元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
提督代理 朧
朧「……」
漣「ボーロ?もう復帰して大丈夫なの?」
朧「…怪我自体は治ってるから」
漣「…そっちじゃなくて…」
漣はメンタル面のことを言ってるって、わかってるけど…
朧「…忙しいフリさせて…敷波に会いたくないし…何も考えたくないんだ」
漣「無理しちゃダメだよ、ボーロ」
今のアタシには…優しい言葉がトゲのように感じられる
逆に辛くなる、胃酸が上がって吐きそうになる
どうすればいいのかわからない…
朧「…漣は…敷波のこと、どう思う?」
漣「え…?」
朧「…敷波、受け入れていいのかな…アタシは…わかんないんだ、敷波の事嫌いになったんじゃなくて…」
敷波のやった事、置かれていた状況は本人からの供述も含め、全体に伝わった…
それでなお、敷波をここに置くのか、それとも他所に移し、生活を保証してもらうか
朧「それで、漣の意見、も…」
漣「…い、いいんじゃ、ない?ここに居れば…」
笑ってそう言う漣からは恐怖心が見てとれた
泣きそうな顔で笑って、アタシを安心させたいって気持ちと、敷波を助けたいって気持ち、その両方を何とか伝えようとしてるのがよくわかった
漣の優しさに甘えるのか、それとも…
漣の事を想えば敷波をここに置いておくのは間違いだ、前の世界で漣は綾波にも、敷波にも殺されかけている…敷波は共犯というだけだけど
思わず頭を抱える
七駆で1番優しいのは漣だって、常々思う、だから敷波を他所に移したら?漣は自分の所為だと思うのではないだろうか
前の世界で裏切った曙に対してみんなが受け入れ難い感情を持っていた、なのににおかえりと笑って言った漣に、辛い思いをさせていいわけがない
朧「…わかった、もうちょっと考えるね、アタシ達だけで決められる事じゃないし…」
そうは言ったけど、漣の決意を無駄にできない、この時点で敷波はここに置くことが決まっている
たとえ多数決でも、くじ引きでも、漣の心に影を落とすのは明白だから…もし、敷波が何かしたら排除すれば良いから…
朧(…アタシが、敷波を信用できなくなってるのはわかってたけど…)
真っ先に排除という言葉が思いつくあたり、どうかしてしまった気分だ
波止場
重巡洋艦 青葉
青葉「あ、居た…」
敷波「青葉さん?…そっか、こっちに居るんだ…」
敷波ちゃんが立ち上がり、こちらに向き直り、頭を下げる
敷波「向こうではお世話になりました…本当にありがとうございました」
青葉「そんな、別に私は…それよりも、紅衣の騎士団に連れ去られたって聞いてたので…心配してました」
敷波「…アタシさ、あの後司令官に助けられて…」
青葉「司令官に?…本当に司令官が…?」
敷波「うん、ほら、これくれたの」
首につけた麻紐に垂れた小さなオカリナを見せてくる
青葉「…それは、確か精霊のオカリナ…」
敷波「そう、そんな名前だったかな」
青葉(ゲームの中のものを持ち出してしまって大丈夫なのかな…でも、すごく大事そう……もう少しくらい、良いのかな…)
敷波「…アタシ、これが有れば何とかやっていけそうな気がする、どこででも…」
青葉(…何か、違和感が…)
敷波「アタシ本土に行って、艦娘システム外してもらって…普通に生きることにします!」
青葉「え…?」
敷波「…それがアタシにできる唯一のことだから…ここに居たら朧たちに迷惑だし、何より…アタシのせいで誰かが傷つくなんて、もう嫌だ…綾姉ぇもアタシを物としか見てくれなかった、それなら…アタシはここに居る意味なんかない…って」
青葉「そんな事…!」
敷波「ここに居て、アタシは何ができるのかちゃんと考えてきたんだ、だけど何も思いつかなかった…アタシって別に強くないしさ!前の世界はちゃんと戦闘訓練積んでたけど…あはは…」
自虐的に笑う敷波さんにかける言葉が思いつかない
私は止めるべきなのかもわからない…
私が口を出して良い事なの?それとも…
青葉「…あれ」
悩んで、つい逸らしてしまった視線の先に黒い何かが映る
海の上で少しずつ近づいてくる何か
青葉「深海棲艦…!」
敷波「え?…うわっ……あれ?」
敷波さんがじっ…とソレを眺める
敷波「…違う、深海棲艦じゃない…でも、動いてるし…人じゃない…魚?な訳ないし……」
青葉「あ…え?まさかアレは…く、熊?」
敷波「しかもあの大きさ、子供じゃ…あ、見えなくなった…!」
敷波さんが海に飛び出す
青葉「え、ちょっ!?」
敷波「うわっ!?そうだ艤装無かったんだった…!」
