元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
戦艦 レ級
レ級「…なんで、こんな事」
朧「曙!どこ行ってたの!?手が足りないから手伝って!」
レ級「…何があったの…」
朧「空襲!見てわからない!?
あちこちに空いた大穴、焦げた建物の外壁
レ級(…駆逐棲姫は…綾波は、完全に私の居場所を…壊すつもりだ)
朧「曙!」
レ級「…何を、すれば良いの…?」
朧「え…?ええと…春雨さんか明石さんのところに行って!」
レ級「…わかった」
朧(…曙らしくない…自分から動かず、私に何をすればいいか聞くなんて…)
医務室
レ級「…春雨さん」
春雨「良かった、無事でしたか…全員の生存を確認しました!」
漣「伝えてきます!」
春雨「重傷者の手当てを急がないと…貴方も手伝ってください!」
レ級「…ええ」
言われた通り、ただ言われるがままに人形の様に…
春雨(なんで今日に限ってこんなに鈍い…!)
春雨「もういいです!退いててください!」
春雨さんに押しのけられ、尻餅をつく、やけに身体が痛む
レ級「…工廠に行きます」
工廠
明石「あ!曙さん、良かったぁ…無事だったんですね…」
レ級(…この人も、私の身を案じてくれた、だけど…)
つい先程までの私がやってた行為は…裏切りの契約
明石「…曙さん?」
レ級「…ここは、今、何を…?」
明石「艤装の修理と軽傷者の手当を…あ、医薬品ありました?」
龍驤「いや、これで終わりらしいわ…次の輸送船早めてもらわな話ならんて言うとった…」
レ級「…私が取りに行ってきましょう、2.3時間で戻ります…」
龍驤「ホンマか!じゃあ必要なもの書いたメール向こうに飛ばしとくわ!」
レ級「…お願いします」
明石(…なんだか、元気がないような…)
どこにも居たくない
私がいる事で…みんなを危険に晒す、私が全てを悪い方向に…
レ級「……」
メモに[医薬品なし、重軽症者、多数]とだけ書き、ポケットに突っ込む
朧「曙!」
レ級「っ!?……朧…」
朧「…どうしたの?そんなに驚いて…それより、医薬品を取りに行ってくれるんでしょ?ついでにこの書類を提出してくれる?…明石さんのカートリッジについての書類なんだけど、これだけは機密にしたいからさ」
レ級「……」
朧「…曙、やっぱり疲れてる…?」
レ級「…なんでもない、わかったわ」
レ級(情報の受け渡しは、帰りにすれば良い…)
海へと降り、速力を出す
レ級(…とにかく、急ぐ…)
レ級「っ!…早すぎる、もうこんなにいるなんて…」
うじゃうじゃと足元に深海棲艦が群がってくる
まだ島から2浬と離れていないのに…
レ級(…情報を要求されているとしても、ここで受け渡しなんて丸見えな行為…できるか…!)
