている!」

 

レ級「…そうか、それなら良い、これは返すぞ」

 

レ級が主砲を捨てる

 

朧「レ級」

 

レ級「何だ、敵討ちか?」

 

朧「貴方は誰」

 

レ級「…深海棲艦、戦艦級、レ級…よく覚えておけ」

 

朧「…じゃあ、何でそれを…」

 

レ級の右腕を注視する

いや、右腕に纏わりつく光の残滓を

 

レ級「……さあな」

 

レ級が右手を持ち上げ、手のひらに火を灯す

 

レ級「今日はここまでだ…実に、有意義な時間だった…」

 

朧「……」

 

いつの間にか再生した尻尾を靡かせ、海面をゆっくりと歩く

 

長門「どうする、撃つか」

 

朧「…いや、やめたほうがいいと思う」

 

 

 

提督 倉持海斗

 

レ級が目の前まで歩いてくる

 

レ級「帰る前に一言礼をと思ってな、有意義な時間だった、感謝する」

 

海斗「……」

 

レ級「それと…飼い主なら飼い犬の躾はしっかりとするべきだろうな」

 

レ級が加賀達の方を一瞥してそう言う

 

加賀「ふざけた事を」

 

レ級「今にも攻撃しようと言う雰囲気でそう言うか、約束を守った私を卑怯にも不意打ちしようと言う貴様らが」

 

加賀「……」

 

レ級「それでは…」

 

レ級が手に灯した炎を東に向けて投げる

炎が弾けて眩い光が辺りを照らす

 

レ級「これにて失礼」

 

レ級は此方を向き、笑いながら敬礼し、海の中に消えていった

 

海斗「…やっぱり、意味はあったのかな」

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