元勇者提督   作:無し

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台風

佐世保鎮守府

青葉

 

青葉「すいません、わざわざ時間を取ってもらって…」

 

度会「いや、構わない…それで、何のようだ?」

 

青葉「単刀直入に本題だけ…今、私はThe・World R:Xにはログインできないんです」

 

度会「…CC社に止められた?」

 

青葉「いいえ、私が今The・Worldにログインすると何故かR:1に行ってしまうんです」

 

度会「R:1に…?」

 

青葉「意味がわからないのはわかってます、でも事実で…とにかく、私はあのR:Xのマク・アヌに行けない…司令官の像の事や…それだけじゃない、今のThe・Worldについて何もわからないんです」

 

度会「…成る程、言いたい事はわかった…信じ難いが嘘をついているとも思えない、まずそのメリットがない以上…信じた前提で話を進めるほかない」

 

青葉「…伺いたい事は2つです、まず司令官の象の事…それと、今の海軍の状況、離島鎮守府の皆さんに連絡を取れるか…」

 

度会「…まず前者は変化なし、だ…が、後者は…火野拓海を一時的にトップに置いた体制を取っている、離島鎮守府の重要性は理解している、連絡はすぐ取れる様になるだろう」

 

青葉「…ありがとうございます」

 

度会「……曽我部隆二、と言う男についてだが…」

 

青葉「…確か、人をネットに取り込む技術の…」

 

度会「その男は今、CC社に雇われているらしい…」

 

青葉「…CC社…」

 

度会「CC社はどういうところか、俺はよく知っているつもりだ…おそらく、揉める事になるだろうな」

 

青葉「…それはダメです、その人と揉めたら司令官を元に戻す手段さえ失われる…!」

 

度会「言いたい事はわかるが、俺達は現状CC社の運営するゲームに不正アクセスしている、CC社に雇われている以上、その曽我部隆二もそれを容認はしないはずだ」

 

青葉「……未帰還者を元に戻すまで、あのゲームから離れるわけには…」

 

度会「……」

 

青葉「…すいません、今の私じゃ何もできないのに…」

 

度会「いや、それよりも…こちらも協力者が必要だ、アクセスできるソフトを量産しなくてはならない」

 

青葉「…確かに、2人では…できることもできませんからね」

 

度会「差し当たっては…松山もログインできる様にするそうだ、R:1に行く方法も、言って何が変わるのかもわからない今はR:Xで活動するしかないだろう…」

 

青葉「…そうですか、でも、これで少しでも何か…」

 

度会「変わると良いが」

 

 

 

 

 

住宅街

 

青葉(…あんまり収穫はなかった、私はどうしたら良いのかすらわからない…)

 

もう日が落ち、暗い夜

 

青葉(…何かあっても、深海棲艦の力が有れば自分の身を守れる…だけど、それは間違った手段…)

 

手のひらに黒い甲殻が広がる

 

青葉「……私の肌が完全に染まったら…心まで深海棲艦になってしまうのかな…だとしたら、もう…帰れない」

 

覚悟はしなくてはならない、だけどそれはどんな覚悟なのか

人の世に帰らない覚悟なのか、かつての仲間に撃たれる覚悟なのか

 

それとも、私に宿る何かに抗い、戦い続けることなのか

 

青葉「……少なくとも、諦めたりはしないから」

 

甲殻が消滅する

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府 執務室

提督代理 朧

 

朧「…曙を本土に送りたいのに…無理なの?」

 

漣「無理に決まってんじゃん…あーもう…なんか雨降ってんなーとは思ったけどさ…やっぱりテレビもラジオもないと情報遅れるよボーロ」

 

潮「台風、すぐそこまできてるからね…」

 

8月の終わり、夏が秋に変わるシーズン

台風が日本を襲うのは通例…しかし、それはやや南や北に逸れる…そう、南にも逸れる

 

朧「此処は地理的に台風が来やすい…そうだよねぇ…前の世界では台風に合わなかったから…」

 

いざ台風が来るとわかった頃にはすでに備えるには遅すぎた、と言うのが結末…

 

潮「でも、キタカミさんや赤城さん達が台風の備えをしてくれてるし…」

 

朧「そういう話じゃなくて、1秒も早く曙を入院させたいの」

 

漣「…わかってるけど、流石に無理ゲーだよボーロ」

 

