元勇者提督 作:無し
艦内工廠
工作艦 明石
夕張「そういう事だから、こっちも速力を上げてる、死体の戦闘海域にはあと30分で到着…まあ、島の影はもうそろそろ見えると思うけど…」
明石「……」
夕張「明石?」
明石「……どう、しよう…」
夕張「何を?」
明石「…どうしよう、夕張ぃ…わ、私…全部…全部頭の中に…訳がわかんない…!」
夕張「あ、記憶戻ったの?」
明石「わかんないよ!…何この感じ…この記憶は…一体なんで…おえええ…」
自分が死ぬ瞬間までの、そのイメージが絶え間なく頭に流れ込む
頭痛と吐き気、目眩などの症状を耐えながら頭を整理する
明石「…じゃあ、私は…明石で…あれ?なんで…どう、なって…」
夕張「…落ち着いて、大丈夫だから…」
明石「違う!大丈夫なんかじゃ無い…!わ、私が作った艤装!全部破棄して!」
夕張「何言ってんの?いきなりどうしたのよ…」
明石「あの艤装には大量のAIDAが…そうだ、修復剤もダメ!AIDAを培養した物で…」
夕張「やっぱか…そういう感じなのね…」
明石「アレを使い続けると精神がおかしくなる…!今すぐ止めて!」
夕張「止めるも何も…今から決戦よ?」
明石「ダメ!すぐに止めて!」
夕張「何をそんなに焦って…」
明石「…アレを使い続けたら、もう人間と呼べる存在じゃなくなる…ナノマシンに体を侵されて、全てがナノマシンに置き換わる…人間じゃ無い、ロボットとかそんな言葉が適当な存在になるの…!」
夕張(…まあ、傷が一瞬で治るあたり、察してはいたけど…そこまでか…)
明石「なんで私はあんなものを…!なんで…どうして…!」
夕張「…明石、とりあえず正気に戻って良かった、ちょっと処理が追いついてないから少し待って」
明石「うん…だけど…」
夕張(…人と呼べない艦娘、人間の域を超えた存在…か)
夕張「とりあえず、今戦力を失えばより多くの犠牲が……いや、全滅すると思う、とにかくその話は敵基地を奪ってから…いい?」
明石「…うん」
夕張「私達はみんなのバックアップに徹する…ok?」
明石「わかってる…」
夕張(AIDAを流れたナノマシンはどうなってるのかとか、その辺りも気になるけど…直ちに影響は出てないから気にしても仕方ないか)
駆逐艦 朧
朧「島風!もう戻って!燃料切れるでしょ!?」
島風「で、も…行かないと…あそこは、みんなの…」
北上「…何であの敵基地にそこまで行こうとしてんのさ」
大井「あそこは一部の子達には…家であり、トラウマの元凶でもあるわ…」
北上「…へぇ」
大井「あそこは前の世界でこう呼ばれてた…離島鎮守府」
北上「…あの島が?深海棲艦の温床になってるんでしょ?」
大井「地理的にそうなっててもおかしくは無い、でもあそこを取れば本土への攻撃を防ぎやすくなる…」
北上「それってていの良い肉壁なんじゃ…」
大井「……だから、トラウマに感じる人もいる…例えば、ほら…」
長門「……」
北上「…顔色、最悪だね」
長門「…あそこでは…何十人も死んでるんだ、仕方あるまい…」
朧「…今度は、そんな場所にはしない!だから島風はとにかく戻って!」
燃料の切れた島風を引きずる
島風「ね、燃料分けて!まだ戦えるから!」
長門「…小休止を何度か挟んでいるが、もう何時間戦い続けた、夜も明けたぞ」
北上「…別にアンタ一人休んだって何も変わんないよ」
島風「っ……それじゃ、ダメなの…私は、もっと強く…」
