元勇者提督 作:無し
海上
駆逐艦 島風
阿武隈「島風ちゃん!戻って!」
暁「陣形が崩れてるわよ!」
島風(強く…もっと強くならなきゃ…!)
加速し続ける
私の速さは、強さは、加速しなきゃいけないんだ
深海棲艦の群れを眼前に捉える
島風「やあぁぁぁぁっ!!」
完璧な軌道で敵を斬り裂き、撃ち抜く
動きに乱れはない、私は強い、強いはずなのに
島風(…ダメ、これじゃダメ…!)
いつあのレ級が、キタカミさんが出てくるかわからない
私がどんなに速くても、私がどんな動きをしても…私じゃ勝てない、今の私のままじゃ
島風(だから、これを制御しないと…!)
阿武隈「…アレ…また、暴走してる…?」
暁「話には聞いてたけど…何が起きてるの…?」
阿武隈「わからない…わからないけど…良くないことなのは、間違いない…」
島風「……!」
全てを蹂躙する強さ
何物も寄せ付けず、圧倒する強さ
秋津洲(それでいいかも、そのままもっと戦えば…データはもっと集まる…)
周囲の深海棲艦の殲滅と同時にスイッチを切る
島風「ッ!…ふーッ!…ぅ…」
疲労からくる頭痛と眩暈、全身から汗が吹き出し、立っていることすらままならない
阿武隈「…1人で全部倒しちゃった…確かに凄いけど…」
暁「…あんなの、長くは持たない」
艦内
島風「島風、戻りました、艤装に補給お願いします」
艤装を辺りに散らかし、ゼリー食を流し込む
天津風「ね、ねぇ…島風?」
島風「…何、30分したら再出撃するから…今はちょっと放っておいて…」
天津風「…も、もうやめましょう?流石に1人で戦いすぎよ」
島風「…ほっといてよ、邪魔しないで」
天津風「邪魔って…私は…あなたが心配で…」
島風「…心配なんて、要らない…誰も頼んで無いよ」
天津風(…島風は、こんな子じゃ無かったのに…)
太平洋 深海棲艦基地
レ級
駆逐棲姫「レ級さん、出かけるんですか?」
レ級「作戦を実行に移す、客はもてなさねばなるまい」
駆逐棲姫「…なるほど、ハグしても良いですか?」
レ級「…断る、まだ諦めてなかったのか?直接私に制御装置を埋め込もうなどと…」
駆逐棲姫「…そんなつもり無かったんですけどね、ただハグをしたかっただけです、あなたは唯一私と対等で、大事な存在ですから」
レ級(どこまで本気なのか…薄気味悪くなってきたな)
駆逐棲姫「…気持ち悪いですか?それとも怖いですか、今のあなたの顔色には恐怖や嫌悪感を感じました、今までそんな目を向けた事なかったのに…なんで?どうして…?」
レ級「……お前の腹は読めない、それが全てだ」
駆逐棲姫「私が感情を向けられる相手は…私の物だけなんです、なのに貴方は私の感情を惹いてくる…貴方は私の大事な存在になったんですよ…」
レ級「…それは……そうか、私にはわからん」
駆逐棲姫「何もしませんから、ただハグをさせてください、どんな風に思われてもいいから…」
レ級「…自己の欲求のために……いや、やめておく、好きにしろ」
駆逐棲姫が腰に強くしがみつく
レ級(…何もされてないとは思うが…)
駆逐棲姫「…背が低すぎて、ハグにもならない…なら」
駆逐棲姫の黒い艤装から真っ黒な機械の足が伸びる
レ級「…それは…」
駆逐棲姫「ふふ…私の方が少し高い…ああ、こうしてみたかった…夢が叶った様な…信じてもらえないと思いますが、今…ほんとに、嬉しいんですよ、私は」
レ級「…そうか」
駆逐棲姫(…やっぱり、貴方の声は冷たくて、哀しげで…貴方の目は私を見ていない…でも、これ以上を望むつもりもない…)
レ級「…そろそろ行く、離島棲姫達に出迎えの準備をさせてくれ」
駆逐棲姫「ええ、わかりました」
駆逐棲姫
駆逐棲姫「さあ、お仕事です…みなさん、レ級さんの作戦、絶対成功させましょうね?」
私の兵士たちが集まり、ちゃーんと動いてくれる
駆逐棲姫「武器はちゃんと持ってますね?みーんな良い子ですねぇ…ふふ…」
漸く、満たされたのかもしれない
これから全てが始まる
私の時が進み始める
そう感じる
、
海上
駆逐艦 春雨
日向「…敵影なし」
大淀「こちらもなし」
電「ありません、順調ですね」
船のヘリから身を乗り出し、各方面の警戒を行う
最高速度での移動を続けながら必要とあれば海に降りて戦うにはこれしか無い
春雨「…船以外は静かなものですね」
日向「ええ、まさに怖い程に」
春雨「そう、これほど恐ろしい事はない、内通者がいるはずなのに…何故こうも静かに航行できるのか…」
