元勇者提督 作:無し
横須賀鎮守府
提督代理 朧
朧「…酷い…」
レ級「……綾波め、やりたい放題やったか…」
複数ある建物の一つに、複数の大穴
まだ倒壊していないのが不思議なほどボロボロの建物から未だに怪我人が運び出される
朧「……コレが、曙のやろうとしてた事なの」
レ級「…後で、話すわ…今はこの場を収めることが最優先…違う?」
朧「返事によっては殴るじゃ済まさないからね」
レ級(殴られるのは確定なのね…)
大淀「…これは、離島鎮守府のみなさん、あいにく立て込んでますので…」
朧「わかってます、私たちにも何かできる事はありますか?」
大淀「…そういう事でしたら、まだ内部に取り残された者がいます、脱出の援護を……聞こえますか、衣笠さん、そちらの状況は……なるほど、あまりよろしくないようで…」
朧「正確な位置は?」
大淀「位置を……3階…その部屋ならここから奥に40メートル」
朧「よし、曙!」
レ級「…いや、事前の打ち合わせもないのになにしろって…」
朧「尻尾出して!」
レ級「…ここ横須賀だけど?多分見られたらもっと面倒に…」
朧「いいから!尻尾でアタシを投げ飛ばして!あの穴から中に入る!」
レ級(無茶な奴…)
曙が嫌々尻尾を出したのを確認し、ジャンプする
レ級「…っ…らぁッ!」
朧「うわあぁぁぁッ!」
穴から入り…天井に身体を打ち付けて床に降りる
朧「…深海棲艦!こんな所に!?」
艤装をつけていたことが幸いし、対処は難しくない
朧(…巡洋艦級も少なくない、でも主砲がダメージになってるのは……なんで?普通の深海棲艦よりやわいような…いや、今はそれより…!)
朧「やぁッ!」
ひび割れた壁を蹴り壊し、目的地への最短ルートを作る
衣笠「うわぁぁっ!?」
浜風「か、壁が…って!それより深海棲艦…」
3人の周囲の深海棲艦を撃ち、殴り、蹴り、投げ飛ばす
朧「助けに来ました!」
衣笠(…た、頼もしいな…さすが離島出身…)
浜風(つ、つよい…)
朧「…あ、青葉さ…いや、そっか…横須賀の…あれ」
朧(この人、腕が…)
衣笠「固まってないで!重傷者なの!脱出ルートは!?」
朧「わかってます!こっちに!」
来た道を先導する
朧「…曙!準備しててよ!」
深海棲艦を薙ぎ倒しながら入った穴を目指す
衣笠「なんか…嫌な予感がするのはわたしだけ…?」
浜風「わ、私も嫌な予感が…」
アオバ「……う…」
衣笠「ね、ねぇ!?重傷者いるのわかってるよね!?ちゃんと安全なルートなんだよね!?」
朧「大丈夫です!ついた、ここから飛び降ります!」
衣笠「ほら話聞いてない!」
浜風(ここ、3階なんだけど…)
朧「曙!受け止められる!?」
レ級「…もうどうにでもして…」
衣笠「うわっ!レ級……じゃなくて、あれは味方の方…?」
浜風「受け止めるって…危険すぎます!」
朧「……じゃあ、私が背負って行きますから」
衣笠「はあ!?ちょっと!」
朧「曙!2人頼んだよ!」
レ級「アンタも大概よね、ほんとに…」
アオバ「…ぁ……ぐ…」
朧(…片腕なせいでバランスが取れない、仕方ない…)
機関部を穴から投げ捨てる
衣笠「ねぇ!ちょっと本気!?」
浜風「く、崩れそうですよ!?」
朧「あ!危ない!」
足場が崩れる前に2人を突き落とす
衣笠「ぎゃあああ!人殺しぃぃ!」
浜風「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!」
レ級「…短いフライトお疲れ様でした」
曙が尻尾で2人を絡めとる
朧(…このカーテンならいける、よし)
カーテンを引きちぎり、カーテンでアオバさんを縛り付ける
朧「よし、降りるよ!」
外壁にしがみつくように滑り降りる
朧(振動が少し大きい…いや、もう跳んじゃえ!)
