元勇者提督 作:無し
横須賀鎮守府
駆逐艦 朧
朧「…神通さん、大丈夫かな…」
川内「神通なら大丈夫…奥の手を使った神通は私より強いから」
那珂「…姉さん知ってたの?私逃げる時に初めて見て知ったよ…AIDAの事」
川内「曙からね、AIDAにわざと感染して扱おうとしてるって話を少し前に…まあ、そうでなくても知ってはいたんだけど…ほら、神通の精神が少し不安定だったでしょ…?だから…」
朧「AIDAで感情が…って事ですか」
川内「ま、もう隠し事しなくていいって意味では…やり易くなったのかも……それより、早く荷物を受け取って引き上げよう」
朧「…わかってます」
部屋の扉がノックされる
浜風「失礼します、荷物の用意ができました…」
朧「ありがとうございます、よし、行きましょうか…」
浜風「…あの、もう出るんですか…?そちらのお二人はまだ目も覚ましてないのに…」
朧「船に乗せられるので、大丈夫です」
浜風「……そうですか」
朧(大丈夫では無いんだけど…すごく、嫌な胸騒ぎがする…ここに長居しちゃいけない様な、早く帰らなきゃいけない様な)
川内「…そういえば、向こうだと何の情報も入らないんだけど…何も変わりはないの?」
浜風「ええと…まあ、事務仕事が非常に忙しくなったくらいでしょうか…」
川内「へぇ…」
浜風「…後は、電さんは機嫌が良かったです…最近来た人たちのお陰なのか…」
朧「…最近来たって、暁達?」
浜風「いえ…あー、合ってるのかな…雷さんと山城さんって方なんですけど…」
朧「2人とも意識が戻ったの!?」
浜風「えと…そ、そうらしいです…それでこっちで引き取ると…」
朧「…それは、良かったね…先に教えて欲しかったけど…」
川内「まー…あの腹黒の電だしねぇ」
那珂「なんか性格悪いよね…」
浜風「あ、あんまりそういう事は…地獄耳ですので…」
朧「そうだね…よし、帰りましょう」
船の荷物を点検する
朧「……綾波」
一度追い詰めることができたとしても…2度目はあるのか
もう私の攻撃が綾波を捉えられるとは思えない
朧「今のままじゃ…ダメだ」
那珂「え?何か間違ってるのある?」
朧「あ、ごめんなさい…なんでもないです」
綾波を倒すのに、同じ手は通用しない…それどころか、格闘戦に持ち込む前に殺されるのが関の山…
何か、何か思いつかないと…
離島鎮守府 医務室
駆逐艦 春雨
春雨「…目が覚めましたか?…キタカミさん」
キタカミ「……」
春雨「島風さんと曙さんはごねるので自室療養としました、しかし…貴方の凄さは強さだけじゃないんですね…みんな、貴方を見舞いに来た…球磨型は勿論、古い付き合いの方だけじゃない、大鳳さん達や朝潮さん達…みんな貴方を心配なさってましたよ」
キタカミ「……」
春雨「……なぜ、何も言わないんですか?」
キタカミさんは首を横に振る
春雨「違う…?まさか、喋れない…?」
今度は縦に首を振る
キタカミ「……」
春雨「そんな、修復剤の効果は完璧…いや、まさか体内には効かない…?…違う、骨折も治ったことがあるし…なんで?わからない…!」
キタカミさんは手でペンと紙を求める
春雨「…これで良ければ」
キタカミ[悪いね、呼吸もし辛いし、あんまり効いてないのかも、元深海棲艦だからかな]
春雨「…そんな事、あるの…?なんで治らないの、修復剤にまで手を出したのに…」
キタカミ[取り敢えず、助けてくれてありがとう。命あっての物種、生きてるだけでありがたいよ]
春雨「……それは、良かったです」
キタカミ[手も、あんまり動かせないし…戦線に戻れるのか少し不安だね]
春雨「…手も…?他に悪い場所はありますか…?」
キタカミ[多分今は立てない、足も腰も酷く痛いし…治るのかな…]
春雨(…修復剤は、万能じゃない…って事ですか…)
キタカミ[明石は?]
