元勇者提督 作:無し
The・World R:1
秘密の部屋
駆逐艦 敷波
敷波「……ここに居るの、退屈だなぁ…」
何にもない世界
私を害する事も、満たす事も無い世界
敷波「ねぇ、ここから出ることくらいは許してくれないの…?」
『外の世界は、貴方を害するでしょう』
敷波「…それでも、アタシはここに居たんじゃ…どこにも行けない」
アタシを呼んでくれた誰かの声、もし誰かがまだアタシを求めてくれるなら…応えたい
アタシがまだ1人じゃ無いのなら…
『わかりました』
Θサーバー 高山都市 ドゥナ・ロリヤック
敷波「…ここは…」
最初に来た町とは違う
空気の綺麗な、静かな、山上にできた集落のような
雲の上に飛び出た小さな草原、複数あるそれを繋ぐ手すりすらない橋
敷波「……高っ…怖っ…」
もし落ちたとしたら、死ぬのだろうか…いや、死ぬことすらできないのか
橋をつつく
敷波「…ん?……あ、なんか見えない壁ある…」
橋に乗っても揺れすらしない
敷波「…よかったー…怖かった…」
よろよろと橋を渡り終える
敷波「……あんまり人がいないのは良いなー…ちょうど良くて」
原っぱに腰を下ろす
寂しいけど、冷たい風が色々なことを考えさせるけど
今のアタシに必要なのは時間、前を向くための時間…司令官に見せたようなフリじゃなくて、本当に前を向くための…
ミッシェル「あの…」
敷波「…え?何?もしかしてアタシに話しかけてる?」
ミッシェル「はい」
ファンタジーゲームらしい格好の女剣士…
この世界で浮かないようにするにはこんな格好をしないといけない…のかな
ミッシェル「私、明日…って言うか今日から3日間ログインできないんですけど…その間この子を預かってくれませんか?」
プチグソ「ぷひ?」
敷波(…豚?)
敷波「…ねぇ、それより今って何時なの?」
ミッシェル「えっと…朝の4時、かな」
敷波(…あれから1日経った…?いや、もっとかもしれない…)
ミッシェル「お願いします!」
敷波「いや…」
敷波(時間わかんないし、それに預かるったって…)
ミッシェル「それじゃ!」
女剣士が消える
敷波「は!?…マジ…?そういうことしちゃう…?」
プチグソ「ぷくしっ!」
敷波「……アニマルセラピーと思えば、まあ良い、のかな…」
仔犬ほどのプチグソを撫でる
敷波「…お前、暖かいね…」
冷たい世界だけど、温かいものを見つけられた
リアル
佐世保鎮守府
青葉
青葉「正直、明日にも私はどうなるか分からない身ですので…」
度会「そうは言っても中々に難しい話だ、現状離島と連絡を取る手段はないに等しい」
青葉「…ですよね、すいません…」
青葉(明石さんに聞きたい事もあるのに、何も掴めないまま…か)
陽炎「あの…」
青葉「え?…あ、こんにちは…」
陽炎「…すいません、秋雲の事、全部任せてるみたいで…」
青葉「っ……」
この視線は、罪悪感の視線じゃ無い
期待と、焦燥と、羨望
できるだけ綺麗な言葉で纏めても、そうとしか喩えられない
青葉「……もう暫く、時間をください」
ようやく、絞り出せた言葉はそれだけだった
陽炎「…はい」
青葉(…すごく、重い…私は命を守るために戦ってきた事は何度もあったけど…救う為の戦いはきっと殆どしてこなかった…私は…)
守る、守られてる側は守られてることにすら気づかないのが当たり前の戦い、だから感謝もされなければ期待もそこまで大きく無い
しかし一度救うとなれば…
救わなければならない対象があるのなら
青葉(陽炎さんから向けられていたのは…もう、敵意に近かった、ずっと自分で手を伸ばし続けて、それが結局届かなくて、手を伸ばす機会すら与えられなくなった…だから、その機会がある私が…憎い、まだ助けられないのか、まだなのか…って)
