元勇者提督 作:無し
海上
駆逐艦 曙
曙「…なんか、やけに静かよね」
試験から2日、燃料の使用は最低限という制約のもとあたしは出撃が許された
ただし、厳重な管理の元という条件付き
阿武隈「うん…あの試験以降陣形とかも変えて哨戒してるのに交戦どころか一度も深海棲艦を見かけてない…」
曙(それは逆に不味い気がする、相手の意図が読めないのは、1番怖い)
曙「早いとこ戻りましょ」
問題を先延ばしにしてるだけなのはわかってる、向こうの考えを掴まなくては一瞬の油断で全てを壊される
曙「…阿武隈」
阿武隈「うん、何かいる…」
曙「何かじゃない、もうここまで来たら確定でしょ…」
駆逐棲姫「そのとーり!呼ばれて飛び出てパンパカパーン!なんちゃって!」
曙「綾波…!」
阿武隈「元気そうですね…」
駆逐棲姫「ええ、リフレッシュにヨーロッパを一周してきましたので」
曙「…アンタ、なんでフランスで民間人を殺したりなんか…」
駆逐棲姫「え?……ああ!ありましたねぇ、そんな事…と言っても私が深海棲艦だって気付いて襲いかかってきた人を返り討ちにしただけですよ?正当防衛って知りません?」
阿武隈「だからって街を…」
駆逐棲姫「向こうが撃ったミサイルを防いだだけですよ、攻撃機とかもね…証拠にその一回しか事件は起きてないでしょう?私は1週間以上ヨーロッパに滞在してたんですよ?」
曙(…本当にただ話の正当防衛…だったとしても…)
双剣に手をかける
駆逐棲姫「やるなら、やりましょうか?」
阿武隈「…応援は呼んであります、どうしますか」
曙「…ここでぶっ倒すに決まってるじゃない」
駆逐棲姫「それがそうはうまく行かないんですよねぇ…」
綾波の周囲に深海棲艦が現れる
阿武隈(駆逐艦が6…)
曙「その程度…!」
駆逐棲姫「基礎オペレーション、開始」
駆逐級がこちらへと突っ込んでくる
曙(1匹だけ早い、まずはそいつから…っ?)
阿武隈「潜った…?下!警戒!」
速力を出していた1匹だけが水面下に潜り込む
曙(1匹くらい…)
背後で水音
阿武隈「後ろ!」
曙「小賢しいマネ…って…何?魚雷…」
雷跡が一つ遠ざかっていく
阿武隈(…当てるつもりのない魚雷、私たちを通り過ぎてから浮上して、離れていく魚雷…?)
曙「撃ってきた!」
阿武隈「…撃ち返します!」
砲撃戦が始まる
阿武隈(あたしだけ狙った砲撃…!)
曙(こっちは完全無視…チッ…!)
阿武隈の前に行き、駆逐級からの砲撃を防ぐ
曙「狙い撃ちなさい!」
阿武隈「了解!…っ……え…?」
曙「阿武隈!?」
阿武隈「う…後ろ…!」
曙(さっきの潜ったやつ…!)
曙「一回立て直すわよ!」
周囲を炎で囲い視界を遮る
曙「阿武隈!怪我は!?」
阿武隈「…魚雷を刺されて、機関部を撃たれちゃった…速力が出ない…」
曙「…駆逐級は潰せても綾波から逃げるのはキツいか……待って、何か近づいて…!」
正面の炎を割いて駆逐級が1匹突っ込んでくる
阿武隈「真っ直ぐ突っ込んでくる!」
曙「ちょこまか…ぐっ!?」
阿武隈「きゃあっ!?」
背後から砲撃を受ける
曙(なんで、また背後に…!)
