元勇者提督   作:無し

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悪転

横須賀鎮守府 執務室

重巡洋艦 アオバ

 

アオバ「失礼します!」

 

大淀「アオバさん…!?まだ入院してるはずじゃ…」

 

アオバ「司令官はどちらにおられますか!」

 

大淀「今は会議に出てます、要件なら…」

 

大淀さんに退職届を叩きつける

 

アオバ「今日限りで…いや、今を持ってここを出ていきます!」

 

大淀「落ち着いてください!」

 

アオバ「司令官は何を考えてるのか知りませんが…私の妹を研究施設に送り込むなんて絶対に認めません…!」

 

大淀「提督が認めた訳ではありません、トップだからといって全てを決められる訳じゃないんです…」

 

アオバ「それなら何のための役職なんですか!…私は、もうここを出ていきますから!」

 

大淀「ちょっと…待って!」

 

乱暴に扉を閉める

 

アオバ(九州からの移送ルートは限られてる、どれかに的を絞って…確実に……襲われるとは思ってないならきっと一番早い道を通るから…)

 

アオバ「…よし、絶対止める」

 

艤装を確保し、荷物を集める

 

アオバ「……全部失ってでも」

 

もう片腕がないんだ、今更何を失って困るのか、ちゃんと考えろ

今失いたくないもののために全てを賭けてやる

 

アオバ「逃走ルート…海の側がいいから……襲撃地点は…ここ」

 

携帯が喧しく鳴る

 

アオバ「…何、このメールアドレス…知らないアドレスだ…」

 

メールを開く

車の写真と簡素に一文

 

[ターゲットの車、23:15分に横須賀到着予定]

 

そう書かれていた

 

アオバ「…確かに、車はわからなかったけど…何で、誰が?」

 

車なんて多分わかるだろうと言う出鱈目な作戦が一瞬で確実性を手に入れてしまった

車さえわかれば待ち伏せは容易…

 

アオバ「……そう言えば、青葉の知り合いにスーパーハッカーがいるって言ってたっけ…よし、これならきっとうまくいく!」

 

 

 

 

浜名湖橋

 

アオバ「ここで…やる」

 

何人か死ぬだろうし、自分が死ぬかもしれない

もしやり遂げても片腕の艦娘という時点で即座に私だとバレる

逃げ場なんてないし、後のことなんて考えない

きっと青葉は離島鎮守府まで逃げられるし、逃す

自分がどうなろうとそれはもはやどうでもいい

 

アオバ「…はぁ…」

 

こういう時、何で人は後悔するんだろう

自分が決めたことに突き進むのに、それを躊躇うんだろう

別にそれくらい躊躇わなくてもいいのに、私はどうしようもなく躊躇い、後悔する

何も悪くない人間を殺さなくてはならない、場合によっては護衛にいる艦娘も…

 

指が震える、引き金にもし指をかけていたとしたら…何も無しに引き金を引きそうなほど力が強張る

 

まだまだ時間はある、時間だけはあるんだ、せめて逃がせる逃走ルートを確保しないと

 

 

 

 

佐世保鎮守府

駆逐艦 陽炎

 

陽炎「…ウチが護衛するの?」

 

度会「上からの直接の命令だ、仕方ない」

 

…これは私への罰なのか、はたまた何かの因果か

私のせいで捕まったミイラを私が護衛し、研究施設に引き渡す…吐き気がする、まるで罪を重ねている様な…

 

度会「外れてもいい、人員が2人欲しいと言われただけだ、お前がやる必要はない」

 

陽炎「…もう一人は?」

 

度会「磯風を着かせる」

 

陽炎「…私がやる、私が…」

 

度会「急な話ですまない」

 

…司令の言葉はほとんど耳に入らなかった、私には何も無い、何かを成したことも、認めてくれる対等な姉妹も、協力者すらも失った…

 

もし、贖罪の機会があるなら、この胸の枷が無くなるなら…

自分本位なのはわかってるけど…もう耐えきれなかった

 

 

気づけば、私は艤装を掴んだまま車中で揺られていた

やる事なんて何もわからない、乗員も一切警戒していないらしく、護衛も私と磯風のみ…

救急車の様な構造の狭苦しい空間には横たわった青葉さんと私、磯風の3人だけ、運転手ともう一人の乗員は壁に仕切られて様子も伺えない…

出入り口も車の背面の大きな扉だけ

ボタン一つで簡単に開く扉…

 