決して、悪意があるわけではない、だけど不安や焦りは日増しに強くなる
それの捌け口にされただけ
青葉(……私に、救えるのかな…)
不安は伝播する
The・World R:1
Θサーバー 高山都市 ドゥナ・ロリヤック
駆逐艦 敷波
プチグソ「ぶひ…」
敷波(…なんか、さっきより元気なくなってるような…)
敷波「やっぱ飼い主じゃ無いと嫌かな…ごめんなー、お前のご主人様どっか行っちゃったから…」
プチグソ「ぷいぃ…」
敷波「あ、お腹減ってるとか?…そもそもお腹とか減るのかな…えーと…何食べんの…?と言うかお前は…ミニブタ?それとも…」
顎をくすぐってやる
プチグソ「ぷひひ…」
敷波(…なんか健気で可愛いなこいつ……と言うかご飯のこと考えたらこっちまでお腹減ってきちゃった…ゲームの中でのご飯も、飲み水も…どうしたら良いんだろ…)
敷波「お腹減ったねー…うりうり」
プチグソ「ぶひ!」
青葉「あの…」
敷波「へ?アタシ?」
背後に立っていたのはピンク髪の大槍を携えたキャラ
青葉「……敷波さんですよね?」
敷波「…え…っと…?」
青葉「青葉です、宿毛湾泊地の…」
敷波「え?!…ま、マジ?」
言われてみれば…かなり、そっくり…
青葉「マジです…隣、良いですか?」
敷波「…えー…うん」
青葉「…敷波さんは今どこからログインしてるんですか?」
敷波「ログイン……って…そっか、これゲームだもんね…」
青葉「…何か…?」
敷波「……アタシ、生身なんだよ」
青葉「生身…って事は…」
青葉(司令官と同じ…)
敷波「あんまり、驚かないんだね…?」
青葉「司令官もそうですから…」
敷波「司令官に会ったの?何処にいるの?!」
青葉「落ち着いてください、私が司令官を見たのは2019年で…」
敷波「だ、だから…今年でしょ?」
青葉「…そっか、知らないんだ……ここは2009年です、私たちはタイムトラベルをしてるんです」
敷波「…今日って外はエイプリルフールだったの…?」
青葉「本当ですよ、あたりの人に話しかけてみてください、みんな口を揃えて「今年は2009年だ」っていいますから」
敷波「…話しかけたら追い返されるよ」
青葉「え?」
敷波「この世界に来て…多分一日しか経ってないと思うけど、ずっと孤独だった、寂しくて、誰もアタシを受け入れてくれなかった…話しかけても、何もしてないのにチーターだってさ」
青葉「…大変、でしたね」
敷波「うん、大変だった…でも青葉さんに会えた、本当に良かった……」
青葉「…一つだけ伺っても?」
敷波「なに?」
青葉「司令官がこの世界にいる、と言うことを一切疑わない様子でした、もしかして司令官もこの時代に?」
敷波「…わかんない、司令官と会ったのは灰色の街で、ヘルバさんとアタシは石になった司令官に会ったの、ヘルバさんが石から戻して、オレンジの服を着せたのまでは覚えてるんだけど…そこでこっちに飛ばされちゃった」
青葉「オレンジの……じゃ、じゃあ、あれはもしかして…いや、間違いない…!」
敷波「…な、なんかあった?」
青葉「司令官もこの時代に来てます!生身の敷波さんを1人にしておくわけがない、絶対に居る…!」
敷波「お、おお…?」
青葉「…取り敢えず、探しに行ってみましょうか……あれ?」
プチグソ「…ぶひ…?」
青葉「…ブサかわ…」
敷波「あ、青葉さんこの子なんて動物か知ってる?」
青葉「プチグソって言うらしいです、敷波さんの?」
敷波「いや…少し前に無理矢理押し付けられて、2日面倒見ろって」
青葉「…あらら」
