元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
戦艦 レ級
レ級「ふぅ……もう正午前ですか…」
川内「はぁ…けほっ……なんとか、崩せたね…」
春雨「化け物の相手は疲れます」
レ級(川内さんはなかなかだったな…春雨さんも…動きはかなり良い、危うく不覚をとるところだった…だが、荒すぎる……大潮さん、荒潮さんはついて行くのに必死か…)
レ級「お昼休憩にでもしますか」
川内「うーん、みんなお疲れ様、2人とも大丈夫?」
荒潮「は、はい…大丈夫…」
大潮「…ヘロヘロ、です…」
レ級(春雨さんは性格に難があるからしょうがないとして…川内さんは2人のケアもしてるか、流石にアクの強い妹をまとめてるだけあるな)
レ級「戻りましょう」
食堂
那珂「えっご飯食べてる!」
レ級「…昼休憩です、悪いですか?」
那珂「良いけど…今食べ始めだよね?あと3分だよ?」
レ級「そうですね、早く行くことをお勧めします」
那珂「じゃなくてー!」
レ級「……ああ、説明を忘れてました、貴方と神通さんには相手を別に用意してます」
那珂「へ?」
レ級「それに勝てれば良いですよ、勝利条件は組み伏せた時点で勝ちです」
那珂「な、なにそれ…!」
レ級「私に相手をして欲しいんですか?だとしたら…100年早い、死んで考えを改めろ」
那珂「…むぅ…!意味わかんないよ!」
レ級「……行きましたか、貴方は?那珂さんの戦いを見てなくて良いんですか?」
神通「……」
レ級「何か言いたげですね」
神通「私は…すでに貴方に一度敗北しました、なのに挑戦権があるんですか?」
レ級「ああ、昨日の晩の事ですか、誰にも言いません、あれは誰も見ていないし、誰も知らない事です……貴方が理外の外法に手を出した事くらいわかっていました、明石さんの艤装の使い心地、如何でしたか?」
神通「っ……」
レ級「貴方は確かに私の四肢を落とした、私を追い詰めたかもしれません、でもそれは私に殺意がなかったから、私の殺意の前に貴方は屈した…覚えておきなさい、貴方が昨晩敵にしたのはただの狗では無い事を」
神通「…深く、理解しています……申し訳ありませんでした」
一礼し、神通さんは食堂を後にした
レ級「……芯は変わらない、きっとあの人は外法から戻る事はない…かといって無視もできない……ここでもう一度心を折っておく必要がある……」
離島鎮守府近海
駆逐艦 朧
那珂「えぇーっ!?朧ちゃんが相手なの…?」
朧「…はい、私がお相手させていただきます」
朧(…那珂さんはアタシに戦い方を教えてくれた人…だけど、負けるつもりはない)
那珂「…えー?本気?……やろうか?」
朧「すいません」
那珂「んー?」
朧「…舐めてるなら、今すぐ考えを改めてもらって良いですか」
偽装を展開し、構える
那珂(…なんか、構えが変わってる…でも主砲はまだ腰にひっ下げてるし、格闘戦で来ようとしてる?)
朧(…那珂さんの構えが緩い、アタシに対して真剣じゃない…)
爆雷を一つ取り出し、投げ飛ばす
朧「あれが爆発したら始まりです、だから…」
那珂「……」
朧「本気でお願いします」
爆雷が炸裂すると同時に詰め寄る
那珂(そっちが攻めてくるの!?)
朧(構えが防御寄りになった…顔をガードする為に前腕を縦にする構え…その構えの崩し方は知ってる!)
ガードの隙間に拳を連続で叩き込む
那珂(マズっ…!ガード崩されたらキツイのが来る!)
朧(アタシを舐めたツケをまず払わせる!)