レ級「馬鹿!」
曙の尻尾が此方に伸びる
朧「ナイスキャッチ!」
レ級「…肝が冷えたわ、あんたね…」
朧「そんな事より救急車は!?この人、出血が全く治ってない!」
大淀「向こうに待機してもらってます、衣笠さん、浜風さん、担架を」
衣笠「そ、そうしたいのは山々なんだけど…」
浜風「こ、腰が抜けて…」
大淀「……朧さん、運んでいただけますか」
朧「はい!」
病院
朧「あ、こっちです」
大淀「すいません、諸々の手続きまでお任せして」
朧「いえ…それより、何があったんですか?」
大淀「……わかりかねます、今日、本来あの場では倉持司令官があの場に立ち、糾弾され、職を辞する…そういうシナリオでしたから」
朧(…想像はしてたけど…結局、そういう事なんだ)
大淀「それが謎の深海棲艦により…全て狂わせられた、私にはっきりわかるのはこれだけです」
レ級「本当にそれだけですか?」
朧「あ、曙!?」
レ級「ちゃんと変装してきた、尻尾も収納した、これなら出歩けるわ」
大淀「…それだけ、とは?」
レ級「…まだなんか隠してんでしょ?狸さん」
大淀「人を狸呼ばわり…失礼な方ですね」
レ級「大淀さん、貴方は隠蔽体質でしょう?おかげでこっちも助かってますが…都合の悪い事実は隠しちゃうタイプですよね」
朧「曙、何言って…」
大淀「別に何か問題でも?」
レ級「貴方、仲間の命がかかってる時何してました?なんで我先にと助けに行かなかったんですか?」
大淀「……」
レ級「貴方はお偉いさんが殺されて空いた椅子に…自分の提督を座らせようとしていた、違いますか?」
大淀「そうですよ、そのための根回しをしてました」
朧「…そんな」
大淀「もちろん、3人が生きて帰って来れると見越してのことです、見捨てたわけではありません…しかし、よくわかりましたね?」
レ級「中にいるメンバーが死なないという判断に至れば、私も同じことをしたでしょう…貴方、間宮さんにサヨリと言われた事、ありませんか?」
大淀「…ええ、ありますよ?それがどうかしましたか」
レ級「…サヨリとは、とても美しい姿、身質をしていますよね」
大淀「ええ、お刺身が美味しいですね」
レ級「…腹は真っ黒ですが」
大淀「はい…?」
レ級「以前、私も間宮さんに言われてたことがあったようで…見た目とは裏腹に、腹を開けば真っ黒だ…と」
朧(…ああ、だからみんな影で曙の事サヨリって…夕張さんと長門さんがしめられたって聞いたなぁ…その話)
大淀「……そうですか、それで?」
レ級「あなたは食えば美味そうだな、と」
大淀「……」
レ級「笑ってくださいよ、冗談です」
朧「そ、それより…アオバさんですけど…出血が酷いだけで、命に別状はないみたいです…出血多量のショックで気絶してたけど、すぐに意識は回復するって…」
大淀「そうですか、それはよかった」
朧(…本当に安心してるように見える、曙とのやりとりが本当だったとして…自分の提督が絡まない所では…ちゃんと仲間を想ってるのかな…いや、そう言えば前の世界で誰よりも先に提督を亡くしているから…か)
レ級「…さて、朧、帰るわよ」
朧「曙は話があるでしょ?ちゃんと全部吐いてもらうから」
レ級(…覚えてたか)
大淀「お邪魔そうですね、後始末がありますので私はこれで」
朧「あ、はい…それでは」
レ級「ま、簡単に言えば大鳳達からの情報で上層部のやろうとしてた事とかは掴めてた、それに前回の派遣だって事実上の捨て駒だった、自分の事以外何とも思ってない奴らだ…って、わかるでしょ?」
朧「…そういう話してないよ」
レ級「…はいはい、そうね、私は1人で横須賀に先に乗り込もうとしてた」
朧「理由は」
レ級「当然、雁首揃えて待っててくれてるんだからそいつら全員深海棲艦にしてやろうってね…」
朧「ふんっ!」
レ級「ぐ……腹はやめなさい、気持ち悪いから」
朧「でやっ!」
レ級「痛いものは痛いんだけど…!」
朧「曙、アタシ提督なら絶対こんな事しないと思う」
レ級「…それは同意だけど」