朧「強くなりたいなら、必要な時に休んで、本当に必要な時に全力を出す…そのために必要なタイミングを見極められるようになるのも強さを構成する一つの要素だよ」
島風「……」
長門「天津風に聞いた、ゼリー食ばかり取っているのだろう…アレは栄養が足りているとは言い難い、強くなりたいのならそれも間違いだ」
島風「……」
朧「…あれ?ボストンバッグ…?」
バッグが浮き上がってくる
イムヤ「やっ!」
長門「…潜水艦の」
イムヤ「キタカミさんとやり合った時のリ級…逃しちゃった、でも多分あの島にいると思う」
北上「…ねぇ」
大井「そうね、誰か流れてきてる…」
朧「……アレは、人だよね…」
ぐったりと半身を水につけたまま流れてくる人間
イムヤ「ああ、それも報告したかったの…周りに深海棲艦がいたし、人間の方も見間違いじゃなければ銃も持ってた…ちっちゃいやつだけど」
朧(…罠、か)
イムヤ「どうする?」
朧「助けられる命は、助けたい…!」
イムヤ「じゃあ周り深海棲艦は釣る、誘導してみるから…」
朧「了解」
長門さんの艤装と自分の艤装をワイヤーで繋ぐ
長門「引き摺り込まれたら任せろ」
朧「お願いします!」
速力を上げて漂流者に近寄る
朧(…引き摺り込んでくるのか、それとも…いや、何をしてきてもアタシには通用しない!)
北上「…跳ねた?」
大井「あの艤装をつけて跳び回れるなんて…」
海を蹴り、宙を舞いながら近寄る
朧(今白い指先が見えた!そこだ!)
身体を捻り、砲撃を打ち込む
朧「次!もう一つ!」
確実に、的確に…
狙いをつけて全てを…
長門「何が起きてるのか、よくわからんが…」
北上「アイツも結構強いって事じゃない」
島風「……」
漂流者に接近する
朧(よし、問題なくついた…!)
漂流者の前腕を意識する
朧(銃の対処は神通さんに聞いてる、大じょう…?)
漂流者の衣服の隙間から黒い何かが覗く
朧(これ、なんだろう…)
漂流者に手を伸ばす
朧「あの…」
漂流者「駆逐棲姫様の為!死ね!」
此方に銃を向けようとした腕を抑え、銃を蹴り飛ばす
朧(……この人は、自分の意思で深海棲艦に協力してるんだ…じゃあ、倒すべきなの?それとも…)
イムヤ「長門!朧を回収して!」
長門「わ、わかった!」
漂流者が水中に引き込まれると同時に後方に強い力で引き戻される
朧「な、なんで!」
漂流者が沈んだあたりから巨大な水柱が上がる
朧「っ…!?」
北上「魚雷とかの威力じゃ無いね、人間爆弾って訳だ…」
朧(あの見えてた黒いのは…爆弾だった?じゃあ、最初から死ぬつもりで…?)
イムヤ「ゴホッ…無事!?」
朧「えっ…あ……」
長門「怪我はなさそうだが、心的ショックが大きい様だ、イムヤ、其方は」
イムヤ「まあ…ちょっとくらったかな…大丈夫、この身体ならすぐ治るから…」
北上「……アンタのこと知らないけどさ、乗って休んでけば?」
イムヤ「ダメ、そうしたらみんなに迷惑かかるから」
長門「何が迷惑なものか、そんなことを言う奴があれば私が黙らせて見せる」
大井「…待って、今ドラム缶を下ろしてもらってるから」
北上「…へぇ、冴えてるじゃん、大井」
イムヤ「…へ?なんでそんな顔してこっちを…ちょっと、長門さん?ドラム缶なんて持ってどうする…」
長門「こうする」
イムヤをドラム缶に収容し、リフトに積み込む
長門「何、ちゃんと船室をあてがう、空き部屋はあるはずだ」
北上「人目気にしてるならそれに隠れてなよ」
イムヤ(…なんか、複雑…)
朧「……」
太平洋 深海棲艦基地
