元勇者提督 作:無し
太平洋 深海棲艦基地
戦艦 日向
春雨「…やはり、貴方、全快ではないのでは?」
日向「……」
春雨「傷を隠すのはやめてください、私を舐めるのも…」
日向「では、隠さず話したとして、貴方は私を戦わせてくれますか?」
春雨「いいえ」
日向「では、そういうことです」
春雨「…コレ、差し上げます」
戦艦砲の口径の弾を受け取る
日向「…コレは?」
春雨「綾波さんの研究の成果の一つ、AIDAの動きを鈍化させる煙幕弾です、これを相手に吸わせれば…深海棲艦の動きが鈍るかと」
日向「…何故私に?」
春雨「実験をしてないんですよ、まだ…」
日向「……効果があることを願います」
アオバ「あ、いた!ちょっと来れますか!?」
衣笠「深海棲艦同士の戦闘が始まってるみたい!それに混ざれば殲滅しやすいかも!」
日向「…私も第一艦隊として、武勲を挙げるとします」
春雨「……そうですか」
海上
駆逐艦 朝潮
朝潮「…アレは、深海棲艦が深海棲艦と戦ってる…?」
山雲「……でも、深海棲艦を進んで攻撃してるのは一人だけみたいね〜…」
たった一体の重巡級が他の深海棲艦を攻撃し、奮戦している
当然、数の差は歴然、既に重巡級は傷だらけ…
朝潮(……曙さんや提督は把握されていた…ここで起きている戦闘はあの深海棲艦同士の戦いのみ…もしかしたら…あの深海棲艦が…)
空の出撃札を握りしめる
朝潮(何故深海棲艦を…いや、何か理由が…)
朝潮「行きましょう、あの深海棲艦を援護します!」
山雲「は〜い」
砲戦に加わる
リ級「…!」
朝潮(こちらに気づいた、どう動く…?)
リ級は視線を他の深海棲艦に戻し、攻撃を再開する
山雲「…こっちは無視してるみたいね〜…」
朝潮「……味方、とは言い切れませんが…援護しましょう」
少なくとも害意はない、それだけで充分…
山雲「で、でもー…流石にすごい数ね〜…」
朝潮(流石に深海棲艦の総本山、その上前回みたいに撤退もしていない…1000はゆうに超えるか…?)
数えるのも嫌気がさす
山雲「う、後ろ!」
いつの間にか来た道まで深海棲艦に塞がれる
朝潮(この数での戦闘経験は殆ど皆無、しかも私たちが一撃で仕留め切れるような駆逐級は殆どいない…私たちがここに来たのは間違いだったかもしれませんね…)
リ級が砲撃をしながらこちらへと近寄る
山雲(…主砲を向けるわけにはいかないし…どうしようかしら)
リ級「……西が1番薄い…」
朝潮(西…?西は向こう…に…西から抜けて島に戻る…と言うことでしょうか…賭けるしかないか)
朝潮「山雲!一点突破を目指します!西へ!」
山雲「は〜い…!」
魚雷を一旦集中で流し続ける
朝潮(…これ、今、渡しておくべきか…)
空の木札を取り出し、リ級に差し出す
リ級「…!」
朝潮「司令官からです」
リ級は木札を受け取り、顔に垂れた血を指先で拭い、木札に青葉と書き込んだ
朝潮「…!…貴方だったんですね…青葉さん…」
リ級「……お話は後ほど、急ぎましょう…!」
朝潮「山雲!殿に入ってください!私が前に出ます!」
山雲「は〜い!」
前方の敵を砲雷撃で排除し、最大速力で駆け抜ける
山雲「大きく回り込んだけど…とんでもない数の深海棲艦に追われてるだけで何も解決してませんよ〜!」
朝潮「先ほどより被弾率は下がってます!これで充分、あとは上陸できる地点を…」
リ級「……っ…」
青葉さんが海面に膝をつく
朝潮「大丈夫ですか、青葉さん」
リ級「…ダメージを受けすぎたみたいです、私は水中から逃げますから、先に…」
山雲「…朝潮姉さん」
朝潮「わかっています、そんな事は絶対許しません…山雲は左から」
青葉さんを2人で抱えて進む
リ級「何をやってるんですか…?ダメです、これじゃ3人とも…」
朝潮「私は、第一艦隊に選ばれた以上…それに恥じぬ働きをしてみせます!それは貴方を連れて帰ることです!」
山雲「ここで置いていくなんて絶対できないわよね〜」
朝潮(…しかし、このままでは…苦しいのは間違いありませんね…上陸地点すらわからないのに…)
前方からも砲音がする
朝潮「挟まれた…!……いや、あれは…」
衣笠「こちら衣笠、合流に成功!」
アオバ「アオバ同じく!友軍の退路を確保します!」
山雲「やった!合流できましたよ〜!」
朝潮「山雲、油断はいけません…まだ上陸すらできてないのですから…!」
リ級「………」
リ級の首がガクリと垂れる
髪色が変わり、深海棲艦の黒い装甲が失われ、傷だらけの衣服になる
山雲「…ホントに青葉さんに…」
朝潮「山雲!速力が落ちていますよ!」
日向『大丈夫です、私が盾になります』
砲音がなり、後方で深海棲艦が吹き飛ばされる
日向「戦艦日向…推参致しました」
朝潮「日向さん…!」
日向「ここはお任せください…どうやら、私も戦わねばならない相手が居るようですので」
日向さんがドラム缶を投げ捨てる
チ級「……」
周りの深海棲艦が水中に消え、一体だけが残る
日向さんへ刀を向けたチ級のみが
日向(…特殊弾良し、艤装も…有る、やれる)
チ級
チ級「…ヤルカ?」
日向「お相手願います…!」
チ級「楽シミダ…!」
日向が撃ってきた砲弾を刀で切り裂く
チ級「ッ!?ゴホッ…ガホッゴホッ!…ナンダコノ煙ハ!ゴホッ…!」
日向「…この煙はAIDAの動きを鈍らせる煙幕弾だそうです、この一発だけですのでご安心を」
チ級(チッ…!折角ノ勝負ヲ…フザケヤガッテ…!)