朧「でも、今はアタシ代理だから、それに…姉妹には厳しく行くから!」
レ級「ちょ、まだ殴る気?」
朧「死ぬほど後悔させるから!」
レ級「…再生する体で良かったわ、でも…エネルギーが切れてきた」
朧「…曙を深海棲艦扱いするのが嫌で聞かなかったけどさ」
レ級「…何よ、いきなり」
朧「データドレイン以外で深海棲艦を人間に戻す方法ってあるの?キタカミさんはそれを盾に操られてた訳じゃん」
レ級「…なくはない、だけど…私から言わせれば人間に戻したとは言わない…結局ナノマシンの塊なのは変わらないもの、アイツらが言ってたのは人の色で人の形にするって事、正確な意味で人に戻すと言うなら……データドレインだって完全なのか…」
朧「…そっか」
レ級「……私の事は心配しなくていいの、この身体なら未来永劫提督のそばにいられる」
朧「提督は未来永劫じゃないよ」
レ級「…今日のアンタは、性格悪いのね」
朧「機嫌が悪いんだよ…ご飯食べて、明日帰ろっか」
レ級「そうね、ネット経由で帰れるのは私だけだし……あ、そうだ、もし火野拓海が偉くなったらネット回線引かせましょうよ」
朧「それ良いかもね」
重巡洋艦 アオバ
アオバ「…あれ、ガサ…?」
なぜ、自分は病院のベッドにいるのか…
そして何故衣笠がベッドの一部を握りしめたまま、寝ているのか…
右手を衣笠へと伸ばそうとする
アオバ「…っ……!」
ない、肩から先が存在しない
アオバ(…そうだ、腕が…そうだ…!)
全部、思い出した
アオバ「……あ、電話…」
病院に入院となれば当然服が違うのでポケットには入っていない
あたりを見渡し、患者用のテーブルにそれはあった
不慣れな左手で操作する
何件も溜まっている不在着信、きっと心配してくれたのだろう…
アオバ(…あ、時間…深夜、か…)
丑三つ時と呼ばれるこの時間
思えばこの部屋も真っ暗だ
アオバ「…電話、かけたら迷惑だよね……そうだ、メールなら…」
アドレスだけは知っている
きっと、届くから
どんな文章を書けば良いんだろう
報告書のように事務的に綴るのは…無い
相手は私を心配しているのだから、元気であることを伝えなくてはならない
だって妹に心配をかけるなんて…私のプライドが許さない
アオバ(びっくりマークだらけの文章…わざとらしいな……うーん、じゃあこれは?…少し暗いかな…あ、これは誤字……打ちづらいなぁ…左手…)
完成には2時間をかけた
かつてない超大作を送り出し、携帯を投げ出して天井のシミを数える
アオバ(眠れないし…)
デフォルトの着信音が部屋に響く
アオバ「っ!?」
サイレントモードにし、とりあえず着信音を止める
表示されている番号を見なくてもわかる
アオバ(…出なきゃ、出ないと…)
意を決して電話を取る
青葉『…もしもし…?』
アオバ「おお!起きてた?いやー…あはは…メールしたばっかだから…なんか…恥ずかしいね?」
声が震えてる、悟られたく無い
青葉『…お疲れ様…大丈夫?』
アオバ「大丈夫大丈夫!メールに送った通りみんな元気だから!」
私以外は、みんな五体満足、ちゃんと無事…
青葉『…メール、元気そうじゃなかったから…』
アオバ「…あー……そう、見えた…?」
アオバ(…なんで、気づくの)
青葉『うん…』
アオバ「…あはは…うーん…いや…」
青葉『取り繕わなくて、良いんだよ…私達なんだから』
優しさが、胸に刺さる
痛いんじゃ無い、私の心を解いてしまう
余計な事を…口走って…
アオバ「……アオバは……今日、目の前で深海棲艦にされた人を…撃った…その人は、その深海棲艦は…どっち…なんだろうって…」
もう、止まらなかった、思ってたこと全部言っちゃった
青葉『…その深海棲艦を撃たなかったら、沢山の人が犠牲になってたかもしれない…だから…』
アオバ「…青葉は、言っちゃダメだからね」
…私が決めた、最後の一線
青葉『っ…』
アオバ「青葉に…仕方ないなんて、言わせない…青葉が深海棲艦になった人間は撃たれて当然なんて…言わないで」
青葉『…うん、ありがとう』
