元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 医務室
駆逐艦 曙
曙「……っ…」
春雨「デジャブ、感じません?」
曙「…今度は何日寝てた?」
春雨「2日ですね、雷に打たれて生きてるあたり…人間やめてますねぇ!」
曙「うっさい、そんなことよりどうなったのよ…!」
春雨「…綾波さんは何もせず帰って行きました、ほんの顔見せのつもりだった様ですね…いや、私ならここを落とすのは実に容易だ…とでも言いたいのかもしれません」
曙「それだけのために、あんな事を…?」
春雨「私は前の世界の綾波さんを知りません、ですので断言は不可能です、しかし自身の力に溺れて…それを愉しんで」
曙「溺れてる?それどころか完璧に使いこなしてるじゃない、アイツに被害者意識持つのやめなさいよ、アイツは根っこからああ言うやつなの、力なんかなくても智略で人をいたぶるわ」
春雨「…そう、ですね」
曙「アンタが駆逐棲姫…綾波とどんな関係なのかなんて知らない、なんならどうでも良いって思ってる…だけど…もし今の言葉でアンタを傷つけたなら謝る、悪かったわ」
春雨「……私は、たとえ誰が何を言おうと綾波さんを信じる、取り戻す…それに全てを賭けたいと思った、もう今更…何も感じません」
曙「…そ」
春雨「それより…目を覚ました日に無茶して挙句やられる…そんなマヌケを私は見た事がありません」
曙「容赦無いわね」
春雨「自分の命を粗末にしないでください、医官としての立場上注意せざるを得ません」
曙「…そう、まあ…良いわ、別にどうせ長く持たないんでしょ?」
春雨「……白斑症」
曙「…はく…?」
春雨「貴方、鏡を見ては?」
手鏡を手渡される
曙「別に変なとこなん…っ…!」
顎の下に一箇所、真っ白な肌になっている場所…
春雨「白斑症という病気は皮膚のメラニンが失われ、その部位が白くなる病気です…が…」
曙「…これって…青葉と同じ…?」
春雨「貴方のそれは私には深海棲艦になる過程に見えて仕方ない、どうです?」
曙「…アンタと気が合うとは思ってなかったわ」
春雨「私は貴方に体調の変化を問いかけたんですが?」
曙「……それは、快調ね、むしろ…良くなってる」
春雨「それは最悪ですね、貴方に何が起きてるのか…具体的に調べたいところなんですが…」
曙「何、なんかあるの?」
春雨「ここから南西に40浬、決して遠くはない距離に深海棲艦の拠点が出来たようで…輸送船を襲撃されそうになりました」
曙「…被害は」
春雨「勿論ゼロ、貴方じゃない曙さんはそう言ってのけましたが…珍しくあの方も怪我をされていました」
曙「…向こうはそんなに強いの?」
春雨「いいえ、しかし面倒なことに簡単じゃないんですよ、一眼でわかる役割を与えられている」
曙「役割…」
春雨「現れたのは駆逐級と軽巡級の混合部隊、簡単に一掃できるはずが…何の冗談か、盾のようなものを構え出した」
曙「…は?」
春雨「全部が盾を構えてるわけじゃない、3匹に1匹くらいで盾を取り付けられたのがいたんです、それは戦艦砲を受け止めてみせた、相当に硬いんですよ」
曙「……だとしても…」
春雨「曙さんは圧倒しましたよ、圧倒的な力の差があります、たとえどんな戦術をもってしても覆せないと思わせるほどの…しかし向こうは本当に単純な戦術を複数個用意していました」
曙「…例えば」
春雨「盾が曙さんの周囲を取り囲み、盾の隙間から一瞬顔を出して攻撃、当てることを狙わない、当たればラッキーのような攻撃、艦載機が出れば盾を上空に向けて砲撃戦を繰り広げる……実に単純な事です、しかしそれはまるで…意思を持った軍隊のようです」
曙「……何であいつは怪我したのよ」
春雨「慢心はなかったでしょう、となれば…一瞬でも綾波さんの作戦が曙さんの強さを上回ってしまった」
曙「そうじゃない、今のあいつは戦艦レ級なのよ?そこらの雑魚の攻撃なんて…」
春雨「それが効いてしまった…恐らく理由は…使う砲弾が変わった事」
曙「なにそれ」
春雨「深海棲艦が使うのは一般的な榴弾です、どの種類でも」
曙「…それで?」
春雨「今回使われたのは徹甲弾、貫通力だけを意識した構成、曙さんは狙い撃ちにされた…」
曙「アイツを自分達の実験台にするための戦いだった」
春雨「その通りです」
