元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
駆逐艦 島風
島風「…ありがとう、明石さん」
明石「…これ、できるだけ使わないでください、島風ちゃん、貴方を蝕むものであることは何も変わらない」
島風「……使わなくても良いのなら、私も使いたくは無い…」
明石「……」
岩が砕けるような音が響く
明石「な、なに!?」
島風「外だ…!」
駆逐水鬼「ん〜、実にいいフライトでしたねぇ…でも、夜も遅いって言うのに騒いじゃったから迷惑かも…御近所さんに迷惑かけちゃいけませんからねぇ…あ、40浬も離れてたら近所じゃないか」
神通「…っ…う…」
駆逐水鬼「あら、もう回復してる…でも、AIDAは引っ込んじゃいましたねぇ?」
神通「…かはっ…」
駆逐水鬼「ほら、お喋りしましょう?あなたは育ちすぎてて素体にはできませんけど…いや、手足を削って…頭と胴体が大きすぎるから論外か」
島風「…何、これ」
駆逐水鬼「おや、島風さん…前より雰囲気が少し弱々しくなりましたか」
島風「え…?」
神通「に、逃げて…」
駆逐水鬼「…ああ、この姿じゃわかりづらいか」
駆逐水鬼の姿が変化する
駆逐棲姫「ほら、わかりますか?」
島風「駆逐棲姫…!」
駆逐棲姫「うーん、こっちはなんかセーブモードみたいな感じであんまり強く無いんですけどねぇ…顔見せは便利だし、まあ良いか」
島風(…やるしか、ない…)
黒いモヤが右手に集まる
駆逐棲姫(…やはり、あなたはソレに頼るしか無い)
島風「……前とは違う、から」
駆逐棲姫「…ほう?」
モヤが腕輪の形を作る
島風「……私は、この力をみんなを守るために使う…例え、これがあなたと同じ力だったとしても」
駆逐棲姫「成る程、やって見れば良いですよ」
島風「…最速」
通り過ぎ様に一閃、首を刎ねる
駆逐棲姫(…首、何か守るもの付けておこうかなぁ…)
駆逐棲姫の体が霞のように消え、再び無傷の姿で現れる
駆逐棲姫「…おや」
島風「…今度は、暴走なんかしてない」
駆逐棲姫「……成る程」
駆逐棲姫(秋津洲さんはやはり使えないな、真の価値は機械的な演算能力にあるのに…いくら速くても幼稚な戦術、ワンパターンな攻撃では何にも敵わないというのに)
神通「…充分回復できました、私も戦います」
島風「……行くよ!」
駆逐棲姫「まあ、お相手しましょうか」
加速し、斬りかかる
駆逐棲姫「……その力を与えたのが誰かお忘れですか?」
双剣をグローブで受け止められる
島風(…やっぱり、駆逐棲姫も加速できる…!)
駆逐棲姫「…ふふ…まあ、私が継続して使えるのは5秒と言ったところですけどね、それ以上は再生しながら無理矢理戦うことを強いられる」
島風(……5秒なら、なんとかなる…?)
神通「やあぁぁぁッ!」
駆逐棲姫「鈍い」
背後から振り翳された槍を回し蹴りで弾く
神通(今はとにかく島風さんを援護するしか無い…私ではあの速度には追いつけない…とにかく、少しでも邪魔を…!)
駆逐棲姫(…とか、考えてるんでしょうが…違うんだなぁ…)
島風(…加速しても思考時間は増えない、意識も気を抜いたら持って行かれそうになるくらい速い……要するに、車に乗ってるのと同じ、移動時に加速してるだけ…決して私の時間は増えない…)
駆逐棲姫の周囲を走り回る
島風(大丈夫、狙える…一瞬で仕留められなくても…持久戦に持ち込めば…)
駆逐棲姫(…さすが私が作っただけある、速すぎて見えませんね…でも、あなたみたいなオツムの弱い人の行動なんて手に取るようにわかる…私は対処の瞬間だけ加速するだけで良い)
背後からの刺突、確実に背中を取ったのに駆逐棲姫をすり抜ける
島風「…かわされた…」
駆逐棲姫「すり抜けたみたいに感じたでしょう?アハッ…楽しいかもしれませんねこれ」
駆逐棲姫が此方にゆっくりと歩いてくる
感覚が研ぎ澄まされた私には、そのゆっくりがまるで何分も、かけているように…
島風(隙を見つける…ほんの一瞬でいい、隙を…)
神通「…はぁッ!」
神通さんの背後からの刺突を駆逐棲姫はすり抜けるようにかわす
神通「まだです!」
神通さんの左肩から黒い泡が吹き出す
駆逐棲姫「おや」
神通「見なさい…!」
駆逐棲姫の立っていた場所に大きな赤熱する十字の傷跡が刻まれる
駆逐棲姫(流石に威力は高い…気になるのは、純正のAIDAは私を殺しうるのか…下手にダメージを受けるのは不味そうです)
島風(とった!)