春雨「先程いらっしゃった際に…これを…必要ないとは思いましたが、どうやら…必要になってしまったようで」
杖を差し出す
キタカミ「……」
春雨「…何か必要なことがあればすぐに仰ってください、できる限りのことはさせていただきます」
キタカミ[あんまり手間はかけさせたくないから、気にしないで]
春雨「貴方は気を使う立場では…いや、なんにせよ必要になればすぐ呼んでください…」
キタカミ[ありがとう]
春雨(…このままで大丈夫なのか、皮膚は元の綺麗な状態だが内部はどうなんだ、悪化の事も考えれば医療施設に送るべきだ…だけど、この人は朧さんや曙さんとは違う形の精神的支柱…この人が消えた代わりは誰ができる?…私に、何ができる?)
春雨「…帰ってきた」
波止場
春雨「…お帰りなさい、予定よりやや遅かったですね」
朧「神通さんは?」
春雨「…状況は貴方の思ってる以上に深刻です、綾波さんは…ここに乗り込み神通さんを消滅させ、キタカミさん、曙さん、島風さんに重症を負わせました」
朧「え…?」
川内「神通がやられた…?」
春雨「デジタル空間に送ったと言っていたそうです…倉持司令官と同じ様な状態なのではないでしょうか」
川内「…神通…」
那珂「大丈夫…神通姉さんならそのくらいなんとかできるよ…」
春雨「……示唆するだけにしようと思っていましたが…朧さん」
朧「……」
春雨「ここを捨てましょう、私達にここは無理です」
朧「…それは」
春雨「貴方も、ここを率いる立場なら分かるはずです…人員が足りない上に、設備もまともなものがない…敵は以前の世界より狡猾な上に…強い、いや…私たちが弱いのか」
川内「でも、ここを離れても…」
春雨「ここを離れれば!…怪我をした人がちゃんとした設備で適切な処置を受けられます…少なくとも、高速修復剤なんかに頼る必要性は減る」
川内「…春雨、それが本音なんじゃないの…?春雨は修復剤を使いたくないだけじゃ…」
春雨「使いたくないに決まってる!あんな意味のわからないもので治した気になるなんて…そしてまたそれで斃れ、修復剤を使い、戦う…?そんなの道具と同じ…私達は人になったんでしょう!?」
川内「……人だとしても、それと同時に艦娘だ、果たすべき役目があるんだよ」
春雨「役目なんて知らない、それの為に死ぬ事の何が正しいの…?そんな役目なんかがあるせいでここにいるなんて…絶対にそんなの間違ってる…!」
川内「…春雨…?」
春雨「私は、前の私はここで、丁度今、貴方達が立っているそこで身を投げて死んだ!…それは戦う事しかできない艦娘というAIだったから…でも、この世界は私達を人間にしてくれた…命を危険に晒し続ける必要を取り払ってくれた…絶望しても…別の道を歩む機会をくれた…だから、ここで死ぬ選択をしないで、ください…」
朧「……ここは、離れられない…」
春雨「…なんで…」
朧「特に…アタシや、曙は絶対に離れちゃいけない…綾波はその気になれば何処にでも行ける、何人でも殺せる…いや、何百、何千何万…いくらでも…だから、アタシは…本土に行けない…」
春雨「……民間人を巻き込む…か」
朧「…今の話でアタシの認識は変わった、ここは最前線の基地じゃない…綾波の興味対象の隔離施設…本土に行ったら、隠れたりしたら…それこそもっとたくさんの命が失われる」
春雨「……」
川内「…なんにせよ…アレを倒さなきゃならない…勝てるのかな」
朧「……わかりません」
駆逐棲姫のアジト
駆逐棲姫
駆逐棲姫「…うーん…曙さんは適合率30%くらいかなぁ……あ、島風さんは死んでないのか…良かった、でもそれよりも…朧さん、どうやって殺そうかなぁ…本当に久しくイライラしましたよ…」