大淀「まだ出発から2時間です、先は長い、もう少し楽観的でも良いのでは?」
春雨「それじゃダメなんですよ、参謀さん」
大淀「…そうですか、科学者さん」
春雨「チッ」
大淀「ふん」
春雨(ウラジオストクに関しては後手とはいえやられた、相手に隙を与えてはならない…だが、この作戦、どこまでこちらの想定通りに進む?常に警戒を続け、気づけば完了している形が望ましいが…緊張感は長くは持たない)
日向「……航空機、飛ばしましょうか」
春雨「いいえ、勘づかれたくありません」
日向「わかりまし…た…?」
大淀「どうかしましたか」
日向「…対空電探に反応は無いけど、何の音が…」
風を切るような…大気が蠢く様な音…
春雨「……上!」
遥か彼方、上空に黒い飛翔物…
大淀「な…っ…!」
電「あれは……レ級…?!」
間違いない、レ級が空を飛んで…
日向「飛んで…航空機を扱うとは聞いていましたが…!」
大淀「船を止めてください!落ちてきてます!対空射撃開始!」
春雨「落下地点はこの辺りか…!間に合わない!衝撃備え!」
レ級が空中で体を捻り両脚を海面に叩きつける
大波に呑まれそうになる
電「ッ!波が…!」
春雨「船が転覆する…!」
日向「っ…落ちる…!」
ヘリで見張りをしていた全員が海に落ちる
春雨「チッ…!」
レ級が船のへりに飛び乗る
レ級「…まずは、こんにちは?」
日向「攻撃用意!」
レ級「……挨拶に武力で返されるとは…いや、そういう怠い話は無しに…話し合いをしませんか?」
大淀「……」
春雨「話し合い…だと?」
レ級「今、ここにいる中で私に匹敵する実力者はいない…船の中にいる川内型3人でも私に勝てるなどと思い上がりもいいところだ」
春雨(…果たしてそうか、川内達と全員でかかれば充分届く相手だと私は思う…だけど…コイツをここで相手するのはマズすぎる…!)
レ級「そこで、お互いの為に…話し合いはいかがでしょうか」
春雨「お前が私たちを圧倒できるとして…何故そうするのか、その意味が分かりかねますよ」
レ級「意味なんてこっちでいくらでも用意する、如何ですか?この艦隊の提督殿」
海斗「……」
春雨「…何で出てきたんです、ここは危険ですよ」
海斗「いや、大丈夫…誘いに乗るよ」
春雨「…冗談でしょう…?」
レ級「賢明な判断です、では、我らの基地にご招待致しましょう」
レ級が深々とお辞儀をする
日向「ここで、では無いのですか」
レ級「ここにはこちらのトップが居ません、話し合いをするには私の様な末端の駒ではなく…それに適した者同士でするべきだと思いますよ」
海斗「みんな、船に戻って」
日向「提督、どうか考え直してください…私達でレ級を仕留めて見せます」
海斗「…話し合えば何かが変わるかもしれない」
春雨「だからってサメの口の中に入れと?」
大淀「そこまで行けば既に胃の中でしょう」
レ級「…はぁ……ごちゃごちゃ言ってないでさっさと船に戻れ」
レ級の尻尾が海面を打つ
レ級「お前達の提督は誘いに乗ったんだ、提督の命令に従え、お前達は艦だ、それ以上でもそれ以下でも無い、自覚を持て…」
電「別に私の司令官さんでは無いのです」
大淀「私達に聞く義理はありません」
日向「何より…提督を危険に晒す行為、止めるのが筋でしょう」
レ級「チッ……ここに置いて行っても良いんだぞ…はぁ……提督、汚い言葉を使い失礼致しました、多少手荒い行動をしますが…ご容赦頂けますでしょうか」
春雨(コイツ、何のつもりで…)
海斗「…構わないよ」
日向「提督!正気ですか!?」
大淀「…私達に対する敵対行動と取りますが」
レ級「黙れ、貴様ら如きが提督の正気を疑うな」
春雨「っ!?」
いつの間にか私たちの身体は宙を舞い、船の上に落ちる
日向「な、なにが…」
レ級「…では、旅をお楽しみください」
あたりが暗くなる
春雨「これは…何が起きて…」
レ級「輸送用の深海棲艦の口の中…移動速度はどんなものだったか」
大淀(船ごと呑み込んだ?どんな大きさ…)
電「…最悪なのです」
日向(如何する、ここでレ級に仕掛けるべきか?…リスクが大きすぎるし何より勝てるわけが無い…か)
レ級「到着です」
春雨「は?」
周囲が明るくなる
レ級「ようこそ、我々の基地へ」
周囲には深海棲艦以外にも…銃を持った人間
駆逐棲姫「歓迎します、武器を捨ててくださればね?」
春雨(綾波さん…!)
