元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 近海
駆逐艦 島風
島風「…もっと…速く…」
深海棲艦の屍を見下ろす
島風「……もっと強い相手じゃないと…コレも使えない…後4日しかないのに」
キタカミ「なら、私が相手してあげよっか」
島風「っ!?」
キタカミ「おーおー、そんな警戒しなさんなって…ちょっと散歩中に見つけただけさね」
島風「…ここ、鎮守府から1.5浬は離れてますよ…」
キタカミ「んー、別に認識できない距離じゃないからねぇ」
キタカミさんは人差し指を軽く舐り、空を指す
島風(…そっか、こっちは風上だったんだ…だから匂いでバレた…)
キタカミ「…今でも充分強い、誰かを守る事だってできるのに…なんで満足しないのかなぁ…」
双剣を抜く
キタカミ「ん、話したくないのね、いいよ…好きなだけ相手したげるから」
連装砲ちゃんを周囲に展開する
島風(キタカミさん相手なら、最初から全力でも…良いよね…!)
スイッチが切り替わる
重雷装巡洋艦 キタカミ
キタカミ(…思ってたより不味いかな、前より強くなってる…剣撃も全部首とか狙ってくるし…殺し合いのつもりないっつーの…)
斬撃をかわしながら距離を空けようと後方に下がる
キタカミ(ダメだ、速すぎて下がっても一瞬で距離が死ぬ…連装砲潰しても良いけど曙辺りに詰められそうだしなぁ…となると)
キタカミ「っ!」
島風がバックステップで距離を空ける
キタカミ(…なんで今、下がった…?ずっと肉薄してきてたのに…まさか私の動作で肉薄は不味いって判断された?…だとしたら想像の何倍も…)
手に忍ばせた魚雷を魚雷発射管に戻す
キタカミ(今の魚雷を抜き取る動作は絶対に見られてないはず…)
連装砲からの砲撃をいなしつつ島風を狙い撃つ
キタカミ(…久々だね、この感覚…こっちが攻略する様な…格上を相手にする様な感覚)
キタカミ「…別に説教するわけじゃないけどさァ…島風は何で強くなりたいのさ」
島風「……」
砲戦をしながら、隙を伺う
キタカミ「強くなるってのは…手段であって目的じゃないでしょ?なんか理由があるんじゃないの?」
島風「……」
キタカミ(ガン無視かよ…ちょっと頭にきちゃったじゃん)
キタカミ「あーあ、怒らせちゃいけない相手怒らせたね…!」
主砲を島風に向け直した
はずだった
キタカミ「消え…た…?」
島風が視界の外に消えた、どっちに行ったのかわからない…
キタカミ(考える暇はないか…!)
ガードのために背後に主砲を回す
金属音と同時に主砲が後頭部に押し当てられる
キタカミ「ぁが…ッ!」
水面を転がったところに連装砲からの砲撃を受ける
キタカミ(クソッ!本気で殺しに来てるし…もう容赦しない!)
連装砲達の砲塔が破裂する
キタカミ「ふぅ……もう、どうなっても知らんからね…殺されるつもりで来なよ」
島風「……」
島風の目の蒼い炎が揺れる
キタカミ「…なんか、さっきよりもヤバそうな…」
主砲に弾を込めようと右手で弾薬に手を伸ばす
島風「……!」
キタカミ「ぃっ!?」
50メートルはあった距離が一瞬で詰められ、斬撃で魚雷発射管を潰される
キタカミ(いきなりトップスピードとか、そんなの…冗談キッツ…!)
腰に右手を回すだけでスキができたと判断して斬りかかって来る…思考の時間も殆どない、となると
キタカミ(…ブラフは効く?試すだけ試しとくか…いや、それなら…やるしかない!)