曙「…何考えてんのか、さっぱりわかんないわ」
春雨「…私にもわかりません」
工廠
重雷装巡洋艦 キタカミ
キタカミ「…あれ、なんだろこれ」
明石「…タロットカード?」
キタカミ「…ふーん…タロットカードねぇ」
一枚めくる
キタカミ(死、ねぇ……あんまり占いは信じてなかったけど…)
阿武隈「あー!キタカミさん!」
キタカミ「げ…」
阿武隈「何で今朝の特訓に付き合ってくれなかったんですか!今まで欠かしたことなかったのに!」
キタカミ「…あたしも気が乗らない日くらいあるさね」
阿武隈「…え…?」
キタカミ「さて、行った行った、あたしも忙しいんだから」
阿武隈「……キタカミさん、どこが悪いんですか?」
キタカミ「…んや?別にそんな事ないよ」
タロットカードを手に取り、シャッフルする
阿武隈「あ、タロット占いですか?」
明石「…詳しいんですか?」
阿武隈「いやー…少し学校で流行った時に…」
キタカミ「へぇ、じゃああげるよ、深海棲艦の基地だった頃の名残みたいだし」
阿武隈「わーい、じゃあキタカミさん占ってあげましょうか!?」
キタカミ「…お断り」
阿武隈「こうやってカードを混ぜて、上から七枚目と、そこからさらに七枚目…よし、これで二枚選びました、先に選んだ方は結果、そして後の方はその対策です!」
キタカミ「いや、良いって…」
阿武隈「えーと……死の正位置…」
キタカミ「…ほら、碌でもない」
阿武隈「うえぇ…あ、そうだ!対策は……隠者の正位置?」
明石「どうなるんですか?」
阿武隈「…危険が迫ってるから隠居しろ…ってところでしょうか」
キタカミ「おー、そりゃいいね、で?誰がここ守れんのさ」
阿武隈「それは……あたしだって、みんなを守ってみせますから…!」
阿武隈のデコを指で弾く
阿武隈「あだっ!?」
キタカミ「んー…たかが占いなんだからさぁ…そんな重く捉えないでくれない?」
阿武隈「あはは…」
キタカミ「ま、ちょっと調子悪いかもしれないし…今日は休むかなぁ」
明石「まあ、いつも頑張ってもらってますから…ゆっくり休んでください」
キタカミ「オイルの匂いにも慣れてきたつもりだけど、鼻が効きすぎるからかねぇ?」
キタカミ(…馬鹿にできないもんだねぇ…なんでも)
駆逐棲姫のアジト
駆逐棲姫
駆逐棲姫「んー、完成…って言うか脚を弄っただけですけどねぇ…」
護衛棲姫「駆逐棲姫様、ソレハ?」
駆逐棲姫「私の新しい義足ですよ、うーん…まあ、生身の足にするのも簡単にできるんですけど…敷波の罪悪感をくすぐれるのかと思うと勿体無いですしねぇ…それならこうやっておもちゃを仕込んでも悪くない」
護衛棲姫「…駆逐棲姫様ノグローブニ見慣レナイスイッチヤレバーガ…」
駆逐棲姫「これは…いわば必殺技用の道具でしょうか」
護衛棲姫「必殺…?」
駆逐棲姫「まあ、ゲームとかに良くあるアレですよ」
護衛棲姫「…ゲーム…娯楽ノタメノ玩具」
駆逐棲姫「ま、ロマンみたいな考え方もありますけど…必殺技って非常に効率的じゃありませんか?高負荷を必要な時だけに使えば最低限のダメージで敵を仕留められる…実用的なのならね」
護衛棲姫「ソウナノデスカ」
駆逐棲姫「当然それを常に使えばとても強いでしょう、しかし自身への負荷も大きいし…発動シークエンスを面倒にしておかないと敵に機械を奪われたら困るじゃ無いですか」
護衛棲姫「ナルホド」
駆逐棲姫「でも、必殺技を使い続ければ良いって考え方ありますよねぇ…わかりますよ、私はよーくわかる…しかし、それは体を蝕み続けるだけ、青葉さんやレ級さんのようにね」
護衛棲姫「?」
駆逐棲姫「人の身でありながら深海棲艦の力を無理矢理行使し続ける…そうすれば人でも深海棲艦でもないバケモノとなる…そしてバケモノは…死を悼まれることすらない…青葉さんの末路にしては上等かな」
護衛棲姫「…アア、アノ裏切リ者ノリ級デスカ」
駆逐棲姫「もともと味方じゃありませんよ、レ級さんもそろそろルールに気付いてる頃でしょうし…いや、周りが違和感に気づくのが先かなぁ…」
護衛棲姫「ルール?」
駆逐棲姫「深海棲艦の身体に必要な生命エネルギー、あの人の求める容量…でも、あの人は甘いですからねぇ…クッ…アハハハハハ!優しさに優しさが返ってくることなんてないんですよ…!よく覚えておきなさい、優しさは簡単に裏切られますよ」
護衛棲姫「ハイ、駆逐棲姫様」