駆逐棲姫の背中に双剣を突き立てる
駆逐棲姫「っと…考え込むのは私の悪い癖か」
島風「…背中を刺されたのに…なんともない…?!」
駆逐棲姫「当たり前でしょう、不死なんですから…もう痛覚も切ってるので不快感しかありません」
島風(不死…深海棲艦を元に戻すにはデータドレインしか無いのなら…)
何かが軋むような音がする
島風(…っ!腕輪にヒビが…!…無限に使い続けられるわけじゃ無いんだ…)
後方に跳び、双剣を構え直す
駆逐棲姫(…あの不安そうな顔色、今のバックステップと構え、消極的な行動に出そうですねぇ…好都合ですが)
神通(…速さ、そしてパワーも向こうが上…殺しきれなくてもいい、ここから排除するには…)
島風(今、勝つためには…!)
駆逐棲姫「…おや、てっきりもう少し弱気になるかと思えば…いい気迫です、私もそれに見合った力を…」
駆逐棲姫の頭に砲弾が直撃する
キタカミ「良かったー、2人ともまだ無事で…間に合ったかー」
曙「早朝からロクでも無いやつの辛拝むなんて、最悪ね…その上、神通、アンタあとで事情聴取だから」
神通「…わかっています」
駆逐棲姫「……皆さん揃って私の首や顔に何の恨みがあるのやら」
曙「アンタがどんだけ恨み買ったか、自分でやったことわかってるんでしょ?」
駆逐棲姫「当然!わからないわけないじゃ無いですか!」
駆逐棲姫がにっこりと笑う
キタカミ(…マジで腹立つなこいつ)
曙「島風、キツいなら退がりなさい」
島風「…大丈夫…!」
駆逐棲姫「さて、4対1ですし…少しレベルアップしますね」
駆逐棲姫の姿が変わる
キタカミ「…成る程ね、変な匂いが混じってたのはそれか」
曙「それは…」
駆逐水鬼「さあ、レベル2ですよ…ああ、でもあなた達はレベル1も攻略前でしたねぇ?ふふっ」
神通(…曙さん…)
曙(…神通のカバーに入るか、キタカミならこっちに合わせてくれる)
神通さんと曙が前後から斬りかかる
駆逐水鬼「おや」
駆逐水鬼の巨大な腕が曙の双剣を防ぐ
神通(背中がガラ空き!)
神通さんが大きく体を回転させ、手刀と槍の刺突を同時に放つ
神通「…え、の、呑み込まれ…!」
駆逐水鬼「背中を狙い続けるなんて…なんて卑劣なんでしょう!素晴らしいですよ、神通さん…貴方は気が向いたので食べることにします♪」
神通さんの槍と腕が駆逐水鬼にだんだん深く刺さっていく
しかし苦しそうなのはむしろ神通さんの方で…
キタカミ「神通!」
神通「やってください!」
駆逐水鬼「っと」
神通さんの腕が砲撃で吹き飛ぶ
神通「ッ!…ぐ……!」
駆逐水鬼「両腕を犠牲にしましたか、判断も早い…しかし、私はもう食べると決めましたから…」
神通(再生に何秒かかる…!私に迫るこの深海棲艦を払い除ける腕が早急に要る…!)
曙「燃え尽きろ!!」
駆逐水鬼「無駄ですよ、貴方の攻撃ではこの腕に全て防がれる」
島風(…そうだ……例え、ダメージにならないとしても…)
駆逐水鬼「…おや、島風さん、私の前に立ちはだかってどうするんですか?まさか…貴方如きでどうにかなると?」
島風(加速した瞬間にはきっと反応できない…だから、この近距離で…!)
僅か1メートルほどの間合いの為に、トップスピードを出し尽くす
駆逐水鬼「……成る程、貴方も賢い子ですねぇ…まさか目を潰されるとは」
曙(今なら…あの大腕の付け根を狙える!)