陽炎(…この人を道路に放り出して仕舞えば気が楽なのかな…いや、より罪を重ねるだけ…)

 

磯風「おい」

 

陽炎「…何、今機嫌悪いから話しかけないで」

 

磯風「…何が不満なんだ?」

 

陽炎「聞こえなかった…?話しかけないで」

 

磯風「…陽炎らしくない」

 

陽炎「何が……っ…」

 

怯えている

この目の前の無愛想な姉妹艦は何処か怯えている様だった、私に何を期待しているのかは知らないが…怯えて、怖がって、尚も勇敢に私に問いかけている

 

陽炎「…八つ当たりしたい訳じゃないけど、今話しかけられたらそうしてしまいかねない…だからもう少しだけ、放っておいて」

 

磯風「……頼りない後輩だが、何か力になれる事があれば…言って欲しい、最近の陽炎はあまりにも暗い、みんなが心配している」

 

陽炎「……そう」

 

…それなら、ただそばに居てくれる誰かが欲しい…

 

不意にけたたましい爆発音が響く

車が大きく揺れ、車中で体がぐるぐると回り、天地がわからないまま壁に投げ出される

 

磯風「ぐっ…!」

 

陽炎「敵襲…?!なんで…」

 

何でこの車を、何が狙いで、何をするつもりで…

疑問は尽きないが、衝撃でまともに働かない頭が答えを教えてくれる訳などなく

 

磯風「外に出ないと…!」

 

よろよろと立ち上がった磯風が扉を開けようとする

 

陽炎「待っ……つぅ…頭が…」

 

止めようとしても、立ち上がれない…

扉の隙間から刺す様な光を浴び、思わず目を閉じる

 

磯風「…う…」

 

磯風が鈍い音共に倒れる

 

陽炎「磯風…!」

 

覆面にロングコート、男か女かもわからない誰かが入り込んでくる

背丈も私より二回りは大きい…そして、なぜか主砲を持っている

 

アオバ(まだ居ましたか…既に武器を手にしてる…でも、まだ抵抗する素振りはない…)

 

陽炎「何のつもり…」

 

アオバ(…撃たなきゃ、いや、この子が抵抗しなければ…私は誰も殺す事なく…私は、殺したくなんか…でも…)

 

主砲がこちらを向く

 

陽炎「貴方、艦娘なんじゃ…何でこんな事…」

 

アオバ「……」

 

ジリジリと詰め寄られる、どうする、降伏するか

狙いは?青葉さんなのか、だとしたら何故?

でも…私はどうしたら…

 

陽炎「…その人を連れて行くには私の持ってる鍵が必要…」

 

でまかせ、そんな鍵なんて存在しない…

 

アオバ「……なら、その鍵を出しなさい」

 

陽炎「…え?…青葉さん…?」

 

全く同じ声、抑揚の付け方は違うものの同じ声だ、聞き間違える訳がない、私は青葉さんが鎮守府に来るたびに秋雲の事を催促してきた、何度も会話をした…

 

アオバ(…声でバレた…最悪、始末するしか…)

 

陽炎(待って、青葉さんと同じ声……そうだ、前の世界で横須賀にもアオバさんが居た…だけど、何故?…横須賀なら青葉さんがどうなるかを知って助けに来た可能性も…)

 

アオバ(…殺すしか…!)

 

主砲がより近づく

 

陽炎「ま、待って!青葉さんを逃したいんですよね…!」

 

アオバ「……」

 

恐らくもう一人のアオバさんであろう人が無言で頷く

 

陽炎「…協力します、青葉さんがこうなったのは…私のせいだから」

 

アオバ「……」

 

向こうが考える様な素振りを見せる間に私は青葉さんをベッドから外し、担ぐ

 

陽炎「…その気がなければ、そのまま寝かせてる…信じてください」

 

アオバ「…わかりました、時間が惜しいので早く」

 

幸い、周囲を通る車はなかった

私たちの車は真下からの攻撃で吹き飛ばされ、宙を舞っていたらしく、小さな穴が一つ道路に空いていた

 

アオバ「…このロープにくくりつけて、下におろして」

 

陽炎「はい」

 

陽炎(…今まで気づかなかったけど、この人…片腕が無い…?)

