元勇者提督 作:無し
艦内食堂
提督 度会一詩
度会「…もうすぐ起床時間か、そろそろ誰か起きてくるか」
出発から1日、全く会敵しないまま台湾南の港に到着、一夜を明かした
不寝番は宿毛湾の方に任せ、此方は必要な時まで士気の安定を図る事となった
度会「…龍田?」
龍田「あら〜…提督、早いのね〜」
度会「…お前は不寝番じゃないだろう」
龍田「そうだけど〜…眠れなくて、それにお腹減っちゃった」
度会「…主力の1人である事を自覚してくれ、有事の際に仲間を守れるのは俺じゃない、お前だ」
龍田「……そうかしら…ねぇ、提督?」
度会「…なんだ」
龍田「知ってたらで良いの、言っちゃダメなら言わなくても良い…天龍ちゃん、こっちに来てないのは私のせい?」
度会「…それならお前のせいではないらしい、横須賀には戦艦がいない、熟練の戦艦が必要だったそうだ」
龍田「…長門じゃダメだったの?」
長門「私は辞退した」
度会「…居たのか」
長門「何、交代で先程戻ったばかりなのだが…なにぶん腹が減ってしまった……さらに横須賀は人間が多い、此処も多いがな」
龍田「…あなたも人間でしょう?」
長門「私は記憶が強く根付いていてな…人間が嫌いだ、浅ましく生きる人間が嫌いだ、私なんて醜くてもいいから鉄の塊で有りたかったものだ…さっきも言ったが横須賀ともなると人が多い、だから私は辞退した」
度会「…確か近隣の被災者の避難所も兼ねていたか」
長門「その話を聞いてな、とても向こうには居られないと思った…それに横須賀のメンバーは上手くやっているそうだが…一般人の出入りが多いと変な連中に絡まれかねない、恥ずかしい話、私はそういう連中が怖くて仕方がない」
龍田「殴れば良いのに」
長門「…そうできたら幾分か楽だったろう、私の心は彼等を畏怖の対象として捉えている、そして恐怖に呑まれた私は…動けなくなるだろう」
度会「…俺も席を外すか」
長門「いや、構わない…人間が怖い、と言ったが…正確には人間が持つ無自覚な悪意が怖いんだ、自分の言葉、心は正当なものだと信じて疑わない彼らが怖い…未知が怖い…でも、貴方達の事は前の世界でも少しだが知れた」
度会「特に交流した覚えはないが」
長門「それでもわかるものはわかる、暁達も貴方のことを悪くは言わない…彼女は人の本質を見抜く目を持っている、私には無い力だ」
龍田「あんな小さな子が?」
長門「容姿で人を見定めるのは…やめろとは言わないがあまりアテにしない方がいい、彼女は私なんかより立派な人だ」
龍田「ふーん…」
長門「そういう訳だ、私は貴方にも信頼を置く」
度会「…それはありがたい話だ」
長門「宿毛のトップが私という訳ではないから勝手を言うのも良くないが…私達は強い、十分に頼ってくれ」
度会「そのつもりだ、しかしおそらく1日2日では済まない戦いになる…此方も動かなくては消耗が偏る、主戦力が必要な時にダウンしていてはお話にならない」
長門「ああ、でも曙も、島風も…阿武隈もそうだが、1人で一騎当千の実力者だ、きっと何とかしてくれる」
度会「その点に関しては良く知っている」
龍田「作戦報告書、デタラメだものね〜」
長門「全て事実だからタチが悪い」
度会「曙、島風…彼女達の使う燃料は周りの数倍、そして阿武隈…彼女に関しては最低限の弾薬と魚雷で敵を殲滅する…何とも信じ難い話だが…」
長門「だが?」
度会「…不知火も同じようなことをやってのける物でな」
龍田「腕は全く鈍ってなかったですからね〜」
長門「…そうか、確か2人ともキタカミに師事していたか」
度会「2人の関係は良好のようだ、幸いな事にな」
不知火「おや、司令、おはようございます」
阿武隈「長門さんもいますね、おはようございます」
長門「…2人ともシャワー後か…?」
阿武隈「はい、朝の訓練はこの辺にしておこうかと」
不知火「…この人、化け物ですよ」
龍田「化け物?」
不知火「たまたま深夜に夜風を浴びに甲板に行ったんです、そうしたら甲板で見張りをしてる方に混じってその辺りを走り回ったり射撃練習をしたり」
度会「砲音は聞こえなかったが…」
阿武隈「無闇に撃っても練習にはなりません、狙うだけで良いんです、適当に打つんじゃなくて、確実に撃ち抜ける場所を狙うだけ…」
不知火「…殺気はダダ漏れでしたが」
阿武隈「殺気を返されたから引き金に指かけちゃいましたよーもう!」
度会(…これは、笑い話なのか…?)
