元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
戦艦 レ級
レ級「宣言通り、始めるわよ、実力テスト…の、前に」
咳払いし、周りを見る
レ級「解体希望者の受付、希望者は前に出てください」
誰も答えはしない
しかし、動揺だけは伝わる
レ級「……今しかできないわけじゃない、今居ないならそれでも構いません」
一つ、手が挙がる
曙「言いたいことあるんだけど」
レ級「…何か」
曙「アンタがここから全員追っ払って…自分で全部背負い込むのって何のため?」
レ級「……」
曙「要するに、アンタは…あたしらがここから居なくなれば良いと思ってる、でもそれは悪意じゃない…全部説明しなさい、今、ここで…そうすればスッキリ出ていける奴もいるんじゃない?…少なくとも、あたしはそんなつもりないけどさ」
レ級「……当然、ここは命をやり取りする場所です、ご存知の通り…死ぬ事もあります、私は一度死んで、運良く帰ってこられたものの全員がそうとは限りません…96人、艦娘システムを運用している私たち艦娘がすでに96人戦死しています」
曙(…もう、そんなに死んでたんだ…)
レ級「わかってると思いますが…まだ深海棲艦が現れて一年と少しです、自身の人生を捨てる想いで臨まなくては一瞬の迷いで死ぬでしょう…内地が安全か、内陸であれば確かに安全ですが襲撃の例もあり確実な保証はありません…しかし、それでも死ぬ可能性は格段に低い」
大きく息をつく
レ級「…私は、あなた方を守れと言われています、最大限の事はやります、その一環がこの分隊分けです、より生存率を上げ、最大限に戦えるチームを作り、効率と生存を共存させる事」
曙が挙げていた手の四本を内側に折り畳み、こちらは中指を向ける
曙「そんな事情、クソ喰らえよ…!アンタだってわかってんじゃないの?あたしらは守られてるほど弱くない、それに…アンタ1人が辛い思いをすることを誰も望んでない!」
レ級「……私は、いや、これは自分の望み、そのままに生きて死ぬなら本望よ」
曙「ならあたしだって戦うのが望み、こんなとこで世界投げ出すようなことしたくないに決まってんでしょ…!」
キタカミ「ま、何でも良いんだけどさ…守るものがあると弱くなるって自分のセリフ、忘れないでよね」
レ級「……」
キタカミ「ま、確かに死んじゃったら…悲しいかな、救いなんてないに等しいし覚悟はいるよ、でもさ、その覚悟を折りに行くのはアンフェアでしょ」
レ級「…では、解体希望者は今はいない、そういうことで構いませんか」
誰も何も言わない
そういう事だろう
レ級「……では、始めましょう、各分隊長は順にこの時間の書かれた紙を取りに来るように」
曙「紙…?」
レ級「時間の指定などが書かれています、場合によっては夜戦になる事も理解しておいてください」
川内(夜戦はやだなぁ…)
レ級「…それと、神通さん、那珂さん、あなた達は個人での評価を希望しましたね」
神通「…はい」
那珂「那珂ちゃん1人でも大丈夫だもん!」
レ級「那珂さんは正午、神通さんはそれから30分後です」
那珂「はーい」
神通「…ありがとうございます」
レ級「最後にもう一度評価項目を…まず、目的は私のバリアの破壊、長門さんの主砲2発ほどで破壊できるはずです、それと想定外の事象に対する対応力等を評価します、まあ、テストという形ですので、一応合否は有りますよ…質問は?」
キタカミ「……んー…?」
レ級「なさそうですね、では、各自、紙を受け取り時間まで待機」
離島鎮守府 近海
軽巡洋艦 阿武隈
阿武隈「まさか、一番手なんて…」
潮「みんなこっち見てますね…」
漣「うーん…ところで、疑問なんだけど…何で3人?」
阿武隈「朧ちゃんは参加不可、曙ちゃんは別部隊、不知火…さん、で良いのかな…えっと、不知火さんも別部隊だから…」
潮「他の人達は…?」
阿武隈「動きを合わせるだけの時間がなかったし…3人で行くのが1番良い、1番手なのも好都合だよ、多分全部は見せてこないから」
潮「…よし、弾薬確認よし」
漣「よし!」
阿武隈「よし、開始準備よし!」
空砲の音が響く
阿武隈「始まった…!」
阿武隈(…長門さんの主砲みたいな火力はまず出せない…から、ここは貫通力の高い徹甲弾で勝負…!)