尻尾で周囲の深海棲艦を弾き飛ばす
レ級(…仕方ない、このままでは無駄に時間がかかる、消耗は激しいがネット世界を使ってワープを…)
横須賀近海
レ級「っ……やはり、体力が低下しているのか…?身体が、重い…」
フードを深く被り、尻尾を隠し、肌をできるだけ見えないようにする
レ級(…クソ、なんでだ、頭が朦朧とする…気持ち、悪…)
横須賀鎮守府 医務室
レ級「っ!!」
ベッドから跳ね起きる
離島のものとは明らかに質の違う、柔らかく、身体が沈み込むようなベッド
レ級(…なんで、こんなところに…)
夕張「はーい、動かないで…貴方、倒れてたのよ」
レ級「…夕張さん……よく、私を保護してくれましたね…撃ち殺されてないのが不思議です」
夕張「まあ…レ級が倒れてるって報告だったから焦ったけど…ほら、貴方の持ってた書類もあったし」
レ級「……何時間経ちましたか」
夕張「1時間半、医薬品はここにあるけど…行かない方がいいと思う、過労で倒れた感じだし…というか、栄養失調かな……深海棲艦でもそんな事あるんだ?」
レ級「栄養失調…」
夕張「お腹減ってない?何か食べる?」
レ級「…いえ、私はすぐに戻らないと…」
ポケットに手を入れる
メモがない
レ級「…私のポケットのメモは…?」
夕張「これ?[医薬品なし、重軽症者、多数]ってやつ」
レ級「……ええ」
夕張「なんでこんなメモ…まるで倒れるのがわかってたみたい、自分で無茶してるってわかってるなら…」
レ級「…すみません、やはり戻らせてください…どうしても、戻らなきゃいけないんです…空襲を受けて医薬品が必要な人が大勢います…高速修復剤を使うことは出来ればしたくないんです」
夕張「…良いけど、無理だけはやめてね」
レ級「……」
何も言わず、ベッドから立ち上がる
レ級「一応、メモを…」
夕張「え?何かに使うの?」
レ級「…いや……すみません、なんでもありません」
必要な物資を受け取り、帰路につく
海上
レ級「…やはり、エネルギーの効率なのか?…私の身体は…所詮、どうしようもなく…深海棲艦なのか」
海の中から深海棲艦が現れる
装甲空母鬼「…情報ヲ」
レ級「…今は持ち合わせていない」
装甲空母鬼「逆ラウノカ?」
レ級「…違う、ペンを今は持ち合わせていない…メモだけだ…」
装甲空母鬼「血デ書ケ」
レ級「……」
親指の腹を噛みちぎり、先程と同じ簡素な文を書き渡す
装甲空母鬼「コレダケカ?……チッ」
レ級「…もう良い?」
装甲空母鬼「待テ、ソレハ?」
医薬品を指される
レ級「……」
装甲空母鬼「今、ココデ破棄シロ…全テナ」
レ級「断る、流石にお前なんかに遅れを取るわけがないのにここで捨てる意味がわからない」
装甲空母鬼「駆逐棲姫様ノ為ニ、捨テロ」
レ級「…断る…!」
水中に潜り、装甲空母鬼を越えて進む
レ級(……全て言いなりにならないといけないのか?だとしても先に忠告が来る…いきなり提督に手を出すような真似はしない…まずは様子を見る方がいい)
浮上し、海面を蹴り、跳躍する
離島鎮守府
レ級「っ!?」
体制を崩し、着地を誤る
地面を激しく転がり、建物の壁に体を打ち付ける
レ級「…体の自由が、奪われているのか…?……それより…」
医薬品を確認する
特に破損はしていないようだった
レ級「…よかった……」
医務室
今度は硬いベッドの上で目を覚ました
春雨「すみません、貴方がそこまで弱っているとは気づけませんでした」
レ級「…っ…?」
春雨「…助かりました、貴方のおかげで必要な量の医薬品が手に入った、修復剤に頼ることもないでしょう」
レ級「……そう、ですか」
春雨「…ゆっくり休んでください」
レ級「……」
春雨「…もう、寝ている…?余程疲弊していたのか……なぜ、気づかなかった…私が患者を増やしたようなものだな…」
阿武隈「あ、春雨さん、潮ちゃんが怪我しちゃったんですけど…!」
春雨「…新しい怪我人?」
阿武隈「入り口の前の穴でこけちゃって…」
春雨「唾でもつけときなさ……いや、行きます、少し待ってください」
春雨(私ももう少し仕事に責任感を持つか…)
自室
駆逐艦 島風
島風(なんで、明日にはここを出るのに…なんで、今日にこんなことが…)
天津風「…島風?様子変よ…大丈夫なの?」
島風「…放っておいて…」
天津風(あれから島風は誰にも心を開く素振りを見せない、部屋もいつの間にか殺風景になっていた…明日の輸送船で気晴らしに遠出をするために荷物をまとめていると聞いたけど…絶対おかしい…)
島風(天津風も変に勘繰ってくるし…もうここにいたくない)
島風「…私、ご飯食べに行ってくる」
天津風「…うん」
工廠
島風「明石さん、今良いですか?」