那珂さんの両腕のガードが外側に開く
那珂「あっ!?」
朧「はぁッ!」
飛び膝蹴りと同時に腿の魚雷発射管から魚雷を一本だけ射出する
那珂「っあ…!」
海面を無様に転がり、刺さった魚雷が炸裂する
朧「……本気で来てくださいって、言いましたよ」
那珂(…正直、舐めてた…最近事務仕事ばっかりしてるから鈍ってるだろうし、叩き直してあげようくらいに考えてたけど…今の攻撃の流れでわかる…アレは私に匹敵する…いや、違う…もう私より強い、そう思って戦わないと…)
那珂「…那珂ちゃん、謝らなきゃだね…うん、ごめんね!朧ちゃん!」
朧(…来る)
那珂「……ふーッ!…宜しくね」
朧「…こちらこそ、宜しくお願いします」
朧(那珂さんの構えに隙が無くなった…もうさっきみたいなチャンスは来ないかもしれない)
主砲を一つ、手に取る
那珂(…片手だけ?いや、あの主砲…砲身が切り詰めてある、接近専用になってる…)
朧(……覚えてる、込めた弾の順番、アタシにできること…アタシは、みんなの為に強くなるんだ…!)
那珂「……」
朧「……」
那珂(仕掛けたいのに、何処から攻めれば良いかわからない…下手に踏み込んだら…次はさっき以上のしっぺ返しが来る…)
朧「…もう、私から攻めたりはしません、いつでもどうぞ」
那珂「っ!」
那珂(…参ったなぁ……まだ、師弟だのなんだのみたいな考えがあったかも……これは真剣勝負、ルールなんてない…)
朧(今…一瞬足元を見た……)
那珂「やぁっ!」
那珂さんが海面を蹴る
朧(やっぱり目潰しから来た!)
目を閉じ、海水に突っ込む
那珂(見えてないなら、一撃で……えっ!?)
那珂さんの方へと腕を振り抜く
那珂「っ…見えてないんじゃ…」
朧「…見えなくてもわかりました」
那珂(嘘、なんで…?なんで正確にこっちに攻撃できたの…?)
朧「待った方が、いいですか?」
那珂「!……舐めないでよ…!」
那珂さんが身体を大きく前に倒し、間合いを殺して近寄る
朧(きた…那珂さんのこの距離の詰め方が厄介だった…)
主砲を向け、放つ
那珂「っ!?…散弾…」
那珂さんの動きがまた止まる
朧「…普通の弾、とは限りませんから」
那珂(ダメ、完全に流れを取られた……こっちの戦法は全部知られてる、朧ちゃんを軽く見てたツケがこんなに…こんなに重くのしかかってくるなんて…とにかく近づかないと、話にならない!)
那珂さんが再び間合いを殺し、肉薄してくる
パンチ主体のボクシングスタイルでの攻めをいなす
朧(っ…!やっぱり打撃が重い…!)
那珂(とにかく、隙を作る…!)
後方へと下がりながら攻撃をいなし続ける
那珂(…まだ!?もう30秒近く同じ行動がループしてる…!なのに、全然…!)
甘く突き出た拳を掴み取り、こちらへと引き摺り込む
那珂「しまっ…!」
姿勢を崩したところに鳩尾へ掌底を叩き込む
那珂「かはっ…!ゴホッ!ゲホッ…」
那珂(隙を作るはずが、先に集中力がきれてちゃ意味ない…朧ちゃんは、どんな気持ちでこれに臨んでるのかな……すごく、高い壁に感じる…)
那珂さんが立ち上がり、此方を睨みつける
那珂(小技は、通用しない……勝つ事を狙うなら、大振りでも、リスクがあっても…)
朧(…魚雷を…両手に持った?)
那珂「……朧ちゃん、ほんと強くなったね…だから、那珂ちゃんも強くならなきゃね」
両手の魚雷を逆手に持ち、クナイのように振り回す
朧(これ、下手なあたり方したらマズイ…!というか、自爆を恐れてないような…)
那珂(生半可な気持ちじゃ勝てない、差し違えても…倒す!)
那珂「イヤァァァァッ!」
朧(何この動き…型も何もない!滅茶苦茶だ…!)
両腕を稼働領域の限り動かしたデタラメな乱撃…かと思えば足払いを織り交ぜてくる、完全に勝ちにだけ執着した攻撃
朧(余裕綽々の戦いしか見て来なかったけど、那珂さんがこんな戦い方をするんだ…)
那珂(負けない…絶対に負けたくない!)
威力重視の大振りな攻撃
その攻撃でできスキすらも不用意に近づけば罠と化す
朧(このままじゃ埒があかない、一度距離を…)
那珂(腰を引いた、距離を取ろうとしてる…!)
