元勇者提督 作:無し
駆逐艦 曙(青)
「ふー、一息つくかー」
「ありがとう、わざわざ付き合ってくれて」
「でも急にどないしたんや、深海棲艦を大量に狩るなんて言い出しよってからに」
「本来の仕事に戻っただけよ…」
「……毎回その腕輪の力を使うこともか?」
「データを集めるために必要なこと」
「そろそろあかん頃とちゃうん?暴走の話は聞いてんで」
「………そうね、一度引き上げましょうか」
この腕輪が、全て赤く染まった時、これが暴走し、何が起こるかわからない
悪かったとして、私1人命で済むのならな安いもの…世界を滅ぼしかねない…
実感はない
もう慣れた、使いこなしたと言える
そんな危険を孕んでいるなんて、正直信じられない
「………お前、それ軽く見とるな、そんな顔しとる」
「…そんなこと無い」
「いーや、お前は軽く見とる、自分の命と同じくらいにな」
「…私の命は、確かに重く見てないかもね」
「………はぁ…そんなん言っとったら終いにはいてまうぞ、他人さえ良ければ自分がどうなってもええんか」
「………」
「ウチは確かに長い付き合いちゃうし、よう知らんけど、ここのみんなはそれぞれ互いのことを大事に思っとる、自分が沈んだら深い傷残すこと覚えときや」
「…私には、代わりがいるから」
「………確かにお前らは2人ある、同時に在籍するのは珍しいが…でも別人やろ、いつまで別で考えられへんねん、試しに髪の色染めてみ、入れ替わっても気づいたるわ」
「………気づけるわけないじゃ無い」
「いーや、気づいたるわ、全力で騙しに来ても、みんな気付ける、約束したるわ、来週やってみ」
「………良いわ、やってやる、いつやるかは言わないから」
「……くだらない事を…」
「お願い!一回だけで良いから!」
「で?いつやるの?」
「今よ今!龍驤には来週って言ってるから今なら不意をつけるし、誰にも話は伝わらない、生の反応を見るには今しかないの!」
「………わかった、好きにすれば?」
「じゃ、染めるわよ」
「………待って、あんたがやると髪が傷みそうだから朧にやらせましょ」
「……別に一回染めるくらいで死にやしないわよ」
「アンタのせいで手入れが面倒になるのが嫌なの、それに協力者がいた方がいいんじゃないかしら」
「…わかった、朧だけね」
「よし、こんなもんでどうかな」
「んー、確かにマジマジと見れば元の色と違うような気もするけど」
「でもわかってないと…わからないわよね、こんなの」
「まあ、お互いボロを出さないようにしましょう」
「……この煩い足音…漣か、よし!まずはアイツからよ…曙………こう言ってみて」
「あんたなら、確かに言いそうな事ね」
「漣!廊下を走るな!ドタドタドタドタ煩い!」
「ひぃっ!?ぼのたん…ん?ぼのたん?」
「なによ、自分のこと棚にあげてまで言いたいことがあるわけ?」
「………ウッシーオ、あれ…ぼのたん…?」
「………うーん?」
「私あんなこと言ってるかしら、普段」
「それより宥めてあげたら?」
「曙、あんたの方が、うるさい」
「あ、ぼのたんだ!なぁんだ…そう言うことかー」
「うん、そう言う遊びだったんだね」
「………え?」
「何言ってんの?あんたら」
「おー、ボーノはノリノリですなー、どしたの?どしたん?」
「意地になってる?」
「……なんでバレたの…!」
「流石に七駆のメンツは無理だと思わない?」
「私でも気づいた自信ある」
「朧が一番鋭そうだしね…」
「この漣様は野生的直感ですぐ気づけたのだ!」
「…と言うか…うん、顔が違うし…」
「…顔?」
「そうよね、違うわよね、さすが潮」
「確かに違う」
「ボーノよりぼのたんの方がこわっあっいたいいたい!」
「納得いかないわ、とりあえず鎮守府回るわよ」
「七駆共同作戦を発令します」
「よーし!頑張るぞー!」
「おー!」
「思えば潮も多分他所より明るいわよね」
「さて、明石さんはいるかにゃ〜?」
「いるに決まってるじゃない、行くわよ……ちょっと明石!私の出撃禁止命令って何なの!?」
「うぉっ…これは名演技…」
「確かに一瞬見間違えそうになるね」
「…私の普段ってこんななの?本当に?それとも今までの恨み?」