提督 倉持海斗
海斗「曙、大丈夫?」
片腕が失われ、尻尾も消滅している
誰がどう見ても大丈夫なわけはない…
レ級「はい、問題ありません…ただ、一つだけお願いを許していただけますでしょうか」
海斗「僕にできることなら、なんでも言って」
レ級「お願いします、私を呪ってください」
海斗「…呪う?」
レ級「貴方のモノであれば命令でも呪いでも願いでもなんでも良い、どんなに残酷でも良い…私は貴方だけのモノです、貴方のために戦いたいのです」
海斗「……」
レ級「私の体は即座に再生できます、しかし私の心は貴方の言葉無くして快復してくれないのです…戦えと、一言頂ければそれで良いのです」
海斗「…無理に戦わなくても良いんだよ」
レ級「いいえ、私が出なければ誰かが死にます」
海斗「……じゃあ、死なないで、そしてみんなを守ってあげて」
レ級「はい…その言葉をお待ちしておりました…」
尻尾と腕が再生する
レ級「では…ッ!?」
海斗「そんな、どうして…どうして、君が此処に…!」
世界のルールは再び壊れたのか
それとも、これこそが正しい姿なのか
レ級「貴様…確か、あの世界で……名前は…」
Cubia「クビア、みんなボクをそう呼ぶ…さあ、カイト、決着をつけるために…」
視界が眩い光に包まれる
レ級「提督!」
海斗(この感覚、は…)
レ級「くッ…!居ない、提督も、クビアも…何処にも…!」
再び、ゲームが始まる
軽巡洋艦 川内
川内「はい、此処は行き止まりだよ」
駆逐棲姫「…えーと、何処かで見た顔なんですよね…誰だったかなァ…あ!川内型の中でも1番の!」
川内「…1番の?」
駆逐棲姫「1番のパッとしなさを誇る、1番影の薄い川内さんじゃありませんか?!」
川内「…は?」
駆逐棲姫「知ってますよ、妹さんお二人は目立った長所があるのに貴方だけ無いらしいじゃないですか!」
川内「……お前、殺す」
駆逐棲姫「あ、もしかして気にしてたんですか?夜戦特化装備のくせに夜戦そこまでだし、そもそも神通さんの方が火力が強くて那珂さんのほうが長所があって…」
川内「知らないみたいだから教えてあげるけどさ…那珂は1番可愛いし、神通は1番凶暴だし…私は1番強いんだよ…」
双剣を抜く
駆逐棲姫「……ああ、じゃあ川内型三人係でも…私に勝てないですねぇ…!」
川内「後悔させてあげる…!」
駆逐棲姫に斬りかかる
斬撃を全ていなされる
川内(こいつ…ハッタリかと思ったけど、不味い、一人で勝てる相手じゃ…)
駆逐棲姫「私って天才なんですよ、賢いんです、でも身体を動かすのは少し苦手で…わかってるんですよ?接戦を演じれば実力差を悟られないから逃げられ難いって…」
双剣を駆逐棲姫に叩きつけ、背後に跳ぶ
川内「ぁが…!?」
背中に何かが突き刺さる
駆逐棲姫「馬鹿なんですか?ここは私の居城ですよ?罠しかないに決まってるじゃないですか」
先程までなかった場所から剣山が飛び出す
川内(何、此処…廊下の構造が一瞬で変わって…スイッチの操作なんか見えなかったのに…)
駆逐棲姫「ああ、スイッチですか?私の頭に埋め込んでますよ?私の意思一つで思いの儘に…」
壁が開き機銃が出てくる
川内「冗談キツイって…!」
前後左右、上下すらも支配された
完全な相手のテリトリー…
駆逐棲姫「此処にいる限り、私は負けるわけないんですよね」
川内「…ぁ…が…」
命が、削り取られる
徐々に痛ぶられ、殺される
駆逐棲姫「さようなら、貴方の亡骸は利用できるやも…ん?」