潮「頑張りましょう!」
阿武隈「陣形は打ち合わせ通り!まず索敵形態A!」
潮ちゃんと漣ちゃんが前に出て逆三角形の形で進む
阿武隈(…この陣形なら後方から狙われるのはあたし、耐久能力の低い2人が不意をつかれる可能性は低い)
潮「…左舷見えません!」
漣「右舷同じく!」
阿武隈(……未知に対する対応力、何を求められてるのかわからない、けど冷静に対応すればまず問題はない…!)
漣「…今、何か…?」
潮「え?」
阿武隈「何か見えたなら即座にB陣形に!」
漣「いや…見間違えかも…」
阿武隈「見間違えでも即座に!」
漣「は、はい!」
漣ちゃんが一時的に速力を落とし、潮ちゃんの後ろに回る
敵がいたかもしれない方向には常にあたしが1人、そして後ろに2人、これがB陣形
阿武隈(怖いのは…陽動…)
阿武隈「見えた!」
何かが水面から覗いた瞬間撃ち抜く
阿武隈「っ…さ、魚…?」
頭が吹き飛んだ魚が水面に浮く
漣「な、なんだ…跳ねたのを見間違えたっぽいです…」
潮「……阿武隈さん」
阿武隈「うん、違う…居る、背中合わせで周囲警戒、速力は落として!」
阿武隈(…どこから、来る…?)
潮「北東の方向!艦載機!」
阿武隈「えっ!?」
阿武隈(ついさっき近くにいたのにどこで発艦して…!)
阿武隈「漣ちゃん!あたしと対空射撃!潮ちゃんは周囲警戒!」
漣「艦載機の動きやば…!」
迫る艦載機は急降下や急上昇、回避行動を繰り返している為近づく速度自体は遅い
阿武隈(対空射撃に当たらないことを優先してる…時間稼ぎ…本命は雷撃?それとも観測射撃?)
阿武隈「面で射撃!一機を追いかけずに進行ルートにばら撒いて!」
漣「了解!」
潮「……雷撃、南西!」
阿武隈(真逆から!?)
潮「魚雷潰します!」
阿武隈(魚雷は5発だけ、狙いは正確…いるならそっち……うん、そこまではあってるとして…何か、違和感…)
魚雷が炸裂し、水柱が上がる
阿武隈「…そうだ…!」
水柱を撃ち抜く
金属がひしゃげて弾ける音
レ級「大正解」
潮「きゃぁっ!」
曙さんの尻尾で潮ちゃんが弾き飛ばされる
阿武隈「っ!」
阿武隈(漣ちゃんは対空射撃に専念しなきゃいけない、潮ちゃんはまだ動けない…1対1にされた…!)
レ級「さあ!どうしますか!」
砲撃を砲撃で潰す
阿武隈(防御ならできるけど、何をされるかわからない…!ジワジワなぶり殺しにされる…!)
漣「うわっ!一気に来た!」
阿武隈(艦載機!?対空が手薄になるのを狙われた…!)
上空で複数の爆弾が爆発する
阿武隈「っ…?」
潮「ま、間に合った…!」
漣「ナイス!」
レ級(艦載機は潰されたか…だが)
2本に増えた尻尾から連続で砲撃が来る
阿武隈(攻撃が苛烈に…!)