潮「連れて行こうにも…海は大荒れだしね…」

 

朧「……仕方ない、か…仕方ないなんかで済ませて良いのかな、アタシ達は今姉妹を失いかけてるんだよ?」

 

漣「…死ぬと決まったわけじゃ無いんだよ、もっと落ち着きなよ、ボーロ」

 

朧「…落ち着け?落ち着けるわけないじゃん…!」

 

曙「うっさい!外まで響いてんのよ!」

 

曙が執務室の扉を蹴り開けて入ってくる

 

潮「えっ!?曙ちゃん、起きて大丈夫なの?」

 

曙「ピンピンしてるわよ、何が余命宣告よ…」

 

朧「曙、寝てて」

 

曙「だからあたしは元気だって…」

 

曙に近づき、両肩を掴む

 

曙「ちょっ…痛いって」

 

朧「お願いだから、もう少し安静にしてて」

 

曙「…別に、アンタらをどうこうするために無理してるんじゃない、あたしは本当に元気よ」

 

朧「…それでも、少なくとも今日だけは…ゆっくり休んでて」

 

曙「……っ!?」

 

爆発音が響き、建物が大きく揺れる

 

朧「な、なに!?」

 

漣「ちょっ!ま、窓の外見て!」

 

潮「し、深海棲艦!ここしばらく大人しかったのに…!」

 

警報を鳴らし、艤装を掴み、窓を開いて飛び降りる

 

漣「ちょ!ここ3階!」

 

潮「お、追いかけないと!」

 

着地し、深海棲艦を睨む

 

朧(…建物には当たってない、今のは榴弾が地面に当たった揺れ…しかも、戦艦級…でも、周囲には居ないか)

 

主砲に砲身を取り付け、深海棲艦の方へ歩く

 

朧「……ここは…アタシ達の家、だから…アタシが守る」

 

ぬかるんだ地面を踏み締め、攻撃を開始する

 

朧(…走ってたら足を取られる、できるだけ止まって撃つことを意識しないと…警報を鳴らしてるからすぐにみんなが来てくれるはずだし…)

 

朧「っ…?」

 

何かがおかしい

いや、明確に何がおかしいとあげる事はできるが…

何もかもがおかしい、なんでまだ誰も来てない?最初の砲撃の時点で誰かが対処にあたっていてもおかしくなかった

それに何故これだけ攻撃してるのにたった一体も倒すことができていない?何がおかしくてこうなっている?

 

朧(…まさか)

 

駆逐棲姫「その通り、貴方は孤立させられた…私の狙い通りに」

 

深海棲艦の群れの中から綾波が現れる

 

朧「綾波!」

 

駆逐棲姫「あ、コレ、お土産です」

 

目の前にどしゃりと何かが投げられる

 

朧(…黒い、大きな袋…)

 

駆逐棲姫「見てみてください、とっても気にいると思いますよ♪」

 

その言葉でアタシの背中にイヤな汗がまとわりつく

袋の内側からは赤黒い液体が地面に染み出している様に見えた

だから、袋に近づくほどにアタシの心臓もうるさくなって…

 

朧「…っ!そんな…!」

 

駆逐棲姫「私を元に戻す!とか…言ってましたねぇ?イムヤさん」

 

袋の中にはイムヤ…それも、無数の傷跡、出血も異常な量…

 

駆逐棲姫「ま、1人で私に会いにきた結末がそれですよ…既に2日は寝かせてるので腐ってるかなぁって不安だったんですけど…その様子だと大丈夫そうですねぇ!」

 

朧「…なんで、こんな事…綾波…?」

 

駆逐棲姫「かつて私は機械でした、人間とは呼べない機械、むしろそれが素晴らしかった、私は不完全だからこそ完成していた…私に欠落していた善意や罪悪感なんてもの、求めてなかったんですよ?…なのに、この世界にきてそれが生まれてしまった…ああ、本当に残酷でしたねぇ」

 

朧(…嘘だ…)

 

駆逐棲姫「でも、そんなもの、簡単に壊せてしまった…許容量を超えたダムが決壊する様に…私の罪悪感は駆逐棲姫の行った悪行の数々により一瞬で崩壊した!罪という鎖は私の死という償いで断ち切れた!ああ!なんて素敵なんでしょう!」

 

朧「だからって…なんで!アタシ達は綾波の事を…!」

 