長門「漣から聞いた話だが、泊地で夜更かししてゲームをしていた際、ふと窓の外を覗いたら何かに見られてるような感覚と強い作家に当てられて気を失ったといっていたな」
阿武隈「漣ちゃんが大袈裟なだけですよ!だって漣ちゃんには私の姿見えてませんから!」
長門「やはりお前なのか…」
不知火「…恐ろしい人ですよ、私がバテても未だ走ってられるんですから」
龍田「サイボーグみたいな不知火ちゃんより体力あるのね〜…」
阿武隈「足場がしっかりしてたらあの位は大丈夫です、でも海走るのは朧ちゃんに負けちゃうな〜」
龍田(海を走るって何…?)
不知火「宿毛湾は化け物揃いですね、どうしてそんなに振り切れてるのか」
阿武隈「多分…みんな誰かを失いたくないからだと思いますよ、できる最善を尽くさずに誰かを失ったら…悔やんでも悔やみきれませんから」
龍田「……」
福岡
青葉
大黒「あれ?青葉さん、どうしたんですか、外に出る用意して…」
青葉「緊急で行かないといけないところができて…1週間で戻りますので…」
大黒「…電車とか乗れるんですか?」
青葉「は、はい…どうかお気になさらず…」
大黒「それなら良いんですけど…」
青葉「す、すぐ済ませてきますから…」
大黒「まあ…じゃあ、わかりました、行ってらっしゃい」
青葉「っ……行ってきます」
横須賀鎮守府
駆逐艦 春雨
春雨「んー、これで全員ですか?」
大淀「ええ…しかし、なかなか辛いですね、この発熱と倦怠感は…」
春雨「免疫力も低下しています、あまり動かず安静にするように」
大淀「…そうさせてもらいます、それでは」
春雨(あの浜風とかいうのはやらなくて良いとして…AIDAを事前に取り除いておいてくれて助かったな…)
海斗「お疲れ、春雨」
春雨「其方こそ、歩くだけで非難轟々の司令官殿?」
海斗「…思ったより風当たりは強いみたいだね、朝潮達は良く働いてくれてるけどそれをよく思わない人は多いし…」
春雨「そもそも、私を含めて規格外なんですよ…私だってこの年齢、容姿で外科手術ができる上に科学者としても働いている…そして戦闘だってこなせる……そんな与太話誰が信じますか?」
海斗「…誰も信じはしないだろうね」
春雨「此処にきてもう何日か…えーと」
海斗「3日だね」
春雨「そう3日、特に問題は起きてないように見えますが…山雲さんは蕁麻疹で私に2度相談しに来ました、あののほほんとした山雲さんが「この人達撃っても怒られないかしら…」となんど呟いていたか…あ、声真似似てませんか?…似てないか…」
海斗「えーと…」
春雨「側から見たら義務教育も終えてないような少女や幼女が戦場に出ている…見ていて気持ちの良いものでは有りません、ですが人間というのは偽善者が多すぎる…いや、別にいいんですけどね、偽善でも」
大きなため息をつく
春雨「偽善が行きすぎて他人への攻撃と化してるのは流石にどうかと思いますが…あー、自分は正しいと信じて疑わず、私たちの選択を未だ子供だからと目を瞑らせる…吐き気がする」
海斗「悪意がある訳じゃ…」
春雨「悪意がないのがタチが悪い、子供の目を塞ぎ、都合の良いものだけを見せたい、大人の欲望です」
海斗「……」
春雨「…話がズレてますね、失礼…とにかく、山雲さんだけじゃない、皆さん此処にいる事でコンディションが悪くなっています」
海斗「わかってる、早ければ明後日には出撃になるから明日はみんなが自由に行動できるように手配するよ、春雨も羽を伸ばしてきて」
春雨「…貴方、わかってませんね…それなら貴方も外に出なくては」
海斗「僕も?」
春雨「山雲さんがなぜ怒っているのか、それは貴方を罵倒されてるからですよ、1人で残ってもそれが酷くなるだけで何も変わりませんよ?というか多分山雲さんの沸点振り切れてしまいます」
海斗「流石にそんな事は…」