漣「キッツ!」
阿武隈「漣ちゃん退避!」
漣ちゃんが距離を取る動きをし、あたし1人で防御を担う
レ級(…私を1人で相手に取ろうとは…舐めた真似を!)
阿武隈「えっ…!?」
尻尾の口の戦艦砲からの砲撃に更に尻尾についた機銃の射撃も加わる
阿武隈(無理!流石に防げない…!削られるみたいにやられる…)
レ級「このまま決着……とはいかないか」
曙さんの頭上から砲弾が降り注ぐ
着弾した砲弾がバリアに触れて炸裂する
レ級(チッ…潮のお得意か…フリーにしたのは判断ミスだな、これ以上は保たない…先に阿武隈さんを落として…)
潮「今です!」
背後に軽く跳び、海面に倒れ込むようにしながら照準を合わせる
レ級(っ…やられた…!)
漣「トドメ!!」
あたしの背後からの漣ちゃんの砲撃、そして下からのあたしの砲撃、そして潮ちゃんの広角射撃
絶対に防がせない
レ級「目標達成、お疲れ様でした」
阿武隈「やった!上手くいったね!」
漣「まー、打ち合わせとは程遠い形になりましたが…」
レ級「……打ち合わせの内容は?」
阿武隈「ま、まあ…その…広角射撃ができるように常に潮ちゃんはフリーになるようにって事、それと漣ちゃんは無理せずに退がってタイミングを合わせてさっきの砲撃をしようって…」
レ級「…ま、良いんじゃないですか?漠然と戦うより戦い方が決まってる点は評価できます」
阿武隈(怒られるのかと思った…)
レ級「早く戻ってください、次が控えてるので」
阿武隈「…バリアってすぐ回復できるんですか?」
レ級「無理では無いです」
阿武隈(…何か制約があるのかな…)
波止場
阿武隈「あれ?明石さん?」
明石「…あ、どうも、見てました…おめでとうございます」
阿武隈「ありがとうございます」
潮「明石さん、調子悪そうですけど…」
明石「…大丈夫、ちょっと集中して見てたから疲れちゃったかな…」
漣「食堂行くんですけど来ますか?」
明石「…いえ、見たいので」
阿武隈(……なんだろう、明石さんは…何かをしようとしてる?)
近海
戦艦 レ級
レ級「…あなたは結局、高速頼りですか」
島風「…私は、今の私には、これしか無いから…!」
レ級(島風さん、長門さん、山雲さん、不知火さん、旗艦は朝潮さんか…全員悪く無い実力を持ってる、だけど今一つ)
島風「やあぁぁぁッ!」
レ級(…今の島風さんでは高速で翻弄するどころか…いや、元々前の世界での島風さんはスキルで自分のフィールドを作って戦う事を得意としていた、だからスキルが完全に封じられては…この結果は仕方ないのか)
島風(…今の表情……同情された…?私が、弱い…から…?)
レ級(長門さんは砲撃で進路を潰すことに専念している、2発で目標達成できるメリットを捨てて攻撃は駆逐艦頼り…不知火さんと山雲さんもそれを理解した立ち回り…朝潮さんの細かい指示をよく聞いている、チームとしての完成度はかなり高い)
島風さんがさらに加速する
朝潮「っ…!」
レ級(…出たな、悪いクセ)
島風(私は、弱くなんか…あんなのに頼らなくても私は…!!)
斬りかかる直前で跳び上がり、連装砲ちゃんと多方面からの攻撃を狙ってくる
レ級「焦りすぎです」
尻尾で連装砲ちゃんを弾き飛ばし、本体をもう片方の尻尾で撃つ
島風「っ!こんな物!」
朝潮「島風さん!一度立て直しです!」
レ級「…たった1人のたった1つのミスは、隊全員の命に直結する」
不知火「何…!?」
山雲「艤装の機能が…!」
長門「ぐ…くそっ!雷撃か!」
朝潮(一瞬で3人…!)
レ級「貴方たちは、ここまでです」