駆逐棲姫「貴方、敷波みたいでウザいですねぇ」

 

朧「…敷波…?…まさ、か…」

 

駆逐棲姫「あれ?レ級さんから聞いてません?そもそも事実関係が公になってないのかなぁ…殺しましたよ、敷波」

 

朧「……」

 

言葉が出ない

前の世界の綾波ですら敷波の事を大事に想っていた、なのに…

 

駆逐棲姫「別に犯行的な妹は嫌いじゃないんですが、私にこう在るべきを押しつけるのはあんまりにもウザいので、殺しておきました♪」

 

朧「……」

 

艤装を構え直す

 

駆逐棲姫「おや?おやおやおや?やる気ですか!まさか私と!?勝てるわけが無いのに…既に建物の中にも大量の手駒が入り込んでます、台風の雨風が私たちの気配を消したおかげで好きに入り込めました、つまり…貴方を助ける人はいないんですよ」

 

朧「…だとしてもッ!」

 

曙「それは違うわ、あと1人、アンタを殺したくて仕方ない奴がここにいる」

 

曙が剣を壁に突き立て、勢いを殺しながら降りてくる

 

朧「曙…!なんで…」

 

曙「寝てられるわけないでしょ、この一大事に」

 

駆逐棲姫「ま、2人揃って私に負けるという結果が見えてますが…特に、曙さんは艤装無いじゃないですか」

 

曙「…これがあれば、それでいい」

 

曙が双剣を構える

 

朧「…曙」

 

曙「黙って、やりなさい、合わせるから」

 

駆逐棲姫「唯一の取り柄の炎すらもない貴方に何ができるのか」

 

曙(…確かに、今の私は炎が使えない…それでも、炎は使えなくても…)

 

朧「行くよ!」

 

曙「わかってる…!」

 

朧(やっぱり砲撃が当たらない…回避に専念されてる、そもそも足回りが悪すぎて精度も悪い…)

 

曙(近づいてやるしかない!)

 

駆逐棲姫「うーん、気づいてますか?こっちからはまだ攻撃してないの」

 

綾波の周りの深海棲艦が一斉に退がり、視界外に消える

 

朧(…確かに、あの戦艦砲みたいな砲撃以外はまだ…いや、それより何を…)

 

駆逐棲姫「意識、ちゃんと周りにも向けた方がいいですよ」

 

曙「が…!?」

 

曙が真横砲撃を受けて吹き飛ぶ

 

朧「曙!!…撃ったやつは何処に…!」

 

駆逐棲姫「視界不良、困りますよねぇ…」

 

朧(台風のせいで視界が悪いのは確かにそうだけど…なんで向こうは見えて…!)

 

曙「か……ぁ…っ…!」

 

駆逐棲姫「おや?軽めの攻撃のはずだったんですけど…ああ、曙さんは弱ってましたねぇ…そのままだと…死ぬカモ♪」

 

朧「ッ!!…綾波…!」

 

駆逐棲姫「まあ、弱い曙さんが悪いんですから…ね?」

 

曙(…死ぬ…の…?…あたしが…死ぬ…)

 

駆逐棲姫(…良い表情してますねぇ、2人とも…そそられちゃいます)

 

朧「絶対に…許さない…!」

 

綾波に詰め寄り、拳を振りかぶる

 

駆逐棲姫「貴方じゃ力不足ですよ」

 

朧「うわっ!?」

 

前身に衝撃を受けて後方に吹き飛ぶ

 

曙(…朧…!)

 

駆逐棲姫「…2人とも、あっさり死にそうですねぇ」

 

曙(それは…絶対にそんなの…!)

 

駆逐棲姫「おやおや……さて、ショータイムですよ」

 

綾波がパチンと指を鳴らす

 

曙「…絶対に……折れるもんか…」

 

曙が立ち上がる

 

朧「曙!もういいから!」

 

曙「もう良いわけない…まだ、あたしは何もできてない…あたしは…!」

 

曙の双剣に蒼い炎が灯る

 

駆逐棲姫「…成る程、馴染みましたか」

 

朧「燃料もないのに…炎が…?」

 

曙「……一欠片残さず燃やしてやる!」

 

大雨に打たれているのに、炎は消えない

風も、雨すらも、何も曙の炎は消せない

 

駆逐棲姫「どうぞ?お相手しますよ」

 

曙「ッ!」

 

双剣による乱撃

綾波は軽やかにそれをいなす

 

駆逐棲姫(ふーむ…素体としては微妙かも知れませんが…もう少し伸びるかな…何処まで伸ばせるか)

 

曙「はぁぁぁぁッ!」

 

剣の軌跡を炎がなぞる様に燃える

 

駆逐棲姫(…動きは遅い、だけど……重い…!)