 

その為か、複雑な作業を私にやらせ、先に湖へと降りる様に誘導する

 

陽炎「……横須賀のアオバさんですよね」

 

アオバ「余計な詮索はしないで…」

 

陽炎「…違うんです、一言謝りたくて…」

 

アオバ「……私と貴方には何の関係もありません、この子が目を覚ました時、貴方は直接謝ればいい…ついでに私の分も」

 

陽炎「…それは…」

 

つまり、死ぬ気ということだろう

 

湖に降りたところで私は青葉さんを受け渡す

 

アオバ「…貴方のことなんて、知りませんから…早く戻ってください、脅されたと言えば処罰は軽くで済むはずです」

 

陽炎「……」

 

これで少しは罪滅ぼしになるのだろうか

これで私は満足できたのだろうか…

 

アオバ「何やってるんですか、早く戻らないと…」

 

陽炎「……いや、その…すみま……あ…」

 

目の前に主砲を突きつけられる

 

アオバ「え…?」

 

駆逐棲姫「うーん、良いシーンを邪魔してごめんなさい、見てて飽きてきたので…ほら、アクション映画の導入ってだいたいつまらないでしょ?」

 

アオバさんと私、両方の眉間に手法が突きつけられる

 

駆逐棲姫「せっかく私がここまで仕込んであげたんですから…ね?触れ合いの時間もそこそこに…下さいよ、その人」

 

アオバさんの後ろから戦艦級が現れ、青葉さんを奪われる

 

アオバ「えっ…や、やだ!青葉!」

 

駆逐棲姫「動かないでー?ほら、ステイダウン、言うこと聞かないと殺しちゃいますよ〜?」

 

アオバ(…別に、私が死んだって…!……あ、れ…?)

 

陽炎「何で、体が勝手に…」

 

2人揃って膝を折り、水面に座り主砲を捨てる

 

駆逐棲姫「アハッ…アオバさーん、あなたの艤装を作ったの私ですよ?簡単にハッキングできるんですよー?…陽炎さんも、デフォルトのままですし…何でみんなセキュリティアップデートしないのかなぁ…口を酸っぱくしてこんなに言ってるのに」

 

アオバ「やめて…青葉を取らないで…返して…!」

 

何もできなくなったアオバさんは、ただ泣きながら懇願した

しかしそれは…

 

駆逐棲姫「…その表情、最ッ高ですねぇ!」

 

アオバ「お願い…お願いだから!」

 

駆逐棲姫「アハッ!アハハハハハ!もっとお願いしてみてくださいよ!敵に!無様に情けなく!アハハハハハ!」

 

陽炎「この…下衆…!」

 

アオバ「お願いします…!大事な妹なんです…!」

 

駆逐棲姫「うーん、言うセリフが思いつきませんか?ほら、もっと無様になれるでしょ?ほら!」

 

駆逐棲姫がアオバさんの頭を踏みつける

 

駆逐棲姫「土下座…うーん水の上だし水下座?…あ、顔がつかってるから息できませんねー、でもこのまま1分耐えたらお話聞いてあげてもいいですよ?」

 

その言葉を聞いてかアオバさんは微動だにせず、そのまま水に顔を埋める

 

駆逐棲姫「うーん、姉妹愛って素敵ですねぇ…!アハッ!」

 

陽炎(何で体が動かないの…何でこいつを撃てないの…!)

 

駆逐棲姫「5…4…3…2…1…0…まずは1分、さあどれくらいいけるかなぁ?」

 

陽炎「え…1分で終わるんじゃ…」

 

駆逐棲姫「お話を聞いてあげてもいいかなって思っただけですからね、やめるとは一言も言ってませんし…ねぇ?誠心誠意、見せてくださいよ」

 

陽炎「っ…!アオバさん!早く顔をあげて!死んじゃう!」

 

声は聞こえているはずなのに、アオバさんは微動だにしない…

 

陽炎(まさか、もう…)

 

駆逐棲姫「まだまだ死んでませんよ、死ぬまで続けてもいいですが……っと、先に気絶したかな」

 

駆逐棲姫が足を頭から外し、アオバさんの横っ腹を蹴り上げる

 

アオバ「……」

 

水面に仰向けに倒れたアオバさんはまるで死んだ様な…いや、今まさに死にかけている、今適切な処置をすれば助かるはずなのに…

 

陽炎(お願い…動いて…!)