周囲が白い煙に包まれる
空気が重い、肺に何かが溜まるような感覚
煙をかき分けて砲撃がすぐそばを通る
煙越しに見えた日向の目は真剣そのものだった
チ級「…イイゼ…痺レルジャネェカ…!」
日向「撃ち抜きます」
砲撃を刀で弾く
チ級「当たらねェなァ…!ソノ程度、俺ニハ届カネェ…!」
煙の中から単装砲が覗く
チ級「甘イッ!!」
刀を振り抜いたのに…斬った感覚がない
日向「それは囮です」
正面から戦艦砲を携えた日向が迫る
チ級「真正面カラ来てたら…無駄ダゼェッ!」
日向「いいえ…コレが狙い!」
戦艦用の砲を一刀両断し、日向に向けて斬り上げる
日向「とった」
此方の刀を左手の刀で受け止められる
日向の右手が仮面を掠め取っていく
日向「…やはり、眼帯はしてないんですね」
濁った目が日向を写す
見られたくない目、見ることのできない目
チ級「…ンダヨ…」
日向「………」
チ級「オマエガヤリタカッタノハコンナ事カヨ…!」
日向「……私は、貴方を倒さなくてはならない」
チ級「ダカラ…ドウシタァ!!」
チ級の大振りな一閃
間合いの外へと逃げる
日向「…でも、それに日向は相応しくない」
日向が艤装を外す
チ級「ア"ァ?!」
日向「あなたを倒すに相応しいのは、あの時の私であるべきです」
日向が片目を眼帯で塞ぐ
チ級「…前会ッタ時ハ眼帯ナンカシテナカッタジャネェカ…」
日向がドラム缶から艤装を取り出し、換装する
天龍「あの時は隠すものがありませんでした、今の私の目には大きな傷があります、隠すものがありますから…コレで、お揃いですね」
チ級「……舐めるな…舐メルナァァ!!」
袈裟に斬りかかり、打ち合う
天龍「舐めてなんかいません、私は私の全力で、私が良いと思った道を歩む…貴女を必ず倒して!」
天龍の剣戟を往なし、カウンターのように細かく切りつけながら有効な一撃を探る
天龍「く…!」
天龍の体が揺れる、蓄積したダメージが動きを鈍らせた
チ級「ッラァ!!」
天龍「…うっ…」
突きが片腕を貫く、刀を刺したまま間合いを詰め、掴みかかる
チ級「コノママ深海ニ沈メ…!」
天龍「…それが、貴女の望みですか」
チ級「…ソウダ」
天龍「木曾さん、貴女が今見てるのは悪い夢です」
天龍が刀を手放しこちらの腕を締め上げる
深海棲艦の身体以上の、化け物じみた力で
チ級「悪イ…夢だと…?」
天龍「…みなさんが待ってます」
チ級「違う!ミンナガ居るのは深海だ!深海ニシカ姉貴達ハ居ネェ!」
天龍「確かに今たくさんの方が深海囚われている!でもみんな帰りたいと思ってる!」
チ級「ダトシテモ、何度モ死ンデ…何度モ深海ニ堕チル位ナラ…最初カラ沈ンデタ方ガマシダ!」
拘束を振り解き、距離を取る
天龍「例え何度深海に堕ちようとも救ってみせます!」
チ級「フザケンナ…ソンナモン信ジラレルカ…!」
刀を構えたまま、お互いに間合いを図る
チ級(…ドウヤレバ殺セル、頭ガ痛ェ…体ガ重イ…一撃デ決メネェト…ナラ、全力デ…全テヲカケタ全力ノ一撃…)
天龍(……)
水面を強く踏みしめ、飛び上がる
チ級「堕チロ!!」
天龍「うあぁぁっ!」
こちらの斬り下ろしに対して天龍は柄撃ちを狙う
刀を抜刀するような動作で柄の頭を此方へと伸ばす
チ級(先に腕同士が衝突して有効な部位には当たらねぇ、もらった!)
天龍「ハッ!」
腕が衝突する瞬間、天龍が刀を手放し勢いが死なないまま顎へと柄が伸びる
チ級「投げた…グッ…!」
柄が顎に突き刺さるものの、浅い
チ級(…ダガ、浅イ…意識は有る…!)
天龍「…足りないのは知ってます」
柄がより深く、重く突き刺さる
チ級「ぁがッ…!?」
チ級(コイツ…刃を握って…!?)
天龍「射程が足りないなら、無理矢理伸ばすだけです…痛みを伴わない勝利など、存在しませんから」
脳が揺れる、天龍の一撃は確実に俺の意識を奪った
天龍「……痛い、ですね…でも、これで貴方を元に戻せる」
軽巡洋艦 神通
神通「……あぁ…こんなに沢山の」
屍を弄ぶ
神通「コレだけあれば、満たされますか?」
語りかけた相手は何も答えない
神通「…まだ、欲しいですか…しかし、これ以上は姉さんたちに見つかりますからね、抑えてください」
海が、空間が
焼ける
真っ赤な傷痕を残し、その場を立ち去る
真っ黒な腕が溶け込むように消える
神通「……ああ、未だ、満たされない」