明石「あ…うん、連装砲ちゃんは…」
明石さんが棚の上で座っている連装砲ちゃん達をおろす
島風「…ごめんね、私が弱いせいで…」
もう連装砲ちゃんは動かない
今後動く事もない
私は戦うことが嫌になった、戦いたくない、だからもう…連装砲ちゃんは要らない
明石「…最初に聞いた時は驚いたけど、これは仕方ないことだと思うから…新しい生活、馴染めると良いね…」
島風「うん…大湊警備府に近い所…用意してくれたし、学校も手配してくれたらしいから…なんか不思議ですよね、AIだったから小学校の勉強なんて簡単なのに…それに、来年からは中学生だって…」
明石「…私も高校生だった頃は…というか年齢的にはまだ高校生だけど…うーん…許されるなら、もう少しだけ平和な世界も見てみたかったな…今の、前の事覚えてるまま…そうしたら、きっと小さな事でも感動できるだろうし…」
島風「…ごめんなさい、私だけ…」
明石「あ、いや…そういう意味じゃないの、私達の分も楽しんで欲しい、そう思っただけ…」
島風「……手紙、送っても良い?」
明石「うん、みんな喜ぶと思う…」
島風「…連装砲ちゃん、バイバイ」
連装砲ちゃんを棚に戻し、軽く手を振り、工廠を後にする
明石「……島風ちゃん、前の世界でここにきた頃みたいな内気な雰囲気に戻ってる…大丈夫かな、虐められたりとか…」
キタカミ[島風は強いけど脆いからね]
明石「うわぁ!?き、キタカミさん!い、いまの話…!」
キタカミ[大丈夫、私も誰にも言わない…めでたい事だけどね]
明石「…そうですか」
翌日、私は輸送船に乗り、最低限の護衛と共に横須賀に向かった
島風「…さよなら、離島鎮守府」
執務室
提督代理 朧
天津風「島風がここを抜けたってどういう事!?」
朧「…そのままの意味だよ、島風はここをやめて本土で暮らすことを選んだ…伝えられなかったのは、本人の希望に沿った結果だよ」
天津風「…そんなの、納得できない…!」
朧「ごめん、この件に関しては天津風の納得は求めてない」
天津風「そんなの…なんで…!?ねぇ!どうして島風は…」
朧「…ただ、辛くなったんだと思う…戦い続ける事が」
天津風「……私は、どうすれば良いの…?私には島風しか居なかったのに…私には、他に何もなかったのに、島風すらも居なくなったら…」
朧「……」
天津風「私には、人としての人生が存在しないの…!私は艦船なの!…どうしようも無く、人になれないただの船…でも、島風といたときは人として振る舞えてる気がした…私に人としてのあり方を教えてくれたのは島風なのに…」
朧「…軽いことは言えないけど…島風の事を大事に思ってるなら…ただ、背中を押してあげて欲しい」
天津風「背中を押す…?私に諦めて島風を見送れって言ってるのよね……じゃあ、私はどうなるの…?私は……わかってる!わかってるのよ…!私がおかしくて、間違えてる事くらい…!」
朧「…天津風」
天津風からすれば、どうして良いかわからないという主張は至極真っ当で、天津風からすれば、ここにはもう味方がいなくなったようなもので…
朧「…天津風、アタシたちは島風の代わりにはなれない…でも、天津風の為にそばにいる事はできる…だから…」
天津風「要らない…!私は島風がいいの…島風じゃなきゃ、ダメなの…」
気持ちはわかる、天津風と島風はアタシたちにとっての姉妹のような物、誰が欠けても代わりなんていない
天津風「……ごめん、頭に血が昇ってるって奴なのかも…ごめんなさい…ごめんなさい…」
天津風は目にいっぱい涙を溜め、謝り続ける
朧(子供なんだ、まだ産まれて間もない子供…実際天津風が仲間になったのはつい一年前…まともに歩くことすらままならず、食事の摂り方もわからず…その頃から面倒を見てくれた島風が何も告げずに居なくなった……どうしてあげればいいんだろう…)
天津風「…少し、風に当たってくる」
朧「うん、何かあったらまた来てね」
天津風を見送る
朧(…不安が、拭えない…)
春雨「私が見てきましょうか」
春雨さんが降ってくる
朧「…居たの…?」
春雨「ええ、まあ」
朧「……まあ、お願いします」
春雨「あなたも大分私に慣れましたね、良いことです」
朧「…慣れたくはなかったかなぁ…」
波止場
駆逐艦 春雨
春雨「……やはり、ここか」
人は深い絶望に陥ると、気づかぬうちに死に吸い寄せられる
死神の鎌はその刃が首を断たぬかぎり見える事はない、死とは無意識の内に踏み込む領域なのだ
そして、今眼前に捉えた少女も気付かぬ内に死の領域へと足を踏み込もうとしている
まるでかつての私と同じように、その場所で身を投げて死ぬのだろうか
春雨(…長く見ていると吐きそうになりますね、さっさと連れ戻して……ん?)