日向「やはり罠ですか」
駆逐棲姫「罠?罠ですか…うーん、貴方達が武器を持ってたら私たちの家が壊されちゃいますからね…当然の要求、じゃないですか?それともここで蜂の巣にされます?周り見えてますよね」
レ級「…出迎えの用意は頼んだが、ここまで派手にするとは思わなかった」
駆逐棲姫「えぇ…素直に褒めてくださいよ、完璧じゃないですか…」
春雨(…周りの人間、全員頭がおかしいのか?銃口を向けることに何の躊躇いもない様に見える…洗脳されてる?いや、なんにしても…数が不味い、50はいる…深海棲艦だけならどれだけいるか数えきれない…)
駆逐棲姫「早く捨てないと…わかってますよねぇ?」
春雨「……」
主砲を投げ捨てる
日向「…本気ですか」
春雨「…倉持司令官、貴方の判断を私は最悪だ、と考えています、お陰様で私達は武器を失う」
海斗「……」
電「…少しでも生き残る事に賭ける他、無いのです」
バラバラと装備が落ちる
レ級「回収しろ、手厚く扱えよ」
駆逐棲姫「船室にも、人は居るんですよね?出てきてくれますか?」
春雨(…火野提督、朝潮さん、山隈さん、満潮さん、浜風さん、アオバさん、衣笠さん、鳳翔さん…だけ?川内達は?)
駆逐棲姫「装備を回収してください」
日向(…川内さん達がいない…船室に残ってる?いや、だとしたら改められれば…まさかさっきの大波で呑まれた?)
駆逐棲姫「…まだ誰か出てきてない人でも?」
春雨「…いいえ?」
駆逐棲姫「ウソをついてますね、私にはわかりますよ…船内を確認させていただきます」
日向(…流石に無理か)
駆逐棲姫「…誰も居ない?見落としもないか……」
レ級「…私が迎えに行った時に波に呑まれたのやもしれん」
駆逐棲姫「なるほど、それは不幸ですね…まあどうしようもありません」
春雨「待ってください、その場所まで迎えをもう一度送れば良いじゃないですか」
駆逐棲姫「…面倒ですねぇ……どうせ居ても居なくても変わらないんですよ、もう武器も何もかも奪った、この時点で貴方達は私達に従うことしかできない、違いますか?」
春雨(…やっぱり、最悪だ)
レ級「補給してくる」
駆逐棲姫「了解です…さ、連行しなさい」
会議室
春雨「……」
長机がいくつか並んだだけの会議室に通される
パイプ椅子に長机、先程の銃…此処がどことも交流のできない場所だとして、どこから入手したのか
駆逐棲姫「おかけください?」
春雨「…一応、対話するつもりはあるんですか」
駆逐棲姫「紹介しましょう、我々のボスです」
離島棲姫「……」
海斗(…震えてる?)
駆逐棲姫「ああ、少し寒いですか?夏場なんですけどねぇ、あははっ」
春雨「…発言しても良いんですか」
駆逐棲姫「どうぞ?ただ、言葉は選んでくださいよ、この部屋は壁が薄いですからねぇ…隣の部屋から一斉射なんて…あはっ」
日向「…悪趣味な」
春雨(…綾波さんを、味方につけることが出来れば…そうすることができれば、きっと全てが変わる、チャンスがある…綾波さんを取り戻せるチャンスが…ここから生きて帰れるチャンスが…)
海斗「…貴方達の目的は?」
離島棲姫「…存在ソノモノガ目的、私達ハ生マレナガラ貴様ラト敵対シテイタ…ソレダケダ」
火野「どうやって生まれた」
離島棲姫「…黙レ、アマリ喋ルナ…!」
春雨(…本当に対話する気があるのか?そうとはとても思えないが…)
レ級「……」
フードを深く被ったレ級が入ってくる
駆逐棲姫「わあ、そのニーソ絶望的に似合ってないですねぇ!というか前まで閉めてポケットに手を突っ込んでたらほんとに誰かわかりませんよ?」
レ級「ふん…」
駆逐棲姫「あ、怒りました…?ご、ごめんなさい…」
春雨(…レ級には頭が上がらないか、力関係がまだ掴めないな)
駆逐棲姫「…あれ?あらら、なんて事をしてくれたんでしょうか…やっぱりまだお仲間がいたんですね?」
日向「何の話ですか」
駆逐棲姫「捕虜が脱走してる様で…うーん…やってくれましたねぇ…」
春雨(川内達だ…まだチャンスはある…!)