「アオボノちゃ…あ、曙ちゃん、い、いや!曙ちゃんには禁止命令とか出してないはずなんだけど…?」
「そうですよ?アオボノちゃんに…あら、髪の色が…?」
「…ごめんなさい、アオボノちゃんだったのね…」
「……いえ、多分髪の色を入れ替えてるんじゃ…」
「なんでそんなに勘がいいのよ…もうこっちも騙す気満々で演技してるのに…」
「……あー、よかったー…焦った…」
「そうですね、でもどうして髪の色を?」
「あー、それは…」
「成る程、心配さなくても私たちみんな気付きますよ、だって大事な仲間のことですから」
「そうです、必ず、気付きますから」
「らしいわよ、曙」
「………そう」
「…素直じゃないわねぇ」
「ふん…」
「全滅だったね」
「こう言う場合は違うと思う」
「……」
「曙、あんたの思ってるほど、この鎮守府は見た目とかそう言うのにこだわりはないのよ、この人は誰なのか、って聞かれて全員がわかる、それが当たり前のところなのよ」
「実際ぼのたんも私とウッシーオが入れ替わったらわかるでしょ?たとえ髪の毛の色変えて、お互いのふりをしててもさ」
「…わかるわよ、わからないわけがないわ…」
「赤城さんと加賀でも、雷と電でもわかる、みんなね」
「うん、なんでかは説明できないけどみんなわかるんだよ」
「…満足したわ、それじゃ」
「…なんで辛そうな顔してたんだろ」
「……なんとなくわかるけど…ま、アイツの場合はわかってても、分かりたくないと思うから」
「…やっぱりそう言うことなの?」
「多分ね」
「なんでみんなわかるの!?私だけわかんないんだけど!?ボーノ!ウッシーオ!オボロン!?」
軽空母 龍驤
「どうや、納得したか?」
「…どう思う?」
「全く納得してない、いや、むしろ悪かったように思っとる…だってさしたら死ねんからなぁ」
「…死ぬ気自体はない…でも、死ぬのが怖くて仕方なくなった」
「そら怖いやろ、お前が死んだらみんな悲しんだるわ」
「………」
「お前が本当に恐れてるのが自分が死ぬことじゃなくて、周りを傷つけることなんわええわ、それで自分大事にするんやったら誰もなんも言わん…やからもう少し自分に気ぃ遣いや?」
「…わかったわ…でも、本当に、辛いのよ…私が知ってるのに…何もできないことが…」
「…聞いてもええ話なんか?」
「………言えない、だから…聞かないで」
「…ええよ、私はなんも聞こえへん」
「…この腕輪があれば、沈んだ人を助けられることがある…青葉さんや、翔鶴さんみたいに…本当に海から帰って来てるんだと思ってた…でも、実際は違う、深海棲艦になってたんだ…あの2人も…」
「っ………」
「深海棲艦を倒し続ければきっと…この力を使い続ければきっと…私は、みんなを助けられるのに…私は…怖く…死ぬのが……戦うのが、怖く……」
「ええ薬すぎたらしいなぁ…」
ここまで極度に変わるとは思っていなかった
いや実際は元からそうだったけど、気づいてなかったのか
なんにせよ、気づかせたのは良くなかった
数日間療養させた方がいいかもしれない
「もう聞こえてもええか?」
「……」
頷いたか、ウチだってそれ知って戦うのはちと辛い
やけど何も知らん顔して明日も戦わなあかんから
「よし!しゃきっとせんかい!ウチが美味いもんでもつくったるから!明日からまた頑張るで!」
「え…?」
「どんだけ時間かかってもええから、みんな助けたろうやないか」
「……ほんとに…?」
「ああ、ウチが約束したるわ、アンタのこと絶対に嘘つきにはせん、アンタが戦ってるんをウチが助ける、アンタはみんなを助ける、やから胸張りや」
「………ありがとう」
「それでええ、アンタはもっと素直になり、ウチ正直モンの方が好きやねん」
「…努力するわ…」
「よし、もうせっかくやし酒でも飲もか!盃交わすで!なんてな!」
「…悪くないかもね」
「おぉっ!?ホンマかいな!ええこっちゃなー!よし!早速食堂行こかー!」
この日から、ウチには妹ができた
唯一、私にしか見せない顔があるただ1人の妹
決して姉とは呼ばれないけど、妹として後をついてくる
「よし、今日も行くで!」