天津風さんに誰かが近づく
大潮さんのような空色の髪を靡かるその人はこちらを向き
春雨「…ま、か、せ、て…?…何のつもりでしょうか…」
この場にいては何も伺えない、万一に備え近づく
山雲「いい風〜」
天津風「…貴方…誰だっけ…」
山雲「山雲です、覚えて下さいね〜」
天津風「…うん」
山雲「…隣、良いですか〜?」
返事を聞く前に山雲が座る
天津風「…1人にして欲しいんだけど…」
山雲「私も大事な人を失くした事があるんですよ」
天津風「…それで…?」
山雲「私、一度死んで…生き返って山雲になりました、かつての自分を捨てて、今いる姉妹の為に」
天津風「……私には姉妹なんていない」
山雲「じゃあ、仲間の為に生きてみたらどうですか?」
天津風「仲間…みんな言ってるけど、仲間って何なの…?仲間だったら、どうなるの…?何でみんな命をかけて戦ってるの…?私は行き場所がない、だからここにいる、だけど…貴方たちは…」
山雲「きっと、人間の社会に復帰できる…かもしれません、でもそれでここの全てを投げ出しても…何も解決しませんから」
天津風「…わからない、あなた達の考えてること」
山雲「私にもわかりません〜…それはすっごくセンシティブな問題ですから〜」
天津風「せん…?」
山雲「敏感とか、取り扱いが難しいってことです〜」
天津風「…それで…貴方は私にどうして欲しいの…?」
山雲「自分で決めてみましょう?何がやりたいか、それを探してみませんか〜?……工廠には、島風さんが唯一残していった物も有りますから〜」
天津風「…え?何、それ…」
山雲「行ってみませんか〜?」
山雲が立ち上がり、天津風へと手を差し伸べる
天津風「…行く…!」
春雨(どうやら、私は必要なさそうですね)
工廠
駆逐艦 天津風
天津風「…これが…」
山雲「島風さんの残した、艤装」
明石「解体するわけにもいかないし…取り扱いも難しいから普通は扱えないし……まあ、見るだけで…」
天津風「……」
連装砲ちゃんに触れる
天津風「わっ…」
明石「…え?起動した…」
山雲「…艤装に、選ばれたみたいですね〜?明石さん」
起動した連装砲ちゃんが私の足元を回り、何かを囃し立てるように…
山雲「天津風さ〜ん」
天津風「…うん、そうしてって…この子が教えてくれてる…私、艦娘になる…」
ただ、守られ続ける艦船の名前の人間から…艦娘になる事を決めた
明石「…じゃあ、天津風ちゃん用に調整しなきゃ」
山雲「私は朧さんに伝えてきま〜す」
天津風「…連装砲…ちゃんって島風は呼んでたけど…本当に女の子なの?」
明石「さあ…」
天津風「……じゃあ、今日から私は貴方を連装砲くんって呼ぶ…私と戦って、連装砲くん」
私は島風じゃない、だから私はこの子を連装砲くんって呼ぶし、私は…
天津風(私は、戦って…私の意味を見つける…だから島風、貴方とはさよなら…いや、いつか私もそっちに行けるなら…友達として、仲間として…)
天津風「だから…またね」