 

曙(殺す…殺す!!)

 

朧「…こんなの、曙じゃない…」

 

曙「アンタなんか…死ねば良い…!」

 

駆逐棲姫「ひどい言い草ですねぇ!その力をあげたのは私なのに…」

 

曙「だとしても…もうあたしの物」

 

駆逐棲姫「扱い切れるのなら、それでも良いかも知れませんが」

 

曙の双剣が宙を舞う

 

曙「…え…」

 

曙が両手を振りかぶった姿勢で止まる

 

朧「曙!」

 

駆逐棲姫「私に与えられた力で私に勝とうとは、なんと傲慢な…アハハッ、好きですよ、そこまで傲慢だと」

 

曙「ぁ…が……ああああああッ!?」

 

曙に雷が落ちる

 

朧「これは…まさか、天候まで…?」

 

駆逐棲姫「人間って42ボルトで死んじゃうらしいですよ、でも雷はなんと1億ボルトもあるそうで…」

 

曙「…ぁ……」

 

曙が地面に突っ伏す

 

朧「曙!…い、生きて…?」

 

心臓は動いてる、火傷も酷くはない…

 

駆逐棲姫「……やっぱり、私の操作するものではそこまで威力が出ませんか…いや、曙さんの身体が壊れてしまったのか、どちらなんでしょうねぇ?」

 

朧「綾波…!」

 

綾波を睨む、綾波は困った様に笑ってみせる

 

駆逐棲姫「もう私は用は無くなってしまいました」

 

綾波が片手を大きく開き、上へと突き出す

 

駆逐棲姫「それでは………む?」

 

綾波の両腕が弾け飛ぶ

 

レ級「ただで帰すわけないでしょう、貴方には今からたっぷり返しをさせてもらいます」

 

キタカミ「もう中の深海棲艦は全滅、1匹もいないよ」

 

朧「曙…キタカミさん!」

 

駆逐棲姫「…私は死んでも死にませんけどねぇ…」

 

レ級「……」

 

駆逐棲姫「ああ、そうだ…紹介しておきましょう、私の部下を作りまして」

 

2体の深海棲艦がこちらに歩み寄ってくる 

 

駆逐棲姫「名乗りなさい」

 

装甲空母鬼「装甲空母ノ力ヲ賜リマシタ、装甲空母鬼デス」

 

護衛棲姫「護衛空母ノ力ヲ賜リマシタ、護衛棲姫デス」

 

駆逐棲姫「そういう事ですので、次回戦う時は彼女達が私の供回りになるでしょうねぇ?」

 

レ級「今ここで壊せば良い」

 

駆逐棲姫「…私はノータイムで逃げる手段、あるんですよ?…あ!そうだ…倉持司令官…」

 

綾波のそばの地面が割れる

 

レ級「お前が口にして良い名前ではない」

 

駆逐棲姫「…お会いしたので具合を報告しようかと思っただけなのに」

 

朧「…提督に、会った…?」

 

レ級「……」

 

駆逐棲姫「ま、お元気そうでしたよ」

 

レ級「…そうですか」

 

キタカミ「…提督なら自力でどうにかするだろうし…今は、あんただからね」

 

駆逐棲姫「だから私は死なないし、一瞬で消えられるんですって…」

 

レ級「なら何故そうしない」

 

駆逐棲姫「レ級さんの姿を1秒でも長く見つめていたいからですよ」

 

レ級「死ね」

 

駆逐棲姫の居た場所が吹き飛ぶ

 

キタカミ「…ま、逃げられたか…犠牲者はなし?」

 

朧「…いや、いるよ…1人」

 

イムヤを袋から出す

 

レ級「っ…!その出血量は…」

 

キタカミ「…死んでるかもね」

 

朧「間違いなく、死んでます…2日前に殺したそうです」

 

キタカミ「いや…イムヤは深海棲艦だよ」

 

レ級「……助ける手段はあるかも知れない、運び込むわよ、曙も」

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