「やってやるわ!」
「第一航空戦隊カッコ二人組!出撃や!」
「ダサいわよ!」
雷巡 北上
「演習にも投入する気ですか」
「ん、この前から阿武隈とかにも付き合ってもらってさ、対人でも当てられ始めたからね、ってわけでハンコ押して欲しいんだけど」
「阿武隈さんを入渠させてなければ押しましたが、アレでは推進力が高すぎるのでダメです、演習中に相手が怪我をします」
「じゃあどうすればいいわけ?」
「まず訓練も出撃も演習も全て停止する命令を出しているはずですが」
「まさか従うと思ってないよね?」
「願ってはいます」
「残念だけどお断り」
「…そうでしょうね、ですが演習には参加できません、公式に記録が残るものですから処罰を下されますよ」
「………はぁ…」
「なんですかそのため息は」
「強情だなぁって」
「…どっちが…!」
「何?言いたいことあるの?」
「ないと思ってるんですか?」
「………」
「………」
「お互い様みたいだね」
「…でも譲る気はありません、提督は北上さんが消えれば、とても悲しむでしょうから」
「死にに行くわけじゃないのに、なんでそんな事になってんの?」
「出撃こそしてませんが、次バケモノが出た時…北上さんは死んでもそれを倒すつもりですよね」
「当たり前じゃん、私たちって艦娘なんだよ?兵器だよ?」
「…提督はあなたを人として扱っていました」
「でもその提督はもういないんだからさ」
「…今はいないだけです」
「いつか帰ってくるって?それはいつさ」
「……」
「そんなの待っても意味はないんだから、もう私は私の思うようにやるよ」
「………貴女だけは…それを言っちゃいけなかった…」
「………もう死んだんだよ」
「…本当にそれで後悔しないんですか?たとえ、明日沈んで、明後日、提督が帰って来たら?私たちはどう、悔やめばいい…!」
「知らないよ、そんなこと」
「……もう、勝手にしてください、貴女が、死のうが、沈もうが…私は知りません」
「……あぁ…わかってるんだ、そこの違い」
「…取り返しがつかないことをしようとしてることも」
「…そう、取り返しがつかないかもしれないね…でも納得できないんだよね、私や、明石にはなぁんにもないじゃん?」
「それは、貴女の欲望です、私を巻き込まないで」
「…巻き込むか…ごめん、そんなつもりはなかった、でも…私は…明石ほど強くないんだ、我慢もできないし、心を制御することもできない」
「…でも私にはまるで力がない」
「………ないもの同士、集まって助け合えるはずなのにね」
「…確かにこの差はいくら努力しても埋められません…だから私はこの役職にいる」
「………なんだ、持ってるじゃん…」
「え?」
「……ごめん、もう話す気にもならないや」
「………あぁ……提督、貴女が遅いから…北上さんは死のうとしていますよ………どうやっても、助からない死を…望んでる」
重巡 青葉
「…青葉か」
「…どうも…」
「なに?」
「……北上さんが、なんで私たちの心を読めるのかとか、そんなことはどうでもいいです…気になるのは…本当に死ぬ気なのか…」
「死ぬ気かぁ…まあ死ぬつもりなのかなぁ、沈んでも、もしかしたらどのくらい低い確率かわからないけど助かるかもしれないし、助かったらなんか嫌だからね」
「……だから化け物を求めてるんですか…?」
「求めてない、あれが出てこなければ何事もないんだしね」
「……嘘です、死にたがりの顔してます…私と同じ顔…」
「…確かに、私も味方沈めたらそんな顔しちゃうかもねぇ…」
「私を傷つける為に言葉を選んでも、私は退きません……」
「……どういうつもり?」
「…特に理由はありません、ただ退いた時、後悔してしまうと思ったから…」
「………そう、青葉なら後悔するかもね、優しいし」
「北上さん」
「時々ね、私が私じゃなくなりそうになるんだ」
「…」
「今は漠然とした不安だけど、これが輪郭をもったら、私は…呑まれる…」
「……まだ、待ってください…後少しだけ…」
「……いいよ、少しだけ時間をあげるから…本当に少しだけ」
「………だから、殺したんですね」
「気づいたからね」
???