護衛棲姫「失礼シマス、駆逐棲姫様」
駆逐棲姫「あら?なんかありましたぁ?」
護衛棲姫「駆逐棲姫様ノ精神計測機器ニ異常ヲ認メマシタノデ…」
駆逐棲姫「ああ、それは仕方ないですよ、久しぶりにあんなにイラつきましたから…うーん…まあ、貴方や装甲空母鬼でも十分殺せるでしょうが、朧さんだけは私が直接殺したいですねぇ」
護衛棲姫「私ハ駆逐棲姫様ノ思ウママニ」
駆逐棲姫「下がっていいですよ…あ、そうだ、予備の義足を持ってきてください、私の脚、どうやら再生しても義足は帰ってきませんから」
護衛棲姫「ハイ」
駆逐棲姫「…従順ですが、つまらない子ですねぇ…ま、そういう風に作ったんですけど…」
離島鎮守府 工廠
工作艦 明石
明石「え?これを私に?」
レ級「調整して、使える様にしてください…サイズはそのままでいいので」
明石「……あの、なんか…生身の脚ついてるんですけど…」
レ級「鹵獲した戦利品ですから…ああ、脚の方は私が…解析に回します」
明石「は、はあ…」
レ級「完成したら…朧に渡してください」
明石「…朧さんに?」
レ級「すいません、失礼します」
明石「……見た事ない造り…その上、この規格でこんな機能…何かを操作して…うーん…ここのスペースは………ふむふむ…」
鹵獲艤装をいじくり回す
明石「…信じられないけど、この規格で出せる出力は戦艦の艤装のそれを軽く超えてる…まるで、この世界のルールから外れてるみたいな………あ…?…まさか…これ、本当にこの世界のルールから外れて…何、これ…」
目に熱が籠る様な感覚
鹵獲艤装が反応してる様な…
執務室
提督代理 朧
亮「…なんだ、俺に用って」
朧「春雨さん達についてあげてください…精神的に弱ってます」
亮「…お前もだいぶん弱ってる様に見えるけどな」
朧「アタシは……アタシは、まだ大丈夫です、助けが必要になったら…助けてって言えるから…でも、春雨さん達はそれが言えない
亮「……そうか、わかった」
部屋には、私1人が残される
朧「…アタシは…どうしたらいいんだろう」
運んで来たもののリストを見る
本部が火野さんの体制になったおかげでこちらに色々と融通してくれている…大型の発電機、ある程度新しい医療機器、大型のアンテナ
朧「…綾波を倒すのに使える物は何もない…」
倒さなきゃいけないのに、倒す手段がない
朧「…熱い…?」
目が熱い
ふらふらと立ち上がり、何処かを目指す
工廠
朧「…明石さん?」
明石「あ、朧ちゃん…」
明石さんが手に持ってるのは…
朧「綾波の、義足…?」
明石「えっと…鹵獲品だけど」
朧「……あれ、明石さん、その目…」
明石さんの目に、何かの紋様が浮かんでいる
明石「朧ちゃんも……目が」
朧「へ?」
目を片手で覆う
明石「……ダミー因子…?まさか、朧ちゃんも?」
朧「ダミー因子…」
何処で埋め込まれたのだろうか
碑文の力を人工的に作り出した…いわば偽物の碑文
朧「…明石さん、その艤装借りてもいいですか?」
明石「えっ…まだ調整前だけど……」
艤装を脚につける
嫌に馴染む、不思議な感覚
朧「……これ、アタシにください」
明石「あー、うん、曙さんにもそう言われてるからそうするつもりだったけど……まだなんの調整もしてないから、もう少し待って」
朧「はい」
朧(綾波の作った物だけど、手の内は全て筒抜けだけど…これなら力負けしない気がする…まるで、自分のために作られたみたいな変な感覚…)
駆逐棲姫「へっくしゅん!…んー…風邪なんかひく身体じゃないんですが…寒気もするし、今日は暖かくして寝た方が良さそうですね」