敷波「お腹減ってるみたいなんだけど…何か持ってたりしない?」
青葉「……あ、そうだ、さっきエリアで拾ったんですけど…」
未だ見ぬ卵「イマダミヌタマゴッ!」
敷波「ひぃぃっ!?しゃ、しゃべったけど!?」
青葉「そう、喋るんですよこれ、でも…食べるらしくて」
敷波「……ぷ、プチグソが?」
青葉「プチグソが」
殻ごと蠢く妙な卵を青葉さんがプチグソに差し出す
プチグソ「…ぶひ!」
敷波「た、食べた!」
青葉「気に入ってくれたみたいですね…良かった」
敷波「おー、お腹膨れたかー?よしよし」
青葉「…敷波さんには…これ、大丈夫だと良いんだけど…」
水の入った小瓶を渡される
敷波「これは…何?」
青葉「R:2の癒しの水ってアイテムです、回復アイテムなので毒物では無いはず…」
瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぐ
敷波「…何も匂いはない……ええい、ままよ!」
一息に中の水を飲み干す
青葉「…どう、ですか?」
敷波「……味はしないけど…なんか、変な高揚感がある、かも」
青葉「大丈夫でしょうか…あと、これ」
敷波「…何これ、マンゴー…?」
青葉「これもR:2のアイテム、アジアンマンゴーです、たまたま残ってたので…食べられるかも」
皮を剥き、口に運ぶ
敷波「…甘ぁ……疲れが取れるみたいだ…」
青葉「…良かった」
敷波「よーし、元気も出たし…リアルに変える方法探すぞー!」
青葉「…強いですね」
敷波「そんな事ない、弱いから…強いフリしてるだけ」
青葉「…あ、アレは」
敷波「…誰か、こっちに来るね」
淡いベージュの衣装の魔法使いみたいな…
青葉「確か、貴方は…司さん」
司「…ベアと一緒にいた…青葉だっけ」
青葉「…はい、何か用でしょうか」
司「…アンタに用はないよ、そっち」
敷波「…アタシ?」
司「母さんが、会っておけって」
司がアタシを睨みつける
敷波「な、なんだよ…アタシ何もしてないのに何でそんな睨むかな…」
司「…お前が…」
ミミル「あー!居た!」
司「っ…ミミル…!」
ミミル「あ、司もいる!…って言うか、そっちは確かベアの知り合いの重槍士だし…な、何?何の集まりなの?これ」
青葉「えっと…貴方は?」
ミミル「あー、アタシ?撃剣士のミミル、よろしく」
敷波(…どっかで見たような…あ、そうだ、アタシをチーター扱いした奴と一緒にいた…)
ミミル「それよりさ、敷波ってアンタだよね!アンタを探してる奴が居てさー!」
敷波「それで?」
ミミル「そいつに会って欲しいんだけど!」
敷波「…何それ、アタシが助けてって言った時、アンタらは助けてくれなかったよね、悪い事も何もしてないのにアタシを…」
ミミル「…あー…それは、ごめん、アタシ達はアンタのこと知らないからさ、てっきりチーターなんだって思ったんだ、そんなエディットのキャラ見た事ないし…」
敷波「…アタシはアンタらについてくつもり無いから」
ミミル「じゃあ、そいつここに呼んでも良い?知り合いらしいしさ」
青葉(…待って、敷波さんを探す人が司令官だけじゃなかったら?紅衣の騎士団なら…)
青葉「その人は誰ですか?」
ミミル「カイトって奴、知ってる?」
敷波「司令官だ!」
青葉「杞憂でしたか…良かった…」
ミミル「知り合いみたいだね、呼んで良い?」
敷波「良いけ…ど…?」
ゲートの辺りに大量に人が転送されてくる
青葉「…紅衣の騎士団…!」
ミミル「え?…うわっ!」
銀漢「最近The・Worldを騒がせているプレイヤーが3人同時に集まっているか…ちょうど良い、全員捕らえろ!」
青葉「なっ…!?私達は何の不正もしていないプレイヤーですよ…!」