主砲に残った球を全て吐き出す
島風「……」
空中を蹴るような三次元的な挙動で距離を詰めてくる島風には砲撃が一切通用しない、だがコレはあくまで時間稼ぎ
キタカミ(ま、ここまでは予定通りさね…大丈夫、もう弾薬は握ってる)
砲弾の薬莢を主砲が吐き出そうと薬室が空いた瞬間、新しい砲弾を直接装填する
島風「!」
キタカミ(ちぇっ…まさか島風に先に見せるとは…)
島風を取り囲むように魚雷が水中から飛び出す
キタカミ「つーかまえたっ…!」
島風が真下へ加速する
キタカミ「なっ!?」
水面に音を立てて落ち、そして水面を蹴り肉薄してくる
向けようとした主砲の先端を斬り落とされ、剣が何度も主砲にぶつかり振動で主砲を握る手が痺れる
キタカミ(ヤバイ!ヤバイ!コレだけは手を離したら…)
一際大きい金属音を鳴らして主砲が手から離れ、水面を跳ねる
魚雷が虚空で炸裂し、島風がこちらへ剣を構える
キタカミ「…ハハッ…ヤバ」
自由になってしまった両手で島風の両手首を掴む
すぐに前蹴りで吹き飛ばされ、水面を滑る
キタカミ「あーもう…死ぬっての……」
感覚が残っている手で艤装の格納庫をまさぐる
キタカミ(…ま、白いし、撃ち落とすにはちょうど良いか)
魚雷を発射管から抜き、放り投げる
島風が魚雷を避けて詰め寄ってくる
キタカミ「豆鉄砲…くらいな」
拳銃を取り出して魚雷を複数回撃ち抜く
島風「っ!?」
島風の背後で魚雷が炸裂し、島風を吹き飛ばす
キタカミ「…はー…ま、痛み分けで……ん?…げ」
レ級「……貴方が率先としてこんな事をしていては、規律が乱れるのですが」
キタカミ「アハハ、勘弁してよ…全身めっちゃ痛いんだって」
レ級「…こちら曙…2人とも見つけたので連れて帰ります、ええ、じゃれてたみたいです…勿論、正座でもさせておきます」
キタカミ「…体痛いんだって」
レ級「知りませんよ、早く戻りましょう」
キタカミ「それより…見てたなら助けてからもよかったんじゃない……おかげで死にかけたよ」
レ級「今到着したばかりですよ」
キタカミ(……にしても、島風…ダメだな、ちゃんと対策しないと殺される)
キタカミ「曙ならどうやって島風を制圧した?」
レ級「……さあ、島風さんは私の時は私の時で手を変えてくるでしょうから…確実に私を殺すために」
キタカミ(……確かに、あの剣は殺意が乗りすぎ、私を本気で殺しに来てた…か)
離島鎮守府
駆逐艦 島風
島風「っ…!」
ベッドから跳ね起きる
島風(…また、制御できなかった…暴走までしたのに、勝てなかった…!)
拳を握りしめる
圧倒的な力のはずなのに
私は誰よりも強くなったはずなのに
島風「何が、足りないの…」
キタカミ「足りない、と言うより…間違ってるんだよ」
島風「キタカミさん…!」
キタカミ「さっきも聞いたけど…何で強くなりたいのさ」
島風「それは…」
キタカミ「強くなるのは手段であって目的じゃないでしょ?別に言いたくないなら良いけど…その目的って一人じゃないとできないことなの?」
島風「……」
私が強くなりたかったのは…そう、元はみんなを守るためなのに…
だけど、今は…
キタカミ「……手段と目的、この二つは間違えちゃダメだよ、目的がないようじゃ強くもなれないし…どんなに強くても助けられない事もあるから」
島風「…はい」
キタカミさんはそう言って出て行った
だけど、私が今戦う理由は…
私が戦ってるのは、誰かのためなの?
わからない
執務室
提督代理 朧
朧「…はぁ…」
曙「ため息は幸運が逃げるわよ」
朧「幸運が逃げたからため息が出るの…何で衛星電話引いた瞬間本土からの問い合わせが…吐きそう…」
漣「上の人には何て答えてんの?」
朧「提督は指揮に行かれてるので今は居られませんって…」
潮「お疲れ様ー、お茶持ってきたよ」
曙「…ところでさ、無茶なのはわかってるんだけど…ネット回線は引かないの?」
朧「……できたらやってるって…」
漣「まー、なんじゃらほい…正直ネット無し生活がこんなに堪えるとは…」
潮「そう?」
曙「気づかないうちに依存症になってるのよ…」
漣「そーそー、ソシャゲとかログインできないと発狂しそうになるよねん…」
レ級「あけるわよ」
曙「え、なにその書類…」
レ級「ここに視察来るってさ」
朧「……は!?」
レ級「お偉方が直接視察に来るみたい…だから、提督が会えるように準備しろって」
朧「…いやいやいや!無理でしょ!?」
レ級「…ここがどう言う状況かくらいはわかってるはずだけど、トップ不在が続くのは不味いのはわかるでしょ?」
朧「わかるけどさぁ…」
レ級「多分、これミスったら次は出頭命令……」
朧「詰んだ…」
曙「待ちなさい、アレは?亮の方は?」