アオバ「……ご…」
アオバ(言わなきゃ、絶対に言わなきゃいけないのに…言葉が出ないよ…)
青葉『……』
アオバ「ちょっと待ってね、あはは…言いたいことの一つも言えないや……その…あの…」
青葉『大丈夫、わかってるから…それに謝らないでよ、だって立派にみんなを守ったんでしょ?』
…私が守ったのは、私の身だけ…
アオバ「っ……あー…ほ、ほら…えっと.そうだ!青葉も、悩んでることがあったから電話したんでしょ?」
青葉『…ううん、さっきまではそうだった、だけど…声が聞けて…わかったから』
アオバ「何の話…?」
青葉『私も記事を書いてみることにしたの』
アオバ「記事…?」
青葉『そう、ネットで…取材したことをまとめて、記事にするの…完成したらURLをメールするから、読んでみてね』
アオバ「っ…!…うん、絶対読むよ…!」
青葉『じゃあ、切るね…お姉ちゃん』
アオバ「…またね」
アオバ「…そっかぁ…青葉が…ネット記者かぁ……!嬉しいなぁ…!でも、一緒に取材とか、いけないんだよね……いや、絶対に…青葉の負担にはなりたくない…だから、絶対に…見られちゃいけない…この腕も、この涙も」
衣笠「…ま、衣笠さんには…もうちょっと見せてくれても良いんじゃ無い?」
アオバ「…ガサ、起きてたんだ…」
衣笠「そりゃあ…起きちゃうでしょ?」
アオバ「……」
衣笠「良かったじゃん、青葉がさ、ネット記者なんて」
アオバ「…きっと、私よりすごいよ…」
衣笠「楽しみだね」
アオバ「うん…」
某所
駆逐棲姫
駆逐棲姫「どうも、いやぁ…やっぱり特務部暇なんですね?」
秋津洲「呼ばれたから無理矢理きただけかも」
駆逐棲姫「それはそれは…さて、貴方にこれを」
黒い甲殻のような籠手を差し出す
秋津洲「……これは?」
駆逐棲姫「貴方達が使ってる未完成品とは比較にならない、強力な強化アイテムですよ、暴走した際の島風さんの戦闘ログはここに」
秋津洲「……わ、私に何をさせたいの?」
駆逐棲姫「私から島風さんに渡したら…怪しまれるでしょう?」
秋津洲「…わかったかも」
駆逐棲姫「しかし…貴方達もバカですよねぇ、あんな不完全なものを使うって言うのに、よりによって性能を制限してるんですから」
秋津洲「…そのまま使ったらAIDAが脳を完全に侵食しかねないかも」
駆逐棲姫「それで良いんですよ、それほどのリスクを背負わずして使える力じゃありませんからね、ああ、ちなみにそれにはリミッターなんかありませんよ、性能を完全に引き出してくれます」
秋津洲「リミッターが、無い…?じゃあ、使用中に死ぬかも…!」
駆逐棲姫「問題ありません、脳を機械が支配するので体を動かす電気信号は出続けます」
秋津洲「そ、それ、死んでるんじゃ…」
駆逐棲姫「いいえ、生物としては生きてますよ、だって心臓は止まってませんから…ああ、もしかして心がないと生きてないみたいなタイプですか?」
秋津洲「……」
駆逐棲姫「…困るんですよねぇ…貴方みたいに中途半端な人、自分は悪人だけど越えちゃいけないラインがあるみたいな…」
秋津洲の肩に手を置く
力を込めずとも秋津洲は自ら膝をつく
秋津洲「…え?あ、れ…なんで、私、膝をついて…」
駆逐棲姫「人間がチーターより早く走る方法を知っていますか?」
秋津洲「え?」
駆逐棲姫「脚力だの、そんな話ではなく…チーターは100メートルを5秒と少しで走り切ることができるそうです…到底人間には無理な記録ですよね?」
秋津洲は何が起こってるのか、理解できないと言った表情でこちらを見上げる
駆逐棲姫「でも、それなら4秒で走り切れば良い、どんな手段を使っても…それを可能にするのが、私です、科学です、私はただそれを可能にするどころか、100メートル1秒すらも切りましたよ、そのアイテムで」
秋津洲「……」
秋津洲が視線を手元の籠手に落とす
駆逐棲姫「犠牲者は必要なんですよ、貴方にもわかるでしょう?」
秋津洲「…はい」
駆逐棲姫(…さて、島風さんなら…作れるかな?理想的な形)