春雨「離島出身組は気性が荒いですからねぇ…ほら、たとえば青い方の曙さんだったら…既に人死んでますよ?」
海斗「……」
倉持司令官が何も言わずに顔を逸らす
春雨「普段大人しい人が怒ると何するか…あー怖い怖い」
海斗「だからって僕が離れるわけには…」
春雨「どのみち此処にいてもやる事なんてクレーム対応だけじゃないですか、自分で武器を持つ事を拒否して自ら戦う子供を盾にする様なクズしかいないんですよ?まともに相手してちゃダメですよ」
海斗「そんな言い方しなくても…」
春雨「事実なんですよ、結局のところ艤装を扱えて、戦場に立てるのは私達だけ…倉持司令官も適合手術受けて見ます?」
海斗「…僕が?」
考え込む様な仕草を見せる
藪蛇だったか
春雨「そもそも適合しなさそうなので無駄死にでしょうけど」
海斗「そっか…」
春雨「…何で残念そうなんですか」
海斗「いや、もしそれができたなら少しでも…ってね」
春雨「バカ言わないでくださいよ、足手纏いでしかないです」
海斗「そっか…」
春雨(コイツ、本気で艤装を使おうとしてたのか?だとしたら相当狂ってるな……楚良みたいに)
春雨「とにかく、明日はみんなで外に出てください、絶対一日中戻ってこない事」
海斗「春雨は?」
春雨「私は与えられた部屋に引きこもりますから」
海斗「それは…」
電「ああ、本当に居ました」
海斗「…電さん」
春雨(出たな、腹黒のガキ…)
電「それで…倉持さん、私の姉妹艦はどうなったのです」
海斗「…暁達は…うぐっ…」
春雨(…容赦なく脛を蹴ったな…骨、折れたんじゃ…)
電「私はあなたの部下じゃないのですから…見下して話すのはどうかと思うのです」
海斗「別に見下してるわけじゃ…」
電が襟をつかんで地面に引き倒す
電「別に見上げながら喋っても構わないのですよ、それに…私が何も知らないとでも思っていますか?響ちゃんの記憶は戻ってない、雷ちゃんは意識不明…よく横須賀に来れましたね」
海斗「…それは…」
春雨「流石に理不尽が過ぎると思いますよ、はい」
電「理不尽、ですか…約束を守れない奴が悪いのです」
春雨「その約束の期限は?」
電「…さあ?」
春雨「決めてないのなら、未だ時間をあげても良いのでは?」
電「…私達を殺し、私たちの繋がりを断った、この人は私の復讐の対象です」
春雨(つまり八つ当たりくらい好きにさせろ、と…別に楚良じゃ無いから無視しても良いんですが…宿毛湾の連中は五月蝿いしなぁ…)
春雨「そもそも、あの世界を放棄する事で今の貴方がいる、火野提督もそうでしょう」
電「…私は死んでなかった」
春雨「死ぬのが怖いなら1人で逃げて隠れてれば良い…誰かに責任を投げつけて外から文句を垂れる、避難民の皆さんと何も変わらない」
電「…違うでしょう、私は命を懸け続けているから」
春雨「…めんどくさい人ですね、それに大湊の件は倉持司令官にどうにもできなかった事でしょうに…情報処理が基本業務の横須賀にも何度も移動願や嘆願書が来ていたはずですよ」
電「……来ていましたが、全て却下されましたね」
春雨「倉持司令官は貴方の期待に応えようとした…そして遅れながらも今それを完成させようとしている」
電「……」
春雨「もう少しだけ長い目で見てあげたらどうですか」
電「…考えておくのです」
電が下がる
春雨「ほら、いつまで寝そべってるんですか」
海斗「…ごめん」
電「一週間後、私は姉妹と再開します…いいですね?」
海斗「……」
電「返事は」
海斗「…できる限りはやります」
春雨(記憶と意識、どうやって復帰させるものか)
電「それでは失礼するのです」
春雨「…脚は?」
海斗「大丈夫…まさか春雨が庇ってくれるとは思わなかったよ」
春雨「流石に理不尽でしたからね、善悪の区別をつけられない奴は嫌いです」
海斗「…そっか」
春雨「…もう少ししゃんとしてください、今は私の上司なんですから」
海斗「わかったよ」