レ級「…アレは一応ここに駐在になったけど…本来はまだ前線に出るような段階じゃない、それを司令代わり?ばかも休み休みにしなさい」
朧「まあ、もし可能だったとしても曙は許さないよね…」
レ級「私を従えることができるのは提督ただ1人よ」
朧「…とりあえず、どうするの?」
レ級「これ、見て」
昨日と今日の深海棲艦の目撃情報を記した周辺の海図を見せられる
島の周辺にはびっしりと深海棲艦が出没したマーク
少し離れた地点にも大量の印が振られてある
朧「…めちゃくちゃいるんだね」
レ級「ここには到達できない、安心しなさい」
朧「…出頭命令は?」
レ級「今から対策を考える、流石に顔がわからないなんて事もないでしょうし……代理を立てたところで一瞬でバレかねないか」
レ級(…実の所、周辺の深海棲艦なんて今朝島風さんが駆逐したばかりだし…色々と問題はあるな…だが、ここに視察の部隊は到達できない、それだけでいい)
俺「…曙?」
レ級「よし、ネット回線を繋ぎましょう、オンライン会議ってやつ」
漣「ああ!それで誤魔化す……っていけるわけあるかい!」
レ級「藁にもすがるしかないのよ、何処の馬の骨とも知らない奴に言いたい放題されたくないでしょ?」
潮「…確かに、そうだね…」
漣「でも、ネット回線なんてどうやって引くの?」
レ級「とりあえず海上にアンテナ塔を複数建てる、その場凌ぎレベルで良いわ、回線が弱いって言い訳も効くし」
朧「夕張さん達は帰っちゃったけど…?」
レ級「春雨さんと明石さんがいるでしょ、それに向こうが文句言うなら予算出させて海底ケーブルとか…」
朧「いや、無理でしょ流石に…」
レ級「無理とかないわ、やらせんのよ」
曙(マジでやるつもりみたいな…うーん…)
レ級「それに、ネットが繋がれば外の力も借りられる」
朧「外?」
レ級「ハッカー様に、色々いじってもらおうじゃない」
朧「…成る程ね、ヘルバさんを頼れるのは大きいけど…」
レ級「とりあえず漣、潮、明石さんと春雨さんにあたって、私は中央と直接交渉する、朧と曙は周辺の深海棲艦のデータをうまく使ってここの往復がいかに危険かを書類にまとめなさい」
曙「ま、良いか、やりましょ、朧」
朧「うん、そうだね」
九州
大黒宅
青葉
青葉「あ、どうも、松山さん」
松山「お邪魔します、青葉さんお元気そうでよかった」
青葉「…まあ、私だけ内地に居るわけですから…やれる事をやるためにもしょぼくれてなんかいられません」
大黒「あ、ようやく来ましたね」
松山「いや、申し訳ない、ちょっと揉めてしまって…」
大黒「…まあ、とりあえず上がってください」
青葉「揉めたって言ってましたけど、何かあったんですか?」
松山「いや…明日から復職なのでこっそり現場を見に行ったら…グラフィック関係で揉めてしまって、休職が伸びて…」
大黒「…ぴろしさんらしいなぁ…」
松山「まあ、そのかわりどさくさに紛れて、これを」
大黒「…それは?」
松山「The・World R:Xの…試作版ソフトです、これでもサーバーにアクセスできるし、すでにヘルバさんに頼んでアクセス情報がわからないようにしてあります」
青葉「…じゃあ」
松山「ただ、残念ながらこのソフトは一つしかありません」
青葉「っ!」
松山「正確には…もう一つあったのですが、ここに来る前に会った友人に渡してしまいました」
大黒「なんでそんな…」
松山「彼は意識不明になったオークラさんとリアルで親交のあった人でして」
大黒「…じゃあ、仕方ないか…でも、大丈夫なんですか?その人」
松山「…おそらく、十分すぎるでしょう、そしてこの残されたソフトは…」
松山さんが私に差し出す
青葉「…え?」
松山「貴方に…」
大黒「な、何考えてるんですか!?松山さん!青葉さんはただの女の子なんですよ!?」
松山「それを言えば、私たちもただの人です、だけど青葉さんはThe・Worldに特別な想いがあるように見えた」
青葉(…私は、秋雲さんだけじゃない、司令官も…リアルに帰さなきゃいけない、そしてこれは…最大のチャンス)
ゲームのソフトを受け取る
青葉「…かならず、やり遂げてみせますから」
大黒「…無茶ですよ、何と戦うかもわからないでしょう…?それに青葉さんには…」
松山「確かに、腕輪の力はないかもしれない…だけど、思い出してください、The・Worldを、みんなを救ったのは超常的な力じゃない…人の想いなんですよ」
青葉「…人の、想い…」
大黒「……青葉さん、決して、無理しないでください、じゃないと…カイトさんに顔負けできなくなっちゃいますから…」
青葉「…はい」
私の戦いは、みんなと少し違う、だけど…
確かにみんなの想いを背負って戦うんだ、だから…
青葉「絶対に、助けてみせますから」