島風(斬り落とす!)
駆逐水鬼「…んー…まだ視界がぼやけ…あ、あた…眼球が潰れましたかね?」
キタカミ「潰したからねぇ…良い的が2つもあるし…鼻と口にも見舞おうか?」
曙「今!」
島風「っりゃぁ!」
駆逐水鬼の大腕が金属のような音を鳴らし地面に落ちる
駆逐水鬼「おや、おやおやおや」
神通(私も再生が終わった…これで戦える!)
駆逐水鬼「んー!良いですねぇ!」
駆逐水鬼が大きく伸びをし、柔軟体操のような動きをして見せる
キタカミ(…効いてないどころか、再生する素振りもない)
駆逐水鬼「腰が軽くなりました…バランス悪くて困ってたんですよ!」
島風「ぎゃっ!?」
頭を蹴りで打ち砕かれる
ボールのように地面を跳ね、そのまま倒れる
曙「島風!」
駆逐水鬼「ああ!しまった、強すぎましたか?気絶するくらいに調整したつもりでしたがまさか死んだんじゃ……まあそれならそれで良いんですけど…」
キタカミ(…これは、相当やばい気がする…)
駆逐水鬼
駆逐水鬼(しかし、レ級さんが出てこないのが気になるな…まあ、島風さんのデータは取れたし…)
グローブをはめ直す
駆逐水鬼「そろそろ終わりましょうか」
曙「こっちもそのつもりよ!!」
炎が私を焼く
曙「もう、防がせない」
複数の方向から軽い斬撃
駆逐水鬼(…炎のせいで何をされてるのか掴めない…でも、逆に何をしてるのかバレない)
スイッチを操作する
駆逐水鬼「あーあ…炎が裏目に出ちゃった」
炎を義足が吸い込む
曙「なっ…!?」
神通「炎を、取り込んで…」
駆逐水鬼「ほら、お返しです……逃げられますか?」
加速し、キタカミの背後に回る
曙「消えた!?」
神通「違う!キタカミさん!」
キタカミ「…流石に無理」
背後から蹴り、炎を放つ
キタカミ「…ぐ…」
キタカミが崩れ落ち、炎に焼かれる
曙「キタカミ!よくも…!」
駆逐水鬼「ああ、そうだ、貴方のデータも欲しいなー…」
神通(今!)
AIDAの腕に掴まれる
駆逐水鬼「…ああ、しまった、油断した」
神通「はあァァッ!」
地面に叩きつけられ、槍とAIDAの腕による斬撃
かろうじて急所を避けるものの両足を切断される
駆逐水鬼「…凄い、痛いですよ!痛覚遮断してるのに痛い!アハハッ!」
神通(効いてる!このまま…)
駆逐水鬼「でも…流石にウザいですね、貴方」
神通「っ!?」
曙「…え…?神通が消えた…?」
駆逐水鬼「いやー…邪魔すぎるので、デジタル空間に放り込んでおきました、自力で帰ってこられるのかな?」
曙「…それって…」
駆逐水鬼「ま、逞しいし生きて帰れるかもしれませんね、運が良かったら……うわ、再生できない?…いや、速度が遅いのか…神通さんも中々やるなぁ…」
曙(…コイツを…!)