那珂「逃がさない!」
那珂さんが魚雷を投擲する
朧「危なっ!」
那珂「えっ…」
魚雷をキャッチし、後方に捨てる
那珂(なんで取るの!?完全に決まったと思ったのに…!)
朧(…死ぬかと思った…でも、距離は取れた…砲戦に持ち込めば…)
腰の主砲に手を回す
那珂「こーさん!降参だよ!もう無理!」
朧「…へ?」
那珂「……はぁ…それだけ離れられたらもう距離を詰められる自信ないよ…」
大袈裟に残りの魚雷を捨て、両手を挙げる
朧「……」
那珂「…朧ちゃん?」
朧「虚偽申告は反則だと思います!」
こっちに向かってくる魚雷を撃つ
那珂「バレたか!でもルールなんかないもんね!」
朧「あーー…もうッ!」
水面を蹴り、魚雷を跳び越える
那珂「嘘!?」
朧「足腰は散々鍛えられましたから!」
両手に主砲を構え、滑り込みながら砲撃を撃ち込む
那珂「ぁだっ!顔はダメでしょ!?」
朧「ルールなんかないんですよね!」
砲撃を受けて体制を崩した那珂さんの脚を取り、持ち上げる
那珂「ぬぁ!んぐ…ぐ…!」
朧(ここからは純粋な力比べ…でも、片脚を取ってる分チャンスはある!)
しばらくそれが続いたところで那珂さんの力が抜け、押し倒す
那珂「…もー……わかったよ、負けたって…」
朧「…よし!」
朧(那珂さんに、勝てた…最初油断してたとか理由はあるけど…それでも勝ちは勝ち、強くなれてるんだ…!)
那珂「嬉しそうだなー…もう、そんなに嬉しい?」
朧「勿論!…ふー…良かった…」
顔の少し横を何かが通り抜ける
神通「…今、那珂ちゃんを笑いましたか?」
朧(え、今アタシは笑ったっけ!?)
那珂(またでたよ、神通姉さんの謎判定…)
朧「いや、別に笑ってないです!」
神通「……笑いましたよね?」
那珂「いや、笑顔は笑ったとは…」
神通「どちらにしろ…私は貴方と戦うことになります」
神通さんが砲を此方に向ける
神通「始めましょう」
朧(…神通さんが主砲を使うところは、あんまり見た事ないな…というか、さっきすぐそばを通ったものって砲弾?砲撃の音がしなかったし…)
朧「うわっ!?」
躊躇いなく撃ってくる
神通「もう始まってますよね?まあ、既に撃ちましたが」
朧(本当に容赦ない…!)
砲撃をかわしながら様子を伺う
朧(大丈夫、かわせる…精度は高くない…)
主砲を向け、放つ
神通「これは…煙幕弾ですか…」
朧(今!)
煙幕に突っ込み、拳を振り抜く
朧「ッ!…あぁぁぁああっ!」
振り抜いた拳に激痛が走る
持っていた主砲がひしゃげて壊れる
神通「そんな物で私の目を塞げると思いましたか」
朧(煙幕の中なのに…蹴りを合わせられた…しかも、艤装をぶつけられたせいで腕が痺れてる…)
神通「片腕、持っていったつもりでしたが…艤装だけですか」
朧「……ただのテストってこと、忘れてませんか…」
神通「それでは、つまらないでしょう?」
那珂「ちょ…神通姉さん…!これ殺し合いじゃないんだよ!?」
神通「黙って見ていてください」
朧(那珂さんとの戦いで消耗してるのに休みなくこれじゃ…いや、多分そういう部分も曙は見てる、きっとこれはアタシと神通さん、2人同時の試験なんだ)
背後へ軽く跳び、体制を立て直す
朧(…組み伏せれば勝ち、でもあの蹴りを片腕で受け止める自信はない…神通さんが転けるのを期待する?いや…近接戦闘に持ち込んで膝をつかせればそれで良い…勝てるのなら)
壊れた主砲を捨てる
朧(…一回で決めなきゃ、やられる…チャンスは一度、やれる限りやる!)