銀漢「青葉とか言ったな、貴様の槍はどんなPCも見た事がないと言っていた」
青葉(…槍、さっさと見つければ良かった)
銀漢「そして言わずもがな、そこの呪癒士、貴様の不正行為は明らかなものだ、更にそっちの…職業すらわからんキャラはエディット不可能なモデルだ、全員捕える!」
敷波「いや、アタシは………」
…誰も、アタシの声に耳を傾けてなんかくれない、か
青葉「…人の話を聞くつもりがないならどうなっても知りませんよ…!」
司「……」
ミミル「ちょい待った!別にここでやりあう必要なんてないっしょ!?」
司「敷波だっけ」
敷波「え?」
司「こっち」
司に手を引かれ、タウンの奥へと走る
青葉「敷波さん!お、追いかけないと!」
ミミル「ちょっと司!」
建物の裏に入った瞬間、景色が切り替わる
重槍士 青葉
青葉「き、きえた!?」
ミミル「…司が逃したんだ…理由はわかんないけど…!」
銀漢「追い詰めたぞ、もう逃げ場はない!」
青葉(…こうまでなると、もう無理…いや…)
青葉「……貴方たちのやってる事は昴様の意思に沿った行為なんですか」
銀漢「何?」
青葉「貴方達のリーダーである昴様が貴方たちのような乱暴なやり方を容認してるんですか、と聞いてるんですよ…!」
ミミル「…アンタ、昴と知り合いだったんだ…」
青葉(違うけど…未来の銀漢さんの言う通りの人なら…決してこんな事認めたりしない人だ)
銀漢「…それは…」
青葉「貴方達はシステム管理者じゃない、あなた達に私たちのプレイを侵害する権利はありません、何より私が仕様外の槍を使っているのなら何故CC社が動かないんですか!」
銀漢「…では、その槍はどうした!」
青葉「……イベントをクリアして手に入れた、もうそのイベントには挑戦できませんが」
銀漢「そんなデタラメが通用するとでも…」
青葉「どうやって違うと証明するんですか、私は仕様に則ってプレイしている、それはCC社が否定しない限りあなた達に否定する事ができない事です!」
銀漢「チッ…!」
青葉「どうなんですか!」
銀漢「…次会う時までに貴様のアカウントは停止されるだろう」
青葉(…やれるものなら、やってみてもらいたいものです)
秘密の部屋
駆逐艦 敷波
敷波「…ここは」
アタシの秘密の部屋とそっくり
違うのは…壊れたクマのぬいぐるみと、ベッドに眠った女の子と、タンス
まるで子供の部屋みたいな…でも、イバラの森に包まれた…
『司、よく敷波を助けましたね』
司「母さんが、そうしろって言うから…」
敷波「母さん…?」
『敷波、外は危険です、あなたは自分を守る力を受け入れるべきでしょう』
敷波「……力」
司「母さん?コイツにもあげるの…?」
『敷波は司、貴方と同じです』
司「やめてよ!嘘だよね!?僕は…!」
敷波(…今、ベッドで寝てる女の子が…少し、暗くなったような…)
司「…それなら、こんな奴…!」
敷波「…な、何、それ」
鉄アレイのような形のモンスターが空中に現れる
敷波(やばいやばいやばい!絶対殺される…!)
敷波「アタシ力なんか欲しくないって!アタシはただリアルに帰りたいだけ!」
司「…リアルに?…なんであんなクソみたいな世界に…?」
敷波「…アタシは!…綾姉ぇと、自分のお姉ちゃんと話さなきゃいけない、ちゃんと仲直りしたい!だから帰りたいの!それ以外何も要らないの!」
司「……」
『なら、敷波、貴方がここに居る必要はありません』
敷波「っ!?」
Θサーバー 高山都市 ドゥナ・ロリヤック
敷波「ったた…」
プチグソ「…ぶひ…?」
敷波「…お前、どこに居たの?…まあ、良いか……青葉さんと司令官、探さなきゃな」