 

駆逐棲姫「…あ、そっちのアオバさんが死ぬまで眺めるの、素敵ですねぇ……まあでも他にやりたいことあるし、帰りますね、チャオ〜」

 

体が途端に自由になる

 

陽炎「っ!アオバさん!」

 

どれだけ水を飲んだのか、呼吸すらしていない

陸地に連れて行き、処置をしても間に合うのかわからない

 

陽炎(…でも、やらなきゃ)

 

 

 

陽炎「…水は吐かせた、だけど呼吸が…心臓マッサージ…!」

 

素人が持ってる知識での処置は適切とは言えない

だけどもうそれしか無い、アオバさんに跨り、心臓を強く押す

何度も押し、軌道を確保し、酸素を送り込む

 

陽炎「………呼吸が戻った…?」

 

何度繰り返したかはわからない、だが最終的にアオバさんの呼吸は戻った

そしてその後搬送された病院で一命を取り留めた

 

 

 

 

病院

重巡洋艦 アオバ

 

アオバ「……」

 

陽炎「あの…」

 

あれから2日が経過したらしい

あの時、私がやったことといえば目の前で吹っ飛んだ車に近づき、一人の艦娘を殴打し気絶させたくらいのもの

撃とうとした時には既に車は吹き飛んでいた…

 

私はスーパーハッカーの仕業だと信じ込んでいた、青葉の味方はこんなにも凄いのかと思っていた

しかし蓋を開ければどうだろう

 

私は深海棲艦に踊らされていたに過ぎない

しかし罪は私を逃しはしない…

 

アオバ「こんな事なら…見殺しにして欲しかった」

 

陽炎「……」

 

八つ当たりだ、私に負い目があるらしい相手に…ただ八つ当たりをした

そうでもしないと壊れそうだった

 

私のせいで、妹はより過酷な目にあうだろう

 

私のせいで全ては悪い方向へと進み始めてしまったのだろう

 

ああ、何と愚かな事か

 

火野「失礼する」

 

アオバ「司令官…」

 

陽炎(…火野拓海…現日本海軍のトップ…)

 

火野「…確か、佐世保の…」

 

陽炎「陽炎です…」

 

火野「丁度いい、君たち2人に話がある」

 

アオバ「……死刑にでもなるんですか、私は」

 

火野「そうはならない、安心しろ」

 

抑揚のない声が、私の心臓を締め付ける

何で今更死ぬのが怖い、処罰が怖い、後悔なんかしている…

 

火野「君達は深海棲艦に操られていた」

 

司令官が私の前に写真を投げ捨てる

防犯カメラを拡大した様な粗い画質、そして水面に顔を埋める私

 

アオバ「まさか、これで無罪放免ですか…?」

 

火野「そうもいかない、話はそう単純ではない…君達が操られていた事はこの写真からも、台湾における寄生する深海棲艦の存在からも想像し得る事だ、これは致し方のない事だ……だが、それで誰もが納得する訳ではない」

 

陽炎「…私達で、始末をつけろ…って事ですか」

 

火野「そうだ」

 

アオバ「わかりました、やらせてください」

 

考えるより先に言葉が出た

妹を助けられるチャンスがあるなら、私は迷わずそれを掴みに行く

 

それだけだけど…

 

陽炎「アオバさん、貴方は腕が…」

 

アオバ「…片腕だから、何ですか…片手があれば、私は主砲を撃てる、あの子の手を掴める…それだけで良いんです」

 

陽炎「…手を、掴める…」

 

陽炎(……アオバさんは、自分の障害を何も…いや、それだけの覚悟があるって事…)

 

アオバ「ただ、司令官」

 

火野「なんだね」

 

アオバ「陽炎さんはやる事があります、勘弁してあげてください」

 

陽炎「え…?」

 

アオバ「…青葉は秋雲という艦娘の意識を戻そうとしていました、陽炎さんの妹です…しかし、それは成し遂げられなかった……陽炎さん、私はそちらまでは手に負えません、丸任せになりますが…貴方は…」

 

陽炎「…いいえ、私は…秋雲の事は青葉さんに任せています、連れ去られた方の青葉さんに…だから、私は青葉さんに秋雲を連れ戻して欲しい、だから…私も、青葉さんを連れ戻します」

 

火野「どの道君達2人ともに動いて貰う、そうでなければ何処も納得する事はない、君達への厳罰は免れないだろう」

 

アオバ「覚悟の上です…だからやめるって…」

 

火野「君がやめたところで責任は私に来るのだ、自分の始末は自分でつけたまえ」

 

アオバ「…はい、私は全力で…青葉を助けます」

 

陽炎「私も、微力ながら…お手伝いさせていただきます」

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