??? ???
『これか…まず、これでスケィスを再び手中に収められる…そうすれば…もう対抗策はない……出番です…行きなさい…さあ、スケィスを返してもらいましょうか…』
そう、これは勝てない戦い
そして今、登った月に雲がかかる
夜はまだ、始まったばかり
提督 三崎亮
見てしまった
朝潮が、斬られる瞬間を
そして、その凶刃を振るった騎士を
何故だと問うこともできない
ソレの周りに蔓延る黒い泡
ウイルスに…AIDAに感染していた
「……トライ…エッジィィィィ!」
そこから先の記憶は曖昧だった
勝てるわけのない、生身で殴りかかった
そして俺は、気づけばベッドで寝ていた
「………」
喪失感
何かが抜け落ちた感覚
すぐに気づく
「スケィス…」
再び、手放してしまった
焦燥感に駆られる
どうする、こんなことがあっていいのか
まだ現れていない八相もそうだが、今いるAIDAにすら手を出せなくなる
「クソッ…まさか…いや……違う…」
AIDAに感染したトライエッジ
そんなものが存在するのか?
トライエッジ、ソレは女神アウラが作り出した対AIDAのプログラム
そして、そのAIDAがソレと行動を共にしていた事例が一つだけある
AIDAで造られた偽物
ゲームの体ならまだしも、今の生身なんて勝ち目のない状態、判別はつかないが、可能性としてはソレが一番高かった
「…朝潮は…誰かいないのか…?」
頭が冷静になり始め、恐怖感に駆られながら、ベッドを降りる
「提督!目を覚ましたのね」
「…大井か…」
「…何があったの?」
「朝潮は…?」
「朝潮?朝潮がどうかしたの?」
「………そうか…クソ、完全に…完全にやられた」
「本当にどうしたの?」
「……スケィスを、切り札を失った」
「…スケィスって例のビッグフットでしょう?」
「ビッグフットじゃねぇよ…その…AIDA用の切り札だ」
「…ソレがないってかなりまずいんじゃないの…?」
「不味いどころじゃねぇ…失ったというより、奪われたんだ…またあの敵が出てくる」
「手に来たところでまたアレが出てくるわけ!?冗談でしょ…」
「現実だ…」
「……現実と言えば、提督って生身じゃそのスケィスを使えないのよね?」
「あぁ…」
「…じゃあどうやって奪われたの?」
「……わからねぇ…」
「AIDAの能力って人や艦娘の脳に寄生して電気信号を操ることなんでしょう?使えないと思わされてるだけなんじゃ…」
「…そうかもしれない、だが…もう切り札はない、俺らに対抗手段は残されてないんだ」
「………確かにそうね、でも、あなたがそんなのじゃ何も始まらないわ、それに貴方はまだ意識があるわ、AIDAにやられたら、みんな意識を失うんでしょう?」
「……そうだな、俺がなんで意識があるのかわからねぇけど…よし、やってやる」
「その意気よ」
『そう、その意気で、永遠にここに』
離島鎮守府
工作艦 明石
「そんな、呉も…」
「まさか呉の提督までそんなことになるなんて…」
呉鎮守府から提督が意識不明になったとの連絡
ソレはすぐに伝わった
このままでは世界が呑まれる、完全に負ける
此方の対抗策は紋章砲とデータドレインのみ
今までも手数で優っていた訳ではなかった
「…一気に広がりますよ、鼠算のように」
「北上さんにも…」
「………待って」
おかしい
北上さんは、なんでこうなった?いつ?いつからだ?
初めからか? 違うはず
提督がいなくなってから? ソレも理由の一つだろう
「……データドレイン?もし、あれにAIDAの力が加わっていたなら…」
北上さんはAIDA感染者と言うことになる
そして、意識不明ではないことから…
「母体に近い…北上さんにやられると…意識不明になる…?」
本当にデータドレインだけが原因か?
驚異的な身体能力の変化は起こっていないはず
那珂さんとの戦いは…
どれも怪しく、おかしく見える
「わからない、わからない…!」
雲は深く、夜は暗くなる
「………あぁ、わかった、青葉も、翔鶴も、そうだったんだ」