駆逐水鬼「ん?」
曙「今!アンタを殺してやる…!これ以上誰も傷つけさせない!」
駆逐水鬼「……やっぱり頭は弱いんですねぇ、4対1が1対1になったの気づいてます?…それともこの足が無くなったから倒せるとでも?」
曙「そんなの関係ない…ただ、もう我慢の限界なのよ!」
周囲の温度が急激に上昇する
駆逐水鬼(…適合率が跳ね上がりましたか…やはりストレスを与えるべきか、しかしもう私の体は限界…仕方ない、軽くあしらって撤退しましょう)
曙「あああぁぁぁぁぁッ!!」
曙さんの周囲の地面に火が灯る
駆逐水鬼「…ほんとにいい素体だ、欲しくてたまらない、だけどまだ収穫には早いか」
曙「死ねぇぇぇぇッ!」
炎を纏い、異常な速度でこちらへと駆けてくる
走る度に地面が砕ける異常な音が響く
駆逐水鬼「…素敵です」
かわせない、正面から迫ってくるアレを受け止めなければならない
駆逐水鬼「ああ、素晴らしい…」
曙「ぁがあっ!?」
駆逐水鬼「…驚きました?ソレ、自立式にしてあるんですよ」
大腕が曙さんを押し潰す
曙「がっ…あ"…!」
駆逐水鬼「…貴方の成長に期待してますよ、素敵なレ級になってくださいね、have a nice day!」
一例し、その場から姿を消す
医務室
駆逐艦 春雨
春雨「…それで、何の用ですか」
レ級「まず、先にキタカミさん達は?」
春雨「…全身火傷のキタカミさんに、脳挫傷の島風さん、曙さんは両脚等の骨折…どれも、本当にひどい状態です、しかし最も危険なのはキタカミさんですね、呼吸したせいで気道熱傷もあります、今は酸素マスクで呼吸できていますが…」
レ級「…そうですか」
春雨「「そうですか」?…貴方は、確かに貴方は重傷を負った3人をここに連れてきた、しかし…自分が何をしたのかわかってるんですか…貴方はあの人たちを見殺しにした!」
レ級「死んではいません」
春雨「…一歩間違えれば死んでたかもしれない」
レ級「私は、朧に戦うなと言われたから戦わなかった、それだけです」
春雨「……冗談言ってる場合じゃないんです、貴方そんなチャチな事のために…!」
レ級「…それが、何だというのですか、チャチだからなんだと?私はそんな小さなことに拘る人間じゃないとでも思っていましたか」
春雨「貴方の仲間でしょう…!」
レ級「なら、貴方が助けに行けば良かった」
春雨「……言い訳でしかないですが、所詮私では貴方達の足手纏いにしかなりません、それに唯一の医官の私が怪我をするわけにはいかなかった」
レ級「…私は、所詮チャチなやつです、貴方達の思ってるほど立派な存在じゃない」
春雨「貴方は、自分の提督を裏切ったこと、理解しているんですよね…?」
レ級「……」
春雨「守れって言われたんですよね…?なのに、何で助けなかったんですか…!」
レ級「…失礼します」
春雨「…逃げるんですか」
レ級「ええ、返す言葉も…見つけられませんでした」
春雨「おはようございます、お二人共」
曙「…今回は?」
島風「6時間…だって」
春雨「まだお昼にもなっていません、ゆっくりなさってください」
曙「……また、同じ相手に何回もボロ負けにされたわ」
島風「…勝てる気がしなかった…何をしてもダメな気がした…」
春雨「どうか気を病まないで下さい、気を病んで仕舞えば怪我の治りも悪くなる…」
曙「…治ったところで、この脚じゃもう歩けないわ」
島風「……でも、また戦わないと…」
2人共、明らかに心が弱っている
特に島風さんはそれが顕著に見える戦うことへの躊躇いが、恐怖がみてとれた
春雨(…朧さんが帰ったら撤退を示唆するべきか、こんな所…維持できるわけがない、有事の際にどこも助けてくれない、補給すらもままならない…ここはやはり呪われた土地だ)
春雨「大丈夫です、焦る必要なんてないのですから」
私は私にやれる事をやるしかない
足手纏いになる訳にはいかない
春雨「カーテンを閉めてもよろしいですか?」
曙「…どうして?」
春雨「少し着替えをしたいもので」
島風「あー…そっか、うん、閉めて」
曙「自分の部屋あるでしょうに…」
春雨「なにぶん、忙しいもので」
2人のカーテンを閉め、キタカミさんのベッドへ向かう
キタカミ「……」
春雨(…お目覚めはまだ、か)
全身の火傷はなかなかに深い、全身に水膨れができ、顔は特に原型を留めていなかった
皮膚は布が擦れれば崩れ落ちる、肉すらも簡単に剥がれ落ちる、待機中の細菌から感染症になる事も警戒せねばならない
だから、やむを得なかった
春雨(…修復剤の効果は流石だ…しかし、これが最後の使用にしたい…これがただ傷を治す薬じゃない事は周知の事実なのだから)
春雨「お待たせ致しました、何か必要なことがあれば何でも言いつけてください、私は言うことを聞く患者には優しいので」
曙「…服、変わってない様子だけど」
春雨「ああ、白衣を上からきてますし…気づかなくても無理ありませんよ、それとも私の裸体をお望みですか?私はそんな趣味ないんですけど…」
曙「……アンタと話してると頭痛くなってくるわ」
春雨「頭痛薬、いります?既に鎮痛剤を処方してますけど」
曙「…やめとく」
島風「……」
春雨(…朧さん達の帰還が早まることを祈るばかり、か)