周囲の炎が消える
駆逐棲姫「アハッ…まさか、たかが駆逐イ級6体にボロボロに負けてるんですか?私は何もしてませんよ?」
曙「黙れ…!」
阿武隈(動きが普通じゃない、何かが違う…)
駆逐棲姫「ま、こんな単純な戦術に対応できないなんて…お笑いですよねぇ?」
曙「戦術…?」
駆逐棲姫「この6体のイ級は私の部下みたいなものです、ですがその辺にいるイ級と何も違いません、簡単な命令を与えて、それをこなせるように訓練しただけ」
阿武隈「…簡単な、命令…」
駆逐棲姫「背中だけを撃てってね」
曙「っ…!」
駆逐棲姫「中でも一体だけ、別の命令を与えた子もいます、その子には全速で走り回れって命令をしました、今迄単純な機械の相手をしてきたあなた達にはこの作戦はよ〜く効きましたねぇ!」
阿武隈(…確かに、深海棲艦らしくない動きに対応が遅れたけど、こんなの…!)
駆逐棲姫「うーん、うんうん、いい結果が出たし…逃げ帰ってもいいですよ?」
阿武隈「え…?」
曙「…そんな罠になるわけないでしょ…!」
駆逐棲姫「いや、あなた達じゃこの子達に勝てない、それはわかったでしょう?」
曙「ふざけんな!そんな雑魚に…!」
駆逐棲姫「ま、イ級と戦って、もし勝てたとしても…それで喜ぶような雑魚には私も用はありません」
曙「っ…!言いたい放題…言ってくれるじゃない」
駆逐棲姫「怒りました?それは失礼…ふふっ」
曙「…アンタを此処で倒す」
駆逐棲姫「本当に、できると思ってるんですか?」
曙「やってやる…!」
双剣を構え、海面を強く踏み締める
駆逐棲姫「実は、私貴方に大変興味があるんです…なので、少しばかり…厳しめに行きますね」
周りのイ級が沈む
曙(…サシ…上等…!)
肉薄し、斬撃
綾波は両手のグローブでそれを受ける
駆逐棲姫(…軽いな、踏み込みも甘い…予想よりも未熟……いや、これは…)
曙(剣への防御を誘うだけ誘って…今!)
背後へ飛び、砲撃を召喚する
駆逐棲姫「…中々、面白い事しますね」
曙(…無傷、か…生半可な攻撃は当然効かない…でも)
双剣をくるりと回し、鞘に収める
駆逐棲姫「…おや?」
綾波の両手が燃える
曙「そのまま焼け死ね…!」
駆逐棲姫「……馬鹿なんですか?」
炎が消える
曙(…炎も通用しないか)
駆逐棲姫「うーん、弱すぎて呆れてしまいました…でも、確証も得られた…貴方にはまだ隠された力がある」
曙「…隠された力?」
駆逐棲姫「貴方がその力を引き出せない理由はなんなのか…ふふっ…アハハッ!」
曙「熱っ!?」
両手に炎が灯る
あたしの両手を焼く炎が
曙「っ!」
両手を海に突っ込み、火を消す
駆逐棲姫「わかりますか?その気になれば私は貴方の燃料に引火させてしまう事なんて造作もないんですよ?」
曙(…勝算がないのはわかってたけど、全く情報を引き出せないまま引き下がるわけにはいかない)
駆逐棲姫「…んー…変に強かになろうとしてるせいで実力が隠れてる、無理やり引き出すしかないか」
綾波がこちらへとゆっくり近寄ってくる
曙(…阿武隈を先に引かせて…そのあと私も…っ!?…機関部が破損して動かない!…燃料まで漏れてる………いや、これなら一泡吹かせてやれるかもしれない、どうせ自力で帰れないなら…)
周囲を炎で包む
曙「まだ、引火しない距離…」
駆逐棲姫(…何をするつもりでしょうか、炎なんて効かないのに)
曙(…距離は?どのくらい有る?…燃料が広がる前に…)
機関部を捨てる
曙(後は、あたしの…気合いと根性の問題よね)
駆逐棲姫が炎を割り、目の前まで迫る
曙「来たわね…!」
水面を蹴飛ばし、綾波に燃料入りの海水を飛ばす
駆逐棲姫「うわっ…汚いなぁ……オイル?」
曙「…さあ!くらいなさい!」
軽く飛び上がり、炎を撒き散らす
駆逐棲姫(…何を…いや、艤装を外してる…)
曙「くらえ…!」
燃料に引火し、艤装が爆発する
艤装の破片に乗り、その推進力を利用して綾波に迫る
駆逐棲姫(これは…!)