そう言いつつも泳いで熊らしきもののいた地点に向かう
青葉「え、あー…深海棲艦だって居るかもしれないのに…!」
と言っても私も艤装を装着していない
ボラードに引っ掛ける用のロープを掴み、振り回して勢いをつける
青葉「重すぎる…!でも、ちゃんと…狙わないと!」
敷波さんが海に潜り込む
青葉「あ、お、溺れた!?それとも引き摺り込まれた…?」
少しして、敷波さんが黒い物体を持って浮上してくる
青葉「良かった!捕まってください!」
ロープを投げる
敷波「あだっ!?」
敷波さんに勢いの乗ったロープが直撃する
青葉「ごめんなさい!」
ちょっとした問題はあったが、無事に敷波さんを回収できた…
敷波「コイツ、熊…?」
青葉「熊ですね」
波止場に熊を放り出した所、元気に動き回っており、どうやら問題はなさそうだった
青葉「でも、何だか怯えてるような…」
敷波「おー、大丈夫だよー、お前をとって食ったりなんかしないから」
敷波さんが熊を抱き抱えるも、暴れて逃げ出そうとする
青葉「…この辺りに島なんてないのに…何でクマが?本土から泳いで来た?」
敷波「首のとこの毛が白いしお前はツキノワグマなのかなぁ…?」
青葉「いえ、ヒグマですね…ツキノワグマにしては全身の色が薄いので…それにツキノワグマなら模様ももっと下にあるはずです」
敷波「へー…青葉さん詳しいなー…」
青葉「…昔動物園に行った時、お姉ちゃんに聞かされましたからね
敷波「…そっか、そりゃ大事な思い出だ…」
敷波さんが仔熊を優しく撫でる
段々仔熊も落ち着き、大人しくなる
敷波「…本土で飼える所、あるかなぁ…」
青葉「難しそうですけど…」
敷波「…動物園に送る?」
青葉「さあ…と、とりあえず報告だけしときましょうか…後着替え…」
敷波「…言われたら寒くなってきた…っくし!」
青葉「…ふふ」
敷波「あ、でもアタシ着替えないじゃん…どうしよ、借りれるかな」
青葉「多分貸してくれますよ、みんな優しいですから」
敷波「……んや、アタシ多分すごい怒られてるかも…」
青葉「そんな事ないですよ」
The・World R:2
Δサーバー 悠久の古都 マク・アヌ 路地裏
軽巡洋艦 神通
神通「…妙なのに追われてますね」
物陰から顔を出している珍妙な道化師を睨む
ポザオネ「おんやぁ〜?ミーの尾行に気づくとは…お前、ただモノじゃナイアルナ?」
神通(キャラが濃い…ネットゲームだからってそんな妙なロールをしなくても…)
ポザオネ「お前のことは知ってるアル、有名人の立場で不法ログインとは馬鹿なことするアルネ〜!」
神通「何のことかわかりかねますが」
神通(帰れるモノならリアルに帰りたいですからね)
ポザオネ「誤魔化しは効かないアル!此処で始末させてもらうネ!」
こちらへと飛びかかろうとした道化師の足元が弾ける
ポザオネ「ノワァ!?何奴!」
神通「…銃剣士…?」
黄色い派手な衣装に身を包んだ青い髪の男が私の前に降ってくる
クーン「お兄さん初心者か?そういうナンパの仕方は良くないぜ、もっと女の子には丁寧にだな」
ポザオネ「邪魔するならお前も始末するヨ!」
神通(…この人には悪いですが、私のことを狙っているなら始末しなくては…)
クーン「…っと…」
青髪の男が道化師の方に弾丸を放ち、バックステップで近寄ってくる
クーン「AIDA反応…!しかもこのタウンですぐ側…!?AIDA感染者か…!」
神通(この人、AIDAを知ってる上に私のAIDAを検知した…!感情の昂りでAIDAが活性化してしまったようですね…)
クーン「AIDAで暴走してるせいで襲ってたわけか…なら…AIDAを引き摺り出す!」
道化師が銃撃を受けて吹き飛ぶ
ポザオネ「あぎゃぁ!?」
神通(…この、感覚…懐かしいような、感覚…まさか…)
クーン「さっさとAIDAを引き摺り出しますか!」
ポザオネ「コイツ!なかなか強いアル…!」
クーン「お褒めに預かり光栄ってね!」
ポザオネ「し、仕切り直しアル!」
道化師が急に消える
神通「消えた…」
クーン「逃しちゃったか…大丈夫?お嬢さん」
神通「…貴方は?」
クーン「俺はクーン、か弱い子猫ちゃんの味方さ、困った事があればいつでも呼んでくれ」
神通(…何というか、軽い人ですね)
クーン「それじゃ、俺はあのピエロを追いかけないと」
クーンがエフェクトに包まれて消える
神通(…おそらく碑文使い…今、私が発現できない碑文を使える…?この世界のことも結局よく分からない、那珂ちゃんも川内姉さんもいない…そもそもThe・Worldは今サービス停止しているはず…)
神通「わからない事が多すぎますね…」