魚雷発射管から魚雷を射出し、それを追いかけるように走る
神通(…艤装の推進力で移動した方が速いでしょうに、なんでわざわざ…)
朧「今!」
神通「!」
魚雷を神通さんの目の前で炸裂させる
神通(この位置ではダメージもない、目眩し?そんなものが通じる訳…っ!)
那珂(神通姉さんが引き寄せられて…)
朧(魚雷でできる水柱の原理は簡単、水中で炸裂して真空空間を作り、そこに勢い良く流れ込んだ水の勢いが逃げ場を求めて上に逃げる…つまり水が空間に吸われる、神通さんはきっと間合いの外だから反応が遅れる…)
水柱に飛び込む
朧「せいやぁぁぁッ!」
神通(蹴りで水の勢いを突き破って…!)
艤装でブーストされた蹴りを叩き込む
神通「くッ…!」
朧(入った!…よし、普通なら絶対に勝てない…だからこそ!)
神通さんに駆け寄り、飛びかかる
那珂(朧ちゃん、その距離の詰め方は無茶じゃ…!)
神通(舐めたマネを…!)
神通さんが姿勢を崩しながら蹴りを放つ
朧(今しかない!)
神通「消えた!?」
那珂(なんで伏せて…)
姿勢を落とし、両手を海面につく
艤装の推進力で脚が海面を滑り、神通さんの足を払う
神通「っ!」
姿勢を崩したところを捕まえ、押し倒す
朧「…よし…!」
神通「……何を、勝った気になっているんですか」
朧「へ?」
いつの間にか体が逆さで宙を舞う
朧(え、今何されて…)
神通「ハッ!」
腹部への掌底を受け、海面を滑る
朧「かっ……ぁ…!」
神通「…もう、許しませんよ」
神通さんが槍を拾い、近づいてくる
朧(もう終わったのに、言おうにも声が、出な…!)
那珂「ちょ!ストップ!」
神通「黙りなさい!」
神通さんの槍が此方を捉える
朧(…ま、さか…本気で刺すつもりじゃ…!)
神通「……ハッ!」
槍が大きな音を立てて真っ二つになる
那珂「終わったんだってば!神通姉さんの負け!」
神通「私は負けてません!」
レ級「いいえ、貴方の敗北です」
曙がアタシと神通さんの間に出てくる
朧「……曙…」
レ級「勝敗の条件は事前に伝えましたよね?それとも、今更不満を言いたいんですか」
神通「…っ…」
レ級「貴方は自身の想定通りにいかない時、とことん冷静さを欠く、すぐヒートアップするのも含めて、改善点はたくさん見つかりましたね?」
神通「……」
レ級「まあ、何より…貴方、本気で殺そうとしていましたか?そこだけは貴方の口から聞かなくてはならない」
神通「……それは…」
朧「曙、もういいから…」
レ級「良くない、全くもって良くない…提督の命令を守れないこともそうだけど、何より姉妹を殺そうという相手を…私は生かしておくつもりはない…お答えなさい」
那珂(…流石に、これは庇えない…)
神通「……殺そうとは…していませんでした…」
レ級「…なら、さっさと自分の部屋に戻れ…一人で自分の行動を悔いてろ」
神通「……失礼します」
那珂「…朧ちゃん、ごめんね…大丈夫?」
朧「…大丈夫です」
レ級(自身の保身の為に殺意を否定した、あの人は自身の殺意を恐怖による嘘で包み隠した…鼻っ面をへし折るにはちょうど良かった……だけど)
レ級「……次の相手は、悲惨な事になりそうですね」
朧「…八つ当たりに使わないでよ…」
レ級「イライラは治らないわ」
那珂「…曙ちゃんも、ごめんなさい、神通姉さんそう言うとこあるから…」
レ級「……私は神通さんを一定のレベルで評価はしていました、しかし…まるで子供のように感情に呑まれるなんて…とても残念です」
朧「……」
レ級「…失礼、言いすぎました」
那珂「ううん、事実だから…悪いけど先に戻るね」
朧「……はぁ…」
レ級「…アンタは良くやったわ、これで誰もアンタを軽んじたりしない」
朧「そんなの求めてない、アタシはただ…みんなの力になりたいだけだから……よし、アタシも仕事の続きしなきゃ」
朧(…ホントは仕事なんて無いけど……とても、この場に居たくは無い…)