通り過ぎざまに一閃、そして海面を蹴り、逆方向へ斬り裂く
曙「三爪炎痕!!」
双剣を振り抜き、最後の一撃を刻む
駆逐棲姫「っ……と…」
綾波の身体がバラバラと落ち、傷口が燃え盛る
曙「…この程度で死ぬとは思ってないわ、頭ひとつで復活したって聞いてるし…でも、やれる限り…」
海に流れた燃料を蹴って集め、火をつける
曙「確実に殺しておく」
駆逐棲姫「……」
こちらを見ながら浮かんでいる綾波の顔は…
曙「…チッ…」
ニタニタとした笑いを浮かべていた
駆逐棲姫「ああ、貴方は思ってた以上に…がぽっ…ごぽぽっ……」
曙「…さっさと燃え尽きなさい」
駆逐棲姫「お望みとあらば」
背後から頬にしなやかな指が纏わりつき、耳元で綾波が囁く
曙「っ!」
駆逐棲姫「貴方とレ級さんは…本当によく似ている、熱くて、冷たくて…素敵な2人に私はとても心打ち震えるようです…」
曙「このっ!離れろ!」
振り解こうとしても、振り解けない
駆逐棲姫「貴方も本当にいい素体になる…でも、もう少し"育って"くれないと…」
曙「ぁ…っ…?」
身体の力が抜ける、だらりと腕を垂らし、剣が指をすり抜ける
駆逐棲姫「直接働きかけるのはレアなんですよ?」
曙「…ぁ…あっ……」
情けなく開いた口からは止めどなく唾液が流れ、目からも涙が溢れる
抵抗もできず、何をされているのかも理解できず、視界も失われるような…
駆逐棲姫「…後はこれでいいかな」
曙「……」
海面にうつ伏せに倒れる
駆逐棲姫「成長してくださいね、"曙さん"っ」
綾波は霞のように消滅した
離島鎮守府 医務室
曙「………っ!?」
飛び起きる、いつの間にかベッドの上に居た
幸運なことに死んではいなかった
曙「…あたし…あたし、何、された…?やられたのはわかってるけど…」
春雨「ボコボコにされた、くらいじゃないんですか?」
曙「春雨…!」
春雨「貴方、4日も寝たままでしたよ」
曙「4日…!?」
曙(私が、やられてから…もう、4日も…?)
曙「…寝てなんか、居られない…!」
春雨「起きるな、寝てなさい」
春雨にベッドに押し付けられる
曙「何す…あ、れ…」
春雨を、押しのけられない…
春雨「……かなり、弱ってる様ですね」
曙「なんで、なんで動けな…!」
春雨「…一度落ち着いてください、私は貴方に伝えなきゃいけないことがある」
曙「何よ…」
春雨「……貴方の生命維持活動を行うのに重要な臓器の活動が弱まり続けています、目を覚ましたのはまさに奇跡的、明日にも本土の病院に移送する予定でした」
曙「…え…?」
春雨「……こう言えばわかりやすいでしょう、貴方は余命宣告を受けてもおかしくない身体なんです、今すぐに詳しい検査が必要です」
曙「どういう事…」
春雨「……わかったら、静かにしていてください、死にたく無いのなら」
曙(…私が、死ぬ…?戦ってじゃなく、ただ、死ぬ…)