青い炎が部屋を走る
曙「…ボスみっけ」
駆逐棲姫の背後から青い炎を纏い、曙がやってくる
駆逐棲姫「おや、おやおやおや…やりますか?」
曙「あっちもそのつもりみたいだしねぇ」
駆逐棲姫「…あらら」
レ級「提督の命令です、死ぬことは許しません」
背後から脇を持ち上げられ、立たされる
曙「…随分とボコボコにされて、大丈夫?」
川内「…ギリ」
レ級「駆逐棲姫、私は今…虫の居所が最悪に悪い……大人しく死ね」
駆逐棲姫「…その殺意も、私は受け入れますよ?」
レ級「さっきのようなめくらましはもう通用しない」
駆逐棲姫「果たして、それはどう…あら」
曙「どうしたの?顔色少し悪いんじゃない?」
駆逐棲姫「…はぁ…最悪ですね、ショートした…あっちは配線に…この炎はそれを狙って?いや、たまたまかぁ…」
レ級「曙、5秒で終わらせるわよ」
曙「任せなさい…今のあたしは負ける気がしないわ!」
駆逐棲姫「…あ…ああ!そうだ!貴方だ!」
駆逐棲姫が曙に詰め寄る
駆逐棲姫「その声!そうだ、貴方なんだ…あはっ…アハハッ…!」
曙(な、なんでこいつ泣きながら…)
レ級(背中、取った)
レ級に殴り飛ばされ、駆逐棲姫が壁にめり込む
駆逐棲姫「ああ…痛い…すごく痛い…」
駆逐棲姫が愛おしそうに殴られた箇所を撫でる
曙「…な、何あいつ…」
レ級「さっさと仕掛けなさい!」
レ級と曙の砲撃が駆逐棲姫を襲う
駆逐棲姫「…ああ、なんて素敵なんですか?やっぱり…貴方が欲しい…私は貴方がこんなに好きで、愛してるのに…」
口径の小さい砲弾がバラバラと床に落ちる
レ級(コイツ、私の砲弾だけ防がなかったのか…筋金入りだな)
駆逐棲姫「…今度は、私から…痛めつけても良いですよね?」
レ級「消えた…ぅぐ…!?」
レ級の背後から駆逐棲姫が鋼鉄の脚で前蹴りを放つ
レ級(今の動き、何処から…!)
駆逐棲姫「痛いですか?痛いですよね、痛いって言ってください」
レ級「チッ!巫山戯るな!…また消えた…?…ぁがっ…!」
レ級を壁まで弾き飛ばし、何度も何度も突き刺すように蹴る
レ級「が…ぁ…!」
曙「あんまり調子に乗ってんじゃ…!」
駆逐棲姫「調子に乗ってるのは、お前だ」
駆逐棲姫が曙に迫る
曙(…仕留める…!)
レ級(絶対、それだけは…!)
レ級が背後から駆逐棲姫に飛びかかる
駆逐棲姫「そうくると思ってましたよ」
曙の斬撃をいなし、背後のレ級は回し蹴りで対応する
レ級「クソ!だが取った…!」
レ級が駆逐棲姫の脚にしがみつく
駆逐棲姫「あら、そんなに私を抱きしめて…どうしました?ふふっ」
川内(この状況で何言ってんのコイツ…)
レ級(もう逃さない)
レ級「曙!撃て!」
曙「…わかってる…!」
レ級が駆逐棲姫ごと炎に包まれる
駆逐棲姫「ああ!熱い!焼けてしまいます!…ふふっ…!」
曙(なんでコイツ生きたまま焼かれてるのに笑って…いや、今は…)
曙が剣を振り、砲撃を召喚する
レ級「さっさと…消えろ…!!」
駆逐棲姫「アハッ…あぁ、アハハハッ!!」
爆発し、周囲の空気が冷え込む
一瞬の間が空き熱風が辺りを包む
しかしが煙に包まれる
レ級「っ…!駆逐棲姫は……居ない…」
曙「…倒した…?」
レ級「……だとしたら私が掴んでいた脚のカケラくらいは残る、逃げられたな」
曙「…どうやって…?」
レ級「後で説明する…クソッ……」
川内「…集合が先…か…」
レ級「折れてますか」
川内「割と、多そう…ね」
曙「戻りましょ…これは仕方ないわ」