駆逐棲姫「えーと、貴方が倉持海斗さんですか」
駆逐棲姫が近寄ってくる
機械でできた足で嫌な音を立てながら歩み寄ってくる
海斗「…なんでしょうか」
駆逐棲姫「…抵抗をやめさせない、今回の作戦、1番権力を持ってるのは貴方でしょう?」
海斗「……」
駆逐棲姫「何とか言ったらどうですか」
海斗「…第一艦隊、旗艦曙、行動開始」
駆逐棲姫「何?」
天井から艤装が落ちてくる
日向「…コレは、私の…!」
春雨「私達の艤装?」
曙「さっさと動きなさい!死ぬわよ!」
日向「あ、曙さんの声…どこから…」
駆逐棲姫(あの捕虜…!何処に…いや、姿が見えない……まさか)
駆逐棲姫がレ級に詰め寄りフードを捲る
レ級「なんだ?」
駆逐棲姫「っ……気の所為、な訳ない…何が…!」
レ級「……駆逐棲姫、お前は知らないと思うが」
駆逐棲姫「…?」
レ級「私の得意なことは、姉妹のモノマネでな」
レ級の尻尾が駆逐棲姫を丸呑みにする
離島棲姫「ナ…!貴様、裏切…」
レ級が離島棲姫の首を刎ねる
レ級「そもそも仲間じゃないって話ですよ…あー……長かった…さて、と…第一艦隊!抜錨せよ!」
春雨「…何が、どうなって…」
日向「……まさか、貴方…」
レ級がこちらを向く
レ級「お久しぶりです、日向さん、そして後ろの皆さんも…何より提督、お待たせ致しました、駆逐艦曙、三度貴方の元に戻りました」
春雨「曙…って、は?」
日向「特務部に行った方の…曙さん、ですか…」
レ級「さあ、この基地を奪いましょう…日向さん、おわかりですよね?」
レ級が名前のない出撃札を日向に投げる
日向「…了解致しました…!」
春雨「倉持司令官、これは…」
海斗「全部、曙の仕込みだよ」
レ級「そう、私は曙と宿毛湾でやり合って以来…記憶が戻ってました、となればどんな姿であれ艦は港に帰るもの…そして艦には提督が必要不可欠…そして今、それが全て揃った」
春雨「…最初から言ってくださいよ…それ」
レ級「内通者を警戒していたのは貴方だと聞いていますが」
春雨「……チッ…はぁ…戦争、始めましょうか」
捕虜収容所
キタカミ
キタカミ「おおー…怖いね?」
曙「同じ人間なのに何で深海棲艦の味方してんのよ…」
あきつ丸「大人しく牢屋に戻れば撃たない!さっさと戻れ!」
神州丸「3つ数えるまでに戻らないと撃つ…!」
キタカミ「いや、馬鹿でしょ…あーあ、そういうの要らないと思うけどなぁ…」
空の木札を投げて遊ぶ
神州丸「ひとつ…ふたつ…」
あきつ丸「うわぁっ!?」
神州丸「なっ…!うぐ…」
川内「川内参上、潜入ならお任せ」
川内が小銃を拾ってこっちに投げる
キタカミ「ええ…主砲とかないの?15cm単装砲とかさ」
曙「文句垂れないでよ…」
川内「…何その木札」
曙「第一艦隊の木札よ」
キタカミ「私ら第一艦隊、よろしくねん」
川内「へぇ…まあ何でも良いけどさ、ここって…」
キタカミ「ん、建物とかこんな地下牢とか元はなかったよね」
曙「まあでも、多分場所同じでしょ?」
川内「離島鎮守府…」
キタカミ「さて、お家を取り返しますかぁ…準備は?」
曙「誰に聞いてんのよ、任せときなさい」
川内「え、その傷だらけの身体でやるの?」
曙「問題無いって言ってるでしょ?痛いのには慣れたから」
川内(そういう問題じゃ無いと思うなぁ…)